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凡人高校生、バケツヘルムでダンジョンへ  作者: たろっぺ
最終章 新たなる神代で
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第百四十九話 届く声

第百四十九話 届く声


サイド 郡 凛



「くっ!」


『………』


 ワイバーンに乗ったエインヘルヤルの槍を上に回避。駆け抜け様に馬蹄でその頭蓋を砕けば、嫌な感触が伝わってきた。


 その瞬間に左から飛来する魔法弾の数々に全速力で弧を描く様に愛馬を走らせ、距離を僅かにでもとる。その間に向きを変え、右手の腕輪から刀身に魔力を供給。一刀で切り払う。


 キリがない……!謎の風の直後にはこの異界の中だった。


 自衛隊や警察の人達も、チャリオットの騎士さんもいない。シルバーさんは無事なのだろうか。


 色々な人の事が浮かぶが、それを考え続ける余裕はない。


「なんて数……!」


 異界中央の巨大な樹。推定、『世界樹』。


 そこからやってくる無数の英雄達。何かに騎乗している者もいれば魔法で空を飛ぶ者、モンスターと融合した様な姿の者。その装いに統一性はないが、共通するのはそのどれもが強者である事。


 既にこちらも傷だらけだ。体力魔力ともに心もとない。肩で息をしながら、視線を世界樹の中腹に向ける。


 まだ遠い。それでも覚醒者の眼と……二人の存在感によりハッキリと見て取れた。


「胡桃……!」


 黄金の髪を流す隻眼の神と、その奥で囚われている親友。


 剣を握る手に力を籠める。まだ、倒れるわけにはいかない。


 今もどこかでたくさんの人達が戦っている。それは胡桃を助けるためだけじゃない。それぞれの『信念』を通すためだ。


 きっと、私が倒れても別の誰かがあの神を討ち胡桃を助け出してくれるだろう。



 だから、これは私の意地だ。我が儘と言ったっていい。



 息を大きく吸い込む。エインヘルヤルに私の声は通じない。そして、私自身には固有異能は適用されない。


 無意味だと知りながら、それでもこれはある種の決意表明だ。


 アニメか漫画か忘れたけれど、『ノリのいい方が勝つ』と聞いた事がある。


「胡桃ぃ───!!」


 仮初の空に声が響く。異界の端まで届けと、目いっぱいの力を籠めて。


「絶対に迎えに行くから!!もう少しだけ、待ってて!!」


 手綱を振るって愛馬に合図を送れば、待ってましたとばかりに駆けだしてくれた。この子だってもう限界がきているはずだろうに。その走りに陰りはない。


「行こう、フォートヘクター」


『ヒヒィィィィィィ───ッ!!』


 眼前の百を超えるエインヘルヤルに突撃する。休憩は終わりだ。足を止めれば囲まれ、背中を見せれば瞬く間にこの身は針山となるだろう。ならば、前へ。


 前へ!一歩でも前へ!



*  *  *



サイド 大川 京太朗



「声……?」


 微かに聞こえた声は、確かに郡さんのものだ。何度も彼女の歌声は聞いた事があるし、何より僅かだが魔力が込められていた。


 軽く手を開いては閉じて、調子を確かめる。本人にその意図がなかったせいか微弱ではあるが、少しだけ力が湧いてきた。


「リーンフォース、聞こえてきた方角はわかる?」


『あの巨大な樹を挟んだ向こう側かと。距離は不明です。しかし、郡凛がいると思しき位置から多数のエインヘルヤルの反応を感知しました』


「そうか……」


 少しだけ考え、剣を担ぐ。


『合流するのですか?』


「いや。そういう状況なら合流するのは悪手……な、気がする。たぶん」


 多方向からの作戦行動の方が場をひっかき回せる……と、漫画で聞いた気がする。


 ぶっちゃけそういう戦術的な事についてド素人なので知らんが、何にせよ僕のステルス性を活かすなら合流はたぶん違うだろう。


『では静観を?』


「それも無しだ。あっちが戦闘中なら、こっちも戦おう」


 レイラに答え、視線を世界樹の根元へと向けた。


「相手の戦力だって無限じゃないはずだ。だったら、今仕掛ける」


 左手で腰の後ろから魔石をあしらったタクトを引き抜く。


「レイラ、全員に水上歩行の魔法を。あと風の支援魔法もお願い」


『かしこまりました』


「先頭は僕がいく。リーンフォース、雪音、セカンドの順で突っ込むぞ」


「お、お待ちください!一番槍は誉かもしれませんが、危険です。旦那様は一番後方に」


「いいや。これが最適だよ……たぶん。恐らく」


「自信なさげじゃないですかぁ!?」


『まあまあ雪音。主様がこうなのはいつも通りですから』


「ごめん……」


 本当はなぁ。こういう時に嘘でも自信満々な事を言えたのなら格好いいんだけど。


 だがまあ、自分はこういう奴なので勘弁してほしい。


「さっきまでレイラと相談していたけど、仮説が正しいのならこれは逆転の一手になる」


 タクトをそれぞれの足元に向け魔法を発動しながら、兜の下で硬い唾を飲み込んだ。


 正直現状を正しく理解したとは言い難いが、分断された今が危険な状況なのは確実。しかし逆を言えば、ロキは『分断したかった』のだ。


 なら、それをひっくり返してやる。『人の嫌がる事はすすんでやりましょう』、だ。



「いこう。ロキだかロバだか知らないけれど、余所の神様が日本で好き勝手すんじゃねえって、奴の横っ面ぶん殴ってやひゅん!」



 舌が痛い。あと視線も。


「噛みました?」


『噛んだようです』


『お労しや、主様……』


「………うおおおおおおおおお!!」


 おのれロキ!絶対にぶっ殺す!!!


 何とも締まらない空気を引き裂くように、雄叫びをあげて駆けだして水面を蹴り突き進む。未だ相手に気づいた様子はない。先制攻撃はこちらのものだ!


「レイラ!」


『水よ』


 切っ先で水を掬い上げる様に勢いよく剣を振るう。内側で彼女が発動した『自然魔法』により、巻き上げられた水しぶきはその質量を増して九つの首をもった竜となった。


 津波じみたそれらに、エインヘルヤル達が反応するももう遅い。三又の根の一つを膨大な量の水が飲み込んだ。


「『乱れ白雪・轟』!」


 次いで振るわれた二本の扇子。そこから放たれた冷気が奴らの被った水を凍り付かせ、動きを封じる。


 直後にセカンドが放つ魔弾の数々。今の一瞬で削れたのはおよそ五十。動きを封じられたのはその倍以上。奇襲の成果としては悪くない!


「おおおお!」


 氷を打ち砕いて迎撃に動こうとしたエインヘルヤルの一体に大上段から斬りかかる。咄嗟に盾をかざされるが、諸共叩き割った。


 そのまま下半身が凍ったままの個体が槍を突きだしてくるのを潜り抜ける様に回避しながら、胴を両断。僅かに抵抗を感じるも、刃は止まる事なく振り抜かれた。


 やれる!郡さんの声の力が、この身に宿っている。


「レイラ!」


『風よ!』


『魔力解放』


 横一閃。過剰に放出された魔力を帯びて発光する刀身を振るえば、次の瞬間には数十体のエインヘルヤルが薙ぎ払われた。


 後方でも雪音とセカンドがまだ動けない敵を狙い撃ちにし、リーンフォースが迫る個体を足止めしている。


「このまま突入する!」


 世界樹の根本に視えた、建物の入り口の様な物。上向きになっているせいか水の流入がなさそうな所から、異様な魔力を感じる。ついでに言えば、魔眼がそこにかけられた多重の隠蔽魔法を看破した。


 確実に、あの奥に何かがある。ここまでやってブラフの可能性は低い。もしも罠だったのなら、その時はその時だ。


『警告。周囲のエインヘルヤルがこちらに向かってきています』


「流石にバレるか……!」


 いくら自分達が透明人間みたいな事になっているとは言え、厳重に隠していた箇所で戦闘が起きればロキも注意を払う。


 想定内だが、できればこのまま無視していてほしかったなぁ!


「セカンド!入口を守ってくれ!」


 入口の大きさはトラック二台が通れそうなほど。そこから敵の増援が雪崩れ込んで来たらすり潰される。中にも敵がいる可能性が高いのだ。


 だがここでの足止めはかなり危険な役目でもある。セカンド単体でどこまで抑えきれるか。元より短期決戦しか勝機はないとは言え、かなりの速攻が──。


『意見具申。本機と雪音も残る事を推奨します』


「え、ワタクシも!?」


「っ……わかった、二人も頼む!」


『了解』


「は、はい!お任せくださいまし!」


 リーンフォースの言葉にほとんど反射で頷く。迷っている暇はない。今は彼女らを信じよう。


 この判断が正しいかどうか、自分の魔眼は教えてくれない。だが、腹をくくれ。全員で生きて帰る為にも、今は全速力で突っ走るしかないのだから。


 石造りの遺跡めいた場所に踏み込み、力の限り足を動かした。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


申し訳ありませんが、明日はリアルの都合で投稿を休ませていただきます。


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― 新着の感想 ―
[一言] ロキ「誰だ!?あの存在感の欠片もない目を離した瞬間に見失いそうなバケツな何かは!?」
[一言] 待機にゃ~ん♪  ∧∧ (・∀・) c( ∪∪ )
[一言] 漫画家「この戦い、買ったらワイの漫画のおかげやな」
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