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凡人高校生、バケツヘルムでダンジョンへ  作者: たろっぺ
最終章 新たなる神代で
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第百四十八話 不可視の駒

第百四十八話 不可視の駒



 上段からの振り下ろしを相手の剣で受け止められる。


 一瞬だけレイラの補正を受け、刀身同士の接触点を起点に柄頭を繰り出した。エインヘルヤルの顔面を殴りつけ、怯んだ隙に膝を腹に叩き込む。


 そこから下がった頭めがけて魔力で加速した肘鉄を打ち下ろし、後頭部を粉砕。


「リーンフォース!」


『周囲に魔力反応なし。訂正、十時方向からこちらに接近するエインヘルヤルを感知。数は七』


 休む間もなしか!


「雪音、壁を!」


「はい!」


 大小様々な氷の壁が乱立する。それに隠れ、セカンドがガトリング砲型魔杖を連射した。


 氷を溶かしての攻撃に、ほんの一瞬だが途切れた視界もあって接近中の敵が二体穴だらけになる。


 更には側面から回り込んでからの強襲をしかけ、残り五体のエインヘルヤルを分断。立ち止まらずに奥の二体に斬りかかった。


 魔眼の動体視力なら、瞬時に相手の得物を見切れる。弓持ちと杖持ち。接近戦を得手とするタイプではないと考え、まずは杖もちを両断した。


 続けて弓持ちに剣を向けようとした直後、未来視が発動する。


「っ!?」


『……!』


 眼前に迫った短剣を辛うじて回避。兜と切っ先が触れ火花を散らしながら、仰け反った体勢から剣を振り上げる。


 だがこちらの攻撃も避けられた。落ちてくる木の葉の様にヒラリと相手が動いたかと思えば、こちらの腹に蹴りが繰り出されるのを予知する。


 咄嗟に柄頭で受けるも、続くもう一撃は未来が視えていてなお迎撃が間に合わなかった。肩を蹴りぬかれ、強引に距離をあけられる。


「くっ!?」


 弾き飛ばされながら、エインヘルヤルが空中の不安定な姿勢で矢を引き絞るのが視えた。


 放たれる矢を剣の腹で斜めに受けるが、衝撃で更に間合いが開く。反動で跳んだ相手は地面を足裏で削りながら次の矢を弓に番えていた。


 魔力を全開にすれば二射目より先に間合いを詰められるか?分の悪い賭けではない。被弾覚悟で突っ込む!


 そう足に力を入れた直後に、弓持ちの両足と右手を氷が包み込んだ。そこへリーンフォースが体当たりする様に斬りかかり、エインヘルヤルが両断される。


「はぁ……はぁ……助かったよ、雪音。リーンフォース」


『本機の役割を果たしたまでです』


「それよりご無事ですか旦那様!?お怪我は!」


「大丈夫。皆は」


『本機、雪音、セカンド、全員無傷です』


「わかった。引き続き索敵をお願い」


『了解』


 蹴られた肩の調子を確認しながらリーンフォースにそう告げて、剣を担ぎ直す。


 やはり完全な人型の相手というのは苦手だ。魔眼に頼っても動きが読みづらい。腕とか足とか増やしてついでに体積を三倍ぐらいにしてくれればもう少しやりやすいのだが。


『主様、やはりもう少し私が動かす頻度を上げますか?』


「……その方がいいかもしれない。痛みは、気合で耐える」


 そういう相手対策での『樹王』ではあるが、雑兵みたいに強敵が連続で出る場所ではやりづらい。


 日々の特訓では五分も動けば激痛で気絶している。命が懸かってようやく脳みそがアドレナリンその他を大量放出して耐えられるぐらいだ。


 今まさにいつ死ぬかもわからない鉄火場である。自分の体が脳内麻薬の使い時を誤らない事を祈ろう。


「狙撃の類はなし、か……」


 移動しながら周囲を見回し、崩れた建物の陰に隠れる。


 かつては大都会と言っていい街並みがあったのだろうが、今はだいぶん見晴らしがいい上に自然溢れる光景が広がっていた。


 巨大な樹の周囲を囲う澄んだ湖。更にその周辺は崩壊し草花に覆われた平地が続いている。


 人が一人か二人隠れるのがやっとの大きさをした人工物の名残があるぐらいで、射線を遮る物があまりにも少なかった。だというのに今の所先制して狙撃された事がない。それがどうにも不気味だった。


 そもそも、攻撃をしかけてからようやく僕に気づいた様な反応をするエインヘルヤルまでいる。どういう事だ?


「どうして弓なり魔法なりで遠距離戦を仕掛けてこないんだ……索敵しづらい、なんて事ないだろうに」


「いえ。実際に相手は索敵しづらいのかと」


「え?」


 同じく物陰に隠れる雪音の言葉に首をかしげる。


 彼女は疑問符を浮かべるこちらに力強く親指をたてた。



「旦那様の存在感がとても薄いので!正直見失いそうになるほどです!」


「なんで突然貶してきたの……?」



 凄く傷ついた。


 まさかそんないい笑顔で罵倒してくるとは思わないじゃん。不意打ちで心に言葉のナイフを刺さないで?


「え?あ、違うのですよ旦那様!?」


「いいんだ……普段から雪音には苦労をかけているもんね。やっぱり、僕なんかが君みたいな美人さんと付き合うのは分不相応なのかな。いや、聞くまでもないよね。こんなモブ顔でオタク趣味でコミュ障で……」


「待ってください旦那様!戦場でネガティブになるのはお止めください旦那様ぁ!」


 ふふっ……今すぐ帰ってふて寝したい。


『落ち着いてください主様。雪音から詳しく話を聞きましょう』


「すぅ……よし、覚悟ができた。雪音、怒っているのかどうか『はい』か『いいえ』で答えてくれ。前者なら後で聞くから」


「旦那様に不満などありません!雪女的には素晴らしい契約者です!むしろもっと駄目なお方になってください!今以上に!」


「うん、遠回しな罵倒だねそれは。で、本題は?」


「ここの異界なのですが、どうにも旦那様の魔力と似ているのです」


「似ている?」


 意味が分からず首を傾げるが、何やら内側でレイラが頷いた気がした。


『なるほど。違和感の正体はそれでしたか』


「レイラ?」


『把握しました。魔力感知の自動調整を行います』


「リーンフォース?」


 待ってくれ。なんか僕だけ置いていかれているのだが。


「つまりですね。大気中の魔力と、旦那様の魔力が似すぎていてそこらの草花と識別するのが難しいのです。その上我ら魔物は相手を魔力で識別する能力が人間の視覚以上ですので、なおさらのこと」


「お、おう」


 わかった様な、わからん様な。


 モンスターにとって魔力の感知が人間の視覚以上って事は、それが阻害されると目隠しされたも同然……なのか?なら僕はエインヘルヤルからすると本当に視えていない?


 言われてみれば、先の戦闘も『様子を見に来たら襲われた』とばかりにエインヘルヤル達は動きが鈍かった気がする。


 ……いやそれはそれで、視えない相手にあそこまで戦えるってヤバいな、過去の英雄。


「けど、なんで……ああ、理由はわかった」


「はい。恐らく『アレ』が関係しているかと」


 ナイトメアが待ち構えていたダンジョンを思い出す。あの時感じた気配は間違いなく、自分と同系統の気配だった。


 そしてあの時攫われたのが伊藤胡桃という人物。その人がここに監禁されているらしい。


 事前段階で『もしや』と思っていたが、これは確定だな。



『伊藤胡桃は黄金の林檎に関する異能を持っている』



 どうりでナイトメアもロキも彼女に固執するわけだ。誰だって欲しがるわそんな奴。伊藤さんも、随分と難儀な固有異能に目覚めたものだな。


 その辺は同情するが、この場では好都合。


 気づかれにくいというのはそれだけでアドバンテージとなる。十中八九自分の林檎より彼女のそれの方が高い効果を持つのだ。似ているどころか、僕の魔力はこの場限定で薄く感じさえするかもしれない。


「ワタクシは旦那様の魔力を供給されておりますし、リーンフォース達の燃料は言わずもがな。我らは全員、『えいんへるやる』とやらからは透明人間の様なものなのです」


「なんなら、ロキの眼も騙せている可能性がある……か。なら」


 視線を湖の方へと向ける。


 これまでは少しの身を隠す場所すらないからと、湖面の上を避けていた。だが偶然とは言え高いステルス能力を持っている今ならば……。


 湖の中央。そこにある世界樹の根元は三又にわかれ、湖の底へと伸びている。


 だがその周囲には、自衛隊の人らと戦っていた以上の数が見張りでもする様に立っていた。


 魔力で気づかれないからと言って、そう簡単に突破できるとは思えない。そもそも相手の五感がどうなっているのかも、白い靄みたいな体なせいでわからないのだ。


 この異界に取り込まれてからもエインヘルヤル達と戦闘自体はしている。奴らならある程度近づけば自分に気づいて攻撃を仕掛けるぐらいはするはず。


 流石にあの数を一斉に相手するのは無理だ。となれば、他の味方と合流するか何かしらの機会を狙うか……ん?


「レイラ」


『はい?』


「エインヘルヤルがさ……あの樹の根元から出た気がするんだけど」


『内側も警備しているという事でしょうか?』


「いや……そう、かもしれないけど」


 林檎の事もあって北欧神話を少しだけ調べたが、その中で必ずと言っていいほど世界樹とラグナロクという単語は出てくる。


 で、その二つともに関わる存在が、世界樹の根元にいる……と、神話では語られていた。まあ、ラグナロク後にはどっかいったらしいけど。


 しかしラグナロクで死んだはずのロキが生きている。なら……。


「まさか、なぁ」


『まさか、ですよね』


 兜の下でたらりと冷や汗を流す。


 この予感、当たった方が嬉しいのか外れた方が安心できるのかわからんな。


 でも、もしかしたら……。


 この戦局を、ひっくり返す事が出来るかもしれない。




読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
たろっぺワールドの薄い系主人公'sから、遂にガチでステルスを獲得したモブが・・・!
[一言] ロキ「ただでさえ覚えられないほど顔も気配もモブなのに魔力までモブなのは卑怯」
[一言] >偶然とは言え 偶然、なのでしょうか? もしかしたら普段の影の薄さも『林檎』の所為(林檎が外敵から身を護る為、あえてステルス機能働かせているとか)だとしたら……これから、どんどん悪化してい…
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