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第百十七話 キラーパス

※実際に起きた事件と似た場面があります。ご注意ください。


第百十七話 キラーパス



 自室のベッドに寝転がり、スマホと睨めっこを続ける。


 パンドラの箱を開いてしまった翌日。十月の中旬な現在こうも悩んでいるのには理由がある。赤城さんから来た桜井本家への招待についてだ。


 行きたくない。だがずるずると引き延ばした結果相手から不興を買うのはもっと避けたかった。なんせ相手はあの桜井自動車。自分から『最上のコネ、就職先』と求めただけあって凄まじい影響力を持つ。


 けど行きたくねぇぇ。誰も会長までのコネは求めてないんだわ。わざわざ呼び出すって『今後とも頑張ってね』とかそんな内容じゃねぇよ。


 これが、いっそ自分を囲い込むだけのものならばいい。こちらとしては、あの会社が泥船に変わらない限りは願ったり叶ったりだ。


 というか、たぶん自分に直接不利益になる内容でもないと思う。今の所、僕は桜井自動車に害する様な行動をとっていない。赤城さんから回された仕事はきっちりとこなしている。


 流石に相手も専属冒険者に『自分から仕事探して取りに来い』とは言うまい。言わないよね……?


 とにかく。林檎の事が露見したでもなければ自分に何かしようという話ではないはずだ。



 でも行きたくねぇええええええええ!



 絶対に行きたくない。考えただけでお腹痛い。吐きそうになるというか喉の辺りまで酸っぱいのきてる。


 万が一桜井会長に……日本の財界のドンとも言える人物に失礼な事をしてしまったらと思うと不安で押しつぶされそうだ。


 こちらはビジネスマナーなんぞ欠片も知らない学生だ。そもそも何が失礼で何が正しいのかを、ネットで検索しているぐらいである。ビジネス書?何がなんやら。


 あ゛あ゛あ゛……これならまだ『Bランクダンジョン』に突撃しろって言われる方がマシ、でもないな。同じかちょい下ぐらい?


 そんな悩みを抱えているせいで、こうしてスマホを前にひたすら悩んでいるのである。


「すぅ……よし」


 やるぞ!僕はやるぞ!


 ベッドから立ち上がり机に向かい、置いてあったカレンダーとペンを確認。赤城さんに質問したい内容もメモに書いた。後は電話し、相手に『どうすればいいか』を尋ねるのだ。


 赤城さんとて、自分の雇っている冒険者が会長に失礼をしたらまずいはず。だから素直に助けを求めればアドバイスぐらいしてくれるはずだ。それを断られるのなら、電話越しに失恋した乙女のごとく泣いてやる。


 さあ、いざ開戦の時!!


――プルルル。


「あっひゃああああ!?」


 突然鳴り出したスマホを取り落としそうになり、覚醒者の身体能力で慌ててキャッチ。


 なに、誰!?まさか赤城さん!?


 慌てて画面を確認すると、そこには相原君の名前が。


 なんだ変態か………。


「はいもしもし。京太朗だけど」


『突然すまん、京太朗。今時間いいか?』


「……まあ、うん。大丈夫。朝まで話せるぞ」


『え、いやそこまで時間をとらせる気はないけど』


 決して『これで相原君との電話が長引いてしまったから赤城さんに電話をかける時間がなくなってもしょうがないよね』とか考えてない。本当に。


 信じて!!


「それぐらい時間的には大丈夫って事だから。で、どしたよ」


『……この前、『ユマニテ』を名乗る集団が国内の覚醒者に銃撃事件を起こしただろ?』


「うん、だねぇ」


 知っているというか、顔面に撃たれたし。


『それで殺された覚醒者もいてな。その人が所属していた覚醒者のコミュニティが、最近かなり過激な事を言い出しているんだよ』


「過激な?」


『ああ。非覚醒者は覚醒者を人間と思っていない屑どもだ。そいつらが運営している組織なんて信用できない。自分達でどうにかするんだ。ってな』


「はぁ。別にそれぐらい……待った。非覚醒者の組織って、まさか」


『ああ、国も含んでいる』


「あちゃー……」


 思わず額に手を当てて天井を見上げる。


 そうだよなぁ。国民の九割九分が非覚醒者なんだから、有権者の割合も雑に考えれば似た様なもんだろうし。政治家達も非覚醒者が多い。


 なら、選挙で選ばれるのは『非覚醒者の投票で勝利した非覚醒者の議員』って状況になるわけだ。というか、今の内閣とかそんな感じだし。


 つまり、政府機関も『非覚醒者の組織』と見られかねないわけだ。


「ちなみにだけど、どこからどこまでが非覚醒者の組織認定?」


『政府機関は全部だな。警察も自衛隊も消防署も役所もだ。公的な組織は全部信用しないって感じだ。勿論会社もな』


「……それで。過激ってわざわざ言うって事は?」


『その人ら曰く、いっそ覚醒者から議員を出してその人に政治を変えてもらおうぜ!』


「思ったより温厚だった」


『そのためならどんな手段を使ってもいいんだぜ!』


「思ったより過激だった」


 覚醒者の『どんな手段』は怖すぎんだよ。マジで大抵の事はなんでもありだから。


 それこそ自分だって固有異能の使い方次第では世界大戦を誘発させる事ができる。そこまで頭がいい方ではないから具体的な方法は浮かばないが、秀才クラスでも『やらかせる』ぐらいぶっ飛んだ能力だと自覚はしているつもりだ。


 そして、自分ができるんだから他人もできると考えた方がいい。固有異能を持っている人は少ないが、ゼロではないのだ。とんでもな能力を持っている人が、その活動に参加していない保証などない。


 ……いや。別に特別強力な異能でなくても、呪いや使い魔の段階で非覚醒者では『なにかされた』と気づくのすら難しいか。


「ちなみに、その過激な人達ってどんな様子?もうやらかす一歩手前とか?」


『いいや。そもそも議員になる候補が決まってない感じでな。今の所は有川大臣が頑張ってくれているのもあって、そこまで急いでいる様子はない』


 有川大臣。確かに彼がいる間は覚醒者としても政治に対して少しは信用しようという気になるか。


 だが。


「けど覚醒者って、思い立ったその日の内に結構な事できちゃうからなぁ……」


『ほんとそれな』


 それこそ、相原君とかやろうと思えば一時間の準備時間で街中に突然一個小隊規模のオークを召喚とか普通にできるだろうし。魚山君とかも例の禁術で突然怪獣出現、なんて事もできるわけで。


 自分が知らないだけでもっとえぐい事ができる覚醒者はいそうなものだ。先日の銃撃事件は銃火器の密輸などかなりの準備がされていたと報道されていた。それ以上の被害を、覚醒者は突発的に起こせる。


 実際、アメリカで起きた『ニューヨークの獣』事件はその辺のチンピラに州兵を動員する事態にまでなった。


 本っっ当に勘弁してほしい。ただでさえ『賢者の会』のせいで覚醒者と非覚醒者間にある溝が深まっているのに、ここで覚醒者が武力による政治活動なんてやったら大変な事になるのは自分の様な素人でも分かる事だ。


「……それで。僕に相談してどうしようと」


『いや、別に?』


「別に!?」


『マジかーって頭抱えたから、もう他の奴にも同じ苦しみを味合わせようかと思って』


「陰湿だなおい!?」


 突然IQ下げてんじゃねぇぞボケぇ!こっちは必死に足りない脳みそ働かせて話についていこうとしてんだぞ!?


『じゃ、突然すまんかったな。あ、もしアレだったら信用のできる権力とかに関われる人にも教えといてくれ。俺にはそっちのコネねぇから』


「待って待て待て待て。僕だって突然こんなパスされてもわからねぇよ。というか誰だよそもそもその過激な事を言っている人達って!」


『そこは秘密』


「秘密ってなんじゃあああああ!?」


『あと、流石に熊井や魚山にはこの話はしねぇから。後は任せた!俺はふくよかランド正式開園に向けてやらねばならない事がある!!』


「ちょっと待てぇぇええええ!!??」


 通話が切られ、慌ててかけ直すも電源が切られているというアナウンスが。このままリアル突撃してやろうかあの残念イケメン!


 ………ふーっ。落ち着け。落ち着くんだ京太朗。


 流石に相原君が言っていた過激な人達も、次の瞬間に何かしらやらかすわけでもあるまい。いつ爆発するかわからないのは、それはそれで怖いけど。


 というか、彼がわざわざただの『お前も悩んでしまえ』と毒を吐いたとは思えない。となれば、『こっちでこの情報は好きに使え』と?


 彼は学外にも色んな覚醒者のコミュニティと繋がっている。そことの義理を考えて自ら何かをする気はないが、自衛隊と繫がりのある僕にも義理を果たすため教えるだけ教えたって事か?


 ……いやそれはそれとしてキラーパス過ぎんだろ。


 であれば、やる事は決まっている。


 もはや迷っているのも馬鹿らしい。スマホを操作して赤城さんに電話を掛ける。彼女と話した後は、東郷さんと水無瀬三佐だ。


『はいもしもし。赤城だよ』


「あ、どうも大川ですー。お忙しいところすみません。あの、今お時間を頂いてもよろしいでしょうかー」


 電話越しながら低姿勢で、額に汗を流しながら必死に頭の中で話すべき内容について整理を行った。


 どう考えても僕がどうにかできる範囲を超えている。であれば、『どうにかできそうな人達』に投げてやれ。そこから先は知らん。無理。泣く。


 あと明日学校で会ったらあの残念イケメンにボディブローを叩き込む。絶対にだ。



*  *   *



 その後の反応は三者三様であった。


 赤城さんは何か知っている様で含む感じに。東郷さんは口調こそ穏やかだったけど何かを悩んでいる様な。水無瀬三佐は重々しく『知り合い』に相談すると言っていた。


 ……まあ、ここから先は僕の知ったこっちゃないがな!


 我学生ぞ?十五歳のナウでヤングな青二才ぞ?難しい話とかよくわっがんね。


 なんであれ、やれる事はやった。流れで桜井会長と会う日取りも決める事になっちゃったし、肩の荷が下りたって事で今はゆっくりしよう。


 そうだ。自分も相原君の様に寮の部屋にテレビを入れたんだった。高くはあったけど、録画したアニメを見るにはスマホよりこっちの方がいい。


 早速椅子に座ってテレビの電源をつける。すると、画面には少し前に思い浮かべた人物が映っていた。


『ダンジョン被害によって苦しい生活を送る人達の為に、予算をそちらに回すべきだという意見を私は否定しません』


 有川ダンジョン対策大臣。


 相変わらずの胡散臭い笑顔を浮かべたスーツ姿の彼は、街頭演説をしている所の様だ。


『しかし!今はその様なダンジョン被害で苦しむ人を増やさない為にも、モンスターの間引きに力を入れなければなりません!』


 画面の斜め上に演説している場所が書かれている。アレは……この前ダンジョンの氾濫が起きた地域の近くか。周囲には多くの人が集まっており、その間に警察官達が立っている様だ。


 マイクを使って演説をする彼に、内心でエールを送る。


 正直信用できない顔と言動な人だが、それでも他の政治家より親覚醒者な議員さんの代表が彼なのだ。相原君が言っていた過激な考えを持ち始めている人達も、有川大臣だけは多少の信頼をしているらしい。


『最近話題に上がっている『金剛』はまだ実戦配備が出来る状態ではありません。だからこそ、今できる事を――』


 今後もこの人には頑張ってほしいものだ。そう思ってチャンネルをビデオ1にしようとした、その時。


「ん?」


 画面の端で、突然走り出した男の姿があった。黒い大きなバッグを抱えていて、制止しようとした制服警官を突き飛ばして有川大臣に向かっている。


 他の警官は反応できていない。唯一有川大臣の傍にいたSPと思しき黒服の男性が、護衛対象である彼に覆いかぶさるようにして倒れた。



『人類のために!!』



 そう言って投げられた黒いバッグ。折り重なるように倒れた大臣と黒服の人の傍に落ちたそれが、轟音と共に炸裂した。


 そこから先の映像は、下を向いたり上を向いたりでよくわからない。魔眼の動体視力でもって読み取れたのは、黒煙が有川大臣のいた辺りをつつんでいる事ぐらいだった。


 呆然と画面を見ていると、少ししてテレビ局のスタジオと思しき所に切り替わった。


『え、ええ。現場で何が起きたのかはよくわかりませんが――」


 明らかに動揺した様子のアナウンサーが何かを言っているが、頭に入ってこない。ただ、『有川大臣が襲撃された』。それも、『ユマニテを名乗る銃撃事件の犯人たちと同じ掛け声をあげた奴に』。


「うそ……」


 そう呟くのが、やっとだった。





 



読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ふくよかランドは営業(イケメン)閉場(ゴリラ)しております! 一般人「両極端だわ」 [一言] 『しかし!今はその様なダンジョン被害で苦しむ人を増やさない為にも、モンスターの間引きに力を入れ…
[一言] キラーパス(ダブルミーニング)(物理)
[一言] 何となくだけど、体の素性が違うならサーモカメラなり、なんなりで判別できそうな気もしないでもないんだけどな
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