姉の小言
2013年8月1日 ブログ初投稿
2022年1月11日 加筆修正
姉…名は春江。几帳面で真面目。家事の殆どを担っていた。半年前事故で……
妹…名は秋子。ガサツで片付け下手。姉の小言にうんざり。
夜九時、薄暗い部屋の中。
汚い部屋の中を見てビックリ、時計を見ては心配し、うろうろする姉(春江)。
暫くそうしているが、諦めてちゃぶ台の脇に座る。
と、妹(秋子)が帰ってきて、電気を点ける。
妹「ただいまぁ」
姉『あ、アキちゃん、おかえり。あのね、アキちゃん、何度も言うけど……』
妹「(バッグを放り投げて)あぁ、疲れたぁ……あの店長、マジムカつく。バイトに任せないで自分でやれってぇのよ!」
姉『そろそろ自分の部屋くらいは自分でね……』
妹「何が『任されたことは責任持ってね』、だ! 可愛いからって許されると思うな! ぶりっ子すんなっつぅの!」
姉『べ、別にぶりっ子はしてないでしょ?』
妹「自分は何もしてないじゃんよ!」
姉『そ、それはね、確かにこんなんだから、何も出来てないけど……』
妹が姉の横にどかりと座る。
その際、姉のスカートの裾を尻に敷く。
姉は必死で引き抜こうとする。
姉『ちょっ、踏んでる! 裾踏んでる……! アキちゃん!』
妹「うぎゃああ⁉ ハッ、ハルお姉ちゃん! いたの⁉ 言ってよっ……てか、見えるようにいてよ!」
姉『ごめん、アキちゃん、そんなに強くなかったんだよね』
妹「今日は何? あたし、疲れてんだけど」
姉『うん、ずっと聞いてた』
妹「聞かないでよ」
姉『仕方ないじゃない、いたんだもの』
妹「じゃあ、見えるように……って、やめよう。果てしないと思うからやめよう」
姉『じゃあ、本題に戻っていい?』
妹「本題?」
姉『アキちゃん、乾いた洗濯物は畳んで引き出しに仕舞って。出した漫画はあった場所に戻して。あ、ちゃんと巻数並べてね。食器も使ったら洗って、食器棚に。ゴミも燃えるゴミ燃えないゴミ分けてる? 分けてないように見えるけど。曜日は分かるよね? それと、ゴミはゴミ箱にちゃんと……』
妹「果てしないからやめよう」
姉『果てはあるわ。最後は、『ちゃんと片付けて』よ』
妹「それだけでいい! それだけ言えば分かる!」
姉『分かってないじゃない。この姿でも、何度言ったと思ってるの? 夜遅くなるバイトもどうかと思う』
妹「遅いって、まだ九時じゃん。他の子は深夜帯とかも入ってるよ?」
姉『他所は他所、うちはうち。幽霊に遭遇したらどうするの?』
妹「心配するとこ若干違うよね? 寧ろ、部屋で会うよね? 幽霊」
姉『わたしは、あなたの姉よ』
妹「お姉ちゃん、あたしは片付け以外のことはもう自分でできる。お姉ちゃんに心配してもらうことない」
姉『片付けができないから心配してるの。伯母さんにも言ってるの。『アキちゃんが片付けしないので、するように言ってください』って、毎夜夢枕に立って』
妹「だから伯母さん、この前『ハルちゃん、成仏してないんじゃないの?!』って慌てて電話してきたのか! やめて! 伯母さんがノイローゼになっちゃう!」
姉『伯母さんの体を借りようと思ってる』
妹「ほんとやめて! ただの悪霊になっちゃう!」
姉『じゃあ、アキちゃんの体を少し貸してよぉ』
妹「ぶりっ子すんな! 貸してよ、じゃない!」
姉『目的のためなら手段を選ばないわ。てか選べないわ』
妹「選ぶ必要がない! そういうとこ、お母さんに似てるよねぇ、お姉ちゃん」
姉『アキちゃんの片付けられないとこ、お父さんにそっくり』
妹、立ち上がる。
妹「……お茶いる?」
姉『アキちゃん』
妹「あ、そっか……ごめん」
姉『ううん。あっ、立ったついで。それをあそこに、これをあっちに。このティッシュ、ゴミ箱に捨てて。あ、Tシャツ干しっ放しでしょ? あれも……』
妹「はいはい! ……もぉ、うっさいなぁ」
姉、妹に付き纏う。
妹「お姉ちゃん! 背後霊すんのやめて!」
姉『だって、幽霊だもの』
妹「『だって、人間だもの』みたく言うのもやめて! もぉ、ほっといて! できるから! ちゃんとするから!」
姉『そう言い続けて、こうなってんじゃない。アキちゃんは、わたしがいないとダメなんだから』
妹「そう言われ続けて、こうなったのよ! お姉ちゃんがなんでもしちゃうから、勝手にしてくれるって……どっかでお姉ちゃんがやってくれるって、今でも思っちゃうんだよ!」
姉『アキちゃん……』
妹「もうお姉ちゃんは死んでるんだよ? もういないんだよ! あたしにそう思わせてよ!」
姉『必要ない? わたし』
妹「必要ない……もうお姉ちゃん……成仏しちゃいないよ! もうあたしの傍にいなくていいよ!」
ふっと周りの証明が落ち、妹にだけスポット。
妹「……………………お姉ちゃん?」
姉『(背後から)なに?』
妹「いるんかい⁉ はぁ……もういい。片付けするから」
姉『うん』
妹「これ、どこだっけ?」
姉『それはここ』
妹「あれ? これってどこに置いてたっけ?」
姉『もう。それはあっちでしょ』
妹「あっ、そうだっけ? あたし、どうしてここまで持ってきたんだっけ?」
妹はぶつぶつ言いながら一旦はけ、姉もゆっくり反対側にはける。
妹が写真立てを持ってまた戻ってくる。
妹「ねぇ、お姉ちゃん。これ見てよ。懐かしくない? ……お姉ちゃん? あれ? はぁ……また背後霊ごっこ? ……お姉ちゃん? そっか。もうお姉ちゃんはいないんだった」
写真立てをちゃぶ台に乗せる。
姉妹が並んで写っている写真を妹はしばらく見詰めている。
妹「さっ、片付けよ。お姉ちゃんが戻ってこない内に」
~おわり~
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