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【番外編】頭ポンポンは嫌われる?

※最終回後、ティアラが学園にまだいる頃のお話です。

 

「ポンポン頭触られて喜ぶ女がいると思う?!すっごく不快なんだけど!!」

「わかる〜!」

「いくら好きな人でも気安く触って欲しくないっていうか!触り方がね!!」

「わかる〜〜!!」

「なんかこう、イラッとするのよねっ!殴りたくなるっていうか!!」

「不愉快極まりない!!」

「そう!まさにそれよっ!!!」

「「サイアクよねっ!!!」」


 渡り廊の窓からそんな声が聞こえてきた。下の中庭では魔導師たちが談笑している。


「……」

「当主様?何かありましたか?」

「……いや、なんでもない」


 特に表情を変えることなくカイルは上級魔導師たちを連ねて研究室へと向かった。



 ◆◆◆



 指を滑らせ魔法で書かれた文書に目を通す。膝の上ではルビーが大きなあくびをしていた。


「もうすぐ終わるから」

「カイル様、ゆっくりでいいですよ。私もまた面白い小説を見つけたので」

「ごめん。急務が入らなければ今頃植物園に連れて行けたのにな」

「また今度行きましょう、ね?」

「でも……」

「私はカイル様と一緒にいられるだけで充分満足です」


 微笑む姿が健気で抱きしめたくなるほど愛らしいが、カイルはそっと手を握りしめ、その衝動を堪えた。


「カイル様?」

「……あ、いや、何でもない。やっぱり早く終わらせる。10分で片付けるから待ってて」

「そんなに急がなくても。ルビーだって沢山構ってもらえてるし。ね、ルビー?」

「うん、カイルのひざ、ひろい。おてておおきい。ルビィ、ゴロゴロできる」

「大きなベッドみたいね。私のお膝より快適なのかしら?」

「ティアはふわふわ、だいすき!でもちょっとせまい…」

「そうね、ちょっと大きくなったもんね」


 ルビーは、月の光を浴びて魔力を蓄えるだけでなく、他者の魔法を吸収して能力を変換する力を持っていることが判明した。魔力が蓄えられると身体も成長し、現在ではティアラの片手から少し溢れるほどの大きさになっていた。


「レヴァン領の魔力だまりの調査申請を出してるところだから、近々みんなで行くと思うよ」

「ティアのパパ、いるとこでしょ?そこいったら、ルビィもっとおおきくなるかなー?」

「なってほしいような、まだこのままの姿でいてほしいような。でも、楽しみね」


 ティアラはカイルの膝にいるルビーに優しく手を伸ばし、頭をクシュクシュッと撫でてあげた。彼女が近づくと肩が触れ、甘い香りがふわりとカイルの鼻をくすぐった。


「ここが好きなのよね。それからこっちも」

「ゴロゴロ、ゴロゴロ」

「よく知ってるね」

「触っていい部分と駄目な部分があるみたいですよ?ゾワゾワするんだとか。ね、ルビー」

「ミャ〜」


 撫でていると、ルビーは安心しきった様子で丸まった体を微かに動かしながらスヤスヤと眠ってしまった。小さな寝息が聞こえ、まるで天使のように可愛らしかった。


「……ティアは?」

「え…?」

「触られるのは不快?」


 手を伸ばすが髪に触れず問いかける。ティアラは一瞬驚きつつもまるで猫のようにコテンッとカイルの手に頭をすり寄せた。


「いいえ?カイル様なら全然。何かあったんですか?」

「………」


 ためらいながらもカイルは魔塔であったことをティアラに伝えることにした。


「だから最近そっけなかったんですね」

「………つい昔の延長で撫でていたけど、不快だったら触ってはいけないだろう?」

「ふっ、ふふふ。ふふふ…」

「笑いすぎ」

「だっていつもなら気にしない人なのに、少し意外だったので。…でもその気遣いが嬉しくて」

「……ティアには嫌われたくないんだ」


 ティアラは嬉しそうに微笑みながらカイルの大きな手を取り、自分の頭の方に導いた。


「ここ、それからここ。優しく撫でられるのが好きです。カイル様が私のお兄様になってくれた時もこうやって頭を撫でてくれましたよね。私にはそれが特別だったのかも」

「特別?」

「寂しかったから。ソフィアと同じように扱ってくれるのが嬉しくて、ここに居ていいんだよって肯定してくれるようで嬉しかったんです。それに今はそれだけじゃないというか……好きじゃなかったら触れたいって思わないでしょう?」


 ほんのり赤らめて話す姿が堪らなく愛おしくなり、カイルは肩を抱くように引き寄せた。柔らかな髪が指先を滑り抜け、シルクのような感触が心地よい。彼の手の動きは優しく、ティアラは目を閉じてその温かさに包まれた。


「そんなこと言われるとは思わなかった…。ティアはいつも予想しないことを言うよね」

「ふふふ、それ、カイル様も一緒ですよ?」


 カイルはティアラの顔にそっと手を添え、ゆっくりと額を近づけた。目と目が合うと、深い愛情と信頼が言葉なく伝わり、時間が止まったかのような静かな瞬間が流れた。だが……


「ふぁぁ……、あれ?ふたりともどうしたの?」

「はっ……!ル、ルビー、起きたのね」

「うん。ティア、かおあかいよ?カイルもなにかへん。おこってる?」

「………いや、怒ってないよ」

「ほんと?ほんとにほんと?」


 ルビーは二人の間に入り込み、柔らかな体を押し付けるようにして頬擦りを始めた。その仕草に、ティアラは微笑みながらカイルに目をやり、カイルは軽くため息をつきながらも、優しくルビーの背を撫でたのだった。



ティアラ「なでなでは好きですけど、ポンポンは好きじゃないです」

カイル「えっ」

ティアラ「それは子ども扱いされてる感じがするので。特にお父様はポンポンとか、わしゃわしゃして髪の毛ぐしゃぐしゃにするのでちょっと嫌なんです」

カイル「……そうなんだ」(気をつけよう)


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