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【番外編】おやすみ、また明日

 

 昔々、ある王国に我儘で悪戯好きな王子がいました。

 王様は王子の悪さに困り果て、森の奥深くに住む魔女に助けを求めることにしました。


 魔女は王子を犬に変え、


「1000の善行を行わなければ、元の姿に戻ることはできない」


 と告げるのでした。王子は激怒し、魔女を追いかけましたが、いつの間にか気づくと王国から遥遠な場所に迷い込んでしまいました。



「王子は、ひとりぼっちの冒険の旅に出るんですが、旅の途中、魔女の遣いの赤い妖精と出会って、叱られながらも善行の道を歩むようになるんです」



 カウチに腰掛けティアラは本のあらすじを話す。それは孤児院に寄付する前に、試作品としてヴィオラから送られたものだった。


「ふうん。どこかで聞いたことあるような話だけど、彼女にそんな文才があったとはね。へぇ…なかなか綺麗にまとめられてるじゃないか」

「書きまとめたのはクリス皇子だそうですよ。冬は庭の手入れも少なくなるし、教本の書き写しをさせる日もあるんだとか。ヴィオラ様は提案とチェックする方だと手紙にありました」


 と言ったところでカイルはパタンと本を閉じてしまった。


「あ、あ、でも、教育的にも…いいなーと思って。ほら、こことか!野菜を嫌がって…ポイっと捨てちゃうところ。今朝も…似たようなことがあったでしょう?」



『ママ、ニンジンしゃん。あげりゅ』と天使の微笑みで、にんじんを盛り付ける三歳の息子と、好きなものだけ食べて、そそくさと逃げ出した四歳の息子を思い出す。


「…………」


 二人の間には、ティアラの紫色の瞳を持つ、カイルによく似た長男と、ホワイトパールの髪色とこれまたカイルそっくりな次男が生まれていた。利発的ではあるが、少々好き嫌いが激しい。


「明日、試してみませんか?二人とも本は好きですから」

「はぁ、そうだね…。じゃあ、寝る前に一緒に読もうか。ルビーもそろそろ疲れが溜まってそうだしね」


 子供部屋では二人の息子がルビーのことをぎゅうぎゅうに抱きしめながら眠っている。


「『ルビーの子分だから』って積極的にお世話してくれてるけど、流石に負担になってますよね…って、ん?」

「続きはベッドで話そう。ここじゃ寒いだろう?」


 カイルに腕に抱かれ、軽やかにベッドへ運ばれてしまう。


「…あの、カイル」

「なんだい、ティア?」

「孤児院へ本を贈る話の続き…。できたらソフィアやアルベルト様にも協力を仰ぎたいと思ってて…」

「ああ、いいよ。アルベルトなら、その手のツテや顔は広いだろうから適任だろう」


 ヴィオラからの手紙は常に一方通行だ。塔の番人を担う以上、ティアラに直接接触することは禁じられている。その為、カイルが監視の報告をヴィオラから受ける際、それとなく身の回りのことを口にする。それが手紙の返事代わりということだ。


 年に一度の報告の日。カイルのことは苦手だが、ヴィオラにとって貴重な時間だった。しかし、理由を知らないクリスは不愉快そうにカイルを睨みつけるらしい。


 カイルも面白がって煽るので、ティアラとしては少しハラハラだったりする。ソフィアに頼めれば、きっとヴィオラの希望をもう少し汲むことも可能だろう。


「よかった…。それと、せっかくなので陛下にもお見せしたいと思うんですが」

「ああ、なら俺の方から話しておくよ。帝国と俺の名前を連ねて公な配布にすれば、下手に売ることもできないだろう」

「……いいんですか?!」

「悪用されないか心配だったんだろう?陛下は以前から学問への関心が高かったし、使い方次第で道徳と識字率向上に貢献できるかもしれないしね。まぁそれ以前に義弟が書いたと知れば喜んで協力するだろうけど。……ん?なに?」


 ティアラはキラキラした瞳でカイルを見つめていた。


「いえ、思っていたこと全部言ってくれたので驚いちゃって…」

「ずっと一緒にいるんだ。君がしたいことはわかるよ」


 カイルは優しく微笑み、ティアラの手を取り、その場から動かない彼女を引き寄せた。感謝の言葉を口にすると、ティアラはそれに応えるように彼に抱きついた。しかし、それだけでは満足できず、身を乗り出して、右頬に一つ、そして反対側にも一つとキスの雨を降らせていた。


「…っ、ティア?…どうしたの?」

「…だって、嬉しくて…」


 ティアラは赤らんで彼の胸の中に隠れてしまった。


「………」

「………ふっ、ふふふ」

「なっ、なんですか?急に」

「だって、……いや、いつになっても俺のティアは可愛いままだなって思って」


 ジト目で睨むと余計に撫でらてしまう。負けじとティアラもくすぐろうとするも片手でティアラの両手を簡単に拘束され、全く太刀打ちできなかった。


「ねぇ、ティア」

「……………はい?」

「俺も以前から考えていたことがあるんだけど」


 なんだろう?彼も何か相談事だろうか。


「……ティアがいいなら、本当はもう一人、ほしいなって思ってるんだけど」

「……え」

「君に似た女の子がほしい」

「……え、えっと」


 ティアラの驚きの表情を見て、カイルは穏やかに微笑んだ。




 その後、ハチミツ色の髪と深い青の瞳のティアラそっくりな女の子が生まれるのだが……。


フォルティス家の子ども達はすくすく成長し、二人の兄は末の妹を溺愛し妹を大層困らせたのだった。

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