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最終回★


・ブックマーク、いいね、評価、誤字報告ありがとうございます。

・今回話が長くなってしまった為、8/20 0時と、12時に分けて投稿しております。ご注意ください。



 一連の裁きの後、私はお義父様から感謝の言葉を頂くことになった。お義父様は忠義の契約の際に、禁術を報告すると同時に膨大な褒美を授かり、先代の皇帝とある約束を交わしたことを明かしてくれた。


「精神魔法を扱える者は数少ない。私は先代の皇帝から帝国の均衡を守り、正しい裁きの為にこの力を使うよう命じられていた。あのお方はアウルム前皇帝陛下の婚約の儀の時からこのような悲劇を不安視されていた。ティアラ…、君の奇跡に感謝する。私には真似できぬ導きだった。そして、君を救う為とはいえ精神魔法をかけたことを謝らせて欲しい」


突然の出来事に戸惑いを見せるも、お義父様の姿勢に、この魔法を扱うに相応しい方だと感じた出来事だった。



◇◇◇



「全ては聖歌の導きか……」


 聖歌のことは、今やカイル様とルビーと私だけが知る記憶となっていた。記憶が残ってしまったのは多分、光の子の魔力に触れた影響ではないかと思う。


「ティアが言っていた通りだったね」

「……え?」

「歌で結びの封印がしたいって言った時は少しハラハラしたけれど、まさかレヴァン伯爵夫人の予想が的中するとは、正直驚いたよ」

「もしかしたら、同じ母親だったから気づけたのかもしれません。お母様も私が生まれた時、乳母に任せっきりではなくて、もっと身近に寄り添って自ら育てたいと思ったって。たくさん子守唄を歌って抱きしめたと言っていましたから」



-『初めてよろこびの歌を歌った時、殿下は涙を流したのでしょう?』


-『それに、その歌はフィローネ妃がよく歌っていた…。』


-『だとしたらそれは愛された証拠だったのではないかしら……?』


 クリス皇子のことで悩んでいた私に、お母様がそう言ったのだ。ルーカス皇子が亡くなった頃、クリス皇子はまだ三歳前後。人が記憶形成するのもおおよそ、その頃から。クリス皇子自身に愛されたと感じる記憶がなかったのは仕方がないことだったのかもしれないと教えてくれたのだ。



「聖歌には心の浄化と、善意や共感を喚起させる力があります。それは、人々の価値観の差異を近づけ、お互いを理解し合う一助ともなりえます。けれど、皇族の関係や過去の悲劇が消えるわけではありません。…事実は消せませんから。心に積み重なった負の感情を取り除いても、根本的な問題を解決しない限り、湧き上がる感情は再び出てきてしまう…」

「クリス皇子が先帝を見て怒りを露わにしたのもそのせいか」

「はい、ですが以前ほど攻撃的にはなりません。善意と調和が感情の抑制となりますので。私は、クリス皇子にも痛みのある裁きを受けて欲しかった…。一瞬でも愛されていたことに気づいて欲しかったのです」

「ティアは優しすぎるよ」

「いいえ、切望した喜びを与えながらも残酷にそれを奪うのです。彼にとっては死よりも苦痛です。私は優しくなんてありません…。それに、よろこびの歌による和解は、リアム陛下にとっても過去を清算し、未来を切り開く上で重要な一歩となります。新皇帝として、陛下は国を良い方向に導かなければならない責任がありますから。今ならば先帝も有益な協力者として支えてくれるかと思います」

「よく考えたものだね。でも、もっと簡単に魔法で操作することだってできたんじゃないのかな?」

「そうですね…。ですが、神々()は人間の自由を尊重し、発展することを望んでいました。利害が一致しなければ、助力は得られません。…それにカイル様も私の心を尊重してくれたでしょう?」


 そう言い微笑むと、カイル様は目を微かに見開いた。


「私には光の子であることを知らしめるだけの勇気も力もありません。ですがそれでもカイル様とこの世界で生きたい。だから私を含め、他者に利点となる方法で、小さいけれど、大きな干渉をすることにしたのです」


 私は淹れたての紅茶をテーブルに置いた。ふわりと香る紅茶はカイル様のお気に入りだ。美味しいと褒められてから、いつしかそれが私たちの日常となっていた。


「それだけで全てが上手くいくわけではありません。…でも結果として、レヴァン家にも帝国からの賠償と保護措置が与えられました。コーディエライト先生のことは残念なことでしたが…グリンベリル家と帝国間の関係も改善方向に進んでいるので良い傾向かと見ています」

「相応しい裁きか…。でも、まさかクリス皇子にやり直しの機会まで与えるとは少々寛大な気もしたけどね」

「…え?」

「俺だったら帝国を滅亡させて、クリス皇子も先帝も生き地獄にあ「わわわわっ!!」」


 思わず、ペシッと口を塞ぐ。


「カイル様、なんてこというんですか!わ、私の話聞いてましたか?!そんなこと言っちゃダメですっ!!」

「前の口調の方がよかった?もう取り繕う必要はないかと思ったんだけど」

「そっちのことじゃなーい!暴言の方ですっっ!!」


 以前にも「俺」と言っているのを聞いて、あれ?と思っていた。だから、それが私への配慮だったことを理解するのに、そう時間は掛からなかった。


(まだちょっとドキドキしちゃう時もあるけれど…)


「あぁ、そっち?大丈夫だよ。結界も防音魔法もかけ直したし」

「そういうことでもなくて〜!!…って、あれ?魔法増えてませんか?」

「うん、ちょっと強化したんだ」

「い、いつの間に…」

「まぁ、そんなことよりティアもこっちに座ってごらん。ようやく穏やかな日常が訪れたんだ。少しゆっくりしよう?折角ケーキも焼いてくれたことだし」

「あ、う、……はい」


 手を引かれ、言われるままカイル様の隣にちょこんと座る。


 実はここにいる間に練習していたカトルカールもこんがりと焼き上がったので、紅茶と一緒に添えていたのだ。その濃厚なバターの味わいにカイル様も満面の笑みを浮かべていた。


「なんだかカイル様には聖歌があまり効いていないような気がします」

「そんなことないよ。心はとても穏やかだ。さっきのも軽い冗談だよ。口だけに留めているだろう?」

「…むぅ。じゃあ、効きすぎてるのかしら…」


 思わず疑いの目を向けてしまう。それはきっと、カイル様の日頃の行いとあの騒動を思い浮かべてしまうからだろう。


(まさかお城を半壊しちゃうなんて…)


 クリス皇子が起こした騒動で帝国は一時騒然とし、()()()にも崩壊の危機に直面した。しかし、大賢者様とフォルティス侯爵により建物全体に浮遊魔法を施し、後から駆けつけたリアム皇子率いる部隊によって、私達は無事救助されたのだ。


「お城、ボロボロになっちゃいましたね…」

「修繕には貢献してるし、全然問題ないよ」


 カイル様は一日休んだら「もう回復した」と言って登城し、大賢者様の魔法を引き継ぎ、オパールの分析や、後処理、私への魔力移行と、やることなすこと全てが早かった。その間、私はというと、やっぱり心身的な負担から数日間寝込むことに。


「秘宝も粉々…修復不可能って…」

「不安要素は全部潰さないとね?それに最下層の封印は妥協案だよ。本当は消滅させたかったけど、思い直すに至ったのはきっと聖歌の影響だと思うね」

「しょっ、消滅……」


 最下層と封印の間は、杖の保管場所以外全てリアム皇子とカイル様によって二重の封印が施されることになったのだが…。その時、カイル様はとても難解な魔法をかけたようで、「少しでも解こうとしたら帝国もろとも暗黒の海に落ちる仕組みになってるから」と脅すようなことを言って周囲の空気を凍りつかせていたという。


(多分本気だと思う)


 帝国の秘宝については、帝国裁判で審議されることになった。その責任はクリス皇子にあるも、粉砕したことでカイル様にも追求の目が向けられてしまったのだ。しかし、黙って責められるままのカイル様ではない。


「……全て返り討ち」



「え?何か言った?」

「いえいえいえ、なにもなにも……」


 リアム陛下やお義父様と共に画策し、禁書の儀式に古くから関わりのあった貴族やそれに関連した癒着問題を片っ端から一掃させてしまったのだ。どうやら以前よりお義父様が温めていた資料があったようで「じゃあ、一気に始末しましょうか!」の一言でこの流れになったらしい。


(徹底的な儀式関連への撃退は、光の子としても非常にありがたいことなのだけど。カイル様の怒りの勢いがすごくて正直ちょっと…いえ、かなり怖かった)


 白竜様がカイル様を危険視するのもわかった気がする。聖歌は効いているはずだけれど、怒りがとてつもなく強かったということ?もしかして、カイル様の魔王化は私がパラメーターになってたりするのかしら…?もやもやハラハラしてしまう。


「……ふぅ…」


 ミルクたっぷりの紅茶を一口飲むと、足元の子猫に目をやった。もこもこの毛糸のおもちゃで楽しそうに遊ぶその姿は、疲れた心を優しくほぐしてくれるようだった。けれど、そっと肩を抱き寄せるような感触が訪れ、私の意識はすぐに引き戻されてしまった。


「もう、嘘も隠し事もしないよ。ティアの記憶が元に戻ったんだから」

「……カ、カイルさまっ?!」


 ぎゅっと抱きしめられ思わずドキッとしてしまう。


「オパールがあってよかった。おかげでティアに魔力が返せた。大賢者(先生)もその性能に大変驚いていたよ」

「…でも本当に私が持ってていいのですか?守り石やオルゴールだって壊してしまったし。何かと魔法を使う場の多いカイル様の方がふさわしいような気がするのですが…」


 オパールには魔力と大気の精霊を安定させ、力を倍増させる能力が備わっていた。大賢者様にはオパールの解析や魔力移行の際に度々お世話になっていたのだ。師弟間で交わされる高度な魔法技術や魔塔の話を聞いて、カイル様の方が必要なのではないのかと感じていたのだ。


「ティアの代わりはいないよ。もう失いたくもない…」


 肩を包む大きな手から、温かな感情が伝わってくる。その熱に、私の心も切なく震えてしまった。


「それに、光の糸が掛かったままだったから、俺も恩恵を半分受けることができている。だから、それで充分さ。何も心配しなくていいんだよ?」

「カイル様がそう言うのでしたら…」


 袖を掴んで、しょんぼりと肩を落としてしまう。


「オルゴールはまた新しいのをプレゼントするよ。そうだな、次は一緒に選びに行こうか?」

「…えっ、ほんとですか?!行きたいです、絶対に行きたいです!」


 さっきとは打って変わってぱぁぁっと、目を輝かせてしまった。


「うみゃ…、お出かけすゆ?ルビィも?」

「そうね、ルビーも一緒よ。そうだわ、あなたの首輪も選びましょう?」


 おもちゃを咥えながら、ぴょんぴょんっと私たちの元へ、ルビーがやってくる。


「それにカイル様とお揃いのピアスと、他の色のリボンも沢山選びたいし、それからそれから…」

「ふふふっ…、欲しいものが沢山あるようだね」

「そうなんです。それに、行きたい場所も!」

「……え?…」

「レヴァン領の湖の丘に、瑠璃色の花が沢山咲く場所があるんです。そこに行きたくて」


カイル様が留学から帰って来られてからも、なかなかタイミングが合わなくて誘えなかった。けれど、今年はまだきっと見れるはず。


「…それってハンカチに刺繍されていた花のこと?」

「はい、ネモフィラの花です。空も湖も大地も全部一色に染まって綺麗なんですよ」


 そこはいつかカイル様に見せたいと思っていた私のお気に入りの場所だった。


「ハンカチのことはその、すまなかった。ティアに聞く前に燃やしてしまって」

「いいえ、戻ってきてもまたあの時の恐怖を思い出してしまいますから」


以前にもその話は聞いていたことだった。カイル様はまだ気にしてくださっていたようだ。


「まさかティアのハンカチを持っていたなんてね。…刺繍を見て、勝手な期待を抱いていたんだろうと思うと、なんとも言いようのない腹立たしさが湧き上がるよ」


 その殺気に、ルビーがピュンッと私の後ろに隠れてしまう。


「でも…、期待してもそのハンカチに意味はありませんよ」

「……え?」

「私が想いを込めて刺繍を施したのはカイルお兄さまに贈ったものだけですから」


 過去に贈ったネモフィラのハンカチ。その花の意味は…。


『可憐』、『どこでも成功』……そして『あなたを許す』


「それって……」

「操られていても、伝えたくて。自責の念に押し潰されて、自分を見失ってほしくなかったから…」


 見上げると、カイル様が手で顔を覆っていた。


「カイルお兄さま?」

「…待って……。…本当に……これは……反則だ」


 気持ちを堪える様子が窺え、ルビーと一緒に顔を見合わせてしまう。だが、私はカイル様を待たずに大きく手を広げ抱きついた。「うっ」と鈍い声が聞こえたが、聞こえぬフリをして、童心に返ったかのようにぎゅうぎゅう抱きしめ、沢山カイルお兄さまを困らせてしまったのだった。



 ◇◇◇



 春が訪れ、私はなんとか無事に進級試験を合格することができた。しかしその喜びも束の間、カイル様も魔塔管理のため学園を卒業となり、フォルティス邸での暮らしもいよいよ終わりだと思っていた矢先のことだった。


「魔法陣の転移の魔法陣を作るからここから通ったらいいよ」

「…え?…」

「転移魔法の精霊石で、ここと魔塔にいつでも飛べるようにしよう。帝国と魔塔の保護対象者と学園にも通達がいっているから、ある程度の安全はあるんだけど、やっぱり心配だからね」

「あ、あの」

「あとは護衛なんだけど、まだ適任者が見つからなくてね。というか、他の男を置くのも正直、嫌なんだよね。それならもっと強力な防衛魔法で備えようかと考えてて…」

「え、あ、えっと…えっと?えーっと〜〜??」


 ……と言うことで、カイル様の過保護が加速し、今後もフォルティス邸にお世話になることになりました。



◇◇◇



 学園は卒業パーティーを迎え、どこも賑やかな雰囲気で満ちていた。しかし、そこには生徒会のリリアナ皇女と会長のクリス皇子の姿が見当たらない異例な光景が広がっていた。


 ジディス卿たちは会長の穴を埋めるべく、日々真面目に取り組んでおり、その中には他の生徒会役員に混ざって彼を手助けするフレジアの姿もあった。


「シノン先輩のこと…、ショックで一人でいるとまだ考えてしまうの。でも、落ち込んでしまうなら…って誘われてね。グレイスって意外と不器用なのよ?大事な書類もバラバラにしちゃうし。本当困っちゃうんだから」


 そう言いつつも、フレジアはどこか彼に心を寄せているかのような様子が窺えた。



◇◇◇



 書類の整理といえば、コーディエライト先生の研究室は主人を失い、少し寂しげな雰囲気を漂わせていた。部屋を片付けて扉を閉める際、クレアは一つのアイテムを持ち出していた。


「ルビー…本当に小さくなっちゃったのね…。でも無事でよかった。先生方が部屋の私物は処分するっていうから、最後にアスターと調べたんだけど、その時これを見つけてね?机の奥に大切に保管されていたのよ」

「何かしら?数字が書いてあるわ…」


 金属製のプレートには数字が刻まれていた。


「それ、ルビィのなまえ。せんせ、持ってたんだ…。せんせ…シノン、どうして…わるいこと、しちゃったの…?」

「ルビー……」

「本当よ。もっと早く、踏みとどまるべきだったんだわ」


 それは実験台の識別番号、つまりはルビーの名前が記されたものだった。ルビーは主人たちを思い出し、涙を流していた。辛い思い出もあるけれど、最初にルビーを助けたのはコーディエライト先生だった。グリンベリル卿も決して完全な悪とは言い難い。本当にクレアの言う通りだと思うほかなかった。


「あのね、ティアラ、…私、実は留学することにしたの。大賢者様からの援助でコランダム国へ来ないかって言われてね?」

「そう…じゃあ決めたのね?カイル様もこの前言っていたわ。アスター様も一緒なんでしょう?大賢者様が鍛えがいのありそうな子を見つけて喜んでいたって聞いたのだけど」

「はっ!??」

「え?」

「聞いてない!!」

「え、え、え……?そうなの?」


 カイル様の話では、あの大賢者様の特殊な杖を折ったことでだいぶ気に入られたと言っていた。なんでもアスター様には魔法剣士系の素質があるんだとか。


「だって、留学するって話したら「忘れ物しないように気をつけるんだな」って言っただけなのよ?…なんで言ってくれなかったのかしら。アスターのやつ!!今度問い詰めてやる。あーもう、しんみりして損したっ!!」


後日、クレアは勢いよくアスターに詰め寄り、半ば壁ドンならぬ足ドンをして怒鳴っていたらしい。周囲からは修羅場かなどとヒソヒソされ、ちょっとした噂が広まってしまったそうだ。



◇◇◇



「ふふふっ…、その話、アルも言っていたわ。アスターに気になる子ができたって。それにシオンもね?この前、園庭で告白かしらね?女生徒から迫られていたわ」

「シオン様も?すごい、すごい!!」

「うんうん、ちょっと猫目の可愛らしい子だったわ。シオンは押しに弱いから猛アタックされたら絆されちゃうかもしれないわね」


 きゃ〜っとフォルティス家のタウンハウスで盛り上がっていると、隣に座るカイル様が口を挟んだ。


「…コホン。ソフィア、一応今後親戚関係になる義弟達だ。あまり深入りしない方がいい。そっとしておきなさい」

「え〜、これからが楽しいところなのに。アルだってあれこれいっつも双子の話をするんですもの。家族間での違和感も無くなってきたとか、お義父様が双子によく話しかけるようになったとか!」

「…ふふっ、それはソフィアだからだろ?それだけ気を許してるんだろう。でもまともに聞いていたら、話が長いからな。あいつの話は適当に相槌を打ってればいい。相談したくて話してるわけじゃないだろうし、ソフィアに聞いてもらいた…」

「あの、カイル様……」

「……ん?」

「聞こえてないみたいです」


 ソフィアは真っ赤になって固まっていた。


「……気を許してる、私だけ…、私だけ…」

「………ソフィア?」

「……………ハッ!そ、そういえば、アルったらこの前もルビーのネックレスとピアスをプレゼントしてくれてね?どうしてこの色にしたのって聞いたら私にとても似合ってると思ったからって言ってくれたの!!!!『なに馬鹿なこと言ってるの』ってバシバシ叩いてしまったのだけど、後から調べたらルビーって「宝石の女王」っていうんですって。情熱とか良縁とか、お守りとして贈られることもあって、そのことをアルに話したら「じゃあ、また贈る」って言ってくれて、もうもう私真っ赤になってしまってっ」


 キャー〜〜!!!っと惚気話が止まらない。


 結局、ソフィアを寮に見送る頃には、カイル様はぐったりと疲れ果てていた。


「はぁ…、やっと帰った…。ソフィアのやつ、ティアの進級祝いを持ってくるって言っといて本当は自分が喋りたかっただけだろ」

「でも、この新刊すごく読みたかったものですし。さすがソフィアです。それにソフィアの話をちゃんと聞いてくれるカイル様も優しいですよね」

「そんなことないよ」

「そうですか?私には、なんだかやっぱり、いつになってもカイル様は良いお兄さまだな…って思いましたけど。ソフィアにとっても、私にとっても…」


 そう言い微笑むと、少し困ったような表情を見せながらも意外な言葉が返ってた。 


「……いや、ティアの前ではもう兄ではないよ?」

「…え?」


 手が近づき、頭を撫でられるのかと予想していると、ゆっくりと髪を掬い上げ深い愛情を宿すキスを落とされた。


「もう待つ必要はないよね?今後は遠慮なく攻めていくから」

「………わ………わわわわぁぁ」


 妖艶な笑みを向けられ、私は足元から崩れ落ちてしまったのだった。



◇◇◇◆◆◆



 歳月は経過し、魔塔の影響は世界中に拡がりを見せ、カイル様の名前は広く知れ渡るようになっていった。そして傍には、白虎と見紛うほど巨大な守護幻獣のルビーを連れた白の魔術師として、私の名もまた広まってゆくのだった。


 時折、魔塔の奥では歌声が響き渡り、当主様(魔王)の怒りを鎮める歌だと噂されていたりもする。


 (名が広まるに連れ、聖女信仰の教団から「もしや聖女なのでは?会わせてほしい」と要求されるせいでもある)


 クレアとアスター様は、魔塔本部の上級魔術師として多忙な日々を送るようになり、同時にシオン様も早くに第三騎士団長として際立った実績を上げ、その秘書にはフレジアが任命されることになる。


 その裏には、ジディス卿の健気な努力があり、彼女を戦闘の少ない場所に異動させたいと色々奮闘していたんだとか。最終的にはシオン様が帝国騎士団長に昇進し、その片腕としてジディス卿が副団長となり、帝国を支える役割を果たすことになる。


 そうそう、フレジアはジディス卿の根気強い求愛の末、彼とめでたく結婚するのだけど、クレアとアスター様もその流れに続くのではないかと、私は密かにワクワクしている。


 ソフィアは卒業と同時に結婚式を挙げ、アルベルト様は自領の繁栄を促進すべく、農業や商業の発展など幅広い取り組みを日々行っていた。さらに、彼らが開発した新薬や栄養補助食品は魔塔を通じて各国に広がり、その効果は非常に高く評価されている。



「ティア、そこにいたのか。それは?」

「カイル様。これはヴィオラ様からの手紙です。順調のようですよ?ルルの似顔絵や、ビオラの花を敷地に植える作業をさせてるってありますね。きっと部屋に沢山飾っているんでしょうね」

「へぇ…、あまり甘やかさないように注意すべきかな」

「えっ!いえいえ、ヴィオラ様は監視者としてしっかりやってます。大丈夫です!そっとしておきましょう?」

「ふふっ、わかった、ティアが言うならそうしよう。それより二人の時は呼び捨てでって言ったはずだけど?」

「えっ、あ…………」

「カイル、だよ?」


「…………カ」

「………………………………カ、カイユぐぅっ!!!」


「ふふっ、もう、どうして噛むかな?大丈夫かい?」

「ううぅ…」



 時は移り変わり、世界は緩やかに変化する。悩んでいた容姿も、やがて旦那様の胸元に届くほど背が伸び、お母様のような女性らしい姿へと変化を遂げるのだが…。


 そこに辿り着くには、長くも短くも感じる道のりがあり、光の子の奮闘もまた同じ。


 けれど私の隣には必ずカイル様とルビー、そして大切な仲間たちが寄り添ってくれている。


 この物語は、そんな私の一端の物語。終わりが来ても、また明日にはきっと次の物語が始まるのだから。





ここまでお読みくださりありがとうございました。一応これで本編終了となります。


全体修正の後、エピローグとしてその後のティアラ達と、塔での生活のクリスとヴィオラを書いてから完結ボタンを押そうと思っています。


【修正について】

・ソファー→ソファ

・王族→皇族

・精霊のエネルギー→マナ

・一章にてカイルが書斎で便箋要求するシーン

(書斎にいるのになんで便箋ないのかな。おかしくない?と思って。ちょっとだけ訂正したいです)

・一章の学食シーンでトレイを戻すシーン

(文章が拙すぎてどうにかしたいです。もっと軽やかにしたい)



※今まで書いた話をガラッと別物にするようなことはしませんので、ご容赦頂けたらありがたいです。


★微成長したティアラとカイル


挿絵(By みてみん)


大きな絵はX(旧Twitter)かカクヨム、pixivにて閲覧できます。

X、カクヨムのアカウント:@tomomo256

(※納得いかずもう一度目元修正しました…)


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