最終決戦
・大変遅くなり申し訳ありません。
・いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます!
※残酷、血のシーンがあります。ご注意ください。
※最後のところ、少しだけ文章の位置変えと一文削りました。大変申し訳ありません(>_<)。。
「ティアラッ!」
近づくとティアラは全身を震わせ、拒絶の意思を示した。瞳には深い恐怖が滲み、砕かれた精霊石が散乱している。
「一足遅かったな」
「………クリス皇子」
その場に突如現れたのはクリス皇子だった。しかし彼に負傷した形跡はどこにも見当たらない。
封印の間は、帝国の地下に位置し、神竜の縁の地とされた神聖な場所。そこはガラナス皇子の事件後、結界や幻覚魔法の防衛強化が施されていた。
ティアラの指輪には防御、補助、探知の魔法効果を備えていたのだが、クリス皇子によりフォルティス家の結界とティアラの防御を解かれ、転移魔法をかけられてしまった。先ほど倒したのも幻覚魔法の一部だったのだろう。
「私の影武者は優秀だっただろう。有意義な会議になったんじゃないか?」
「………っ」
会議は乱され混沌としたものだった。しかし、中断すればクリス派の貴族達が挽回策を模索するだろう。宮廷鑑定士を捕らえた際、証拠不十分に加え派閥貴族に阻まれ、あの時はクリス皇子への追及は叶わなかった。
ティアラを守る為には、リアム皇子の地位確立に加えて、自身の地位と権力を固めることが不可欠だった。ティアラの位置は掴めていたが、悪い条件が重なり遅れを取ってしまった。
(ティアラ………)
ティアラの視界をマントで覆い隠すと、クリス皇子の方に視線を移し睨みつけた。
「リアム皇太子によりお前を捕らえるよう命を受けた。抵抗するならば容赦しない!!!」
彼は不敵な笑みを浮かべて聖剣を構えた。
——かかって来い。
それを合図に一閃の速さでクリス皇子に強烈な一撃を放った。
◆
壮絶な剣戟を繰り広げ、金属音が鳴り響く。
闇属性の強い自分に真逆の聖剣は相性が悪い。用意周到なクリス皇子の戦法に苛立ちが増すが、それ以上に未然に防げなかった自分が腹立たしかった。
クリス皇子が一歩踏み出したその瞬間、速攻で接近し、クリス皇子の肩を斬りつける。クリス皇子は反撃魔法を出そうとしたが、その腕さえも切り落とす勢いで迫った。だがその瞬間、背後から業火が襲い掛かってきた。
「殿下!!」
コーディエライトとシノンだ。彼らはクリス皇子を庇うように援護魔法に出る。血が聖剣にまで滴り、シノンが気遣う素振りを見せたがクリス皇子はそれを制した。
「ここはいい…!先に行け!!」
「しかし、それでは御身が…っ!!」
コーディエライトがそう叫ぶ。
「どうせやることは同じだ。それに、お前達が心配しているのは私ではなく、この聖剣の方だろう?」
「……殿下っ!!」
「この身が朽ちても聖剣は送ってやる。シノンも急げ!!」
「は、はいっ!」
彼らの会話に眉を顰めるも、コーディエライトが移動魔法を唱え始め、ハッとする。
「ティアラ!!!」
シノンがティアラの方向に走る。魔法を撃てばまだ間に合う距離だった。しかし、自分の声に反応しティアラが顔を上げてしまう。
「……クッ!!」
瞬時に切り替え、コーディエライトに剣を放ち、自分はティアラの方へと疾走した。
「ティアッ……!!!!!!」
手を伸ばす。それに応えるように微かにティアラが反応する。しかしその瞬間、二人の間を引き裂くように強烈な稲妻魔法が走った。ピアスが砕け防御魔法が発動するも、煙と共にティアラの姿は消え去っていた。
「行かせない。ティアラは大事な器だ。こんなところで計画を台無しにされたら困るからな」
「……器、聖女の儀式……そんなものに何の意味がある!ティアはお前達の都合のいい道具じゃない!!!」
「貴様がそれを言うのか?やっていることは我々とそう変わらないだろう?!」
同等だと……?
「ふざけるな………!!!!…俺は、お前とは違う!!!!」
ドッ……!!と、地響きが鳴り響き、自分の影から無数の黒龍が凄まじい勢いでクリス皇子に襲い掛かった。
「無駄だ!!聖剣を持った私に貴様の闇魔法など通用しない!!」
クリス皇子が聖剣を振るうと、魔法は弾かれ地面を削り上げた。しかし、怒りの衝動はそれだけでは収まらない。闇魔法が溢れ、自分の背後を黒く染めていく。それは無数の龍から次第に大きな黒の多頭竜へと変貌を遂げた。
「まさか、まだそんな力を隠し持っていたとは…。陛下が目を留めるのも頷ける。貴様を配下に置く未来もなかなか面白かったかもしれないな」
「あり得ない。その前に今ここで潰してやる」
「ククッ……ただの戯言だ。元よりそれは陛下が望んだこと。私は興味などなかった。せいぜい観察対象程度だったさ」
ティアラに近づいたのも最初は単なる興味本位に過ぎなかったと彼は言う。
しかし、あの日、丘の上で見かけた少女は、眩い光に煌めき、澄んだ歌声を奏でながら舞い降りたかのように神々しく、気づけば目が離せなくなっていた。
ティアラは陽だまりのように暖かく、彼の欠けた心に癒しの音を響かせたのだ。
「ティアラは不思議な子だ。自然と心が満たされるようだった。…彼女こそ、神々の光の使徒に相応しい。だが、同時に暴虐的な感情が疼いて仕方ない…。すり替えられた記憶とお前との絆を大事そうにして……何も疑わずお前を心底信用している姿が、愚かで…、打ち砕いてやりたくてしょうがなかった!!!」
地面にはその言葉を表すかのに無惨にも守り石が粉々に散らばっていた。
「…勝手なことを……!!馴れ馴れしくその名を口にするな!!」
すぐさま剣を拾い上げ、豪撃を放つ。
「貴様は考えたことがなかったのか…?」
——『光の子にとって『生と死』どちらが救いなのか』
「なんだと……?!!」
聖剣が眩く輝き、光の矢となり襲いかかる。それを後退し、指で払うように闇魔法で相殺させた。
「生かされても常に何かに怯え、誰かに搾取される。光の子とはそういう存在だ。現にティアラは、お前に魔力を奪われ、精神魔法が解かれた今も尚、お前を信じ、自分から搾取される道を歩もうとしている。それが本当の幸福だというのか…?」
「……っ!!!」
「固定された倫理概念は捨てるべきだ。世俗のものを断ち切り、死を肯定する…。それこそが真の幸福だ!!!!」
——聖女の体から魂を切り離し、神々の世界で永遠の幸福を享受する。
「神々の末裔である皇族。それを受け継ぐ私の血と聖剣によりティアラを天に導く。互いに欠けた魂は一体となる…。フッ……ハハハッ……もう何も苦しむことはないんだ。悲しみも、絶望もそこにはない…!!!」
狂ったように彼は声を張り上げ、血を吸った聖剣は不気味な輝きを放っていた。
「肉体は水晶に封印し、彼女は巨大精霊石の核となる。大地は潤い、誰しもが魔法を使える世界に変革させるのだ。地に肉体がある限り、新たな聖女も生まれることはない。帝国は潤い、悲劇の連鎖は断ち切れる。今よりもずっと理に叶った世界だ。なぁ!そうだろう…?!!!!」
彼は身勝手な救済をティアラに求め、狂気に取り憑かれていた。理想郷のように語るそれは、狂信的で不明瞭な幻想に過ぎない。自分を正当化し、孤独や絶望を埋める為にティアラを道連れにしたようなものだ。
ふざけるな……!!!!!!!
怒りが爆発し、彼めがけて凄まじい打撃を浴びせる。
「無駄だ!!私を倒しても、結果は同じだ。お前に勝ち目などない!!!!」
クリス皇子が聖剣を掲げ眩い光が立ち込める。チリチリと焼けるように皮膚が痛む。衝撃波を喰らえば致命的だ。だが……。
ヒュッとクリス皇子の目元を何かが掠めた。
「ハッ……どこを狙っている!!」
投げたのは守り石の欠片だった。狙いはクリス皇子ではない。
「……なに…っ…!!?」
点在した守り石の欠片は聖剣を軸に一斉に輝き始める。
返答しなかったのは詠唱を唱えていたからだ。魔法陣は聖剣の波動を封じ、聖剣の光で力を抑えられていた闇竜も一気に動き出す。
「封じたところでっ……!!」
強引に振りかざした聖剣がこちらの剣を真っ二つに打ち砕く。だが、両手に闇魔法を宿し即座に黒い双剣を作り出し反撃に出た。
「……なっ……!!!!」
瞬く間に聖剣を粉砕させ、反動を利用しクリス皇子を地面に叩きつけた。
「終わりだ」
闇竜が彼の心臓に食らいつき、凄まじい絶叫が響き渡った。
「殺しはしない…。死が救いなんだろ……?」
「……グッ……アッ…!!、グアアアアアッ……!!!!!!!」
「騎士団が到着するまで、もがき苦しむんだな」
吐き捨てるように言うと、指輪の輝きを頼りに転移魔法を発動し、その場から跡形もなく消え去ったのだった。
◆
封印の間の最深部。その祭壇にティアラは寝かされていた。空中には禍々しい鉱物が浮かび上がり、透明な魔法水晶が形成されつつあった。
そこには詠唱を唱える魔術師が立っていた。そしてもう一人は……。視線をずらした先に彼はいた。だが、おかしなことに地面に伏せ、床には大きな血溜まりが広がっていた。
「フォルティス卿…っ!…ハハ…、クリス皇子は負けたんですね。…でも…、それじゃあ聖剣は…!?」
シノンは乾いた笑みを浮かべ、瞳は彷徨い正気を失ったように濁っていた。
「聖剣なら待っても無駄だ」
「なっ、…どうして…!」
「それはこっちが聞きたいものだな。仲間割れか?」
「うぁっ……!!!!」
即座に魔法で彼を拘束し、俺は迷わずティアラの元へと駆け寄った。
「ティア…」
彼女は静かに息を潜め眠りに落ちていた。特殊な鉱物の力によって無理矢理魔力を同調させられ、魔法文字が荊のように絡みついている。無理に触れようとすれば電撃が走り魔法で解術する以外、方法はなさそうだった。
「よくもまぁ、ここまで考えたものだな…」
魔法文字を分析すると、自分が以前独自に編み出した魔術形式が使われていることに気づく。新入生歓迎会の時に自分の研究室が荒らされた形跡があったが、やはり彼が関与していたのだと確信し、深い溜息が漏れた。
「おい、この鉱物はどうやって入手した?」
「……どうするつもりです?解術したところでティアラ嬢が正常に目を覚ます保証はありませんよ?」
「黙って答えろ!」
「…グァッ!…神器の小さな水晶を元に、再結晶させた合成石…です」
「合成石…。だが、ただの合成石ではなさそうだが?」
妖気漂う合成石に手をかざし、その性能を調べようとした。
「お願いだ…!!その合成石だけは壊さないでくれっ!!!それには膨大な魔力が……、命が込められているんだ!!」
「…命だと?まさかお前達もガラナス皇子の真似事をしていたっていうのか…?」
グッとシノンの首を魔法で締め上げる。
「……グアアッ!!違うっ!!あの合成石は…、あれにはルビーがいるんだ…!!!」
その合成石は、彼らが研究で増幅させた魔力と宝珠に秘められた魔力が内蔵された特殊な合成石であり、彼らの研究の最高傑作でもあった。
内蔵された魔力の一部には、学園の生徒やクレアが魔法を蓄積した水晶を魔力に変換したものが含まれていた。しかし、意外なことにそこにはルビーの存在も組み込まれていたのだ。
「宝珠の力を持ち出せたのなら、ルビーは必要ないはず。なぜそんなことをした!!!!」
「…これが最善だったから。いや…、他に方法なんてなかったんだ!!!」
ルビーは研究施設で大気や他者の魔力を吸収し蓄積する特殊能力を持つ実験個体として改造された過去があった。ガラナス皇子の事件後、コーディエライトの身元調査と共にルビーの詳細も触れられそうになったのだ。しかし、実験で使用された生物は処分対象だ。苦肉の策として肉体は滅びルビーの魔力だけ混合石に移す方法を取ったらしい。
(不思議な猫だと警戒はしていたが、まさかそんな……)
次はいつ会えるかと思いを巡らしながら、ティアラは猫用の毛糸のおもちゃを作っていた。その姿が重なり、胸に残酷な切なさが広がり眉をひそめた。
「使い魔は主人へ魔力を還元する僕だ。クリス皇子が見せてくれた禁書の啓示には栄光の予言が記されていた。それが実行されるのは未来じゃなくて今なんだって。先生もそれに賛同しルビーを差し出すことに躊躇しなかった。でも……僕は……」
「………」
「あなただったらわかるでしょう?!グリンベリル家が帝国に逆らえない契約下にあることを!!僕達に選択肢なんてない!!!クリス皇子の命令に逆らうなんて無理なんだ…!!!!!」
抗うことはできなかったと彼は言う。だが……。
「俺がどうしてすぐにお前を捕らえなかったと思う?」
「……え?」
「強制されていたと言うなら、俺が来た時点で儀式続行は考えないはずだ」
以前、クリス皇子に絡まれるティアラを彼は助けたことがあった。こいつの曖昧さがどちらに動くか、様子を見ていたのだ。
「だが、お前はクリス皇子よりも聖剣を仕切りに気にする素振りをしていた。それにコーディエライトのことはどう説明するつもりだ?」
「……!!!…ち、違う!あれは事故だ!そう、事故なんだ!!僕は儀式を止めようとしたのに、それでも強制しようとするから抵抗しているうちに…」
「逆だろ?」
「……ちっ!!違うんだ!!待ってくれ!!!」
「動機に差異があろうと、コーディエライトを殺害したことやクリス皇子の計画に加担した事実は変わらない。…自分の罪から目を逸らすのはもうやめるんだな」
シノンはあからさまな動揺を見せた。
「……って…。だって…これは、神々の真理に触れることなんだ!魔法概念が変わる!優劣の差もない!そんなまたとない機会に立ち会えるんだぞ!!なのに…先生は……。最後の最後になって怖気付いてしまうなんて馬鹿げてるっ!!」
その為には犠牲も厭わないとでも言うのか…?
「痛みは一瞬だけだ…!その後に必ず救われる!!ルビーだってこの世界に貢献できるなら、その命は無駄になんてならない!!尊い犠牲なんだ!あなたのように権力も才能も恵まれた人にはわからないさ…!!…もがいても、もがいても抜け出せない苦痛を…。逃げられないなら…せめて夢を抱いたっていいじゃないか……っ!!!!」
師は最後に思い留まり、弟子は欲望に溺れた。いや、コーディエライトも大差ない。どいつもこいつもイカれてる……。
「話にならないな」
これ以上話しても意味がない。解術魔法を試みようと指先を動かすも、あろうことかシノンが荊に向かって飛び込んできた。
「グアァ…!!!……アアアアア…!!!」
「何を考えているんだ…!!やめろっ!!!!」
殴り飛ばし、無理矢理引き剥がす。
魔法文字はキンッと音を響かせ、解術されたかのような錯覚を与えた。しかし頭上を見上げると、合成石が輝きを増し、壮大な魔力を解き放ち暴走を開始する。彼は自らの魔力を強引に注ぎ込み、捨て身の攻撃を仕掛けたのだ。
「…魔力暴走を起こしたっていうのか?!」
荒ぶる力は周囲を破壊し、大地を砕き、亀裂からは虹色の光が溢れ出した。
「ハ…ハハ…、聖剣が…なくても…僕の仮説は…実現できるんだ…。ねぇ、先生…?」
横たわった師は静寂の中にあった。シノンは感覚を失いながらも、手を伸ばし大地から溢れる光の中へと、師を追うように身を委ねた。その光は深い輝きを放ち、シノンの心を包み込むかのように柔らかく広がっていった。
◆
急いで浮遊魔法をかける。放出された膨大な魔力が厚い壁となり、転移魔法は使用はできない。
「……壊すしかないのか…?」
(魔力は残り半分ほど…ティアに移せるだろうか…)
今になって魔力を渇望するとは皮肉なものだ…。きっと地上も混乱しているはず。父はリアム皇子と役人の間に立ち均衡を保つ役割を担っている。大賢者アレクサンドロスは他国への干渉は制限されているが、流石にこの騒動では関与せざる得ないだろう。
「少しくらい暴れたって、構わないよな!!!」
漆黒の幕が広がり、黒竜の口から猛烈な炎が合成石へ向けて放たれる。すかさず高らかに空を蹴り、黒竜の双剣を打ち付け一気に叩き落とした。合成石は跡形もなく消滅し、振動は収まりを見せた。しかし、それで終わりではなかった。地下から広がる不思議な光がティアラを死へ誘うかのように妖しく纏わりついていたのだ。
「……っ!」
透明な水晶の膜は、光の粉に触れると儚く舞い散り、同じ光となって消えていく。その様子は、まるでティアラ自体も同じ運命をたどるかのようで、一瞬にして不安が波のように押し寄せた。
「やめろ!!!近づくなっ!!!!」
光の子を迎えに来たとでもいうのか…?
急いで自分の腕にティアラを引き寄せる。転移魔法はまだできない。魔力移行をするにも守り石は砕けてしまった。焦りが心臓の鼓動を激しくさせ、まるでいつか見た夢が正夢になってしまうかのような恐怖が襲いおかしくなりそうだった。
「駄目だ…、駄目だ!!ティアを連れて行くな!!!」
一層強く抱き締めたその時だった…。
——コトンッ
小さな白い石……石英だ。
「……ずっと、持っていたのか…?」
石英は精霊石には不向きな石、だがそれは幼い日の宝物でもあった。
—『カイルおにいさま、この龍の涙、ティアもほしいな』
—『ただの石だよ』
—『いいの。だってとっても綺麗なんだもん』
揺れる瞳に過去の思い出が甦る。
「綺麗な石…か…」
長いまつ毛の縁に残った涙をそっと拭うと、『龍の涙』に目を向けた。
可能性は一握り。……いや、迷ってる暇なんかない。
「……お願いだ。応えてくれ…」
ティアラと自分の手を重ね合わせ、自分の心臓に強く押しつけた。石英は歪な音を立て、少しずつ砕けていく。
「まだ……謝ってない。嘘だってついたままだ」
…もう一度話したい。微笑んでほしい。
やりたいことだって沢山ある。…行きたい場所だって。
「ティアがいなければ、何も意味がないんだ……」
これで終わりだなんて言わないで。
「目を覚ましてくれ……ティア……!!!」
眠り続ける彼女に想いを告げると、そっと唇に触れ、生命の息吹を祈りに込めた。
その祈りは一滴の魔力の雫となり、水の波紋のように優しく広がっていく。ドレスに付着した小さな守り石が一つ、また一つと密かな輝きを放ち始め、その光は次第に輝度を高め、大地に華やかな花の魔法陣を描き出していった。
「……これは…」
上空を見上げると、そこには無数の星を散りばめたような景色が広がっていた。その光景から、一つの光が流れ星のように石英の破片の上に舞い降りてきた。
「…まさか……。いや、そんな都合の良いことなんて……」
その光は囁くように赤く煌めいたように見えた。
「お前がルビーだったら……、きっとティアも喜ぶだろうな…」
その光の石を自分とティアの手で優しく包み込むと、額を合わせ、もう一度魔力を流し込んだ。
花の魔法陣は、無数の白い花びらを舞い上がらせ、辺り一面、真っ白な世界へと塗り替えていくようだった。
・「お嬢様と本当の皇子」の丘に咲く花
シロツメクサ:幸運、私のものになって
タンポポ:神託、幸福
(綿毛:別離)
・他にも伏線回収できたかなと…。




