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「妬み」「羨み」「憧れ」


・いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます!

・「——」部分はクリス側の心情描写です。

・いつもより文字が引き締まった感じがしたらそれはティアラの成長具合と…思って読んで頂けたら嬉しいです。


※残酷なシーンがあります。ご注意ください。


※誤字訂正

神龍の聖剣→神竜の聖剣に変更しました。(5/10)

 


「カイル様、クレアのこと、本当にありがとうございました」

「いや、お役に立てたようでなによりだよ」


 顔を見合わせると、自然と微笑みが溢れ出る。


 交渉後、宮廷鑑定士アクアスは、継承権争いが終わるまでの間、仮拘禁の処置を受けたと聞く。カイル様が大賢者様と交流があったことには驚いたけれど、フォルティス侯爵閣下も名高い魔術師。


 だからそれはとても自然なこと…。そう、私は思った。



 ◆◆◆



 重苦しい空気が、ティアラの部屋を支配していた。クレアの悩みが落ち着いてホッとしていたところだったのに……。御前で歌を披露するようにとの勅命がついに届いてしまったのだ。


「………はぁ……」


 覚悟していたとはいえ、本物が届くとやっぱり怖い。


「もう少し引き伸ばしたかったんだけど。ごめん、ティアラ…」

「いいえ、むしろ今までずっと匿って頂いてましたし、充分過ぎるほどです」


 乱れたサインから陛下の容態が限界に迫っていることが窺える。複雑な感情が交錯する中、ふと頭上からカイル様の独り言が聞こえてきた。


「どうせ勅命もクリス皇子が一枚噛んでいたんだろうし、陛下の傍にいながらなぜ止めなかったって責めるのもありかな…」

「…………」


 …………ん?


「リアム皇子から言わせるか。勅命の変更…、いや、やっぱり白紙にさせよう」

「もしかして今度の会議で勅命を取り下げようとしてますか?」

「うん。行く必要ないからね」


 ………えーっと…?


「あ、あの、それだけ危機迫る状況なのかもしれませんし…。もしクリス皇子が関わっていたとしても勅命は絶対です……。取り下げられたとしても関わればカイル様の心象も悪くなってしまいます」

「そんなもの関係な…」

「あります!……カイル様は会議で魔塔の発表もするんです。細かな問題点も詰めて話し合わないといけないって言ってたじゃないですか。私のせいでカイル様の立場を悪くするのはよくないです…」

「ティアラ…」


 貴族や重臣たちが一堂に会し、合議制の決議により皇位継承権について話し合う会議が近々開かれることになっていた。カイル様はリアム皇子を支持し、魔塔についても言及するという。カイル様は()()()()()()()を務めると言っていたが、とても重要な役割を担っているに違いない。だから、邪魔はしたくなかった。


「わかった」


 ホッ………


「じゃあ、会議でリアム皇子が皇太子に決まったら、さっさと戴冠式を行なって即皇帝陛下にはその座を降りてもらおう。それまで適当に皇宮に行く日を引き伸ばそうっ!」

「……え……?」


 話があらぬ方向に飛んでった………。


「な、なななんてこと言うんですか!そんなこと言っては駄目です…!!」

「大丈夫だよ。今じゃ誰もが思ってることだ。それに元から僕は陛下も皇族も好きじゃない」

「きゃーー!…だ、駄目!口!口、閉じてください!!」

「んぐっ!!」


 トンデモ発言ばかりする口を慌てて塞ぐ。


「カ、カイル様の発言は恐ろしすぎます!!!わっ、わわ私!行きます!!!私の問題ですもん!!」

「駄目だ、それこそクリス皇子の思う壺だよ。ティアラは行かなくていい」


 荒々しくも軽やかな手つきで両手を引き剥がされ、真剣な眼差しで見つめられた。


「勅命だからって、命令に盲従する必要はないんだ」

「で、でも……、そうできるほど簡単な問題じゃない……でしょう…?」


 今回ばかりは私も引き下がれなかった。


「……私、やっぱり甘えすぎてたんです……。フォルティス家は今後も帝国の中で重要な役割を果たす家門となります。それなのに……これ以上負担をかけることはできません」


 カイル様が目指す魔塔は、レヴァン家にとっても重要な防衛拠点となるだろう。宰相であるフォルティス侯爵もそうだ。閣下はこの帝国の政治体制や皇子達を公正な方向に導くことができる大事な存在だ。


 それなのに私へ過度な擁護をすれば、フォルティス家は帝国側から反抗的な態度を示しているとみなされ、政治的に排除され事業や他家との関係も危うくなるかもしれない。


「…だから……守ってもらうのはここまでで…もう、いいんです」

「……待って、何を言って……」

「カイル様………婚約解消しま……」

「ティアラ……!それ以上言ったら怒るよ」


 肩がビクッと震える。有無を言わさぬその声は、低く圧倒的な怒りに満ちたものだった。瞬時に彼を怒らせてしまったことに気づき、後悔したがすでに手遅れだった。


「……………他の方法を考える。ティアラは何もしないで」


 そう言うとカイル様は私の手を離し部屋を去ってしまった。私は呆然として、彼が去っていく扉をただ見つめることしかできなかった。


「カイル…さま……」


 その日を境に、私達はすれ違うようになってしまった。



 ◆



 会議当日の日。その日も私は遠くから見守ることしかできなかった。


「今日も話せなかった……」


 何もやる気が起きず、ただ時計の針が刻々と過ぎていく。私は膝を抱え込み、身を縮めて座り込んだ。手元には薔薇のオルゴールがあった。中には満月の実験で使った鉱物が入っている。ネジを回せば優しい音色が流れ出るが、今はそれすらも悲しく感じられた。


(どう言えばよかったのかな……)


 あの時は気が焦り、婚約解消を口にしてしまった。でも、もっと他の方法を考えるべきだったと後悔で胸が詰まる。話したいのに今となってはその相談もできない……。


「このままじゃ、……イヤ……」


 涙が目に溜まり視界がぼやけてくる。必死にこらえていたけれど、やがて限界を迎え、瞳が閉じると、ひと粒の涙が地面に落ちた。その瞬間、世界は揺れ動き、自分自身が涙と一体化して消えていくかのような不思議な感覚に包まれていった。



 ◆



 周囲の人々が聴き入る中、私は歌声を響かせた。そこにカイル様はいない。けれどもう引き返すことはできないのだと自分に言い聞かせ気迫を込めて歌い続けた。すると横たわっていた陛下が身を起こし、穏やかな表情でこちらに目を向けた。


「やっと…会えた……、フィローネ…」


 陛下は私をフィローネ妃と間違えているのだろう。陛下がこちらへ手を伸ばそうとする。だが急に奥が騒がしくなり、突如大きな音を立て扉が開かれた。


 そこに現れたのは、ガーネット皇妃陛下だった。封じられた魔法が解かれたのか、帝国兵たちが傷つき倒れている。虚ろな瞳をしてふらつきながら中へと入り、皇帝陛下に近づいていく。そして……。


「陛下!!」


 皇帝陛下の腹部には魔法で生み出された剣が深く突き刺さっていた。以前、目にした光景が脳裏によみがえり私は立ちすくみ、ただ震えることしかできなかった。


「ガーネッ……ト…ッ…!!!」

「やっと…、やっと……こちらを向いてくれましたね…陛下……」


 周囲はざわめき、兵達が取り押さえようと動き出す。しかし、ガーネット皇妃はそれに構わず更に陛下を何度も突き刺し狂ったように高らかに笑ってみせた。


「あなたがいけないのですよ……?わたくしよりもあんな侍女に心奪われるなどと!!ありえない……、気位も美貌も全てを兼ね揃え、正妃の責務も果たした!!!なのに…なぜわたくしを見てくれないっ!!いつまでわたくしを愚弄するつもりかっ…!!!」

「………グッ……ガハッ…!!」

「わたくしはこんなにも満ちているのに…何がいけないの、何が足りナイノ……どうシテ……どウシテ……?」


 その狂ったような言動と、血にまみれた部屋の光景から目を逸らすことができず、体が次第に硬直していく。


「……ウ…タ……キケン…、……ヒ…ヒヒ……、歌ッタノはオマエだ………ミンナ……狂っテ…しまった……」


 次の獲物を見つけたかとばかり、じわじわとこちらに近づいてくる。狂気じみたその姿は、恐怖そのものだった。


「……ナクナレ……邪魔……ダ……死ネエエエエ!!!!」

「きゃあああああああああああっー!!!」


 恐ろしさに怯え足がすくみ、必死に手を伸ばすも、もがくばかりで後退が遅れる。


「こっちだ!!!」


 グッと腕を引いて廊下へと引きずり出される。帝国兵に手を引かれそのまま走り出した。しばらくしてようやく立ち止まったかと思い声をかけると騎士がこちらを振り返った。


「あ、ありが…と………」


「久しぶりだな、ティアラ」


 瞳に映ったのはクリス皇子だった。驚きを隠せずにいると、急に視界がぼやけて廊下が歪み始め、混濁の渦に呑まれていった。



 ◆



 カタンッ


 大きな衝撃音が聞こえ、意識が一気に浮上する。


「……あ……れ…?」


 床に薔薇のオルゴールが落ちている。中に入っていた石は無造作に散らばっていた。そして、その奥には玉座に座り、帝国の三番目の秘宝である神竜の聖剣を握るクリス皇子の姿があった。


「クリス…皇子……ここは……?」

「封印の間だ。宝珠を保管している神聖な場所だよ」


 周囲は鏡に覆われ、まるで万華鏡(カレイドスコープ)の中に放り込まれたかのような不思議な空間だった。


「転移魔法を体験した気分はどうだ?()()()()を見ていたようだが……?」

「…じゃあ、陛下達は無事………?」

「どうかな。本物の皇妃はもってあと数日といったところか…。まぁ、ガラナスよりはもった方だな」

「……どういうことですか?何をされたんですか?!」

「何って、私が二人への禁術魔法の処罰を陛下から引き継いだのさ。偽の記憶を植え付け、恐怖心を煽り立て、脳を掻き混ぜる。ククッ…正当な裁きを行っただけだが?」


 冷笑を浮かべクリス皇子はそう語る。


(正当って…。処罰は必要なことだけど…!)


 私は直感的な恐怖を感じ守り石をぎゅっと握りしめた。


「陛下にも、その様子がよくわかるように、魔法で直接脳に映像を送っていたんだ。君が見た夢のようにね。報告は必要だろう?」

「そんな……。まさか、陛下の容態が悪化した原因はそのせい…?でも、それでは、あまりにも残酷なことなのでは…」

皇族(判決者)として裁きを見届ける責任がある。それだけのことだ。だが陛下やリアムはその自覚が足りない。だから教えてやったんだ」


 身近なものほど警戒は必要だと彼は言う。


「ティアラ、君もだ。カイルという男をあまりにも盲目的に信じすぎているようだ。彼を疑ったことなどないんじゃないか?」

「………!」

「それはとても危険なことだよ。ティアラは不思議に思わなかったのかい?どうしてこんなに優しくしてくれるのか?親身になってくれるのかと」

「それは……っ!…でも、幼い頃からの仲で、婚約者で、…自然な流れで」


 小さな不安を突かれ、言葉に詰まる。


「本当にそう思っているのかい?婚約者、幼馴染、恋情、親愛、そんなもの見た目ほど強固ではない。それらはどれも、微細なことが積み重なって作り上げられた脆弱なものだ。少しの誤解や、ちょっとした失言がその絆を崩してしまうことだってある」


 クリス皇子はゆっくりと瞳を伏せる。


 ——母フィローネには、亡き兄の代替品として扱われ、『クリス』は存在のないものとされた。そのような母への想いなど、とうの昔に消え失せていた。


 深く息を吐くと、クリス皇子は再びこちらを見る。


「君だろ?真の聖女というやつは。それとも神話をなぞって光の使徒とでもいうべきか。アクアスもティアラの魔力に宿る不思議な光に疑問を抱いていたよ。推測だったことが、このような形で確信に変わるとは驚きだったがな」


 光の使徒………


「あいつはそのことにいち早く勘づいていたんだろう。だからずっと君を囲い込んでいたんだ。帝国に奪われないように監禁して、部屋に結界まで張って。どこまでも厳重にね…」

「ち、違います!私は別に、監禁されてたわけじゃありません!」

「それは君の主観だろう?騙されていると認めたくないだけだ。見たくないものを自然と避けて、逃げて…。都合の良いことだけを見聞きして、カイルが用意した部屋()の中に閉じこもった。()()は私が解いたよ。とても難解だったが、今日の会議で、カイルは()()()()としての()()を示し周囲を納得させなければいけなかったからね」

「………魔塔当主……?」


 そんな話…、聞いてない……。


(嘘、つかれたの?……でも、話してくれるって、言ってた…)


 ゆらゆら心が揺らめき、推測すれば導き出せることさえも避けてしまっていた。


「君は良いように利用されていたんだよ。この短期間で、いち公爵令息に何ができると言うんだ?三賢者と共に聖女の存在をちらつかせたんだろ。君はカイルにとって貴重な研究材料だったからな。自分の力を制御する為にも、離せない存在だった。だから甘い言葉に嘘を混ぜ、君が逃げないように操っていたんだ」

「ち、違います!!カイル様は、そんな人じゃありません…!!!」

「どうかな……?」


『被験体:ティアラ・レヴァン』


「……え…?」


 ポゥッと淡い光が灯り、私の周りを取り囲むように報告書の紙が提示される。その綺麗な筆跡は見慣れたカイル様のものだった。


「カイルが帝国に報告した資料にはそのように記されていたよ。内容はフォルティス侯爵の精神魔法を解いても尚、精神維持ができた被験体について。私も精神魔法を扱う者として些か興味が湧いたよ。用いた期間、魔法構成、魔法付与の装飾品である蝶の髪飾り…。確かにその被験体は安定していたが、完治ではなく要経過観察対象というのが気になってね。カイルはそのような目で君を見ていたということだよ」

「………っ!!!」


 守り石に目線を落とすと、光が不安とともに揺れた。私は息を詰め、身体を小さく縮めた。


「デ、デタラメは…やめてください!そんな嘘を言ってなんになるというのですか?!」

「フフッ…全て事実さ。君は知るべきなんだ」


 ——その衝動は、見捨てられたクリス(自分)とティアラを重ね、盲目的な心を覚ましてやりたかったからなのか。だが同時に女の純粋な心をグシャグシャに壊してやりたいという相反する感情が交錯していた。


「数年前、君は大きな事故に巻き込まれたそうだね。その時のこと、ティアラはきちんと覚えているかい?」


 ドクンッと鼓動が強まる。


「とても、とても…怖い思いをしたね?」


 やめて……


「疑問に思わなかったのかい?自分の魔力がどうしてここまで最弱なのかって。…それは全て魔力暴走の事故のせいだったんだよ」


 やめて……、聞きたくない……


「あれは、誰が引き起こした事故だったかな?……本当は気づいている?」

「……や…メテ…っ!……言わないでっ!!!!!!!!」


『君はカイル・フォルティスの魔力暴走に巻き込まれたんだ』


「……………っ!!!!!!!」


 キンッと耳に強い音が走り、衝撃で膝がすくみ地面に崩れ落ちる。私の心を表すかのように守り石が魔法の力で砕かれ粉々に散らばっていた。


「……ぁ……っ」

「気に入らないな…。そんなものに縋ったところでなんになるというんだ?」


 ——幼いクリスが、大切な絵を破られまいと怯える姿と重なり映る。


「……ぁ………っ…!!…ぁ…ぁ……!!」


 過去の記憶が鮮明によみがえり、苦しさが胸を締め付ける。喉から声が出なくなり、呼吸が荒くなっていく。俯き、自分がどこにいるのかおぼろげになる中、微かな指先の感覚でそのかけらに触れた。


「ティアラ、過去を許すな、信じるな…!!あいつに染まるな!!!!」

「…………っ!………っ…!……!!」


 一歩、また一歩とクリス皇子が近づいてくる。


「カイルは自分の肥大し続ける魔力を抑える為にお前を利用していただけだ!!!」


「そこに愛などない!!!!!!!」


 目の前には聖剣を携えたクリス皇子が佇んでいた。


「さぁ、終わりにしよう………?」

「………はぁっ………はぁっ………」

「お前の苦しみも、染まった心も全て断ち切ってやる。一緒に神々の地へ行こう?」


 ——それは神話の物語。全てを全うした光の子は聖剣を突き刺し、大地を潤した後、神々の世界へと旅立ち、祝福を得たと記されている。


 ——帝国禁書には聖女を聖杯に聖剣を刺し国家繁栄の儀式を行った事例があった。しかしそれらは秘匿され闇に葬られてきたことでもあった。


「君はここにいるべきじゃない。清き魂は清き場所へ」


 手元の聖剣がカチッと音を立て、その音にハッとする。恐怖で揺れた瞳はそれでも尚、クリス皇子を真っ直ぐと捉えた。


「……ぃ……や…!!……やぁ…っ!!!」


 もがくように、それでも顔を横に振り、必死に否定する。


「なぜだ?この地にいても、いずれ誰かに利用される運命だ」

「……………大切、な、人……!!…ダメッ!!!」


 目の前がぼやけ、涙がにじみ出てくる。けれど、それでも、必死に訴え続けた。


「……そんなもの、私にはいない……」

「……『ビオラ……は…な』…!!!…ヴィオラ…さまのっ!!!!!」


 その言葉に反応するかのようにピタリと動きが止まる。



 ◆◆



『枯れるなら、いっそ花の首を全部切ってしまえばいい』


 それは幼き頃、クリス皇子から発せられた心無い言葉だった。ヴィオラはビクビク震え、自分に言ったように感じ涙した。悲しくて、悔しくて、その花を一層愛するようになった。そして気づいたのだ。


 ビオラは花を切ることで沢山の花が咲き誇るということに。


 そこに仄かな希望を感じ、ヴィオラは内向的だった自分を変革していくようになったのだ。




 ヴィオラ様はクリス皇子の不安定さを危惧し私にその思いを告げた。


「もしもあの人が変な真似をするようだったら、『クレバス家のビオラ』と言ってくださいな。きっとそれだけで気づきますわ…。……多分…」



 ◆◆



 守り石の欠片を胸に当て、一生懸命息を整え私は口を開く。意識はまだ保ててる。


「……はぁっ、……はぁっ…、わたし、託され、た…『あなたが、変えたんだ』…って」


 二人の関係は歪で何重にも糸が絡まっている。そうさせたのはクリス皇子だ。


「…あなた…は…誰も信じて、ない、かも。でも、本当は……信じたい…。…だから、大切な人を、傷つけて…試そうとする」


 生きる意味を持てない人だったのかもしれない。全てに無気力で、誰も信じられない。


 半透明な皇子


 人を愛せないと言うのは、愛の受け止め方を理解していないから。


 傷つけたのは、その人の記憶に、自分を残したかったから。


 彼は…、きっと、寂しかったのだ。



「今更だ……そんなもの」

「……だめ…!………だメッ…!!!置いて、いかないでっ!!!」

「うるさいっ!!!!」


 振り上げられた聖剣が襲いかかろうとしたまさにその時だった。


「……っ!!!」


 指輪が輝き、閃光が万華鏡の世界を一瞬で破壊し、クリス皇子は強烈な風圧に吹き飛ばされていた。


 煌めく光と砕け散ったガラスの破片が、分光を作り、美しくも儚く消え逝き、辺りは本来の神殿の形を取り戻していく。粒子を纏い、ふわりと穏やかな風が頬を撫でるようにしてすり抜けていく。見覚えのある光景だったが、……金龍がいた場所には、同じ髪色の男性が立っていた。


「言ったはずだ……。これ以上ティアラに手を出すなと…」


 その声は龍が唸るかのように低く、怒気に満ちていた。胸にズシリと響き、今にも地響きが起こりそうなほどの威圧感が周囲を覆い尽くしていた。







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