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私が悩む頃、友は告白される

・あけましておめでとうございます。やっと書けました( ; ; )いいね、ブクマ、評価本当にありがとうございます。

・誤字報告もありがとうございます!

 

 小雪が舞う季節。皇帝陛下の容態は悪化の一途を辿っていた。陛下を心配する者もいたが、政務が滞り不満や後継者を急かす声も日に日に大きくなっていく。正式に宰相の座についたフォルティス侯爵は典医や宮廷音楽に対応させてはいたが陛下が寝室から出ることはなかった。


「フィローネ…、歌を…歌を歌ってくれ」


 フィローネ妃の幻影を追うように陛下の掠れた声が繰り返される。それに合わせ、歌い手の声が室内に響く。しかし改善の兆しはなく、謁見を願い出ても陛下からの反応は曖昧なものだった。


「宴の席で歌った令嬢を一度呼んでみてはどうか」


 そのような声がなかったわけではない。しかし、幾度となく歌い手達が代わる代わる歌っても良い結果にはならなかったのだ。又、ティアラが陛下と同じように精神を病んで寝込んでいることが広まるとその話題を出す者は徐々にいなくなっていった。無理に歌わせ正妃の二の舞となっては帝国の信用が揺らぎかねない。同じ混乱は誰も望んでいなかったのだ。


「今はできなくても時期を伸ばせば良いことだ。陛下もそれで良いと仰っていた」

「…頃合いを見て考えたいと思います」


 クリス皇子がそうフォルティス侯爵に伝える。唯一クリス皇子の声には陛下も正常な反応を示すことがあった。それゆえ、次期後継者はクリス皇子ではないかという噂も一人歩きするようになっていた。



 ◆◆◆



「あの、ちょっとよろしいですか…?」

「はい、なんでしょう」

「しー…、もっとこっちに来てください」


 フォルティス侯爵家のタウンハウスの廊下にてジラルドはティアラの侍女マリアに呼び止められていた。彼女は周囲を見渡すと、隅っこの方へと手を引く。


(なんだ、なんだ。も、もしかして告白か……?!)


「……あの」

「はいっ!」

「メイナ先生ってどんな方なんですか?」

「はい……?」

「だから!いつからフォルティス家に勤めているとか、お付き合いされている方がいるのか知りたくて!!」

「んん…?」

「失礼とは承知の上なのですが、カイル様への恋心をお持ちだったら私が食い止めなければと思いまして」


 ガクッ


「な、なんだ、そう言うことですか」

「なんだじゃありません!こう言うことは重要なんですっ。はっきり把握しておかないと、少しの誤解が破滅を生むことだってあるんですから!」


 ムッと怒る彼女からは主人に対する忠誠心と心配が窺える。


「心配するようなことはありませんよ」

「え?」

「彼女は既婚者でとても夫婦円満ですから。それに、彼女はジジ専ですしね」

「え、え、ジジ…?」

「はい。ここの執事長のトーマスが彼女の夫なんです」

「はいー!??だ、だってすごくおじいちゃんじゃないですか!」

「ええ、そうなんです」


 ええええ…と驚きの声が漏れ出てしまう。


「まぁ、衝撃ですよね。彼女もあの見た目ですから、昔から何かと誤解されることが絶えませんでしたしね」

「やっぱり、そうなんですか?」

「ええ、私も巻き添えを食うことがありましたし…」


「あら、二人ともこんなところで何しているです?」


 そこへ噂をしていた人物が現れる。


「少々口説いていたところでして」

「…っ!?」

「はぁ?なに冗談言ってるのよ。マリアさんでしたね。こんな青二才に引っかかったら駄目ですよ?男はやっぱりもっとモーッと、渋くないと!」

「は、はぁ」

「それでは、後でティアラ様のお部屋へ様子を見に行きますのですみませんがお伝えして頂いてもいいですか?」

「あ、はいっ」


 そう言うとメイナ先生はスタスタと歩いて行ってしまった。


「…ね?好みが違うでしょう?」


 呆気に取られていたマリアは小さく相槌を打つ。


「執事長にゾッコンなんで害はありませんよ」

「は、はい…。あ、いえ、その、大変失礼致しました」

「いえ、誤解はない方がいいですからね」


 ジラルドの返しにマリアの顔はみるみる赤くなっていく。


「この邸宅ではまだわからないこともあるかと思うので、何かありましたら気軽にお尋ねください」

「は…、はい」


 肩を縮こませ失態を恥じるもジラルドはニコッと笑って流してくれた。その後も屋敷の従者達と打ち解けられるよう取り計らってくれたりと、細やかな気遣いを見せてくれる彼にマリアの心は次第に惹かれていくのであった。



◆◆◆



 刻が過ぎ、カイル様は学園と皇宮を行き来するだけでなく、最近では他国へその足を伸ばしていた。だがそれでも私との勉強は欠かすことはなかった。出された課題を黙々とこなしていると、メイナ先生が様子を見に部屋へ遊びに来てくれた。


「…なんだか、増えてませんか?」

「ええ、今週も満点取れたからカイル様にもう一つ頼んだの」


 壁にはカイル様の幼い頃の姿絵が数点飾ってあった。それらは私の戦利品だ。


「あれとか私がまだ出会ってない頃のだし一回見て終わりにするのは勿体無くて」


 カイル様との勉強では一週間に一回テストがあり、既定ライン以下の点数だとカイル様が考えた罰ゲーム、満点を取れた時は逆にご褒美がもらえることになっていた。


「カイル様もよくお許しになりましたね。あれとか女の子みたいに可愛いくて…くっ…ふふっ」

「少し渋っていたけど、これで成績が上がるなら…って折れてくれて」

「本当にカイル様はティアラ様に弱いですよね」

「そ、それは…その…。あ、でも、カイル様の罰ゲームだって大変な時もあるのよ?何曲もダンスした時もあったし」


(あの時は空中へ何度も放られ目が回って大変だった…)


 私がそう言うと、メイナ先生はクスリと笑った。先生とは、マリアのおかげで早々に悪い先入観を取り払うことができ今ではとても良好な関係だ。彼女もその見た目ゆえトラブルが多かったらしい。でもそんな中、執事長だけは自分の内面を真っ直ぐ見つめてくれたそうだ。そこからは執事長にぞっこんラブらしい。


 私も身長のせいで悩むことが多いのに見た目で判断してしまうなんて申し訳ない。そう謝ると彼女は「寧ろフォルティス家は安泰だと実感できてなによりですわ」と笑いながら全く気にしてないと告げられた。


「カイル様も罰ゲームの日は機嫌がいいんですよ?いつも忙しくされていますけどティアラ様との時間はちょっとした癒しのひと時なんでしょうね」

「えっ…、そ…そうなの?」


 …わからなかった。


 カイル様はというと今日も皇宮へ出掛けていて帰りは遅くなるらしい。最近では私の方が先に眠ってしまって当初のようにおやすみの挨拶ができない日々が続いていた。


「先生…。私、未だに自分のやるべきことが定まらなくて。カイル様はこんなにも奔走されているのに…」

「ティアラ様、お気持ちはわかりますが、焦ってもいい結果にはなりませんわ。どうかご自分を責めないでくださいね」


 メイナ先生は守り石を私の両手で握らせる。無意識の内にまた爪を肌に食い込ませていたようだ。


「不安な時は守り石を握ってくださいね。魔力の乱れを整えてくれるはずですから」

「すみません…」

「いいえ、謝らなくていいんです。私はその為にいるんですから」

「はい…」

「ティアラ様は無意識に自分を追い込んでしまう癖があるので、その時は今のように吐き出してくださいね。カイル様でも構いません。カイル様もティアラ様に頼ってもらうのを待ってますから」

「でも、もう充分負担を掛けているし…」

「いいえ、それでもです。全身を預けてもカイル様はきちんと受け止めますわ。その為に心身共に鍛えてきたんですから」


 先生の言葉が胸に響く。だが最後の鍛えてきたという言葉に少々疑問が浮んでしまった。


(どういうことだろう…?)





「今魔力を移せないと言うことは、この守り石をもっと強化するか、それとも私の精神だけを強くさせるかかなと思ったんです。…でも精神を強くするなんて具体的にどうすればいいのかわからなくて…」

「なるほど、確かにそうですね」


 メイナ先生は脚を組み顎に手を添える。その仕草だけでもとても色っぽい。私もそんな色気が欲しいとつい違う考えがついちらついてしまった。


「ふむ…、例えばですが。「あまり考え込まない」、「適当に聞き流す」とか。完璧を求めすぎないことですかね」

「適当…」

「聞き流していいんです」

「え、え?」

「要するに思い詰めない、マイナス思考を中断させるということが重要なんです。なので考えても出せない答えは諦める!」

「諦めちゃうんですか…?でも…」

「出ない答えをずっと追い続けても時間の無駄、できない場合は他者を頼るなど考え方を変えてみるということです」


 文字通りやめてもいい。だが、どうしてもそれができないこともある。そのような時は頼りになる人や親しい人の手を借りてもいいのだとメイナ先生は言う。


「精神を強化するというのは難しいですが、ストレスを吐き出したり発散させる。溜め込まない。そのようなことはできるかと思いますね」


 自分の心を軽くしてあげるようにと促される。


「心が軽くなると余裕ができて思考も柔軟になりますしね。他者を助けるのは相手がそれを必要と求めている時でもいいんですよ。カイル様が忙しいのは、以前から練ってた計画を実行に移しているからですしね。いつかやりたいと思ってたことをやってるだけ…」


 その計画に私の問題が少し足されただけなのだとメイナ先生は言われた。


「後は守り石ですが。その石、月夜の光にあてて作られたんだとか?」

「あ、はい」

「…確か古い文献にも『満月の夜は魔力が集まりやすい』と載っていた気がしますね」

「それって、六属性の神竜が出てくる神話の?」

「ええ。以前は私も神話と鷹を括ってたのですが、レヴァン家のルーツとも深く関連してると聞いて少し調べてみたんです」


 神竜の神話には月夜の情景が度々登場する。御伽噺として語り継がれることが多かったが、その元となる古い史書や記録があるのだ。


「それとは別にいくつかの化学研究の中にも『月の満ち欠けにはいくつか人に与える影響がある』と唱える学者がいましたね。精神面でも影響が出るらしくて、満月の夜は心が乱れやすくより攻撃的になるんだとか。狼男が満月に変身する話の由来はここから来たのかもしれませんね」

「狼男…」


 ふとルビーのことが頭に浮かぶ。狼男ではないけれど、ルビーも満月の夜よく石の上で寛いでいたと獣医の先生が言っていた。たまたまなのかしら?


「先生、もしも動物が満月の月の日に守り石のように月の光を浴びていたらなにか影響ってあるんでしょうか?」

「何か思い当たるものでもありましたか?」

「その…実は魔術の先生が飼っていた使い魔がそのような行動をしていたようだったので」

「ああ、その記事は私も見ましたね。確か帝国の魔法研究所で実験台となっていた動物の生き残りだったって」


 剣術大会の事件でコーディエライト先生の素性が明らかにされたのだ。二度に渡る関連性のある事件だったこともあり、帝国魔法機関の管轄区域で今も拘留されルビーも同様にそこで保護されていると聞く。グリンベリル卿については刑を免れたが今もまだ学園には来ていないとフレジアからの手紙に書かれてあった。


「気になりますね…」

「当時の事件の詳細についてカイル様のお父様なら何か知っているんじゃないかとは思うんですが、なかなかお義父様も忙しくて聞けなくて」

「それでしたら、私の方でもツテがありますので調べてみますね」

「本当ですか!ありがとうございます」


 私はまだ知らなかった。そのツテというのが実はカイル様だったことを。





「先生、以前精霊石の成り立ちは結晶系の鉱物と似て、互いに引き寄せる性質があると仰ってましたよね」

「ええ、そうですね」

「私とカイル様の場合は、魔力が似通っているから近くにいると魔力安定になるって。それって例えば満月の夜、私達が傍にいたら何か不思議な現象が起きたりするものなんでしょうか?」

「どうでしょう。そこも同じツテに……、あ、でも書庫に魔法関連の本があるかも…」

「え!そうなんですか?あ、でもそっか、カイル様のお父様もここを利用してただろうしお義父様のものだったら詳しいものも何かありそう。先生!私も一緒に調べてみてもいいですか?」

「えっ!えーっと、そうですね。ではまず一度カイル様に許可を頂かないといけないのでそれからにしましょうか」

「は、はい。お願いします!」


 これを機に、私は書庫や書斎への出入りするようになり、わからない部分はメイナ先生に教えてもらいながら少しずつ知識を深めていくのだった。



◆◆◆



 ティアラが学園を休学となった後、クレアの日常も少し変化していた。


「君が帝国まで出向いてくれて本当に嬉しい。来てくれてありがとう。大いに歓迎するよ」


 宴の席でリアム皇子にそう言われた時、クレアは嬉しさのあまり卒倒しかけた。


(アスターの雑な揺さぶりですぐに我に返ったけども…)



 リアム皇子はかっこいい(クレア目線より)


 リアム皇子は崇高(クレア略)


 リアム皇子は神(以下略)



 そんな方からお呼びがかかったのだ。行くしかない!彼女に抗う理由などなかった。


「過去の歴史を見ても光属性の特殊魔法所持者の末路は悲惨なものが多い。私はクレアの力が悪用される前に保護したいと考えているんだ。ここには優秀な宮廷鑑定士もいる。より一層、君の才能を伸ばすこともできるはずだ」


 リアム皇子の傍には皇帝陛下に付き添っていた宮廷鑑定士が常に控えていた。リアム皇子の提案は有り難かったが、直ぐには返事を返さなかった。それでもリアム皇子は気を悪くすることもなくクレアへお茶会の誘いを繰り返す。そして何度目かのお茶会の席でこう言われた。


「実は君を私の妃候補にと考えているんだ」

「えっ!!!で、ででも、私そんな釣り合える家柄ではないですし」

「クレアは謙遜だな。家柄のことは問題ない、形だけどこかの養子となればいいんだ」


 クレアのドレスにはフォルティス家の紋章をあしらったブローチが付けられていた。一瞬だがリアム皇子の目線はそこに移ったような気がした。箔を付ける為にフォルティス侯爵家を利用しようとでも考えているのだろうか。クレアの胸にチクリと鈍い痛みが走る。


「今すぐ答えを出さなくてもいい。だが良い返事を待っているよ」


 リアム皇子は猶予を与えてくれてた…、そうクレアは思った。帰り際、私の傍には護衛としてアスターが付き添ってくれていた。けれど、普段と違い彼は黙ったままだった。


「な、なんで何も言わないのよ」

「……」

「調子狂っちゃうじゃない」


 そうツンとした言葉を発するも、顔はなぜか怖くて見れない。


「……なんて言ってもお前を迷わせるか、怒るかだろ」

「え…」

「早く帰るぞ。ここにはあまりいたくねぇ」


 それだけ言うと帰りの馬車でも彼は必要以上、口を開こうとはしなかった。



◆◆◆



 皇宮の広い廊下をカイルは歩いていた。だが、そこへ意外な人物から声が掛かる。声の主はクリス皇子だった。


「何やら、だいぶ奔走しているようだな」

「宰相代理補佐とはいえ、所詮は小間使いですから」


 そう言って謙遜な態度を見せたが、お気に召さなかったらしい。その返答にクリス皇子は目をそっと細めた。


「ふっ、そう言うのならば、()()()()()()にしておこうか。時に、ティアラの具合はどうだ?一向に状態が思わしくないと聞くが」

「殿下の耳に入る情報と大差ありません。今は専属医師に常時診てもらってる状態です」

「ほう、それは心配だな…。彼女の回復を祈っているよ」


 クリス皇子はそれだけ言い残すと、そのままその場を離れていく。だがその背にカイルは一言投げかける。


「……もう、その辺でよろしいのではないですか?」


ー復讐は粗方済んだだろう?


 宰相は死に、ガイナス皇子や正妃は精神崩壊を起こしてしまった。そして陛下もまた同じ道を進もうとしている。陛下の言葉を代行する彼は苦しむ様子を一番間近で見れたはず。繰り返される歌は今やフィローネ妃の優しい呪いの歌と化している。ティアラが歌わずとも、充分クリス皇子の望む結果は果たしているだろう。


「何が言いたい」

「どうとは申しませんが私達をこれ以上巻き込まないで頂きたい。特にティアラは」

「……なんのことだか」


 一瞬、言葉に詰まったもののいつもの声色に戻る。


「ティアラはあなたの(よすが)にはなりませんよ」

「…………」


 クリス皇子は何も答えず歩き出す。ただ、その横顔には自嘲するような表情があったように感じた。



・ティアラとカイルの勉強風景は短編集「ティアラのお茶会部屋」の「婚約者様とお勉強」に載せてます。覗いて頂けたら嬉しいです。

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