異変★★
・ブックマーク、いいね、評価、本当にありがとうございます。
・登場人物が多い為、ティアラを軸に一人称+三人称な文章になっています。読みづらくてすみません。
・今回登場はなしですが、マリア、マリ、フィローネ妃について「メイド→侍女」に変更しています。申し訳ありません。
※暴力シーンありです。(流血はなし)ご注意ください。
◉2023年 02月20日活動報告場所にて、関連絵を一つ追加公開しています。このページでの追加絵はもう多いので活報に置くことにしました。
ガラナス皇子達の場所から観戦席へ戻ると、クレアとアスター様が出迎えてくれた。その笑顔に思わずホッとしてしまう。
「ティアラ!お疲れ様!!すごく素敵な歌だったわっ…て、どうしたの?真っ青じゃない」
「何かあったのか?」
「あ…、…そそ、それがぁ…」
二人を前に口を開くも思ったように言葉が続かない。気づけば足が生まれたての小鹿のようにプルプル震えていた。
「とりあえず座って」
「うん…、ありがとう…」
ヨロヨロと席に着くと徐々に気持ちが落ち着いてきた。先ほどのことを吐き出すように話すと、二人の目はどんどん吊り上がっていく。
「何それっ!ティアラは動物でも玩具でもないのよ。頭おかしいんじゃないの?」
「…クズ野郎だな。魔法で切り刻んでやりてぇ」
ズモモモ…と二人の背後から憤怒の空気が漂っている。「この話はフォルティス卿に報告しなきゃね」とクレアに言われ思わず「ヒッ」っと変な声が出そうになった。
(それはそれで怖そう…)
ドス黒い笑顔のカイル様が脳裏に浮かんでくる。
「あの、二人共聞いてくれてありがとう…。でも相手はその…偉い方々だから」
不敬になってしまうからその辺で…と二人を宥める。
(モヤモヤするけれど、ここは人が多いし)
クレアも同じ気持ちだったのか、「また今度話しましょ」と小声で言ってくれた。
「あっ、…噂をすればなんとやら、だな」
「クリス皇子とガラナス皇子だわ。何か発表するって言っていたけれど何かしら」
目線を会場の中央へ移すと、皇子達が立っていた。
(クリス皇子……)
皇子達は全体に向けて演説をし始めた。クリス皇子はいかにも大衆が求める『良い皇子』といった雰囲気を纏い、挨拶を述べている。先ほど会った時とは全く別人みたい…
(さっきは怖かったけれど…。きっと助けてくれた…のよね?)
彼は以前気になることを言っていた。『ガラナス皇子の前では愚かな皇子を演じなければいけない。だが、本意ではないから』と。
(あの『怖い皇子』は本当のクリス皇子ではないってことかしら…)
確かめる術はなかったが、そうであってほしいなと思ってしまった。
◆
「剣術大会での皆の活躍、素晴らしいものであった。大会上位十位までの者達には帝国騎士団への推薦状を出させてもらう…」
ガラナス皇子の言葉に場内がざわつく。それもそのはずだ。推薦状とは、帝国騎士団の入団だけでなく、配属優遇も保証されるもの。
しかし大会上位者であれど、必ずしも送られるものではない。皇帝陛下並びに帝国騎士団長を含む上位貴族達の審議が必要で、送られるまでにも時間を要する。その為ガラナス皇子が発したことは異例ともいえる発言内容だったのだ。
「ガラナス、どういうことだ…?」
皇帝陛下は顔をしかめる。側には従者が支えるように陛下に付き添っていた。
「陛下。そろそろ新しい風を取り入れる時期だということです。今までのやり方は時間がかかり過ぎなのです。良い人材は幾らいようと困りませんし、より帝国の力となるはずです」
重臣達の間でも困惑の色が見える。中には「今更公表するなどと…」「知っていたら息子を出していたものをっ!」と不服の声も上がり出す始末。その様子からもわかるように、これはガラナス皇子の独断、またはそれに連なるごく少数の貴族しか知られていないことだったのかもしれない。
ガラナス派の貴族令息に推薦状が渡れば、帝国騎士団の幹部に配属するのも楽な理由付けができる。ガラナス皇子は自分の手駒を増やす為にその発表を最後に残していたのだろう。
(陛下の立場ではリアムも今、この場で許可や否定の言葉は軽々しく言うことはできまい)
ガラナス皇子の口の端が密かに上がる。ガラナス皇子にとってこの案件は公表することが重要だったのだ。周知させれば周りも同調するだろうと。それを狙ってのことだった。
生徒側の貴族からすればとても魅力的な内容といえる。この規定案を押し通せば騎士団幹部になれる確率も増えるのだから。自分達にもチャンスがあるとなれば規定案改正を求める声は高まることだろう。
「兵器においても同様、いやそれ以上…。帝国内、外部に対し他者が恐れ反発を企てられないよう強力な力が必要です。それがこの大帝国となりつつある我が帝国の最重要課題といえましょう」
そこまで話すとガラナス皇子はスッと一つの精霊石を取り出す。
「この精霊石は優秀な技術者達によって造り出された神の領域の産物」
それを地面へと落とすと一瞬にして異形の猛獣が現れる。三つの狼の頭と鋭い爪、その尾は蛇の形をしていて今にも襲いかかってきそうな形相をしていた。
「ケルベロスを模した狼型の魔獣です。体内に精霊石を埋め込むことで、この複合体は生命を宿し、心臓となる精霊石に魔法を流し込めば口から魔法を吐くこともできる。実に素晴らしいと思いませんか?」
魔獣は終始苦しげに唸り声を上げている。ガラナス皇子が持つもう一つの精霊石で無理矢理操作しているのだろう。それを掲げると呻きながら火を吐いてみせた。
「なっ……」
「驚くのはまだ早い。こいつの良いところは人間と違って魔力の限界まで使い切ることができることです。いわば生ける殺戮兵器。今日は皆にこの兵器の威力を紹介したいと思いましてね」
その言葉に私はゾッとする。この人は生き物を「物」としてしか見てないのだ。
「クリスッ。お前は剣術科の首位だと聞くが、果たしてそれは本当にお前の実力からのものなのか…。俺の知る令息が『お前がいるから本気を出せない』と言っていたぞ。実は見せかけだけの称号なんじゃないのか?」
「…どうでしょう?私は真面目に授業を受けているだけですので分かりかねます」
クリス皇子は愛想笑いを薄ら浮かべる。
「はっ、その余裕な表情…やはりいけ好かないな。だが、まあいい。…お前にはこの魔獣の相手をしてもらおうじゃないか。兄が調べてやろう。お前の実力がどれほどのものなのか…。なぁ、クリス」
「……」
不穏な空気が漂い、見兼ねた帝国騎士団長が仲裁の声を上げる。だがガラナス皇子はそれを聞こうとしない。
「お前は黙っていろ。それに操作用の精霊石がある。流石に危険となれば止めてやるさ」
「ですがっ!ここには学園の生徒達もいるのです。その様なことはっ」
「くどいぞっ!! 何度も言わせるなっ!!」
「………っ!」
「ガラナス…その言葉に偽りはないな?」
強引に進めようとするガラナス皇子に対し、陛下が立ち上がり厳しい視線を向ける。体調がすぐれないのか従者が心配そうに寄り添っていた。
「えぇ、勿論ですとも。陛下」
「クリス…」
「心配御無用です。…陛下はどうぞお掛けになっていて下さい」
そう気遣いの言葉を掛けるも、クリス皇子はどこか含みのある笑顔を浮かべていた。
◆◆
会場の裏側では兵が機敏に動いている。精霊石回収と処分に加え、数刻前に正妃陛下が急遽学園の皇室の間へ移動したせいだ。近衛兵数名とフォルティス侯爵が同行していたが正妃は思い詰めたような表情を浮かべていた。
(歌の影響なのか…?)
カイルは副隊長の仕事をこなしながら思考を巡らせる。先ほども父フォルティス侯爵がすれ違いざまに『皇帝陛下と宮廷鑑定士を見張るように』と言っていた。
(強く影響を受けていそうなのは皇帝陛下と正妃だろうな…)
皇帝陛下のすぐ側に控えている者がその宮廷鑑定士だった。父フォルティス侯爵は数年前から皇帝陛下の急な変化にいち早く勘付いていた。
しかし、陛下はフィローネ妃を亡くしてから躁鬱傾向にあり、宮廷鑑定士を側に置いたのも病状悪化で疑り深くなってしまったのだろうとクリス皇子が臣下に漏らしていたそうだ。
『目に見えないもの程、脅威を感じるものだ。宮廷鑑定士ともなれば装飾品だけでなく食べ物や周囲の毒性のものも見ることができるだろう?陛下は全てを見つめ安心したいのだろう。不用心よりも慎重な方が良い。そう捉えればいいのではないか?』
クリス皇子の発言に同調する者は日に日に増えていった。当初は多少の違和感を感じることはあれど、そのような措置を取ることで滞りがちだった政務が機能するようになったことも後押ししたのだろう。大半の者達はそれを信じ、疑う者は不敬ではないか?と言われれば表立って不信感を示すものは少なくなっていった。
(だが父上は未だに陛下の機微を注視していたということか)
以前陛下の政策思想が少し変わったと父が呟いていた。しかし決定的な証拠がないのだろう。疑問点をまとめもう一度考え直そうとしたその時、会場からどよめきが聞こえてきた。
「何だあれ……」
「気持ち悪い」
カイルも表側に目を向ける。会場の中央ではケルベロスに似た魔獣が奇妙な動きを見せていた。
(クリス皇子が仕留めたのか…。だが、何だあの動き…)
横たわっていた魔獣が再度動きを見せるも、それは生き物の動きではなかった。肉片が沸々と盛り上がり細胞が再構築されるような不気味な光景だった。
再生された肉体は姿を変え、背中からは羽が生え、尻尾には大蛇が。そして頭にはライオンのような顔が現れる。まるでキメラのような嵌合体だった。先ほどの倍以上の体を揺らし獰猛な魔獣は鋭い牙を出し天に向かって高らかに雄叫びを上げた。
「きゃあああっ」
「…うっ…うわっ!!」
その光景を見た観衆の表情が恐怖で歪む。
「ガラナス、もうよい!今すぐその魔獣を精霊石に戻すのだ!」
「くくっ…なぜです?本番はここからですよ。クリス、まだいけるよな?兄を楽しませてくれよ」
「………っ」
「やめろ、ガラナスッ!!!!!!」
陛下が叫ぶが、ガラナス皇子は構わず魔獣を操ろうとする。クリス皇子は眉根を寄せつつも再度剣を抜き、魔獣に向かって構えた。
「行けええええっ!!!」
魔獣がクリス皇子に襲い掛かる。素早い動きに遠距離魔法を放つもなかなか当たらない。
「くっ!!!」
だが、近距離まで近づいたところですかさず火炎魔法を浴びせた。魔獣は怯み飛び退くと、叫び声を上げまた歪な動きをし始めた。
「グオォッ、グガァッ!グッ、ググッ…!」
その魔獣はまだ未完成だっただろう。肉片が溶け、再度再生しようと試みているようだが上手くいかない。悲痛な声を上げ体中から煙が立ち昇り始める。
「おい、どうした…。お前の力はそんなものじゃないだろう!もっと暴れて見せろっ!!」
ガラナス皇子は手に持っていた精霊石を強く握り指示を出す。だが魔獣は抑制の苦しみから暴走し始め、あろうことかガラナス皇子の方へと向かっていってしまう。
「なっ!!うぐぁあああぁああっ!!!」
魔獣はガラナス皇子に噛み付き精霊石を奪うと乱暴に投げ飛ばしてしまった。壁に打ち付けられたガラナス皇子は気を失ってしまったのか動きがない。その間にも魔獣は精霊石を噛み砕いてしまった。コントロールを失った魔獣はともう一度凄まじい声を響かせ暴走し始めてしまった。
「全員生徒は直ちに皆避難するように!!!一階にいる第一帝国騎士および学生の隊員は二手に分かれクリス皇子の援護とガラナス皇子の救助、または生徒の避難援助に努めよっ!」
帝国騎士団長が急いで全体に向けて避難指示を出す。
「陛下っ、ここは危険です。離れましょう」
騒然とする中、近衛騎士団長が陛下に避難を促している。
「私は陛下と重臣の方々を学園へ避難させる。ロイ、こちらの指揮を頼む」
「了解した。アジュール団長は早く陛下を安全なところへ」
「すまない」
「陛下、移動しましょう。…へ、陛下っ!」
アジュール騎士団長やロイ副団長が会話を交わす中、陛下が一瞬崩れ落ちそうになる。近衛騎士団長が咄嗟に支えるもその間ずっと宮廷鑑定士が青ざめた顔で声をかけ続けていた。
「………うっ。はっ…、はぁ…だい、じょうぶだ」
「如何なさったのです?どこか具合が…」
「…いや、問題ない…。少し立ちくらみを起こしだだけだ」
まだ少し乱れた息遣いではあったがゆっくりと陛下は立ち上がった。そして崩壊する建物と既に下で交戦する兵の中からクリス皇子を見つけると大きく声を張り上げた。
『…クリスっ!!…その獰猛な魔獣を仕留め見事この場を沈静化させてみよ。…其方の手で功績を残し、必ず余の前に参るのだ!!!』
その姿に、クリス皇子は一瞬瞳を見開く。ガラスのような瞳が、ほんの少しだけ揺れる。彼は何かに勘づいた様だった。
「……承知致しました」
そう一言述べ、頭を下げるとすぐに戦闘を再開すべく駆け出して行った。
たったそれだけのことだった。
それなのになぜかカイルには不思議な感覚を捉えたのだ。カイルの場所からはクリス皇子の顔までは窺えない。だが彼の狂気を一瞬だけ感じたような気がしたのだ。
「陛下、急ぎましょう」
陛下は宮廷鑑定士と近衛騎士団長に支えられながらその場を後にする。宮廷鑑定士が仕切りに陛下の耳元で話を交わし涙を流していた。カイルはその一連の様子を見届けると、自分の持ち場へ移ることにした。
◆
「カイル、すまない。ちょっと来てくれ」
「…はい、何かありましたか?」
隊員に生徒の避難援助と魔獣退治の編成指示を出し自分も下の階へ移動しようとした時だった。ロイ副団長に呼ばれ、いわれた方へ向かうとリリアナ皇女と専属の近衛騎士が視界に入ってきた。
「だからわたくしはカイル様と一緒に逃げると言っているでしょう!」
「そう言われましても無茶苦茶ですっ!」
「………」
その場を見て大体のことをカイルは察した。
「あっ、カイル様っ!お待ちしていたんですのよ〜!!」
ガシッ!とリリアナ皇女が腕に絡み付いてくる。
「殿下…。陛下達と一緒にお逃げにならなかったのですか?」
「ええ、わたくしの方からお断りしたのです。カイル様と行くから問題ありませんと言ったらお父様もすんなり了承してくださいましたの」
「………」
自信満々に答えられ思わず頭を抱えたくなった。カイルは絡み付いたその手をそっと退けるとロイ副隊長を見た。いや、寧ろどうにかしてほしいと目で訴えてみた。
「あのだな。その〜ちょっと困っててなぁ。カイル、悪いが皇女殿下を学園までお連れしてほしいんだ」
「副隊の仕事はどう致しましょう。既にほとんどの者が下に降りましたが」
こんな非常事態に何をやっているのだ。自分と組して行動するはずだった隊員達も不安そうにこちらを窺っている。
「あー、その通りだ。わかる。…わかってる。だがそっちは俺が引き受けるから。おいっ、後ろのお前達も安心しろ。俺について来い。やることは大体同じだ。問題ない」
まぁ、そうなのだが。しかしなぜ団長も近衛騎士団長も一緒に避難するよう引き留めなかったのか。リリアナ王女のわがままには誰も敵わないということなのか。
「やぁ…、本当すまないな。アジュール団長にも言っとくから」
いわばロイ副団長も仕事が増えてとばっちりを食らっているようなものだ。そんな人に謝られてはカイルもそれ以上責められない。
「……分かりました。任務完了次第そちらに戻ります」
「うむ。助かる」
隊員達にも指示変更を行う。後で合流すると伝えると彼らはホッとするような様子を見せた。
「では殿下、行きましょう」
リリアナ皇女の手を取り歩き出す。彼女は目をハートにし、射抜きそうな程の熱い視線を送っていたがカイルはそれを全力で無視することにした。そしてその様子を見て近衛兵もまたうんざりしながら彼らの後を追うことにしたのだった。
◆◆
帝国騎士団長の避難指示を聞き、私はクレアとアスター様と一緒に避難しているところだった。
「あら?あれって、ヴィオラ様?」
観戦席から一階フロアへ移動すると逃げ惑う生徒達の中で不安そうに立ち尽くすヴィオラ様を発見する。
「あ、あなた達。ねぇ、これってどういうことかしら?」
「魔獣が暴れているんです!」
「逃げないと」
「え…、ええ!?」
聞けば、ヴィオラ様は私の後半の歌の時から会場裏の休憩所でルルと待機していたそうだ。
「演奏が終わったから戻ろうとしたんですのよ?でもルルがずっと唸って落ち着かなくて…」
ヴィオラ様の隣にはクゥンクゥンと不安げに鳴くルルがまとわりついている。
「ルルはヴィオラ様の後ならついて行きますか?」
「ええ、できるわ」
「じゃあこっち。今はクリス皇子が退治してるから、その間に逃げるんだ」
「クリス様が!?そんな…、大丈夫なんですの?」
「帝国兵や戦える生徒が加勢してる。なんとかなるだろ」
「なんとかって!」
適当なことを言うアスター様にヴィオラ様が文句を言う。
「ヴィオラ様、心配な気持ちは分かりますが、私達がいても足手まといになってしまいますから」
私の言葉に渋々ヴィオラ様も納得し、一緒に避難することになった。だが進んでいるとなぜか奥から逆行する生徒とすれ違うこととなった。
「なっ、何?!」
「こっちは駄目だ!魔獣が他にもいたんだ!西口の扉を塞いでてこっちからじゃ出れない。他の出口に回れ!」
帝国兵が声を張り上げている。近くでは怪我をした生徒を介護している隊員の姿も見えた。
「そんなっ。一体何なんなのよ」
「仕方ない、俺達も違う出口を探そう」
廊下を走り開いている出口を探す。その間も魔獣が暴れ回っているような凄まじい衝撃音が聞こえて来る。一階の団員や隊員の半数以上は戦闘に回っているのだろう。通路で見かける兵はさほど見かけなかった。
(カイル様は…大丈夫かな)
足を早める中、不安が高まりカイル様のことが頭にチラつく。フレジアやソフィア達も無事逃げれたのかな。
(救護スペースは一番出入り口に近い場所だったから、ソフィアはもう外かな…)
「急いでっ!」
「はぁ、はぁ。そんなこと、わかってますわぁ!でも、はぁっ」
「ヴィオラ様、大丈夫ですか?」
「ふぅ、はぁ…。どうしてあなた達は平気なんですのぉ?」
アスター様はさておき、クレアと私は令嬢でしょ?とヴィオラ様が疑問を投げかけてくる。
「え、えっと。私は身長を伸ばしたくて少し前まで運動してまして…」
最後の方は声が小さくなってしまった。ヴィオラ様は驚いていたけれど、こんな時に役に立つとは。
「私はその、令嬢と言っても領地で狩りに出ることもあったので…」
「え、クレアそんなことできるの?」
「あはは…うん。普通はやらないよね。うちは父と一緒に駆り出される時があったの。作物も荒らされちゃうからさ」
「へぇ。じゃあ、ある程度戦力期待できそうだな」
「ええ、そうね。とはいえあんな魔獣とは戦いたくないけど」
全くだと相槌を打とうとしたその時だった。ドンッ!!と強い衝撃音が鳴り天井が崩れてきた。
「うわっ」
「きゃあああ」
「こっちだ!端によれっ!」
端に避難し振動が収まるのを待つ。辺りは土埃が視界が悪くなってしまった。
「ははっ…びっくりした。皆大丈夫か?」
「平気。でも、死ぬかと思った」
「こここ怖かったですわ」
「ティアラ嬢、平気か?」
「は…、ハィ……」
今日はなんて日なのだろう…。もう、色々起こりすぎだ。
「二階で爆発って、どういうことかしら?」
「この混乱に乗じてとかだったら嫌ねぇ…って。あれ…、何かしら?」
クレアが奥を指差す。その方角に土煙と共に一つのシルエットが浮かび上がる。人ではない。もしかして魔獣…だろうか。
「な、なんですの……?」
ブルブルしながら、ヴィオラ様がルルを抱きしめている。私とクレアも怖くなり互いに身を寄せる。前にはアスター様が盾になるように身構えていた。次第にはっきりとなる視界の中に目を凝らしもう一度よく見てみる。するとそこに現れたのは一匹の白い猫だった。
「ルビーちゃんっ!!」
「ルビーッ!!!!」
ほぼ同時に驚きの声を上げたのはいうまでもないが、私とアスター様だった。




