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お嬢様は婚約者様に保護される


 会場の外へ出ると辺りは暗く、廊下を照らす松明がゆらゆらと揺らめいていた。カイル様は私の手を引き奥へと進んでいく。


 そんなに速い速度ではないはずなのに、なぜか息をするのが苦しかった。…どうやら、思っていた以上に恐怖と緊張で弱ってしまっていたようだ。


「……っ」


 限界を感じ咄嗟に彼の手を掴んで引き止める。気づかれないように、小さく息を吐き、できるだけ冷静を装うようにした。


「カ…カイル様!さっきはありがとうございました。お断りしようと思ったのですが、……足が動かなくなってしまって…。一人でも大丈夫って言ったのに…情けない、ですね」


 笑顔を作ろうとするが、どこかぎこちなく、唇が震えてしまう。


「ティアラ……」


 カイル様の声が上から聞こえてくるが顔を合わせることはできなかった。顔を見たら泣いてしまいそうな気がしたから…。

 

 悔しくも、こんな時だけこの身長差でよかったと思ってしまった。


「一人でいるとうまく立ち振る舞えなくて……。困ったことがあるとすぐカイル様のことが浮かんでしまって……いつも頼ってばかりで……。駄目ですね。もっと、自分で考えないと……」


 ついには声まで弱々しく頼りないものになってしまった。



 ……気づくと視界が変わり目の前に飛び込んできたのは暗闇だった。それはカイル様の服の色で、彼の腕の中なのだと気づくのには少し時間がかかった。


「ごめん、もっと早く戻るべきだった……」


 言葉に詰まり、私は首を振って返事をするしかできなかった。カイル様の腕の中は温かくて…冷たくなった身体がゆっくりと温められていくようで心地よかった。私はカイル様の服を強く掴むと、そのまま身を預けることにした。





「あの…、カイル様」

「なに?」

「もう本当に平気なので…」


 カイル様の膝から降りようとすると、がしっと掴まれ抱え込まれてしまう。私は今、カイル様に横抱きにされながらベンチに腰掛けるという恥ずかしい状態に陥っていた…。


「まぁ、たまにはこういうのもいいんじゃない?」


そう言うとカイル様はぎゅうっと抱きしめてきた。びっくりして淑女らしくない声が飛び出てしまった。


「近くまで、来てくれてただろう?すぐ行けなくてごめん」

「え……、あ…。い、いえ……」


 カイル様も気づいていた……?


 じゃあ、途中で引き返してしまった姿も……?


 自分の行動を恥じて後悔するも、なんと聞けばいいのかわからず言葉に詰まってしまった。


「ティアラが思ってる様な心配な事はなにもないから」

「…え?」


「大体わかるよ。ティアラが今考えていること。大丈夫だよ、なにもないから。ちょっと馴れ馴れしい子がいたから寄らないよう注意したんだが、しつこくてね」


「でも…スタイルも良くて綺麗な方で…」


「ティアラ以外にベタベタされても興味ないよ」


「え…?」


 いきなりの問題発言に思わず自分の耳を疑った。


「比べるのもどうかと思うんだけど…。ティアラは周りが一目置くようなくらい綺麗で可愛い令嬢なんだよ?会場に入った時から注目を浴びていたんだけど、気づかなかったかい?」


 確かに会場に入った時から人の視線を感じてはいた。でもそれはカイル様に対してのものだと思っていた。だって、後光と薔薇が見えたし……。


「その様子じゃ気づいてなさそうだね。…じゃあ、僕が君から離れた時、色んな人に声を掛けられただろう…?怖かったとは思うけど、それがなによりの証拠だよ」


 私の頭を撫でながら、…まぁ、色んな奴がティアラに群がる様子を許すというのはなかなか抵抗があったんだけどね…と複雑そうに話された。


 カイル様はこうなることを予想していたようで…。でも私が一人で待てると言った言葉を尊重してくれたのだ。一緒にいない方が気づけることもあるだろうと。ただ本当に危ない目に遭わないよう知人にも声を掛けていたそうだ。


「目を逸らさないで、もっと自分に自信を持ってごらん。ティアラは誰よりも綺麗で魅力的な令嬢だ。その自覚ができたらもっと自信がついて堂々とできるよ。…身長を伸ばすのも良いことだけど、自分の他のいい部分も注目しようね」


 まぁ、自分の姿に過信して溺れて失敗する人も多いから何事も注意が必要だけど…と付け足された。


「怯えるとそこに男は付け込んでくるから。恥じらって顔をすぐ背けちゃうティアラを見るのも可愛いんだけどね。他の奴らには目の毒だから…」


カイル様はなにか思い出したように少し怒った顔をされた。


「それから…。僕に頼るのは悪いことじゃないからそこは気にしないようにね。一人で悩んで危ないことをするくらいなら僕のところにすぐおいで。危ないときは必ず守るから」


 そう言うと私の左手を取りそっとキスを落とした。心臓がドクドクとうるさいくらい身体中に響く。

触れられた左手の甲は不思議な感覚がするようだった。私は恥ずかしさを誤魔化すように指輪を撫でた。





「あれ…?雪…?」


 違う…、よく見ると雪のような光が羽の形に変わってひらひらと空から舞い落ちてきた。


「中庭の魔法が始まったんだ」

「わぁ…………」


 その白い羽はやがて数を増やしていき、地面へ落ちるときに白い花の形に変化し淡い光を灯しながらゆっくりと消えていった。

 

ただでさえなかなかお目にかかれない魔法なのだが、こんなにも素敵なものだとは…。


「カイル様、すごく綺麗ですね。ほら、掴めそう」


 両手を広げ手を伸ばすと羽に手が届き、触れた指先がほんのり輝きを放ってするりと落ち、地面に花の形を残した。


「ふふふ…綺麗。すごく素敵ですね」




 くるくると回ってはしゃぐその姿はまるで月夜に舞う天使の様だった。彼女の淡くふんわりとしたドレスと長いストールが翼のように広がってとても美しかった。舞い落ちる羽が少女の美しさを更に際立たせていて神秘的でもあった。


「ティアラ、手を貸してくれるかい?」

「…………?」


 小首をかしげ、よくわからないまま手を差し出すと、カイル様はちょっと悪い顔をして私の手を取り、組み直し、ぐっと私の身体を近づけた。

 

 ステップを踏み出し、あっという間にダンスの開始だ。慌てて足を踏まないようにステップを合わすが、身長差がやはり少しきつい。


 一回、二回と回ってどこまで続くのだろうとオロオロしていると『つかまって』と合図され首元に手を掛けると優雅なステップでリフトされてしまった。


「わっわぁ…カ、カイル様!」

「ははっ…ちょっとだけ。ここでだったら誰もいないし」

「でも、でも…!もうダメです」


 そう言って落ちないようにぎゅっとカイル様にしがみついてしまった。


「くっ…ははっ…、面白かったのに。もう一回やろうよ」

「だめ!だめです!高くて回される方は怖いのですよ?」

「…残念。じゃあ、続きは次の演奏会の時にやろうか」

「ど、どういうことです?!もうやりませんっっ。大きくなるまで待っててください」


 今のを大衆の面前ででもやろうと言っているのだろうか。冗談なのか本気なのか、わからない誘いをされて困惑する。カイル様、変なプレッシャーはやめてください……。


 その後も、『魔法のショー』が終わっちゃうからと言って私を横抱きに抱きかかえて中庭へと続く廊下を足早に移動された。重いはずなのに、それを感じさせない身のこなしに驚きつつ、周りに舞う魔法の羽が七色に輝きを見せてとても美しかった。


 中庭では魔法で作られた花火が演奏に合わせて空へと上がり、火花が蝶に姿を変え消えていった。思い思いに踊る人や、同じように立ち止まって見ている人、羽を掴もうとする人…と様々だった。


「今年はダンスの場所が少し縮小されたんだよ。ティアラが踊れないっていうから、ちょっと演出と配置について意見を出させてもらったんだ」


「え…!!」

「冗談だよ」

「カ、カイル様!!」

「ふふ…。ティアラ、簡単に騙されちゃだめだよ?」

「だ、だって…」


「本当は、魔法を使う人が一人風邪を引いちゃったみたいでね。大技を使う人だったから、代役を立てるか性能の高い精霊石はなにかないかって話になってね」


「大丈夫だったんですか?」


「ああ。まぁここからは専門的な話になってしまうんだけど、何人かの特殊魔法が使える人に手伝ってもらって精霊石に倍量の力を練り込んで…。…うーん、精霊石という爆弾に更に10倍の威力の火薬を入れて、着火させる感じといえばいいかな?」


「そうなのですね…。その精霊石はどうなるのですか?」

「そうだね、残念だけど消滅しちゃうね」

「…なるほど」

「あ…ほら、始まるよ」


  空を見上げると、先ほどよりももっと大きな花火が空へ高々と打ち上がるところだった。それはとても綺麗で光は七色に色を変え、形を変え、沢山の白い鳥に姿を変え舞っては消えていった。その後にも魔法の光の雨が降り注ぎ、私達の身体に当たると小さな光を放ち儚く消えていった。





ダンスは社交ダンスを参考にしてます。本当の貴族のダンスはイメージが違かったので、なーろっぱ式というで…。


◇の三行は短いですがカイル目線です。

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