剣術大会3
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※動物に対してのマイナスな言葉が少しだけ入っています。ご注意下さい。
フレジアが素早く剣を振るう。それを刃で受け止めるも二段目が間髪入れずグレイスを襲う。彼女が得意とする二段突きだ。
急所を的確に狙うその攻撃は並の相手なら一撃で倒せる威力がある。しかし、グレイスはそれを受け流すと反撃の一閃を放つ。
「くっ!!」
咄嵯に飛び退き体勢を立て直し構える。何度も一緒に特訓したせいか相手の動きはある程度読める。長期戦は不利だと判断しフレジアは先に仕掛けた。
スッと剣を持ち変え照準を合わせるように刃先を真っ直ぐグレイスに向ける。彼女の周りの空気が張りつめていく。その異変にグレイスも気づき表情を引き締めた。
「行くわよ!」
言葉と同時にフレジアは地を蹴り連撃を放った。
「ぐああっっ!!!!」
光速の刃が百花繚乱の如く乱れ舞う。凄まじい速度の連撃にグレイスも受け流しきれず、数発の打撃を受け後退させられていく。気づけば数歩後ろは場外の線。その線を越えても負けとみなされる。
「このまま押し切るっ!」
フレジアは渾身の力を籠め剣を振りかぶった。
キィィン―――
激しい金属音が鳴り響く。高らかに打ち上げられた剣は弧を描き場外へと突き刺さる。だがそれはフレジアの剣だった。
「え……?」
一瞬何が起こったのか理解できなかった。目の前は地面。フレジアはいつの間にかグレイスに抑え込まれていた。
「勝負あり!勝者、グレイス・ジディス!」
審判の声が響き渡る。それを聞き、ハッとする。
「うそ……っ…」
信じられずその場に座り込んでしまう。
大技を出したその時、グレイスはただ守りに徹していたわけではなかったのだ。一瞬の隙を見極め光速剣を刃で受け流すと同時に、もう片方の手でフレジアの右手を封じる。そして自分の体でフレジアを抑制し、その剣さえも絡め取るように空へと引き離したのだ。
(一瞬、だった……)
放心する彼女を気遣うようにグレイスは手を差し伸べたが、フレジアは俯いたまま動かない。悔しさが先立ち彼の勝利を素直に喜べなかったからだ。そんな彼女にグレイスは困った顔を見せる。
「ごめ………」
「謝らないで。……私の…負けよ」
自分で立ち上がり、背を向けたままそう告げる。
「あー…ほ、ほらっ!今のはたまたまだ!!俺、首元が苦手でさぁ。咄嗟に動けちゃっただけというか、いつもだったらあんな大技一発でやられちゃうだろう?…だから…その、まぐれというか」
慰めようと適当な言葉を並べるもそれは逆に彼女を惨めな気持ちにさせるだけでしかない。グレイスもそれはわかっていたが他にいい言葉が見つからなかった。
「どんな理由があったとしても関係ないわ。負けは負けよ」
「…………っ!」
言葉に詰まる。空回りしてばかりだった。
グレイスは戦いの最中、この戦いの結末についてずっと考えていた。普通に勝てばフレジアのプライドを傷つけてしまう。だが、自分が簡単に負ければそれはそれで怒られてしまう。
『彼女を納得させる勝負とは一体なんなのか』
難問すぎて、いい考えなんて浮かばなかった。というか、彼女の大技が来た時点で、そんな余裕は全く無くなっていた。だが、何か言わねば。彼は直感的にそう思った。
「フレジア、その…君の剣技は本当に凄まじかった。急所もすごくいい場所を突いてたし。速さと正確さ、それに威力だって申し分ない。俺の剣は守りの戦い方に慣れてたからさ」
「………」
「打たれ強くないと君の練習についていけないだろう?俺が強くなれたのは沢山君の攻撃を受けてきたからで……その、俺だけの力じゃなくて…」
………情けない。これではただの感想だ。多くの女を魅了させてきた男が、好きな女の前では全く気の利いた言葉を掛けられないなんて。グレイスがそう自分を責めていると、クスッと小さく笑う声が聞こえてきた。
「……フレジア?」
「勝ったのはあなたよ?それなのにどうしてそんなことばかりいうのよ」
彼女は少し呆れたような、優しい微笑みをこちらに向ける。見慣れたその表情にグレイスはホッと胸を撫で下ろす。よくわからないが何かが彼女の心に響いたようだ。
「本気で勝負するように言ったのは私よ。あなたは真面目にそれに答えてくれたわ。結果はその…」
負けちゃったけど………。
そこは言えなかった。冷静を保ってはいるがグレイスが気にしたように、私はプライドが高い。本当はとてつもなく悔しい。黙ってしまうとじわりと涙が溢れそうになった。
「フレジア…ごめんっ、泣かせるつもりは」
ーーーーートンッ
フレジアの拳がグレイスの胸を打つ。
「『ごめん』はいらないって言ったはずよ。もっと堂々として」
「……あ、あぁ。…そうだな」
「それに……」
「…ん?」
「私に勝ったからって、次の対戦ですぐ負けようだなんて考えてたら許さないっ」
キッと睨まれ、グレイスの肩が大きく揺れる。
「はははっ…。しないよ」
(…読まれてた………)
もしかしたら前回の大会で手を抜いていたことを彼女は見抜いていたのかもしれない。
「絶対しないで。それに、あなたがどれだけ強いのかきっちり分かった方が私も納得できる。あなたという存在を認められると思うの」
正しい順位がわかれば彼の強さを潔く認められる………そう思ったのだ。
「………フレジア。認めるって、本当に?!」
「ん?…………ちゃんと聞いていたの?」
「もちろんっ!大会で本気出したら、俺のこと好きになってくれるってことだろう?」
「言ってない!!どうしたらそうなるのよ!強さを認めるって言ったのよ!」
「同じ意味だよ!」
「違うわ。全然っ、違うわ!!!」
(なななんなのかしら、この人……)
ちょっと真面目なことを言ったかと見直したフレジアだったが、やっぱり前言撤回だ。
「わかった!じゃあ、もし十位以内に入れたら何か一つ言うこと聞いてくれるかい?」
キラキラとした笑顔でグレイスがふざけたお願いを言ってくる。
「なっ、何を言っているの!?そんなこと聞くわけないでしょう!」
「え~、ご褒美があった方が俺もっと真面目になれると思うんだけどな~」
「なくても皆真面目にやっているわ。あなたもそうしてっ」
「えぇ~~。俺気分屋だからすぐやる気なくなっちゃうんだよなぁ。これじゃあ気持ちが上がらなくて次すぐ負けちゃうかもしれないなぁ~」
チラチラッとおねだりするような甘い顔で誘ってくる態度にイラッとするも、これはいつものパターンだと瞬時に悟る。断ってもあの手この手で擦り寄ってねじ伏せられる。……周りを固められる。それだ!!!
(ふんっ。いつもやられっぱなしの私じゃないわよ)
「……わかったわ」
「え!!本当っ!!」
「そうね、五位内だったら考えてもいいわ」
「えぇぇ……。それはちょっと……厳しいなぁ」
「あら?できないならいいですけど。私も期待してませんし?」
「いや、やるっ!!やらせてもらいますっ!!」
やる気満々な彼を横目で見ながらフレジアは半ば呆れ大きなため息を一つ吐くと控室へと歩き出すことにした。
◆
「フレジア………」
観戦席から私は二人の対決を手に汗握りながら見守っていた。
「フレジア、いいところまでいったのにすごい大逆転だったわね。悔しいけど、大会終わったら先輩のファンがまた湧きそう」
「確かに。最後のかっこよかったもんな。てか、また揉めてない?」
「はぁ、きっとまたグレイス先輩が余計な言ったんじゃない?もっと真面目になればいいのに」
「真面目?」
クレアとアスター様の会話に混ざって質問する。
「そうよ。フレジアはキチッ!シャキッ!っとしたタイプがきっと好きなのよ。でもグレイス先輩ったらいつもふにゃふにゃして変化球ばっかりなんだもの」
「…え?………うん?」
なんだか擬音語が多いわ…クレア。
「あー確かに。誠実とか努力とか好きそうだもんな」
「そう、それ!それが言いたかったの。グレイス先輩は最初のイメージが悪かったから口説き文句な言動は逆効果なのよ。もっと本心から語らないとフレジアには響かないわ」
手を組みクレアは熱弁する。
「クレアはジディス卿のこと応援しているの?」
「応援というか…。私、シノン先輩と話すこともあるじゃない?だから、そこの三角関係を見ているとすごくうずうずしちゃうというか」
「ああ、そうだな」
何か思い当たる点があったのかアスター様は含み笑いをしている。
「ちょっと笑わないで。私、本当毎回必死なんだから」
「……ははっ、悪い。この前クレアが目を泳がせてた時のこと思い出しちゃって……」
肩を震わせ笑うアスター様とむくれるクレア。いつの間にかまた仲良くなっているようだった。
「あっ、シオン様」
「本当だ!次は三年生となのね」
「ああ、でもこのままいけば十位内は確実だ。よしっ!頑張れ、シオン!」
シオン様が場内に見えると一年生からのエールが一段と大きく聞こえてきた。ここまで勝ち進んだ一年生はもうシオン様だけだった。大会は盛り上がりを見せ、いよいよ後半戦に突入しようとしていた。
◆
「うーむ…。こんなことならエルスター卿も来ればよかったのになぁ」
ロイ副団長が悔やむように呟く。シオン達の父エルスター侯爵は帝国の第二騎士団長として今日は皇城の警護の任についていた。
「皇城の任務なら仕方ないですよ」
会場三階の裏側で警備を務めながらカイルはそう答える。
「まぁ、そうなんだが。あぁ、それはそうとお前も大役ご苦労だったな。皇女がべったりとは…モテる男は辛いな」
「…こちらに戻れて清々してますよ」
苦痛でしかない時間だった。ティアラが手を振ってくれなければ耐えられなかっただろう。
「はははっ、そんな台詞言ってみたいものだな。でもリリアナ皇女も相当な美人じゃないか。傍にいられるだけでも恐れ多いことだぞ?そのまま婚約者にでもなってみろ、この先一生幸せだぞぉ?」
「…御冗談を。そもそもリリアナ皇女には婚約者がいます。帝国の代表が不徳を正当化すれば帝国が一層乱れます」
「ククッ、……その通りだな」
他愛無い会話を交わしているとそこへ一人の帝国兵が報告に訪れた。
「わかった。回収を急げ」
「はっ!」
ロイ副団長の表情に陰りが見える。
「何かありましたか?」
「いや、大丈夫だ。こちらで処理する」
「………不審物、ですか」
ロイ副団長の眉がピクリと動く。
「まぁ、そうなる。会場内で不審な精霊石を複数見つけたらしい。最近ルヴールの裏街で奇妙な精霊石が売買されていた事件。お前、知っているか?」
周囲を確認後、彼は声を潜めこちらに話を振ってくる。軽く頷くと自然な流れを装い別室へと促された。
「安価で買えるがほとんどが不良品。ですが、物によっては副作用が出たり、精霊石からキメラのような野獣が飛び出す騒ぎがあったとか」
「その情報はどこからだ?帝都内ではそこまで公表されていないはずだが」
「独自の情報網があるので」
魔法付与の精霊石として出回っていたブレスレットだったが、購入後使用してもすぐ消滅するものばかり。証拠が残らない為、調査と回収の点で難航していると聞いていた。だが学園を含む帝都内では夜間の『野犬等の事件』とぼかした言い方で注意喚起されていた。不要な混乱を生まないよう帝国によって情報規制されていたのだ。
「ほぉ……。どこまで知っているんだ?」
尋問するような目で問われるも表情は変えず静かに答える。
「その精霊石が帝国の研究施設から漏洩したものというところまで」
ロイ副団長はカイルの父であるフォルティス侯爵やエルスター侯爵と繋がりがあり、政治的思想や理念もこちらと近い。ある程度信用できる人物だ。だからカイルもここまで喋ることにしたのだ。
「流石フォルティス侯爵のご子息といったところか。なら話は早い」
ロイ副団長もそれを察し事件の詳細を述べることにする。
その奇妙な精霊石は魔法付与の水晶ブレスレットとして出回っていた。しかし、実際には魔法付与というには名ばかりで『時差で魔法が一度発動する精霊石』という方が正しい。火炎、回復、召喚型とさまざまなタイプがあったが、要はランダム式の時限爆弾とも言える。
さらに使用後ごく稀に幻覚症状を起こす者も出ていた。売買先を突き止めるも、今度は帝国の研究施設が絡んでいたことが判明する始末。
「たぶん研究での失敗作だ。秘密裏に処分するはずだったものを横流しして金に換えたようだ」
「その研究関者達の特定はできているんですか?」
「大体はな。ガラナス皇子の過激派の貴族達だ。ガラナス皇子は今回の大会でクリス皇子に特別な企画を用意すると仰っていた。研究施設関連の物を使うと予測はしていたんだが」
ロイ副団長は苦虫を噛み潰したような顔をする。大会の警備体制が厳重なのは暖健派や中立派の者達の意見が絡んでいたせいでもあったのだ。
「失敗作のキメラ…。過去にも似たようなことがありましたよね」
その研究施設は帝国魔法機関の武器開発部門が主導となり度々使用される場所だった。コーディエライトも以前ここに所属する者だった。だがそこで非道な動物実験をしていたことが発覚し、研究は中止。当時の関係者達は適切な処罰を下されコーディエライトも上位魔術師の地位を解任されるに至った。しかしその優れた魔術知識を買われ帝国付属のこの学園へと流れることとなる。
「ああ、当時の研究チームは一度解散している。だが、ガラナス皇子が帝国の権力維持を主張し再度武力強化の研究チームを編成し直したんだ」
さまざまな民族も束ねる帝国では、ある程度の武力も必要であり外交面でもそれは同様だ。ガラナス皇子の言い分が通るのも理解はできる。
「ですが過去の例を無視してキメラなんて異質同体、非道な行為とみなされるのでは?」
「ああ…。だが今回は皇族が筆頭となって行なっている。帝国にとって重要とみなされれば強引だが認められることもありえるだろう」
「……あの皇子ならやりかねませんね。ではクリス皇子宛の企画とはキメラの完成形…?」
大会には帝国の重役が揃う。研究成果を披露するには丁度いい。
「その可能性は高いな」
「…ルヴールでの精霊石。もしかして失敗作ではなくて、試験品だったのでは?」
効果を見る為にまずは試験的にルヴールで試す。裏街はスラム街で事情を抱えて住む者や問題もよく起こる。無用な人間で手っ取り早く試したのでは……?
「事を揉み消す前に見つかってしまったが、取り調べるのもまた同じ帝国側の者。帝国側が不利になることはすぐに明るみにはしない。更には研究結果を陛下が認めてしまえば後から白紙に戻すことも可能…」
「おいおい…。でも、もしそうだとしたら会場に拡散された精霊石はどう使うって言うんだ」
「陛下に却下された場合の強行策とか。会場内を騒がせキメラを活躍させ実用性を無理矢理認めさせる。それか混乱と同時に陛下とクリス皇子を陥れるつもりでいるとか……」
「確かに、ガラナス皇子の特別な企画について、不透明な点が多い部分から不安視する声は上がっていたが」
『茶番……』
「あ…?」
「いえ、ガラナス皇子が呟いていた言葉です。ちょっと気になって……」
それに、皇帝陛下も何処か以前の陛下と違い穏やかで若々しさを感じるような違和感があった。あの雰囲気はリアム皇子と似てるようにも感じたが……。俯きカイルが考え込んでいると急に扉を叩く音が聞こえてきた。
「副団長よろしいでしょうか?例の精霊石の件で……」
ロイ副団長はカイルに目で合図し話を中断すると、中に入るよう帝国兵に声を掛けることにした。
◆
シオンとグレイスは順調に勝ち進んで行く。数回目の試合でグレイスが闘技場に現れると会場から、しかも女性の声が四方から湧き上がってきた。それに応えるように軽く手を振れば、黄色い声が会場を響かせる。
(ん~、こういうの、久しぶりだな~~…って!いやいや、何やってんだ俺)
頭を振り雑念を捨て試合に集中する。次の相手は特段特徴のない研究生だった。審判の合図により試合が開始される。
「初めっ!」
相手の攻撃をかわし、グレイスの銀閃が流星となり駆け抜ける。対戦者は大きく打撃を受けその場に倒れ早くも勝敗が決まったかに見えた。だが、対戦者は無理に体を動かし剣を支えに立ち上がる。
「おいおい。無理すんなよ」
審判を見るも首を振られてしまう。対戦者に戦う意思がある以上試合は続行のようだ。グレイスは軽く舌打ちし再度間合いを取ることにした。変に痛めつけるのは趣味じゃない。
(あと一手で決めるか、場外へ引きずり下ろすか…)
「おい、本当にまだ続けるのか?」
「……………」
再度聞いてみるも返事は返ってこない。ただ無言で剣を構えるだけの対戦者にグレイスは小さくため息をつく。
(仕方ない………)
最後の一撃を放つべく、グレイスは地を蹴り上げた。
◆
「グレイス先輩っ!!!」
「……シオン」
選手入退場の廊下をグレイスが歩いていると必死の形相でシオンが駆け寄ってきた。
「腕……大丈夫ですか?…」
「平気だよ。でもちょっとひび入っちゃったから治療しろって。俺はここまでだ」
そう言い苦笑いする。試合の結果はグレイスの勝利だった。だが、それは対戦者が違反行動に出たからだ。あの後、急に野獣の様に荒々しい動きを見せ襲いかかってきたのだ。対戦者のその剣術を無視した戦い方に一瞬怯み、その隙に地面に叩き付けられ首めがけて剣を突き下ろされる。ギリギリ避けれたが、腕の怪我はその時、容赦無く足で踏みつけられた時のものだった。
「今の戦いで俺も対戦者も次出れなくなったから、シオンの方は準決勝じゃなくて、決勝になるな」
「えっ…、あ……」
審判から剣術違反行為とみなされ試合判定はグレイスの勝利を言い渡された。しかし腕の骨にヒビが入ってしまい救護対象とされ試合続行にはストップを掛けられてしまったのだ。骨までの怪我は治癒魔法でも時間が掛かる為試合続行は難しいと判断してのことだった。
「それより、なにかおかしい。シオンも少し感じていだろう?変な動きをするやつらが紛れてるって」
不審な動きを見せたのは先ほどの者だけではなかったのだ。数人だが、同じようにぼんやりとした虚な者がいた。
「薬か魔法強化か…。無理やり筋力強化してる気がする。でもその副作用なのか意識がちょっとやられてるみたいな」
「そんなっ。でも魔法だったら試合前にチェックされるんじゃ?」
「いや、実は時間差で効き目が出るやつがあるらしいんだ。裏で出回ってた魔法付与された精霊石を使うと水晶は消滅するんだとか。会長が以前調べてた。とりあえず、お前も気をつけろよ」
シオンの肩にポンポンッと手を置くとグレイスはそのまま救護班の方へと行ってしまった。
◆
グレイスの言葉を胸に止め、シオンは冷静に剣を振うように心掛けた。
「――っ!」
肩すれすれに剣先が通り過ぎると、シオンは歯を食いしばりながらも素早く体勢を整え地面へ足をつく。
対戦相手は以前剣術の最初の授業の時にクリス皇子と剣舞を披露してくれた三年のクロムレイン先輩だ。稽古場でも何度か手合わせしたことがあり、後輩想いの優しい人でもある。
「どうした。もっと攻めて来ていいんだぞ」
一定の距離感を保ちつつ、彼はそう言ってくる。
「先輩も遠慮せず、いつでもどうぞ」
お互いに言葉を交わし相手の出方を探る。じりじりと間合いを詰めていくが先に一歩動き出したのは先輩の方だった。勢いよく飛び出し低い姿勢で下から掬うように振り上げてきた。その攻撃をなんとかかわすも、すぐさま空中で構えを切り替え振り下ろしの剣が迫る。
ドッ! と鈍い音と共に地面が砕かれる。
「逃げてばかりでは終わらないぞ」
咄嗟に飛びのき難を逃れるも、掠めた左側の胴が防具の上からでも痛みを伴った。兄の言葉が蘇る。それは最後まで兄に注意されていた自分の弱点。
「……痛っ」
静かに息を吐き、痛みを逃す。
(今まで逃げてたツケが回ってきたのかな……)
軽く失笑し、持ち手の剣を強く握り直す。そして今度は自分から仕掛けるべく前へ踏み出すことにした。
・本編が停滞している時は「ティアラのお茶会部屋」で短編を載せてたりしてます。よかったがそちらもみて頂けたら嬉しいです。




