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秋の剣術大会★

・大変遅くなりました。ブクマ、評価、いいね、感想本当にありがとうございます。涙出るくらい嬉しいです。



 剣術大会当日。皇帝陛下や帝国上層部が観戦される為、学園内は厳重な警備体制が敷かれていた。てっきり、カイル様はアルベルト様と一緒に大会に参加されると思っていたが、二人共大会には出場しないらしい。


 アルベルト様は、シオン様の成長の妨げになりたくないから…。医療班の活動やソフィアと一緒にいたい気持ちも嘘ではないが、兄としての想いがそこにあったのだ。


 対するカイル様は、クリス皇子の動向を追う為、帝国側の様子も探っていたそうなのだが…。「皇族の動きが気になるから」と零すとそれ以上は語られなかった。


だが剣術大会が間近と迫った今を見計らったかのように、急遽剣術大会の警備を帝国騎士団と共に生徒も補助役として活躍させる知らせが入る。ジディス卿に聞けば、クリス皇子が単独で提案し動いていたようで、全て揺るぎない状態になってから生徒会メンバーにも説明が来たらしい。

 

 対象者は剣術大会に出場しない生徒になる。その為、カイル様は三階、上層部観戦席付近のフロアリーダーとして任に就くことになってしまった。


 とんとん拍子で進んでしまったこの決定には私も少しショックだった。大会中、カイル様と一緒にいられると甘い考えでいたのだ。歌うのは一人でだが、正直、少し心細い…。


『大会が始まる前に少しだけ会おうよ』


 しょんぼりしている姿を気にして、励ますようにカイル様が声を掛けてくれた。早朝だったら時間がある。少しだけでも会えたら心の不安も軽くなるだろうと。私は何度も頷き、その提案に甘えさせてもらうことにしたのだ。





「君、どこの子だい?」


 早朝、会場をウロウロしていると帝国騎士の方に呼び止められてしまった。


「え…?あの……」

「誰かの妹さんかい?今日は一般客は呼ばない予定なんだが…」

「いえっ、私、学園生で…、演奏の会の者で許可も頂いてて」


 慌てて説明する。演奏の会の生徒は白と黒の衣装で参加し、一般の学生よりも早く入場することが許されていた。私も白いワンピースと腹部に艶やかな黒いリボンをあしらった衣装を着ている。決して怪しい者ではないのだけど…。


「ああ、黒と白の指定色か。しかし…」


 ちょっと幼いような…と微妙な表情を向けられてしまう。


 うう…、折角大人っぽいドレスを選んだのに……。努力とは…。むぐぐ。


「あ、すみません。そちらのご令嬢、俺の知人と関連のある方なんです。君、レヴァン嬢ですよね?」

「は、はいっ!」


 どちら様だろう。黒髪の短髪の方だったが、私の知り合い…ではないはずだ。


「カイルから聞いているよ。到着したら教えてほしいって言われていたんだ」

「カイル様が?」

「ああ。カイルと知り合いなんだ。君とも以前あったことあったよね?」

「……あっ」


 そこまで言われて、ハッとする。


(新入生歓迎会の時にカイル様を呼びに来た人だわ…)


「こちらへどうぞ。案内するよ」


 彼は軽く帝国騎士の方に説明すると手を差し伸べてきた。


 彼の名前はフィックス・スワロフ卿。カイル様と同じ精霊石の研究をしている方で誠実そうな人だった。


「クリス皇子の案が早速役立つとはなぁ」

「え?何のことですか?」


 階段を上りながら、ふいに呟かれた言葉を聞き返す。


「帝国騎士だけでは今みたいなことが起こるだろう?学生証を見せる方法もあるけど」


(はっ、学生証……。持ってたのに出すの忘れてたぁぁ)


「まぁ、どれが一番いい警備だなんて一概には言えないけど、携わることで見えてくるものがあるから生徒にとっても良い経験だと思ってね」


 クリス皇子は円滑な誘導と警備を目的とし、帝国騎士の補助役を生徒に任せるように組み込んでいたのだが、生徒の社会経験としても良い効果を生み出していたようだ。


「そういえば、スワロフ卿の制服は正規のものと少し違いますね」

「ああ。生徒と帝国騎士とで見分けがつくようにしてあるんだ」


 帝国騎士団の制服は黒地に金と深紅の装飾で統一されている。しかし彼の服は同じ黒地だが装飾は銀と藍色。そして腕には藍色の腕章がつけられていた。これもまたクリス皇子の提案だった。私の演奏の会の色指定もそうだ。彼は細部にまで気配りができる方なのかもしれない。


「ここで待ってて。伝えて来るから」

「あ、ありがとうございます」


 三階の休憩所に到着すると、彼はそのまま廊下の奥へと行ってしまった。三階は上層部が観戦する場所だけあって、周囲は警護の騎士が多くどこか重々しい雰囲気を感じるようだった。





 休憩所でちょこんと座っているとものの数分と経たぬ間にカイル様が来てくれた。嬉しくてさっと駆け寄るも、その姿に思わず釘付けになってしまった。


「ティア、どうしたの?」

「あ、う、その…」


 カイル様の制服姿……。


 か、………。かっこいい………。



 思わずポーッと見惚れてしまった。


 漆黒の帝国騎士の制服に銀の刺繡が施された装飾。所々に藍色のラインが添えられ、腰には長剣を差している。スワロフ卿と同じ装いに近かったが差異はその鮮やかな藍色のマントだ。肩に掛けたそれは銀糸の繊細な刺繍が刺してあり、たなびく姿は威風堂々としていてとても凛々しかった。


「すごく似合ってますね…。それに、マントも」

「ああ、これ?ふふ、ティアラはこういう服が好きなのか。覚えておこう」

「あぁっ、う、そこは覚えなくていいですっ」

「ふぅん、そうなの?」


 ずいっと身を乗り出し至近距離で顔を覗き込まれる。いつも以上の輝きが視界に飛び込み心臓が大きく跳ね上がった。


「きゃぁっ!も、もうっ!わざとやるの禁止ですっ!」


慌てて離れるもクスクス笑われてしまう。プイッとそっぽを向くとそれさえも愛おしそうに頭を撫でられてしまった。


「ふふふ……、ごめんごめん。実は学生側の副隊長も兼任するよう命令を受けてしまってね。マントは見分けをつける為なんだ」

「え、兼任?」

「学生側の隊長はクリス皇子なんだけど、プログラム進行も先生方と携わるからさ。両立は無理だとロイ副団長が言ってね」


 ロイ副団長とは第一帝国騎士団の副団長のことだ。第一帝国騎士団長は陛下の傍に就く為、会場内の警備はロイ副団長が一任している。


「何かあったら僕に振るようにって事前にクリス皇子から言われていたみたいでね。対面する機会は今日しかなかったし。そうなることを見越してわざと仕組んでいたのかもね」

「カイル様………」

「…ごめんね。傍にいられなくて」

「いえ。大丈夫です」


 元から今日は一緒にいられないとわかっていたのだ。きっと、一人でだって上手にできるわ…。そう自分を鼓舞する。そんな様子を察してか否かカイル様が心配そうにこちらを見つめる。


「ティアラ、本当に大丈夫?」

「はい。歌う前にカイル様にも会えましたし」

「うん」

「後は頑張って歌うだけです」

「きっと、上手に歌えるよ。僕も見守ってる。でも何かあったら気にせずこっちに来るんだよ。それかアルを頼ってもいいし。救護班の場所はわかる?皆白い指定服着てるから遠目でもわかると思うけど、ソフィアとアルはそこにいるから。何かあったら行くんだよ」


「はい」


「それと、クレア嬢は水晶献上が終わったらすぐティアラのところに戻る予定だから。もし困ったことがあったらアスターかクレア嬢に相談するといい」


「はいっ」


「それから、学生証は持ってる?あ、自分の席の場所はちゃんと覚えてる?喉の調子も平気?あとそれから………」


「あ、あの……」


 カイル様は、小さな子どもに言い聞かせるように次々と注意点を確認していく。少々過保護なようにも思うのだが、きっと頼りなくて仕方がないのかもしれない。


「…カイル様。私、ちゃんと頑張りますので」

「え?あ…、…ごめん。つい…」

「いえ、…ありがとうございます」


 少しムズムズしたけれど、カイル様の気持ちが伝わってくるようでもあって心が優しさでぽかぽかするようだった。


「きっと、…今度はちゃんとやってみせます」

「………うん」


 裾を掴んで、そう答える。二人でいられる時間は今だけ。そう思うと名残惜しくてなかなか離すことができなかった。


「ティアラ…」


 長身の身体を揺らし、すっと目の前で片膝をつく。手袋を外し、私の手を取る。それはちょうど騎士が誓いの儀式を行う姿とよく似たものだった。


「ティアラの歌が成功しますように」


 指先にそっと口づけする。柔らかな感触に思わず頬が熱くなる。目を見開き驚いていると、彼はそのまま私の手を自分の胸へと押し当てた。その指には銀に光る指輪が嵌められている。その内側には私の瞳の色の石が入っていることを静かに思い出す。


「祝福と加護がありますように」


 傍にはいられないけれど、心は常に共にある…とでも言われているようだった。 


「ふふふ、おまじない。ティアラからもらった守り石のようにはいかないけど」

「……ううん。そんなこと。そんなことないです」


 胸の奥がきゅうっと甘く切なく締め付けられるようだった。


「沢山、勇気頂きました」

「そう?よかった」


 お互いに微笑む。その穏やかな時間は一瞬だったが、とても幸福に満ち溢れたものだった。


「さぁ、そろそろ時間だ。行っておいで」





 何度も振り返っては小さく手を振る姿を見守りながら見ていると、背後から声が掛かった。


「仲が良いんだな」

「ロイ副団長…」

「こんなむさ苦しいところまで来てくれるなんて良い子だな。お前もあんなに可愛いんじゃ気が気じゃないだろう?」

「…そうですね」

「兄だったら、変な虫が寄り付かないよう心配にもなるよなぁ」

「……………」


ロイ副団長は腕を組みうんうんと深く頷いている。


「ロイ副団長、私の妹は医療班にいます」

「なら尚更だな!白い服が良く似合ってたし。あんな子に手当てしてもらったら皆惚れ込んでしまうだろうなぁ」

「………………」

「こほんっ。ふ、副団長…。先程の令嬢は演奏の会の歌姫で、カイル先輩の婚約者の方ですよ」


いたたまれなくなったのか三年生がロイ副団長に説明を入れる。


「はぁああ?!そうなのか!??そ、それは悪いことをした。すまない!」

「いえ」


 慌てて謝るロイ副団長を見ながら小さくため息を吐く。全くこの人は……。悪い人ではないのだが、早合点はやめてもらいたいものだ。



「カイル副隊長、陛下が会場に到着しました」

「了解。皆配置に就け。警備を徹底するように」

「ククッ。さまになってるな。お前副団長やるか?」

「……遠慮します。それより、団員が待ってますよ。指揮お願いします」

「おお。悪い。じゃあ行ってくるわ」


ロイ副団長は慣れた様子で部下を引き連れ、持ち場へと戻っていった。





 同時刻闘技場選手控室では出場生徒達が集まっていた。その生徒達をかいくぐるように進むと、奥に自分と同じ顔の弟が自分の剣を念入りに手入れしている姿を見つけた。


「よっ、シオン」

「アスター!来てくれたの?」


 いつもと変わりない落ち着いた表情………に見えるがそんなことはない。


「緊張してるだろ」

「……うん。ちょっとね」


 そう返された言葉にお互い苦笑する。本当は違う。知ってる。本当はすごく緊張している。双子特有の不思議な感覚なのか、たまに感情を共有するときがあるのだ。今もそう。だからここまで来たのだ。


「いつも通りでいいんだ」

「わかってる」


 隣に座りシオンの支度をただ眺める。かける言葉はそれだけ。ずっと互いに喜びも痛みも半分ずつ引き受けていたような…そんな仲だった。ゆっくりと時間が進む。少しずつざわつく心が消えていくのを確認し合うような無言の時間。俺はぼんやり時計の針を眺めていた。


「アスターじゃない。どうしたの?応援?」


 見上げるとそこにはフレジアとグレイス先輩が揃っていた。彼らも予選を突破できたらしい。剣術科の生徒は魔術科よりも遥かに多い。半数は事前に振るいにかけなければとてもじゃないが一日では大会は終わらないだろう。


「応援。二人も頑張って。上で見てるよ」

「ええ、ありがとう。頑張るわ」

「はは、フレジアは元気だな」

「違うよ。これは空元気。変にいつもよりテンションが上がってるんだよね」

「ふーん。グレイス先輩は以前よりもなんかフレジアのことよくわかるようになってますね」


 シオンを通して彼らの呼び方も自然と緩いものへと変化していた。ただ、ティアラ嬢に関してだけはカイルさんの目が常に光っているので一生呼び捨てにすることはないだろうけど…。


「それじゃあ、行くわ」

「もう?」

「ああ、平気だろう?」


 すっと立ち上がり、シオンの目の前に拳を突き出す。何をしたいかシオンも気づいたようだ。お互いに拳を合わせる。ニッと笑うと苦笑しながらそれに付き合う。受けた拳が少し痛い。こいつまた力が強くなったか?


 控室を後にする頃には、胸のざわつきはだいぶ収まっていた。


(あいつなら大丈夫)


俺はそのまま、クレアやティアラ嬢のいる座席へと戻ることにした。





「テンション高いよね。なーんか隠してる」

「ええっ!!!!そそそんなことないわよ」


 そうは言うが、全くもってバレバレだと、グレイスとシオンは互いに思った。


「いいことでもあったの?」

「え…、あの。実はさっきシノン様…っ、いえ、シノン先輩にブレスレットをもらったの」

「え?でももう諦めるんじゃなかったの?それに呼び方……」

「そ、それは、そうなんだけど…。私も、そうしようと思っていたんだけど!シノン先輩が急に来てくれたの。それで、呼び方もそう呼んでって言われて」


 突然の出来事だったのだろう。すごく浮足立っている彼女にシオンは戸惑うしかなかった。


「でも、クレアからも言われているし、ちゃんとわきまえてるわ」

「一線引くってこと?」

「ええ。これはその…、お友達としてってシノン先輩も言ってたし」

「へぇ~………。お友達、ねぇ?そのお友達がわざわざブレスレット?」


 グレイスはどこか面白くなさそうな顔で棘のある言い方をする。


「っ……。いいでしょ別に!以前研究でいいものができたらくださるって話をされたことがあったのよ。その約束を守ってくれたの。これ、魔法が付与されているんですって。シノン先輩がやっと独自で覚えたものらしいの」

「ふぅん。魔法ってなんの?それに、試合中はつけられないよ」

「それはわかってるわ。ちゃんと外す。魔法は保護魔法だって言ってたわ」


 頬を染めるフレジアに、これはまた惚れたんじゃないのかと不安がよぎる。隣を見ればグレイスもグレイスで如何にも嫌そうな顔をしていた。


(なんだかな………)


 彼らの恋路は綺麗なほど三角形を描いている。シオンはどこか傍観者な目線で彼らを見ていた。


「危険な恋はおすすめしないなぁ。今度は火傷するかもしれないよ?」

「なっ!違うって言ってるじゃない!」


 グレイス先輩の忠告にフレジアは慌てながら否定する。心配を含んだ彼なりの言葉だったのだろう。しかし彼が言うと説得力はあるが彼女にとっては反発しか生まない。余計に拗れた気がする…。


(僕が注意すればよかったのかな…。いや、でも余計にややこしくなるかなぁ)


 兄弟喧嘩でも、よく仲裁役となっていたシオンは彼らの様子を見ながらそんなことを考えていた。そしてそのやり取りをしている間に貴重な待機時間は刻一刻と終わりを迎えようとしていた。





 闘技場三階、そこに皇帝陛下率いる帝国上層部が集結していた。カイルはロイ副団長の隣に就く。黙って職務に徹していると、皇帝陛下と瞳が重なった。


「カイル、君がここを担当するのだな。頼もしい限りだ。よろしく頼む」

「……はい」


 カイルは短く返事をすると、皇帝陛下は優しく微笑まれた。後ろに父フォルティス侯爵も連なっていた。父もまた上位宮廷魔術師としてこの場に参加する身だった。目で挨拶すると彼らはそのまま座席の方へと移動していく。だがその様子に少しだけ疑問を感じる。


「…………」


 陛下はあのように誰にでも笑うような方だっただろうか。


 それは漠然とした違和感だった。遠くなる彼らの後ろ姿を目で追うがそれ以上は何も読み取ることはできなかった。思考を巡らせていると、なにやらまた違う気配が感じられる。


 その視線を辿るとそこにはリリアナ皇女が立っていた。彼女は硬直し瞳は腫れぼったく熱を帯び、どこか期待するような眼差しを向けていた。





・帝国は軍服!…と思ったのですが、軍服だと帝国軍。軍隊になってしまう。でも騎士団にしたい。名称と組織図調べて結局騎士団にしました…。調べるとちょっと違うみたいですね。


・帝国騎士団→100人以上の兵を率いる。闘技場の各階にいるのは騎士団所属の小隊です。学園内にも兵は配備されてます。


・生徒の隊→数十人規模の生徒で構成。騎士団に比べ人数が少なく闘技場を警備の為、隊編成となってます。


・帝国騎士団制服(生徒用)マントふぁさ~って感じのカイル

挿絵(By みてみん)



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