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剣術大会前日

・ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。

・文章配置を少し変えました。(セリフ部分)逆に見づらかったらすみません(>_<;)


 研究生の棟の一角。そこにも剣術の練習場が存在する。シオンはそこで兄アルベルトから最終特訓を受けていた。


 キィンッと剣がぶつかり合う音が響く。


 アルベルトの追撃が迫る。それをギリギリでかわし、後ろに下がるも受け止めた手にビリッと電撃が走った。まだまだ兄には敵わない。

 

「シオン、左側の受け身が数秒遅い。隙を突かれないように気をつけろ」

「わかってる。けど、これが今の僕の精一杯っ」

「精一杯でもやれ」

「くっ……」

「後で後悔するんじゃ手遅れになる。目に頼るな。体感で覚えた方が早い。反射的に構えろ」


 最後の注意点を告げるとアル兄さんは剣を静かに収めた。


「ねぇ、今回アル兄さん出ないんでしょう?」

「ああ。どうした?むしろ喜ぶかと思ったのに」

「だって、アル兄さんもカイルさんも大会に出ないなんてさ。目標が薄れちゃうよ……」


 せっかく入学したのに、強豪達の試合が見れないなんて。少々物足りない。


「目標か…。本当にそうか?もし俺たちが出たら、圧倒されて上位を目指す気がなくなったり、試合が始まる前から諦めが先に出てしまうんじゃないか?」

「それは…そうかもしれないけど」


 過去の自分やアスターがそうだった……。兄の存在が大きすぎて、その先を目指すなど到底無理だと諦めていた。


「誰かの背中を追うんじゃなくて、もっと自分の限界に挑戦してみろ。お前ならもうできる」

「……………っ」


 胸がキュッと締め付けられる。


 兄はずっと前ばかり進んでいくような人だった。僕達のことなんて放って前へ前へと進んでいってしまう。その距離はどんどん遠退くばかり。だから、振り返ってそんな言葉を掛けてくれるなんて思わなかった。


 少し…、こんな自分でも認めてもらえたような気がした。


「なんだよその顔。俺今いいこと言っただろう?」

「………どうかな」


 素直に肯定の言葉を返せず、素っ気なく答えてしまう。


「それに俺、去年闘技場壊しちゃったしな。学園長にまで『今年も出るの?』って聞かれたし」

「……え、アル兄さんそんなことしてたの?」


 さっきまで少しジーンとしてたのに…。ドン引きだ。


「まぁ、なんだ。ちょっと張り切りすぎただけだ」

「ちょっとじゃないんじゃないの?」


 聞けばアル兄さんのせいで会場の損傷が激しく、試合を一時中断せざる得ない状況にまでなってしまったらしい。


「でも、だからって今年は真逆な医療班っていうのもね。似合わなさすぎだよね…」

「なんでだよ。薬草学学んでいるんだし当然だろう?」

「大方ソフィア義姉さんがいるからでしょう?」

 

 ドヤ顔で言うので、容赦なく水を差してやる。医療班は医務室の先生方の他に、薬草学の研究生や草花を愛出る会、または魔術科からも数名救護班として参加者がいる。もちろんその中にはソフィア義姉さんの姿もあった。


「………………」


 図星らしい。黙ってしまった。非常にわかりやすい。


「まぁいいけど。…でも、カイルさんの戦いも見てみたかったな」

「カイルは帝国側の警備だってな」

「せっかくの大会なのにちょっともったいないな」


 帝国からも警備兵は配置される。厳重な体制のもと大会は開催されるのだ。わざわざ生徒を警備補助に入れる必要性はない気がした。


「会長の発案らしい。配置については帝国も関わっているそうだ。警備兵は誰が学園関係者か詳しく見分けがつかないからな。生徒も完璧ではないが、自分の学年くらいは顔を記憶してるだろうしな。少しは役に立つだろうさ」

「厳重だね」

「ああ、それにカイルもあまり目立つことは好まないからな。黙っている方が好きみたいだし」

「それってアル兄さんがよくしゃべるからじゃないの?」

「………え?」

「いや、詳しくはわからないけれど」

「…………」


(自覚なしなのか)


「カイルさんが大人な対応してくれてよかったね」


 不服そうな顔を向けられたが、きっとそうだろう…。二人の不参加は非常に残念だったが、兄が言うようにいい機会なのかもしれない。


(自分の限界……か…)


己の剣をもう一度見つめギュッと持ち手を握りしめる。


「アル兄さん…、あと一回練習付き合ってもらえるかな」

「ああ、何回だっていいぜ?」


 練習場の中央に立つ。僕らは再び剣を構えることにした。



◆◆◆



 コーディエライト先生の研究室。そこにはいつもの三人と一匹の他に、ずっと不在気味だったコーディエライト先生の姿もあった。


「これでやっと研究再開できますね」

「ずっと足止め続きですまんかったな」


 職員会議から戻ったコーディエライト先生が久しぶりに顔を出してくれたのだ。


「ミャー」

「ルビー、お前もろくに構ってやれなかったな」


 主人に抱っこされると、ルビーも嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らしている。


「そういえば、研究ってずっと何やっているんですか?」

「確かに。俺も知りたい」


 クリス皇子に支援してももらってまで一体何の研究をしているのだろう。ちょっとした興味本位で聞いたつもりだったのだが、…それがまずかった。


「…………よく聞いてくれたね!」

「うむ。君達なら私たちの高度技術もわかるだろう」

「ですねっ!」


 先生もシノン先輩も目の色を変えて、話始める。それはまるで魔法詠唱のようで…。正直私もアスターも長すぎてぐったりするほどだった……。


「精霊石に魔法を付与する方法があるだろう?帝国でもその研究は進んではいるがまだまだ魔術者不足だしコストも掛かる」

「僕らはね、もっと低コストで実用性のある魔法の応用を考えたいと思っているんだ」


 松明や調理用の火起こしや光。冷蔵効果など身の回りの生活に役立つような魔法付与効果の精霊石の普及率は低く、皇族貴族に浸透はしてきているが、平民の元へは高価で行き渡らない状況だった。


「私達が課題としているのは如何に大量の魔力を集められるかということだ。それには『器』が必要なのだ。強固な……ね」


 現在では魔術師が精霊石に魔法を込め加工するのが一般的な方法だった。だが、先生が考えているのはそれとはまた違った方法のようだった。


「それとね。僕らはもう一つの可能性を考えているんだ」

「可能性?」

「うん、膨大な魔力を集められるとしたら竜も召喚できるんじゃないかってね」

「竜って、おとぎ話の?実在させるってできるんですか?」


「古代の文献によるとな、そもそも精霊のエネルギーが世界中の至る場所に混在するのは、六つの各属性魔法の象徴として表されている神竜が大地に散ったからではないかとも研究者の間では言われているんだ」


「確かに、古くから知られるおとぎ話や唄には竜の名前がよく出てくることがありましたけど…」

「他にも、各方面で大きな化石が見つかってもいるだろう?」

「でもその骨が竜だとはわからないですよね?」

「だからこそ、そこがロマンなんだよっ!クレア君っっ」

「ひぇっ」


 コーディエライト先生はクレアの両肩をガシッと力強く掴むと、更に近年発見された化石について文献との関連性について熱く語っていた。



「それで、秋の大会のことなんだが。第二皇子への水晶の献上は、生徒会代表としてクリス皇子、生徒代表はクレア君、君にお願いしたいんだ」

「え、ええ」


 思わずアスターの顔を見てしまう。


(どうしよう…。私、うまくやれるかな)

(がんばれ。こればっかりはどうしようもない)


「そんなに緊張しなくてもクリス皇子もいる。十分なサポートをしてくれるだろう」

「は、はい」


 クレアは急な大役を任せられ少々落ち着かない様子だった。


「なんとかなるさ」

「う、うん…」


 他人事の様にそう言うと、アスターは抱きかかえていたルビーをふわっと私の膝の上に乗せてきた。


「???」

「ルビー抱っこしてたら、少しは楽になる」


 キリッとした顔でアスターはそう言う。もしかして、ルビーに癒してもらえとでも言っているのだろうか…。なんだか、ルビーには申し訳なかったけれど、数回撫でると喉をゴロゴロ鳴らしてくれた。


(嫌がってはいなさそうね)


両手で優しく抱きしめてみるとふわふわの白い毛がとても気持ちいい。


(…こ、これは癖になりそう…)


 素晴らしい毛並みだった。アスターやティアラが虜になるのもどこか頷ける。



「あ、そうだ、シノン先輩。先輩は結局あれからフレジア嬢に会えたんですか?」

 

 ほっこりしていると、突然アスターが爆弾発言的なことを言い出した。クレアからしたら、その件はそっと波風立てず、うやむやにしておこうと思っていたのに。アスターはそうではなかったようだ。


「それが、やっぱり、声掛けれなくてねー。…駄目だね。研究ばかりかまけて、恋愛は全くでさ」

「そうだったんですね…。まぁ、男でもそういうの、勇気いりますもんね」


 口をパクパクさせるも、発言せずクレアはそっと二人の会話をただ見守ることにする。自分が出たら、また自分を通して会える機会を作ってほしいと言われ兼ねないし…。


 ルビーの背中を優しく撫でると、腕にぎゅーっと前足でしがみつきブレスレットにすりすと頭を擦りつけてくる。だいぶ気に入ってくれたのだろうか。ルビーはその後も、膝に乗っている間ずっと喉をゴロゴロ鳴らし上機嫌だった。



◆◆◆



 闘技場では、明日へ向けて、演奏の会の最終練習が行われていた。私は会場の中心から、当日陛下達が参列する席の方へと目線を移す。


(粗相のないよう気を付けないと…。うう…今からもう不安になってきた)


 私は、そばに置いていた小瓶から飴玉を一つ取り、口の中へと放り込む。祈るように手を組むとギュッと目を瞑る。


「ふふ、それ、何かのおまじないなのかい?」


 顔を上げるとクリス皇子が目の前に立っていた。


「クリス皇子殿下…。あ、その…。おまじないといえばおまじないかもしれません」

「ふぅん?それをするとどうなるんだい?」


 屈んで顔を覗かれるが、思わず一歩後ろに下がってしまう。


「嫌なことがあったら、飴を食べて甘く塗り替えてしまえばいい…と。私の弱い心を守るおまじないのようなものです」


 以前、泣いたときにカイル様がしてくれたことを思い出す。


「その飴、私も一つもらってもいいかい?」

「え?あ、はい。普通の飴ですよ?」


 包装された飴を興味深そうに皇子は一つ取る。包み紙から出すと、飴は綺麗な琥珀色をしていた。


「………甘いな」

「甘いもの、苦手でしたか?」

「いや……それほどでもないさ。……私も明日の大会へのプレッシャーがあるからな。嫌な思いが流せるかと思ってね?」


 ちょっと試してみたのだと微笑んだ。

 

「よろしければ、どうぞ」


 飴を数個、彼の大きな手に乗せる。


「クク…、私は子どもではないんだがな」

「あ、いえ、そういうつもりでは。……明日はきっと、どの方も皆それぞれ様々な想いを抱く日になるのではないかと思って」


 気やすめだが、彼の憂鬱な心が少しでも晴れたらと思ったのだ。


「ティアラらしいな」

「ティアラ嬢です」

「ククッ、そのぶれないところもな。……もらっておこう。では、そろそろ行くよ」


 クリス皇子は一度軽く伸びをして、周囲を見渡した後、闘技場を後にされた。





 闘技場会場内の長い廊下を一人歩く。その表情は生徒会長らしい威厳と優しさに満ちたものだった。だが同時にどこか無機質なガラスのようでもあった。


 誰もいない廊下には、彼の靴の音だけが鳴り響く。だが、角の休憩場所を通り過ぎたその時、その足音も止まる。右手に握られていた飴をごみ箱へと容赦なく捨てたのだ。


「……」


 闘技場の方からは彼女の歌声が微かに聞こえてきた。また練習が再開されたのだろう。穏やかで、とても澄んだ綺麗な歌声。


 その音にぴくりと眉が動く。忌々しいとでもいうかのように一瞬歪みを見せた水色の瞳には、どこか狂気の色が見え隠れしていた。



 


・竜については、『二章:レヴァン領(婚約者様は試される)』にて少しだけ語られています。


光属性:白竜

闇属性:多頭竜

水属性:水龍

火属性:火竜

風属性:飛竜

土属性:土龍





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