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目が覚めて…

・誤字脱字報告いつもありがとうございます!滅茶苦茶助かります涙。

・ブクマ、評価、いいねもありがとうございます!すごくすごく励まされています。続きを書く原動力になってます大泣

・更新遅くてすみません。できるだけ遅くても一週間後には更新できたらと考えています。それより遅い場合は超難産なんだな…と思って頂けたらと……




「……うっ…ぅ……」

「ティアラッ……!!」


 目覚めるとそこは医務室のベッドの上。目の前には心配したカイル様が飛び込んできた。


「私………ここは………」

「医務室だよ。あのまま気を失ったんだ…」

「そうだったんですね。あの時…、何か考え事をしていて……」

「ティアラ、無理しないで。今は何も考えない方がいい」

「は……、はい……」


 周囲にクレアやアスターは見当たらない。ふと窓を見ればもうすっかり真っ暗になっている。だいぶ眠っていたようだ。

 

「さっきまでアスター達もいたんだ。でも流石に遅いから帰ってもらったんだよ」

「そうだったんですね。ご心配お掛けしてすみません…」

「いや、いい。それよりもティアラが無事で良かった」


 私の様子を見て、安心したのか待機していたマリアとジラルドさんが廊下へ移動する。少し上体を起こそうとするが、ふと手元が気になり目線を移す。


「これは…守り…石?」

「ああ、少しでも効き目があればと思って…」


 手の平の水晶は光を反射し、美しく輝いていた。心なしか幾分気分が楽になったようにも感じる。不思議そうに眺めているとカイル様が両手を重ね、優しく包み込んだ。


「……ごめんね」

「……え?」


 唐突にそう言われ困惑する。


「カイル様のせいじゃ……。私が自分の体調をきちんとわかっていなかったから」

「……いや、………」


 彼は歯切れ悪く言い淀むと、眉を寄せ視線を下に落とした。


「カイル様?」

「…………なんでもない」


 どうしたのだろう。


「……人工水晶の方はこちらで進めるから。ティアラは歌の練習に専念してね」

「はい。またお手伝いできる時は言ってください」

「……ああ。ありがとう」


 優しく微笑むも、どこか悲し気な様子を感じる。


「ティアラ……」

「はい……?」


「ティアラのその症状なんだけど…。もし、また同じような状態になったら、重くなる前に()()()()()をやめるんだよ」


「……え?…それはどういうことですか?」


「その()()()()に対して体がストレス反応を起こしているようなものだから…。無理に思い出そうとすれば、また倒れるかもしれない。難しければ、全く別のことを思い浮かべてみたり、本や文字を読んで考えを巡らさないようにするんだ」


 彼の話はまるで心的負荷が掛かった者への改善法に似ていた。


 人間は精神的苦痛を強く感じると体が拒絶反応を起こす。それは湿疹、眩暈、吐き気など様々だ。本人に精神的苦痛の自覚がなくてもそれは起きる。


 その時の私はカイル様の説明を聞いても困惑が強くて、なぜ彼がその話をしているのか、よくわからなかった……。



―――――――――――――――



『カイル・フォルティスが魔法を使えること』



 その真実と向き合うこと。それは私にとってあの時の事故を思い起こさせる一番の恐怖だった。だから、彼はそこに繋がる言葉を極力避けて説明したかったのだろう。


 ずっと目を反らし、逃げるわけにもいかない。


 だから、少しずつ事実を匂わせ、感づかせ、小さな衝撃を与えることで慣れさせようとしたかったのかもしれない。


  

―――――――――――――――



「ただの体調不良かと思ったのですが……違うのですか?カイル様は何か知って……っ」


 不安で瞳が揺れる私を見て、カイル様は優しく頬を撫でられた。

 

「すまない………。怖がらせるようなことを言った。………一つの可能性の話だよ」

「もしもの話……ですか?」

「………うん」 


 頬に触れた手をゆっくりずらし手繰り寄せる様にそのまま抱き寄せられる。回された腕に力が込められ少し苦しかった。けれど、彼の鼓動音が耳に悲しく響くから…。何も聞き返すことはできなかった。

 


◆◆◆



 翌日、クレアとアスター様にも心配されたが、体調が悪かったみたいだとしか言えなかった。


「こっちのことは気にしないでね。ティアラは歌の方頑張らなきゃいけないし」

「…うん」

「ティアラ嬢、本当に大丈夫…?なんだか元気ないけど」

「そうね。今日はもう部屋で休んだ方がいいかも…」

「だ、大丈夫よ。二人ともありがとう」


 体調はもういつも通りだった。元気が出ないのは、カイル様の悲し気な顔がちらついて離れなかったからだ。しょんぼりしていると、クレアが声を上げた。

 

「あ、フレジア!これから、剣術の練習?」

「ええ、もうすぐ予選が始まるからね」


 そこに現れたのはフレジアとグレイス・ジディス卿だった。


「ジディス卿もこんにちは。今日はフレジアと一緒に剣術なんですか?」

「やぁ、こんにちは。というかいい加減グレイスでいいよ。それに()()()じゃなくて、()()()だよね?フレジア」


 グレイス先輩は慣れた手つきでフレジアの肩に手に触れる。だが、パシンッ!とすぐフレジアに手を払われた。その光景にちょっと驚いたが、グレイス先輩は懲りずに、無限のハートを振りまき、甘く微笑んでいる。


 (わ…わぁ……)


「シオンも一緒よ!最近三人で練習しているの。ここで集合する約束をしてたのよ」


 確かにここは男女の寮の中央の廊下で待ち合わせするには適度な場所だった。剣術用の身軽な服に着替えてから集まる予定だったのだろう。


「あー、そういえば、そんなこと言ってたかも」


 アスターがなるほどっと呟く。


「ねぇ、それにしてもこの前の生徒会からのお知らせ…。すごかったわね」

「騒ぎを起こした一生徒ってフェルマーナ嬢だろう?うちのクラスの子だったから、女子が結構噂してたな」


 クレアが最近の話題を振る。フェルマーナさんは生徒会のお知らせの後、血相を変えヴィオラ様に抗議するも全く取り合ってもらえず、泣く泣く自領へ引き下がったらしい。


 カイル様は想定内の結果で全く動じていなかったけれど、私はその横で小さくブルブル震えてしまった。小さな嘘が大きな嘘になって自分の身を滅ぼすなんて…。



「まぁ、元々の性格と、何より相手が悪かったって感じだよねぇ?スネークが文章考えるのに頭抱えてたよ」

「グレイス先輩は生徒会ですもんね。お疲れ様でした。あれ配るの大変だったんじゃないですか?」


 アスター様が、生徒会からの文書のことに触れる。


「本当にねぇ~…と言いたいところだけど、実は俺、そんなに関わってないんだよね」

「どういうこと?まさかサボったの?」


 ギロッとフレジアはジディス卿を睨みつけた。


「えぇっ!?違う、違う。シノンに助けてもらったんだよ」

「ん、え?グリンベリル卿に………?」


 シノン・グリンベリル卿の名前が出たとたんコロッとフレジアの反応が変わる。


「その反応の違い、ちょっと傷つくなぁ」

「そ、そんなに反応違くないわっ!」

「へぇ~、まぁ、いいけど。文書複製と、転送魔法をね、お願いしたんだよ。普通だったら一日では終わらないからね。まぁ、問答無用でその日の内に仕上げろって言ってきた会長も鬼かと思ったけどさ」


(あわわ……)


 それは、カイル様が言ったからだわ…。ちょっと飛び火させてしまい申し訳ない気持ちになる。


「そんなことできるのね。やっぱりグリンベリル卿ってすごい方なのね……」

「フレジア、ときめいてる………?」 

「あ、うっ………!べっ、別に!!もう、そういう気持ち、ないわっ。大丈夫よっ!」

「へぇ…。それはいいこと聞けたなぁ~!」

「なっ!私、今恋愛は休憩中なのっ!秋の大会で頭いっぱいだものっ!!」

「はいはい。怒ってるフレジアも可愛いね。ゆっくり攻めるから大丈夫だよ」

「全く大丈夫じゃないわっ!!!!!」

 

 真っ赤になってフレジアが怒るも、女性経験豊富なグレイス先輩にとっては、まだまだ余裕そうだった。


「あれ?でも、グリンベリル卿は生徒会メンバーではないですよね?」

「ああ、それね。会長がコーディエライト先生とシノンの研究への支援をしているからだよ。それで、今回は手伝ってもらったんだ」

「へぇ…そんな関係だったんだ。あっ!シオン来た」


 振り向くと男子寮の方から、シオン様がこちらへ向かって歩いている姿が見えた。


「あれ?なんでこんなに大勢なの?何かあったっけ?」


 遅れて来たシオン様は状況が掴めずきょとんとしている。


「たまたま揃っただけ。俺とクレアもこれからカイルさんのところに行くとこ」

「ふぅん。あっ、グレイス先輩、僕、また兄から新しい技教えてもらったんです。後で一緒に打ち合いしましょう」

「えっ!また?いやぁ~…、俺は遠慮しとくよ」

「そんなこと言わないでくださいよ。今度の技も大技なんです。すごいんですっ」

「いやいや、最近のシオン、体力半端ないし。技はどれも力技だし。俺体力ないから無理かな~って」

「ふ~ん、すぐ疲れる……?じゃあ、私との対戦もできないわね。私、シオンと練習に行くので、グレイス先輩はお帰り頂いてもいいですよ?」


 腕を組み、不敵な微笑みを浮かべるフレジア。


「えっ!?いやいやいやいや……それとこれとはまた別だから」

「フレジア嬢とできるってことは、僕ともできるってことですよね?グレイス先輩!」

「ええっ!?」


 そこに加わるようにニコニコ顔のシオン様が迫る。さっきまで余裕そうだったのに二人に迫られグレイス先輩はたじろいでしまっていた。


「さぁさぁ、早く行きましょう。アスター達もまたね」


 問答無用で引きずるようにグレイス先輩を連れて、三人は練習場へと去っていく。呆気に取られて見ていると、クレア達もそろそろ行くようだ。


「ティアラ、それじゃあね。ティアラはゆっくり休むのよ?」

「うん。ありがとう。二人も頑張ってね」


 クレアが研究室の方へと歩き出す。その後ろをアスター様が追うように歩くが途中でなぜかこちらに戻ってくる。


「ティアラ嬢、もし元気出なかったら、飼育室へ行ってみたらいいよ。中庭のもう少し奥にあるんだ」

「……え?」

「大半は伝書鳩管理場所らしいけど、猫や犬もいるって聞いてさ。使い魔も利用できる場所だからもしかしたらルビーもいるかもしれないし」

「え…、あ……」

「俺もルビー好きだからさ。シノン先輩に少し教えてもらったんだ。もしよかったらと思ってさ」

「あ…、ありがとうございます!行ってみます!」

「じゃ、お大事に。またね」


 そう言うと、手を振りながら研究室の方へと行ってしまった。思いがけない情報に少し胸がほわほわと温かくなる。


「飼育室か……」


 誰もいなくなってしまった場所から中庭の方向へ、私も歩き出すことにした。







 


・一週間かけて作った前編のティアラとカイルのお話を昨日削除して今回のような展開にしました。最初はカイルが「もうティアラは領に戻そうかな」って気落ちして真逆な話になってました。(戻しませんが)


・後半の話では登場人物が多すぎたのでグレイス・ジディス先輩はグレイスで統一させました。

心の中ではティアラもグレイス先輩って言ってますが、実際声に出して話すときは「ジディス卿」と貫くかと思います。ややこしくてすみません。






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