表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/80

これは令嬢小説で見かけるシーン…?


・誤字脱字報告、いつもありがとうございます!


・今回もカイルとティアラの糖度がMAXで甘いです。一応ご注意ください。


「…密会?私たちは正式な婚約者同士だ。一緒にいて何が悪い」


 低音の品のある声でヴィオラ様の方へと振返る。


「…カッ、カイル・フォルティス…?!」


 昔数回会ったことがあるとカイル様は仰っていたが、彼女もまたカイル様の過去の面影をきちんと記憶していたようだ。


「久しぶりだな。だいぶ高飛車な性格になったようだね。君の悪評はこちらにも届いていたが、まさか声を張り上げて令嬢を追いかけ回すとはね。とても品位に欠けた行動だな。侯爵が耳にしたらどう思うだろうね………」


 目を細め失笑する。ヴィオラ様は一瞬瞳を揺らし動揺しかけたが、ぐっと唇を噛み締め反論してきた。


「わっ!わたくしだって、こんなことしたくありませんわ!けれどティアラさんには確認しなければいけないことがあったんですものっ!」

「…………確認?」

「ええ、そうですわ!わたくし聞きましたのっ。この間クリス様と手を握りながら嬉しそうに廊下を歩いていたのだとか?沢山の荷物も持たせていたそうですし。とんだ泥棒猫じゃありませんこと?」


 あなたの彼女って非常識じゃなくて?とでも言わんばかりの自信に満ち満ちた表情だ。

 

「クリス皇子殿下と?」


 カイル様と目線が合うが、大きくブンブンと顔を横に振って否定する。


(確かに一緒に歩いたけど内容が違いすぎる!)


 こんなことになるなら、さっききちんとお話するべきだったと涙目になりながら後悔する。教室内はピリピリとした空気が広がり息苦しい。二人の緊迫した間に割って入るにはかなりの勇気が必要だった。


 けれど……。私が話さなくてはヴィオラ様の話が真実なのだと思われてしまう!こんなことでカイル様と拗れてしまうのは嫌……。わななく手を両の手で支え、震える唇をなんとか動かしてみる。


「わ、……私は!…私は、草花を愛でる会から帰る途中だったんです……。確かに…そこで頂いた荷物をばったり出会ったクリス皇子殿下が持ってくださいましたが、私はお断りしました。けれど、クリス皇子殿下が譲らないご様子だったので、それ以上断ることのも失礼かと思って言い出せなかったんです……」


 心臓がドクドクと鳴り、握った両手からは嫌な汗を感じた。


「それにっ!なにより手なんて繋いでません!!」


 少し大きい声で強調する。そんなに長く喋っていないはずなのに、緊張して息が上がりくらくらする。


「お黙りなさいっ!!さっきからそうやって嘘ばかり仰るなんてみっともない!!こちらには何人もの方から聞いた情報があるんですのよ?!」


 ピシャリと撥ねつけられる。勇気を振り絞った発言は容赦なくぺしゃんこにされてしまった。


(うう…。やっぱり信じてもらえない……)


 この方には何を言ってもやっぱり無駄なのだろうか。半ば諦めかけたその時、頭上からカイル様の声が響いた。

 


「証拠はあるのか?」



 はっと上を見上げる。


「しょ、しょうこ……?」

「何人もの人が言っていたんだろう?誰が言っていたんだ?」

「……そ…それは。…一年の生徒よっ!」

「ふぅん、名前は?何人の人が見たんだ?」

「えっ、そ…それは……沢山だから覚えてられないわ!」

「フッ、それでは正確な情報とは言えないな。もしも嘘だったらどうするつもりだ?」

「え……」

「こちらのことを一方的に悪女とみなした言い回しについてもだ。こちらが無実だった場合、両家の侮辱と品格を落とす行為とみなし関わった生徒と共に公爵家へ正式に申し立てさせてもらうぞ?」

「……うっ……!!」


 あれだけ大声で叫びながら追い立てたのだ。明日には噂が広まるだろう。カイル様は鋭く責め立てる。


「それから、そうだな…。確認というなら、君の婚約者にも聞いたらどうなんだ?」

「……あ……後から確認しようと…思って…」

「ならば、両者の意見を正確に聞くべきだな」


 ヴィオラ様は目を見開き、動揺する。


「ティアラ」

「は、はいっ!」

「ティアラが持っていた荷物はどれくらいのものだったの?」

「はっ…。あの、これくらいの紅茶の箱のケースと、チーズと、ショートブレッドと…そちらは大きな箱に入れてもらったので両手で持っていました。それと……あっ!草花を愛でる会のお姉様方から頂いたものなので、お姉様方からも証言は頂けるかと思います」


 そうだった。私以外にも荷物のことを知っている方々がいたのだ。


「なるほど。その量では、流石に手は繋げないね」

「はい。それに、クリス皇子殿下は早く歩いていたので私は追い付くのがやっとでしたので後ろを歩いていました」

「……え?……」


 その証言に一瞬の間が空く。ヴィオラ様は私を頭からつま先までじっと見つめ、眉を寄せなんとも微妙な表情をされていた。正直に言ったのに、なんだろう…、なんだかちょっと切ない……。


「…まぁ、そのような状況ではけして『仲睦まじく手を繋ぐ』という雰囲気ではないな。それで、もう一度聞くが……。ヴィオラ嬢は誰に聞いた情報なんだ?」

「おっ、同じ一年のフェルマーナさんですわ!」

「他は?」

「…ほ……ほかは……」


 ヴィオラ様は口を閉ざし俯いてしまう。だが、カイル様はそれを許さなかった。威圧的な空気が張り詰め部屋が凍り付くようだった。


「…い、…いないわ……」


 とうとう観念し、絞り出すような声を出す。


「そんなことだろうと思った。しかもよりにもよってその令嬢とはな」


 失笑し、話にならないと言い捨てる。

 

「なっ!!どういうことですの?」


 納得できない彼女を前に、カイル様はため息交じりにその者の素性を教える。そして最後にこう付け足された。


「ティアラに対して良い印象を持っていない者の情報だ。聞いたところでその話は湾曲したものだろう。現にティアラの話とは食い違っている。更にこちらには他にも同じ証言ができる者がいる。それでもその証言が正確だと言えるのか?」

 

「けれど、さも間近で見たかのように仰っていたもの。あれでは誰だって信じてしまいますわっ!」


 だから、『わたくしは悪くない!!』と今度は責任転嫁のような発言をする。


「いい加減にするんだな。フェルマーナ嬢の発言も問題だが、君もクリス皇子殿下の婚約者という立場だ。その立場に見合った振る舞いと発言が求められるんじゃないのか?」

 

「だ、だったらどうだというの…」

「今回の騒ぎに関するこちらの風評被害の火消しは君にしてもらうよ?」


 穏やかな微笑みを浮かべそう言うも、その瞳は笑っていなかった。それに気づくや否やヴィオラ様はゾッと震え上がる。


 彼女の軽率行動はレヴァン家とフォルティス家の名誉を傷つけるものだった。そして何より問題だったのは皇族を巻き込んだ嘘の情報を拡散しようとした、という点だ。


「わ、わたくし……」


 事の重さに気づいた彼女はみるみるうちに青ざめていく。ハラハラしながらその様子を見ているとカイル様が小さく息を吐きこう言われた。


「君の手腕が試されるんじゃないのか?クレバス侯爵は正義感の強い方だ。過ちを犯しても、それを正しく制することができればお咎めも少なくなるかもな」


 縮こまる様にガタガタと震えるも、最後の言葉にピクッと反応する。


「…きょっ、…今日のところはこれで下がるわ。フェルマーナ嬢やクリス様にもきちんと聞いてから…。それからよ」

「今日中にね?」

「ううっ!!!」


 釘を刺され、カイル様には勝てないと判断したのか、私の方に目線を移し、キッと睨みつける。


「失礼するわ!!」


 そう言うなり、ヴィオラ様はサッと教室を出て行ってしまった。


「……ふ……はぁっ……!!」


 力が抜けてへたっとその場に座り込む。足はまだガクガクと震えていた。


「ふふ、そんなに怖かったのかい?」

「うう……。はぃ……」


 急に迫られると、思ったよりも行動できないのだなと身に染みて感じる。自分はこういうことには不向きなのかもしれない。


「小説の様にはいきませんね。圧倒されて、とても説得できるような言葉が出てこなくて。カイル様がいらっしゃらなかったらきっと負かされてました…」


 苦笑しながらお礼を言う。急な対応はまだまだ難しい。改めて実感させられた。


「カイル様はすごいですね。なんでも早急な対応ができてびっくりしました。それに、フェルマーナさんのことも…」

「ああ、あれ?」


 てっきり、ばっさりときつい制裁を下すのではないかと一瞬怖い考えが頭をよぎった。だから少しほっとしてしまった。


「あまり加減なく制裁したらティアラに嫌われてしまうからね」


 意外な言葉が返って来て目をパチパチと瞬いてしまった。

 

「それに元々ヴィオラ嬢が招いたことだ。自分の蒔いた種は自分自身で刈り取ってもらわないと。こちらがいちいち後処理を手伝う必要はないからね」

「でも、ヴィオラ様にも助言されてましたよね?」

「……ん?どうしてそう思ったんだい?」

「ヴィオラ様はクレバス侯爵様には『逆らえない』というような様子がありましたから…。汚名を返上すれば許されるかもしれないって教えてあげたのかなと思って」


 カイル様はくくっと笑うと、私をぐいっと教卓の上へと持ち上げる。目線がいつもよりも近くなった。


「カ、カイル様?!」

「ティアラはよく観察してるね。そうだよ、ヴィオラ嬢は昔から自分の親に従順な子でね。以前は物静かな子だったんだ」

「え?そうなんですか?」


 少し意外だ。現在の姿からは全然想像できない。


「いつもどこか怯えたような表情をする子だったんだ。だが、悪いが今回はそこを突かせてもらったんだよ」


 成長と共に、ヴィオラ様自身も変わっていったのだろうが、幼い頃から植え付けられた恐怖心というものは簡単に拭えるものではない。


「もしかしたら、以前いた学院では親の目もなくて羽目を外して、わがままな部分が色濃くでてしまったのかもしれないね。けれどここではそうはいかない。彼女もまたここで学ぶべきなのかもしれないね」


 自分の立場と振舞いというものを……


「それはそうと、クリス皇子のこと、どうしてすぐ言わなかったの?」



 ギクッ



 恐る恐る目線を上に向けると、カイル様はニッコリと微笑んでいる。


「あ、あの……。言ったら怒られるかなと思って」

「怒る?…僕が?」


 教卓に手をつき、その距離はまた一層近くなる。けれど、なぜだか圧迫されるような居たたまれなさを感じる。


「追いかけられてましたし、言葉がまとまらなくて……」


 ふぅん?と首を傾けまたぐっと距離が縮まる。まるでじりじりと蛇に追い詰められたネズミのようだった。慌てた態度を取っていると、急にくくっと笑い声が聞こえ始めた。



「まぁ、知ってたんだけどね」



「……え?」

「実は少し前にグレイスやシオンが教えてくれたんだ」

「えぇ?!」

「別れるところを見たってくらいだけどね。皆大体何かあったら教えてくれるんだよね」


(え、……えええ???)


「ふ、ふふ。ごめんね?涙目になってるティアが可愛くてつい虐めたくなってしまってさ」

「いっ、虐める……?!」


 またとんでもない言葉が飛び出てきた。


 ぽかーんと口を開けているとカイル様は苦笑しながら手を添える。だが、顎から手を離せばまたすぐ口が空いてしまった。


 知ってた? 虐める……いじめる??


 混乱している私を他所にカイル様はもう一度人差し指で顎を上げると、今度はそのまま唇をぷにぷに押して遊んでいる。ハッと我に返りその手をガシッと掴んで止めさせる。


「私、カイル様がすごく怒るかと思って言えなかったのに」

「ごめんごめん」

 

 くっと怒って見せるが、私の眼力ではカイル様をねじ伏せるには至らなかった。く、悔しい。

 

「そういえば、なんでチーズなの?」

 

 教卓の横に置いていたチーズのラベルを見る。

 

「あ、そ、それは……っ」

「それは?」


 直接、面と向かって言うのは恥ずかしかった。


「あ、これ僕も食べたことあるやつだ」

「え?カイル様も?」

「たまに取り寄せたりしてたんだ。ティアも好きなの?」

「あの、えっと。おいしい…です」


 味は癖がなくて食べやすかった。けれど、それだけで食べていたわけではなくて……。

 

「カイル様はこれを食べて、どこか変化ありました?」

「え?さぁ…、…どうかな?」


 思わず視線が胸の方にいってしまう。けれど、あまりよくわからない。


(ハッ!!私ったらはしたない……。どこ見てるの)


 みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。


「どこか変化してほしいの?」

「いいいいいえ!そそ、そう言うことではなくって。なんでもないです。質問、間違えました!なんでもないですっ!!」


 首をこれでもかというくらい横に振って否定する。


「ふっ、ふふふ。ティア、何も言わなくてもわかっちゃうよ?」

「ええ!あ……ぅ。きゃぁっ…ぁっ!…忘れてくださいっ!」


 恥ずかしすぎる。なんたる失態だ。


「………カ、カイル様が笑うからです……」

「え?」

「私のこと、レディとして見てくださらないから。ちょっと見返して…、びっくりさせたくて……」


 両手で顔を覆いながら精一杯の言い訳をする。


「ふふ…、…ティアラは今でも充分魅力的な女性だよ?」

「でも、すぐ頭を撫でられますし……」

「あ…、あー…。もしかして、それも駄目なの?」


 カイル様は参ったな……と悩ましげな表情を向ける。


「ダメ…ではない…ですけど。頻繁に撫でるから、いつまでも子どもなのかと思って」

「ん……。これでもだいぶ我慢してるんだけどな」


 あれで我慢しているのか。


「これは勘弁してほしいな…。でないと……」


 顔に当てていた両手を取り覗かれ、紫と深い青の瞳が向かい合う。親指で唇を優しくなぞられると時間が止まったかのように動けなくなってしまった。



「もっと……、…欲しくなる」



 その艶やかな深海の色に、まだ見ぬ大人の一面が見え隠れする。


「カ…イル……さま」


 その瞳に魅せられる様に吸い込まれ、紫の瞳が混ざり合う……その瞬間。


「わかりました!撫でてもイイデス!!!」


 カチコチになりながらそう答えると、ニコッと微笑んで唇の少し横に口づけを落とされた。



「ふふ、それはよかった」

 




・ちょうどいい頭の高さで、そして大好きな子なので、それはもう撫でたくなってしまうんです。

・下手に度を越した触れ合いはできないから愛情表現が全部頭に集中しちゃうんですね。(カイルの場合)







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ