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お嬢様は新入生歓迎会に行く2


 会場内はどこも華やかで、生徒による歌や演奏もレベルの高いものだった。


 途中ソフィアのところにも改めて挨拶に行き、先程のことを聞いてみたのだが、なんてことない寧ろ『健康茶のいい実験台になってくれてとても参考になったわ』と余裕の微笑みを返されてしまった。


 そうそう、クレアたちにも出会ってカイル様を改めて紹介したのだけど二人とも私と同じような反応でぎこちない挨拶を返していた。


「たまに見かけることもあったけど、こうして改めて話すのは初めてだね。ティアラからよく話は聞いているよ」


 フレジアは緊張から硬直してしまっていたし、クレアは何度も吃って恐れ多いですと言って数歩後退っていた。


「これからも仲の良い関係でいてくれたら嬉しいな」


 その言葉と神々しい笑顔に当てられフレジアは崩れ落ちてしまい、慌ててそばに寄った。フレジアしっかり。私もさっき同じ反応したよ………。


 クレアは、どこか怯えるような震え方をして立っていた。大丈夫だろうか…。でも立っていられるなんて逆にすごいのかも…と変な感心を抱いてしまった。





「ティアラ、少し休もうか。あっちに可愛いお菓子が並んでたから行ってみよう」


 お菓子と聞いて目がキラッと輝いて反応する。以前、お茶の会からお菓子が提供されると言っていたけれど、それもここにあるのかしら…?


 ワクワクしながら立食形式のテーブルへ足を運ぶとそこにはさまざまな料理と共に物珍しいお菓子や、可愛らしいお菓子が並べられていた。


「わぁ…、沢山あって迷っちゃいますね。見たことのないお菓子がいっぱい。宝石みたい…」


 そこに並べられたデザートはゼリーを宝石の様に型取って金粉をまぶしたものや、砂糖漬けのすみれ、繊細な形の飴細工が乗ったケーキなどさまざまなものがあった。


「好きなものを取ったらいいよ。食べれなかったらまた食べてあげるから」


カイル様の言葉は優しくて魅力的で、またもや背中から後光の光が放たれているかの様でとても眩しい。


「い、いえ!…今日はちゃんと食べれる分だけにします」

「本当にいいのに」


 ここは甘えには乗らずグッと我慢する。今日はいつも以上に淑女でいなければ…。ほんのり染まる顔を誤魔化すように取り皿にプチケーキを数個取り入れることにした。


「カイル!」


 だいぶお腹が満たされてほくほくしていると、遠くから黒い短髪の男性が声を掛けてきた。


「食事中にすまない。魔術科の演出のことでちょっと相談したいんだが……。…と、御令嬢の方もご一緒だったのか…」


 こちらを見てきたのでカーテシーで挨拶をしてみたのだが、黙ったまま何も喋らなくなってしまった。

 対応に困ってしまい、小首を傾けて曖昧に微笑んでみた。


「何かあったのか?」

「あ…!…いや…その……」


 私の前に立ちカイル様が間に入ってくれた。慌てて相手の方も先程の話の続きを再開し始めた。私は邪魔にならないようにカイル様の後ろに立ち、二人の会話を見守ることにした。


 …順番が…、魔法の範囲が…など聞こえてくる言葉から推測すると何か魔法がうまく操作できない箇所でもあったんだろうか。精霊石がもっと必要なのかな…?


「ティアラ、悪い。ちょっと確認しにいかないと駄目みたいだ。一緒に連れて行きたいんだが…」

「…いえ、邪魔になってしまうのでここで待ってます。どうぞ行ってください」


『一人でも大丈夫です。安心して行ってください!』とニコっと笑って見せたのだが、カイル様はそれでもどこか納得いかない様子で私の髪を優しく撫でると、大きなため息を一つ溢した。


 髪をすくように指を絡め、名残惜しいとでもいうようかのに口づけを落とした。


「なるべく、すぐ戻るから…」


 カイル様の後ろ姿は人混みに紛れてすぐに見えなくなってしまった。


「……うぐっ…」


 傾きそうになったが、両足でぐっと踏ん張って立った。足は生まれたての小鹿のようにぷるぷる震えていた。


『カイル様、今日はやけに心臓に悪い行動ばかりされてませんか……?』





 会場の壁際に行き談笑や休憩用に用意された椅子に座る。実は高いヒールでずっと立ち歩いていたのでそろそろ足が痛くて限界だったのだ。(カイル様の色気に当てられたせいもある)


 背もたれのクッションに身を預けると少しずつ痛みが幾らか和らいだ。


 周りを見渡すと皆それぞれ楽しむ生徒達の様子が窺えた。噂の皇子と皇女はというと、彼らの周りには沢山の人だかりができていて一目で場所がわかるといった感じだった。


 ……カイル様は近づかないようにと言っていたので自分から近づく気にはならなかった。国を担う方々だもの、社交の顔は何枚もお持ちなのだということなのかな…?


 行き交う人々をぼーっと眺めているとシオン様らしき人が歩いてるのを発見した。あちらもこっちに気づいたのかお互い目があった気がしたのだが、そのまま歩いて行ってしまった。


 ………あれ?気づかなかったのかな?


 手に持ったグラスを少し傾けながら、しょぼんとしていると、急に視界に影ができた。


「…失礼。麗しの薔薇の君、お一人ですか?よろしければ、ご一緒しませんか?」


 目をパチパチさせてぽかんと相手の顔を見てしまった。左右を確認して後ろも見たが、…え?まさか私のことを言ったのだろうか。よくわからず曖昧な顔をして返事を返す。


「おいおい、いきなり声かけるから困ってるじゃないか。ねぇ、君一年生?」

「え…?」

「お前こそ礼儀がなっていないんじゃないか?」

「二人ともそうがっつくなよ。みんなで話そうぜ」 

「あ…あの」


 一人、また一人と人が集まってきた…。知らない男性に囲まれるというのはなかなかの恐怖だ。嫌悪感で胸がぞわぞわする。


「わ、私、一緒に来た方がいますので…」


 突然の出来事で声が震えてしまう。


「ほら、お前たちが群がるから怯えちゃってるじゃないか」


 スッと立ちあがりお相手の方がおりますので…もう行きますと声に出せたか出せないかのか細い声で言うとグラスをテーブルに置いて、足を早めた。


 こわい…



 カイル様………




 カイル様のそばがいい………




 ここはいやだ………


 


 目頭が熱くなるのをこらえて周りを見渡す。


 外に行ったのかな。魔法のショーは確か中庭でやると言っていたし。でも外は暗いから一人で行ったら危ないとも言われていたし。頭の中はごちゃごちゃだった。


 いかにいつもカイル様に頼りきっていたかを痛感させられる。


 一人で歩いているとまた違う人が声を掛けてきた。すみません…と断り前へ進む。不安で心臓の音がいつもより大きく鳴っているような気がした。奥へ奥へと進むと、やっとよく見慣れた青年が何人かの研究生らしき人たちと話してる様子が見えてきた。


『カイル様……!』


口を開け、声を出そうとしたのだが………。


カイル様の周りには数人の大人っぽい女性も混ざっていてカイル様に擦り寄ろうと腕を触ったりしていた。



………あ…




見てはいけない。


 咄嗟にそう思った。……いや、見たくなかったのかもしれない。そこにいたのは私にはない要素を持ち合わせた令嬢達ばかりだった。


 私の知らない大人のカイル様がそこにいるような気がして不安になった。気づけば、一歩…また一歩と……後ろに下がって逃げてしまった。





「こんばんは、君は新入生さんかなぁ?」



……確か…生徒会の方?


 会長が挨拶した時一緒に並んでいた姿を思い出す。短髪のグレーの髪の彼は下から上まで品定めするかの様に舐めるようにこちらを見てきた。


「これから中庭で魔法のショーがあるんだ。会長もいるし、皆で見に行くんだが君もぜひ一緒にどうかな?ほら、あそこに会長がいるだろう?」


 さぁ…と強引に肩を掴まれ押すように誘導される。


「あ、あの!私は場違いですので…!!!」


「そんなことない。こんなに綺麗な子を残して行くなんて俺にはできないなぁ。だいじょ~ぶ、他の令嬢達も沢山いるから。…ね?不安がることなんてなにもないからさぁ?」


 奥には会長とそれに群がる令嬢たちがいた。直感的にぞわぞわと気持ち悪さを感じた。

 あっちになんて行きたくない…!先ほど多くの人に言い寄られた時よりも、もっと胸がざわつき嫌悪感が増すようだった。


 肩を撫で回すように触ってくる手慣れた手つきも鳥肌が立ち悍ましいもののように感じられた。なのに肝心の声が出ない。


嫌…いや……。触らないで…!!私の足、もっと踏ん張れっ!!声よ出ろ!!!怖がってる場合じゃない!!!



 やだ……!カイル様……!!!!



「その手を放してもらおうか?」



 突然ぐいっと私の肩に乗っていた生徒会の方の腕を持ち上げ引き離される。振り向くとそこには一番会いたかった人の顔があった。


 そのまま身体を引き寄せられ私はあっという間にカイル様の腕の中に収まった。



「失礼、ディガル卿。彼女は私の婚約者なんだ…。気やすく触らないでもらおうか」

「なっ!失礼はどっちだ。俺はあくまでも彼女をエスコートしたまでだ」

「汚い手で触って無理やり連れて行くのが紳士の、…ましてや生徒会のやることなのか…?」


 カイル様は掴んだままにしていたディガル卿の腕を強く捻り鋭い目つきで睨んだ。いつもと違う冷ややかな声は周りの空気まで凍らせたかのように重く冷たかった。


「…くっ。離せっ!!」


 そのまま無理やり手を解こうともがき引っ張ろうとした瞬間カイル様は突如パッと手を離した。するとその反動で彼は受け身を取れずに無様に床に転がった。


「これ以上彼女に近寄ったら次はないからな……」


 そう言い捨てるとカイル様は私を人の少ない場所へと連れて行ったのだった。




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