クレアとアスターと時々ティアラ
・いつも誤字訂正報告ありがとうございます。本当に本当に感謝でいっぱいです。
・描写には気をつけているのですが、少し動物の悲しい文章が入ります。苦手な方はご注意ください。
フォルティス卿に言われたように、コーディエライト先生の研究室へ向かう。
アスターのことは私と一緒で魔法への興味が高いことや、フォルティス卿とも繋がりがあることから上手く誤魔化して研究室の中へと入れてもらうことができた。
そんな彼だが、最初こそきちっとしていたのだが最近はというと………。
「ルビーは本当、今日もかわいいなぁ」
部屋へ入るなりすぐにルビーを触りに行くようになっていた。
「はぁ…、シノン先輩すみません……。あの人はもうほっといてください。その内、話に参加すると思うので。それより例の人工水晶の件ですが、まだ回収とチェックが終わってないのでもう少し待ってほしいとフォルティス卿から言われまして……」
「ああ、そっか。わかったよ」
「あの、コーディエライト先生はどちらに?」
「先生は会議だよ。秋の剣術大会の準備でどこも忙しいみたいでさ。先生も駆り出されたみたい」
おかげでシノン先輩の方の研究は停滞気味なんだ…と残念そうに言われた。
「先生も引っ切り無しに出かけるからルビーのお世話はずっと僕が見ているようなものでね。なぁ、ルビー」
名前を呼ばれると「ミャー」と反応する。
「俺にとったらそれちょっと羨ましいなぁ」
アスターはいつの間にか、ちゃっかり椅子に腰掛け、ルビーを抱っこしてくつろいでいた。喉元を撫でられルビーもゴロゴロとリラックスしている。
「シノン先輩、使い魔ってどうやって飼うんですか?まだそういうの一年では習ってなくて」
「使い魔か。…あまりお勧めはしないかな。それに何より強い魔力がないと契約できないしね」
「強い魔力…。俺も熱心に勉強したら…」
「おいおい、今言っただろう?お勧めできないって」
苦笑しながらシノン先輩がもう一度言う。
「どうしてですか?」
「あ……うん。使い魔っていうのはね、基本的には主人の僕だろう?だから、要は自分の魔力のスペアだね。主人が魔力渇望や瀕死状態になった時の保険だよ」
「…え…」
まさかそんな関係だとは知らず、私達は唖然としてしまった。
「俺、ルビーに死んでほしくない。なぁ、ルビー?」
アスターは悲しそうにルビーを撫でると嬉しそうに鼻や額をすりすりと擦りつけてきた。
「使い魔にも種類があるんだ。基本的な部分は変わらないけれど…」
使い魔とはそれぞれ、魔力の契約を持って主従関係となるのだそうだ。対象となる動物に自分の魔力を移すのだ。その為、元々人間に懐きやすい動物、つまり鳥や犬、猫などが選ばれやすい。ある程度手懐けた後、契約として自分の魔力を流し込むらしい。
だが皇族の場合は、少々異なる。
皇族用の特別な鳥が宮廷で飼いならされているのだが、そこでは専属の調教師が訓練し、皇族へと引き渡される仕組みとなっている。
そして契約時には、皇族の濃い魔力を使い魔に宿す。すると、その体は金色に輝き、主と共同体の存在となり、手足や、目は主の代わりとして自由自在に動かすことができるのだそうだ。
「その鳥って結局どうなっちゃうんですか?生きているっていうより皇族に支配されて生かされているというような気がするんですけど…」
「クレアのいう通りだよ。動物側の意識は若干あるけど、大体は生かされてるだけだろうね…」
「そっか…。そしたら、ルビーはまだましだな。呑気にお散歩してるし、好きなところで眠ってるしな。学園にいれば先生が危ない目に遇う可能性も少ないしな」
ルビー、ルビー、と呼べばその都度、可愛らしい声で返事をする。
「あ、シノン先輩。ルビーの好物ってなんなんですか?俺今度持ってきたいんですけど」
「ア、アスター!何言ってるのよあなた」
私の護衛も兼ねてついてきているのに。大人しくしててよと、ジトっとした目で訴える。
「……。ルビーは偏食なところがあるからね。持ってきてもたぶん食べないよ」
「えー。そうなんですかぁ?お前、そういうところあるのか?こんなにもこもこで太いのにな」
「シノン先輩、さっき使い魔にも種類があるって言ってましたけど、他にもあるんですか?」
「え…、あ、ああ、そうだね」
突然話を振られて、シノン先輩が少し歯切れの悪い答え方をした。
「主の代わりに病や傷を肩代わりするってこともあるよ…。使い魔っていうのはね、結局は主の道具的な存在というのかな……」
「なんか、可哀そうですね」
「だろう?だから、むやみに契約を結んでほしくないんだよね…」
「あ、じゃあ、ルビーはどっちなんですか?」
アスターが質問する。確かにそこは私も気になった。
「ルビーは…、使い魔だけどちょっとまた違うかな。ルビーと先生が契約を結んだ時、ルビーはすでに瀕死状態だったんだ。それを無理に契約したんだ…」
「え…。先生、いい人!…お前のご主人様意外といいやつだな」
両脇を抑えて上に持ち上げる。瞳を見つめると赤い目がキラキラと優し気に輝いた。
「もしかして、偏食なのもそのせいですか?」
「…うーん、まぁ、そうなるのかな…。でも、この話をするとしんみりしてしまうからね。ここまでにしよう」
シノン先輩は悲し気に笑うと、そういえば…と違う話を持ち出してきた。
「フレジア嬢は元気にしてるかな?最近さっぱりこちらに来なくなってしまったけど…」
「え…、あ、ああ!!フレジアは元気ですよ。秋の大会に出るみたいで一生懸命練習してるんです!」
「へぇ…。そうか、そちらにも参加するんだね。彼女はすごいなぁ…」
いきなりフレジアの話をされて動揺する。
「以前彼女と約束したんだ。面白い魔法ができたら見せてあげるって。今度フレジア嬢に会ったら伝えてもらってもいいかな?新しい魔法、作れたよって」
「……えっ…と」
正直これにはなんて返事をしたら正解なんだろう……。シノン先輩も本当に信用していいかわからない存在だ。そんな人と大切な友達を引き合わせていいのだろうか。
フレジア自身もシノン先輩とコーディエライト先生のことは伝えていた。彼女は動揺しつつも私が話すことをなんとか受け止めていた。そして、こう言ったのだ。
『ちょっといいなって思っただけだから…。ほら、憧れてただけよ。だから大丈夫!これ以上憧れが恋に変わったら厄介よね。…だから、教えてもらってよかったわ。…うん。これでいいのよ』
それは無理やり自分に言い聞かせているような言い方だった。
(それなのに、今度はシノン先輩側がそんなこと言うなんて。ど、どうすればいいの…?)
「え、えーっとですね…」
「シノン先輩、差し出がましいかもしれませんが……。そういうことは自分で言った方がいいと思いますよ。その子のことが気になるなら、ね」
「え、あ、ああ。……そうだね」
アスターが滑り込むように助け船を出してくれた。
(よ、よかった。そうよね…。こういうのは私が言うべきじゃないわよね……)
目線で合図する。
(ごめん、ありがとう)
彼は目で理解すると、適当な理由をつけ部屋を出ることにした。
「クレア、今日の宿題教えてくれるんだろう?ノート、寮に置いて来ちゃったから一旦戻っていい?」
「え?あ、…うん」
「シノン先輩、お邪魔しました」
「クレア、行こう」
その言葉に従い廊下へ出るとアスターは既に前を歩いていた。だが、研究室からだいぶ離れてからぴたりと止まると、後ろを追っていた私を待ってくれた。
「くっ、くくっ。お前、アドリブ下手だな」
「なっ!!」
「俺がいなかったら危なかったんじゃない?安請け合いはしない方がいいんだぜ?」
「むぐっ…。だって、しょうがないじゃない。私そういう駆け引きとか下手なのよ。それにフレジアの気持ちだってわかってたから…」
「でも、本当に気があるなら、そもそも他人に任せたら駄目だろ?」
「え……、あ……うん。そうね。そうよね……」
ぐーっと伸びをすると彼はまた歩き出した。
「さ、帰ろうぜ。今日の役目はこれで終わりだ」
あー、ルビー可愛かったなぁ…と呟きながら前を歩いている。本当に猫が好きみたいだ。
「ねぇ!」
「んー…?」
「さっ!さっきはありがとっ!!」
「おう。一応お前のお守りをしろって言われているからな」
顔だけこちらへ向けると軽く笑った。
「なっ、何よ!お守りじゃないわよ!護衛でしょ。もうちょっとしっかり守りなさいよね!」
ルビーは可愛いけれど、そっちばっかに気を取られた癖にっと剝れるとまた彼に笑われてしまった。
◆◆◆
「ちょっと待ちなさいよ!!!ねぇ…!聞いてるの?!!質問に答えなさいっ!!!!」
廊下にその声は響き渡るが、私は後ろを見ずに小走りに前を進む。実は今、ヴィオラ様に追いかけられているのだ。
(うう…。怖い…!!!)
ちょうど先ほど、ソフィアの草花を愛でる会に立ち寄り、追加のチーズを分けてもらったとこだったのだ。こちらもすごく美味しくて気づいたらぺろりと食べてしまった……。
ソフィアに聞いたら、チーズだったらまだ残りが沢山あるからということですぐに飛びついてしまった。けれど、寮に帰る途中、運悪くばったりヴィオラ様に逢ってしまったのだ。
ヴィオラ様はこの前私とクリス皇子が一緒に歩いていたという情報をどこからか得たようで、それはどういうことか!と質問攻めをしてきたのだ。
『私が大荷物で歩いているときにたまたまクリス皇子が通りかかったんです』
『嘘おっしゃい!!本当のことを言いなさいっ!』
『嘘じゃないです。本当に、たまたまなんです』
『寄り添うように歩いていたって聞いたわよ?あなた婚約者がいるのにふしだらなんじゃなくて?』
何をどのように言っても全く聞いてくれなかった。なので、もうここはしょうがない!と思って、適当に流して逃げることにしたのだ。
(なのに、なのに、追ってくるなんて………)
廊下の突き当りを曲がると、そちらは人が全くいなかった。いつもなら淑女らしさを優先させるが、もうここは走ってしまえ。もし曲がったその先に人がいた場合はまた小走りすればいい。
私は周りを確認してから一気に走った。そして次の角を曲がる!まがっ、まが、……まがるる???
「むぐっ」
キュキュッ!!と止まろうとするが間に合わない。前にいたのはなんとカイル様だった。
「わっ!どうしたの?ここ、研究生の棟だよ」
「え?あ、わわわ、ごめんなさい。それより、ちょっと匿ってください。ヴィオラ様に追われているんです!」
後ろを振り向くも、ヴィオラ様はまだ追い付いていないようだった。
「あー…、わかった。とりあえずこっち来て」
カイル様に手を引かれ、空いている教室へと急いで入る。そこには長い机と椅子が並んでいた。更に見渡すと一番前には教卓がある。カイル様はすぐさま教卓へ誘導すると、そのくぼみに入る様にと指示された。
縮こまりながらもドグドクと心臓が大きく鳴り響く。
廊下からはヴィオラ様の声が聞こえてきた。だが、段々とその声は小さくなっていく。どうやら、ここに気づかず廊下の奥へ行ってしまったようだ。
「もういいよ」
全身の力が抜けてほっとする。
「大丈夫かい?なにがあったの?」
「あ…、えっと……」
正直に言うべきか……。あの日クリス皇子に荷物を持ってもらったことを言ったら怒るだろうか。いや、絶対に怒る……。怒った顔を想像してブルブルっと震える。
「あれ?ティアラ、何持ってるの?」
「え、……あ……」
ささっと後ろに隠してしまった。こっちもこっちで言いづらかった。けれど……。
「えーと、チ、チーズです……」
どっちを言うべきか迷ったが、怒られなさそうな方を選ぶことにする。
「え?」
「チーズですっ!」
「…………ふっ、ふふ…、なんでチーズ持って走ってるの?」
「もぅ、笑ったら駄目です。私だって、走りたくて走ってたわけじゃないですよ?」
カイル様はきっと想像したのだろう。この前のナッツに続き、今度はチーズだ。私がネズミにでも見えたに違いない。またドツボにハマったかのように苦笑し始めた。
「だ、だから言いたくなかったのに。カイル様のばかっ」
思わず暴言まで吐いてしまった。それくらい可笑しそうに笑うんだもの。私だって怒る時は怒るのだ。薄っすらと目が熱くなるのを堪えながらそう言うと今度は抱き着いてくるではないか。
「もぅ、もぅ、なんなのですか。もうちょっとレディとして見てください!こんなに努力してるのに」 「ごめん、ごめんって。だって……あまりにもティアラが可愛すぎるから……」
「でも、笑ってる!」
もう一度怒ろうとすると、突然ガラッとドアが開いた。ビクッとカイル様の腕の中で反応する。そこに立っていたのはさっきのヴィオラ様だったのだ。
「………見つけましたわ。あなた、クリス様に手を出しておきながら、今度に違う殿方と密会……?いい度胸ですわねぇ?聞いていた以上にやり手のようね……………」
あわわわわわわ…………




