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ソフィアからの特別なプレゼント

 

 久しぶりに今日はソフィアとカイル様と三人で食事をしていた。なにやら、ソフィアが特別なプレゼントを用意していると言っていた。なんだろう?

 

「はい、これ」


 ソフィアに手渡されたのは、様々なナッツやドライフルーツが入った小瓶だった。


「ナッツ?」

「そう。以前レヴァン領に行った時に、クラン用のお茶にすごく食いついていたでしょう?だからアルに教えてもらって身長促進に繋がるものを一緒に探してもらったの」


 アルベルト様は、見た目は剣術の強豪のような勢いのある人……といった印象がとても強いのだが。ソフィアがいうに、きちんとした考えを持って行動している面も多々あるらしい。


 このナッツ類についてもそうだ。


 彼は戦争での携帯食や、貧困層に対しての栄養価の高い食べ物についても目を向け研究している。本人としては、自領にて、昔酷い伝染病が発生し医療と食糧難に陥った時期があったことが何よりのきっかげだったそうなのだが。


 帝都にいる間も、アルベルト様はよくスラム街へ訪れていたそうだ。そこで流行っている病気や、援助体制について、また帝都での設備状況についてなど、様々なものを見て回っては他の研究者たちと論議を交わし改善点を話し合っていたそうだ。


 以前、アルベルト様とシオン様に街へと誘われた時のことを思い出す。もしかしたら、あの時もスラム街へ行く途中だったのかもしれない。


「もうすぐ秋の剣術大会だし、歌の練習も多くなるでしょう?それにヴィオラ嬢にも絡まれているみたいだったし。いつもの運動は控えた方がいいかと思ってね」

「ソフィア……」


 思わずジーンとしてしまう。彼女の優しさが伝わり心が熱くなった。


「そうね、お外歩いてたらいい標的にされそうよね…」


 実は何度か押されそうになったことがあったのだ。


「わかったわ。そうする」


 その言葉に、隣にいたカイル様も少しホッとしたような顔をする。二人とも心配していた様子が窺え少し申し訳ない気持ちになった。


「二人とも心配させてごめんね。私も気をつけるわ」

「うん。あ、それからね、中にあるクコの実と干し葡萄は美容にもいいんですって」

「え、そうなの?」


 その言葉にキランッと目が光る。


「クコの実は少し独特な味かもしれないのだけど、食べれるかしら」


 一個食べてみてと言われ、試しに一つ口に入れる。少し癖はあるが、甘い。もぐもぐと口を動かしながら、平気だよと目で答える。


「沢山じゃなくていいから、毎日少しずつ食べてみてね」


 ソフィアは嬉しそうに微笑んだ。私も、うんうんと頷き、もう一つ違うナッツに手を伸ばす。こっちも香ばしい味がして美味しい。少しでいいと言われたが、つい手が伸びてしまう。


 美味しいのに、背を伸ばすにもいいだなんて。なんてすばらしい食べ物なんだろう!


 探してくれたソフィアやアルベルト様に感謝でいっぱいになった。キラキラと目を輝かせてまたもう一つとナッツを口に入れると、隣から小さな笑い声が聞こえてきた。


「……カイル様?」


 カイル様は手を口に当て肩を震わせている。


「あ、……うん。すまない。……ティアラがリスの様に見えてなんだか可愛くて…つい」


(………リス……?)


 思わず、ほっぺたいっぱいにどんぐりを頬張るリスを連想する。


「も、もうっ!なんてこと言うんですか!カイル様ひどいっ!」


 腕を掴んで揺さぶるが、全くびくともしない。


「ふっ、ふふ。ごめん……ごめんって」


 頬を赤らめ、むむむむっと怒るが、カイル様はツボに入ってしまったようでなかなか笑いを止めてくださらなかった。


「もう、お兄様ったら。困っちゃうわね…。こっちは真剣なのにね」

 

 うんうんと深く頷く。


「もうほっときましょう。それよりもね、もしよかったら放課後に草花を愛でる会にも行ってみない?たぶんそっちにもティアラが好きそうなものがあると思うの」

「え、そうなの?」

「えぇ。美容や体型に効果のある薬草茶やアロマとかね。ティアラも安心して使えそうなものを用意するから。どうかしら?」

「行く!行きたい!」


 私は思わず声を上げた。最初こそ、健康茶のインパクトに恐れおののいていたけれど、体型や美容にも効くものがあるとわかったので俄然興味が出てきたのだ。


 そんな私の様子にソフィアはくすりと笑うと、私にだけ聞こえるように耳元で囁いた。


「胸を大きくするような食べ物も見つけたのよ」

「えっ!?」


 びっくりしてソフィアの顔を見ると、悪戯っぽい表情をしていた。


「ソフィア、ほどほどにするんだよ?ティアラはなんでもすぐ信じ込むところがあるから」

「わ、わかっているわ。押し付けるようなことはしないわ。というか、婚約者のことを大笑いしていたような人に言われたくないわ」


 腕を組みツーンとした顔をする。カイル様はまだ笑っていたが、私にも念を押すように無理はしないようにねと言われた。カイル様は午後も研究が忙しいので一緒には来れないようだった。


 ちょっと残念だが、もしかしたら単に草花を愛でる会に近づきたくなかったからかもしれない。なにしろ、いつも酷い薬草お茶をソフィアに試し飲みさせられているくらいだったし……。





 草花を愛でる会の教室は、温室を併設した場所で至るところに草花が咲き誇っていた。

その美しい光景に見とれていると、隣にいたソフィアが奥の席へと案内してくれた。


「こんにちは、ティアラさん。ソフィアさんからよく聞いているわ。わたくしは、ディアナ。この会をまとめている者よ」


 ディアナと名乗る女性は、この学園の三年生で、金色の髪を腰まで伸ばし肌も透き通るように白く気品溢れるお嬢様だった。その両側にも数人の女生徒が出迎えてくれる。煌びやかなお姉様に囲まれなんだか緊張してしまう。


「ふふ、ティアラ大丈夫よ。皆優しいお姉様方だから」

「う、うん。よろしくお願いします」


 そう言うと、ディアナ様方は微笑んで歓迎してくれた。席に着くと、お姉様方はそれぞれ自分のお勧めの焼き菓子やお茶をふんだんに振舞ってくれる。それはどれも珍しいものばかりで、味もとても美味しい。


「すごいでしょう。意外と美味しいでしょ?」

「うん…。これってソフィアも作ったりするの?」

「ええ、もちろん!そのドライフルーツがいっぱい入っているショートブレッドは私の自信作なのよ?」

 

 それはちょうど今、私が食べていたものだった。ぎっしりとドライフルーツが詰まっていて、シナモンの香りがふんわり口に広がりとても美味しい。一口食べるとサクッとした食感と共に、甘酸っぱい果実の風味が口の中に広がっていく。


「ソフィアはとてもお料理上手なのね。アルベルト様にもあげたの?」

「えっ!ああああ、そ、そうね。そんなこともあったかしらね」


 あまりにもわかりやすいリアクションをするので、クスっと笑ってしまった。


「ちょっとティアラ、何笑ってるの!」

「だって、だって、あまりにも分かりやすかったんだもの。ふふ、すごく喜んでくれたのね」


 予想するのは簡単だった。恥ずかしそうに頬に手を当てて、照れ笑いを浮かべるソフィアを見て私もなんだか嬉しくなってしまった。


「ソフィアさんは婚約者様ととても仲が良いようで、たまにこちらにも足を運ばれるのですよ。お顔立ちも整った方だし、わたくしたちにも優しく薬草の手引きをしてくれますしね」

「そうなんですか?」

「ディ、ディアナ様っ!私たちのことはそれくらいで…。そ、そうだ!さっき言ってた体型にとても効く食べ物なんだけどっ」


 今持ってくるわ!と慌ただしく奥へと行ってしまったソフィアを見送っていると、横に座っていたディアナが耳打ちしてきた。


「真っ赤になっていたけれど、いつも草花のお話をする時にエルスター卿のことを話されるの。本当はとっても好きなのでしょうね。すぐ照れてしまうのがいじらしいわよね」

「ふふ、それ、私といる時もそうです」

「まぁ」


 本当に可愛らしい方ねとディアナ様は上品に微笑んでみせた。




 

 結局、草花を愛でる会を出る頃には沢山の手荷物でいっぱいになってしまっていた。ソフィアやお姉様たちとのお茶会は薔薇が舞うようで不思議な世界だった。


 殿方はこのような香りがお好きななのよ?ティアラさんにはこのアロマが……、いえいえ、こちらの薬草はお肌にとても良いですわ。とまあ、ふわふわとした空間で、あれもこれもとお勧めされてしまったのだ。特にソフィアが持って来てくれたこの特別なチーズは早く試したくてうずうずする。


 小さいリスとカイル様は私のことを笑っていたけれど、これを全部試してびっくりさせちゃうんだから。綺麗に大変身した自分とメロメロになったカイル様を想像するとニコニコが止まらなかった。


「やぁ、ティアラじゃないか。やけにご機嫌そうだね」


 シャボン玉がパチンと割れたように、急に現実に引き戻される。声をかけてきたのは、クリス皇子殿下だった。今日も麗しいその顔立ちは相変わらずだった。


「クリス皇子殿下っ!」

「すごい荷物だな。ほら、持ってあげよう」


 すっと荷物を取られてしまう。私は慌てて、自分で持つと言うが、大丈夫大丈夫と言ってスタスタと行ってしまう。


「あの、もしもヴィオラ様に見られたら叱られてしまいます」

「ヴィオラに?ないない。この前注意しただろう?それに、今までだって無関心だったんだ。今更口を出すなんてことしないさ」

「そ、そうでしょうか……?」


 本当にそうなのだろうか……。思わず周りをキョロキョロしてしまう。


 周りにはそれらしき人物の影は見当たらなかった。皇子もそれ以上何を言っても譲ってくれなさそうだったので諦めることにし、感謝の言葉を述べ、遅れないように後ろを歩くしかなかった。


「皇子はどちらまで行かれるのですか?」

「ああ、剣術用の広間までさ」

「秋の大会……、皇子も参加されるのですか?」

「……いや。私は今回は参加しないよ。参加したら、周りが遠慮して実力を出し切れないだろうからね。だが、第三皇子が特別なものを用意すると言っていたからな。たぶんそれと戦うと思うよ」

「……え、特別なもの…ですか?動物とかですか……」

「ククッ。だったらいいんだけどな」


 噂によると第三皇子は気性の荒い方だと聞いている。クリス皇子殿下に対しても無理難題を押し付けてくる方なのだろうか。


「大丈夫なんですか……?」

「……ん?なにが?」

「あの、危ない生き物と無理に闘わせるとか…、なのかなと思って」

「フッ。心配してくれるのかい?君は私のことを良く思っていないんじゃないのかい?」

「良くって…」

 

 言葉に詰まってしまう。確かに、正直に言えば彼は掴みどころがなくて少し怖い。でも、それとこれとでは話が違う。それに……


「皇子殿下は直接私に対して何もしていません。もやもやする部分はありますけれど……」

「……もやもやね。混沌といった感じかな」

「正しくそれですね…。けれど、こうして紳士な対応をしてくださいますし、周りに対しても的確な指示を出される方です。それに、助けてくださったこともあります」


 それが計画的なことで、純粋な良心からのものでなかったとしても……。


「こうやって、お話している方がある日突然怪我をしたら、やっぱり嫌です」

「…………君は私が大怪我をしたら泣いてくれるのかい?」

「当然です」


 なぜそんなことを聞くのだろう?


「怪我は…嫌です……」

「…………覚えておこう」


 皇子殿下は眉を寄せ、少し悲し気な顔をしたような気がした。


「……君は罪づくりな人だね」

「え?」

「君と話しているとどうも調子が狂うよ……」

 

 クリス皇子殿下は前を向き、先ほどよりも早足で歩き始めてしまう。その後ろを少し小走りになりながらついて行く。奥へ進むと稽古場が見えてきた。そこでは生徒たちが剣を振り回したり、型の確認をしている。


 遠くではシオン様やディガル卿、そしてフレジアも他の生徒達と混ざり訓練をしているのが見えた。


「ここまでだが、後は一人で持っていけるか?」

「あ、はい。ありがとうございました」


 クリス皇子殿下は、腰に備えていた剣を持ち直し奥へと進んでいく。皇子殿下が訪れると自然と生徒達が集まっていく。皇子殿下は手際よく剣術の上手い者を数名集めると、剣術の方の甘い者達への指導援助をするよう指示する。


 その行動は的確で良い指導者の様にも見えた。本人の心の内がどうであれ、彼は王族としての行動と責任を果たしている。彼を慕う者が多いのもどこか頷けた。


(いい人のようなのに、どこかよくわからない……)


 本当に復讐したいと思っているのかな……。今のままでは駄目なのだろうか。


 彼の心の奥は暗くて見えない。私がカイル様に支えられたように、彼にも皇子ではないクリス様自身を見てくれるような人がいればいいのに。


(もう少し、言葉で分かり合えたら一番いいんだけどな……)


 彼を遠目で見ながら、一礼すると、自室の方へと進むことにした。






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