【番外編】〇〇しないと出れない部屋?
・誤字脱字報告本当にありがとうございます!すごく助かります。
・また短編ネタが書きたくなってしまいまして………。秋の大会1、2の間に置くのは格好悪いので、二章の終わりにくっつけました。時系列的に「カイルがレヴァン家に遊びに行く二日前の話」になります。
※カイルの我慢と欲望のネタになります。イメージ崩れる方はご注意ください。
真っ白な空間
ティアラとカイルは不思議な部屋に迷い込んでいた。
「この部屋……、何もないですね」
白、白、白………。窓も扉も見当たらない。
カイルはすぐに周囲を見渡す。
「あら?………ここ、なんだかふわふわ」
いつの間にか大きな白いベッドが現れた。確かさっきは何もなかったはず。
「あ、こっちにはテーブル。ソファも」
ぽふぽふ
とても柔らかいソファだった。ティアラはその上質なソファに腰掛けてみるも、ふわふわすぎてみるみるうちにうずもれてしまった。
「ティアラッ、大丈夫?」
「は、はい…。すごくふわふわでちょっとびっくりしました。……でも気持ちいいです!これは…人を駄目にするようなソファです。カイル様もちょっと座ってみてください」
ポンポンとソファを叩く。
「え、あ……うん」
言われた通りティアラの隣に腰掛けてみる。
(なんだこれ……。気持ちいい…)
「これは、すごいな………」
「ふふふ、ですね!あっ、じゃあ、あっちもそうかしら」
トトトト………
ベッドの方へ探索に行く。そちらの感触もこれまた捨てがたいものだったようだ。上品な毛並みのシーツと毛布の感触だったのだが。
「きゃぁああああ、ふかふか。ふかふか…です。巨大なルビーと一緒に寝ているようですっ!」
ティアラは普段奇声を上げるような子ではない。むしろふにゃっとか、ぽわーっとした子だ。そんな子が大声をあげるほどだ。相当お気に召したのだろう。
「全身で抱きしめているような……。いえ、むしろ抱きしめられてるような感触です」
一応伯爵令嬢なのに、…更には婚約者もここにいるというのに、警戒心ゼロでベッドに横たわってしまった。
「ティア、そのまま眠ってしまうのかい?」
「ふあっ!す、すみません………。すごく心地よくて。カイル様もどうぞ?」
「え…………?」
「こんな体験きっと滅多にないです。さっきのソファも極上でしたが、こっちはもっと夢が詰まってます!」
キラキラとした眼差しを向けられるも、そこは入っていいものなのか。お互い幼い頃からの仲ではあるが、15歳と20歳だ。本当にいいのか………。
「………ゆめ?」
「はい!ロマンでしょうか?あ、あら?枕元にもなにかありますね」
ティアラはまたもや何かを発見したようだ。
「小瓶だね」
「可愛い…ハートの形。香水かしら?」
(………ん?)
「わぁ…。甘くて良い香り。ベッドにあるということは香水じゃなくてアロマかしら。すごく気持ちがよくてぐっすり眠れそうですね」
優しい花の蜜のような甘い香りがこちらにまで漂ってきた。つい取って食べたくなるような……甘い匂いだった。
(この香り…。どこかで……)
「カイル様!見てください。この枕何か文字がっ」
思考を巡らそうとするも、またもや中断されてしまった。枕を見ると、先ほどは何も書かれていなかったのに文字が突如現れる。
枕の表側には『はい』裏側には『いいえ』と書かれている。
「え?どういうことかしら?」
「………」
ティアラはまだ理解できず二つの枕を「はい」「いいえ」に並べたり、二つとも「いいえ」にしたりして遊んでいる。
「あ、でも、やっぱりこっちね」
――『はい』『はい』――
うんうんと納得する。何かがしっくりきたようだ。
「カイル様。さっ、どうぞ」
「………………」
「こちらに来てください」
両手を広げにっこりと微笑まれドキッとする。いつもと変わらない愛らしい笑顔。それなのに自分はいけない感情をぶつけてしまいそうになっていた。ゆっくりと吸い込まれるように手が伸びていく。彼女の頬に触れたその時………。
◆
チュン、チュン………。
ピヨピヨ………、ピヨピヨ………。
「カイル様―………。カイル様―――」
「うっ……うう」
「起きてください。もう朝ですよ」
目を覚ませばそこは侯爵家の自室だった。
(ああ、そうか…。学園の長期休みで帰ってきたんだった)
まどろみの中ぼんやりと思い出す。朝の日差しを受けながら少しずつ頭を覚醒させていく。そうだ、実家に帰るなり父親に山盛りの仕事を押し付けられたんだった…。
昨日も夜遅くまで書類と格闘していた。レヴァン伯爵家へ行く日は二日後と迫ってもいた。それまでには仕事を片付けなければと躍起になっていたのだが、それがまさかこんな夢を見るとは。
「夢………落ち……」
グーーー
「あ、こらっ、寝ないでください。さっさと起きてっ」
「……………ジラルドうるさい。あっちいけ。もう一回同じ夢見てくる…」
「ああ、もうっ。二度寝しないで」
現実ではまだ手が出せないのだ。大事に大事に守らなければ。
せめて夢の中では自分の欲望のまま好き勝手させてほしい。少しだけ…許されたい。そんな甘い夢だった。
夢の中に出てきた小瓶…ティアラの甘い香りと似ていたな…
心地よい余韻に浸りながら、カイルはもう一度目を閉じることにした。
・〇〇しないと出れない部屋ネタが書きたくて書いてしまいました。




