ティアラとティアからのプレゼント★★★★★
・ブクマ、評価、いいね、本当にありがとうございます。すごく元気と活力になってます。
・誤字脱字も毎回すごくすごく助けてもらってます。チェックありがとうございます。
・今回も難産な話で遅くなってすみません。※一番最後に前回と同じくらいの進展要素が含まれます。ご注意ください。
部屋へ戻ると、絡めた手をいち早くマリアが気づきジラルドさんと共に、にこにこしながら出迎えてくれた。
「……これは」
部屋の中には沢山のプレゼントの山が並べられている。
「はい、今日はお渡ししたいものがあって…」
「10日待ってって言ってたのは、てっきりさっきの水晶のことかと思ってた」
「それもですが…。ずっと前からカイル様に何かお返しできたらと考えてて……。でも、あれもこれもと選んでいたらこんなことになってしまって」
「ふふふっ……、なるほど。そう言うことだったんだね。こんなに沢山。ずっと考えてくれていたんだね。…ティア、ありがとう」
急に視界が高くなり、気が付くと抱き上げられていた。
「いえ、私の方こそ、時間が掛かっちゃってごめんなさい」
両手を首に回しそう伝える。高い位置になったことでカイル様の顔がよく見える。いつもは恥ずかしがっていた距離だったのに、今は不思議と気にならなかった。
「…いや、いいよ。それより、すごく…。すごく嬉しいよ……」
そのままソファに腰掛けると、潤んだ青の瞳が近づきもう一度きつく抱きしめられた。
◆
タイピン、カフス、ピアス……。包みを開ける度、嬉しそうに微笑んでくれるのがとても嬉しい。
「これって、ティアが縫ったの?すごく上手だね」
「刺繍の授業があったので、色々練習してたんです…」
刺繍は、フォルティス家の紋章と、二匹の猫のものを作った。
「この猫、僕たちみたいだね」
寄り添う二匹の猫を優しく撫でてカイル様は微笑んだ。結婚したら猫でも飼おうかな…と呟くものだから私も目を輝かせ、コクコクと深く頷いてみせた。毛並みが長くて大きいのがいいですと注文も忘れずに付け加えた。
「それから、こういうものも用意したんです」
コトンッと机の上に置いたのはレヴァン産のワインだった。
「ワイン?」
「そうです。ジラルドさんからカイル様はワインが好きだって聞いて」
「ああ」
「本当は飲み比べてから決めようと思ったのですが、すぐにお酒が回ってしまって…。結局お父様に選んでもらったものになってしまったのですが…」
「え、飲んだの?」
「はい。でもすぐクラクラして、目の前が真っ暗になっちゃいました……」
「…………そっか…。ティアは無理して飲まない方がいいね」
「はい……」
しゅんっとうなだれていると、口に手を当て苦笑されてしまった。
「レヴァン卿にも後でお礼を言わないといけないね」
「え?」
「このワインとても上質で貴重なものだよ」
「でもこれ…、レヴァン産の普通のワインですよ?」
レヴァン領はワイン産地としてもそれなりに名は知られている。中には帝都で取り扱われているものもある。その為そこまで入手困難な品物ではないはずなのだが。
「ああ、同じ銘柄でもこの年のものはもう市場では出回っていないんだ。もう買えないと思ってたんだけど……、もしかしたらレヴァン卿が自宅用に保管していたものだったのかもしれないね。本当にもらっていいの?」
「はい。それだけそのワインの価値をわかっているのなら、きっとお父様も喜ぶと思いますし」
そう答えるとカイル様は少し考え込んだ後顔を上げた。
「でも…そうだな。せっかくだし、やっぱりティアと楽しみたいな……」
「え?私、お酒は……」
「いや、飲むんじゃなくて、雰囲気を楽しむというか…」
香りを楽しむのはどうかなとカイル様は言われた。
「ワインって葡萄を醗酵させて作っているのに、葡萄以外の香りがしたりするんだよ。カシスやストロベリーなど果実の匂いだったり、薬品やミントのような香りとかね。香りを出すには空気によく触れさせる工夫が必要なんだけど、教えてあげるから一緒にやってみるのはどうかな?」
一緒にワインを飲むのは諦めていた。カイル様の好きなものを共感できないのは少し残念だけどこればっかりはしょうがない…、そう思っていた。
だから、すごく嬉しくて思わずカイル様の服の裾を掴み、ぜひ一緒に!と目を輝かせて頷いた。
「ふっ、ふふふ……。ティアは本当に可愛いな。一瞬小さな子犬に見えたよ。尻尾を振っているみたいだった」
「!?」
慌てて手を離すもどんどん顔に熱が集まってくる。火照りを隠そうと頬を両手で抑え俯いた。だが頭上からクスクスと笑い声が聞こえ、頭をよしよしと撫でられてしまう。
これではますます犬と飼い主だ。恥ずかしくて、その手から逃れようとするも、最後はバランスを崩しカイル様の胸にポスンと収まってしまった。
「……参ったな。すごい無意識の反撃だね」
その声はあまり困ったようには聞こえなかったが、摺り寄せた胸から聞こえる鼓動の音は少し早くなっていくようだった。
◆
「それで、あの、ピアスと蝶の髪飾りを一緒に入れていたんですけど」
「10日経ったらなくなってたと」
「はい……」
守り石を作っていたこと、その過程であの日忍び込んだこと、そしてピアスがなくなってしまったこと。守り石の効力も、作り方についても、全部包み隠さず話して謝った。
「なるほど………」
カイル様はそう言うだけで、手元の水晶をいろんな角度から眺めていた。
「…ごめんなさい」
「ああ、いいよ。ピアスなら他にも沢山あるし。それにティアからもらったものも……あっ、折角だしつけてみようかな」
そう言うと付けていたピアスを外し、アメシストのピアスだけ残し、その隣にサファイアのシンプルなものを付け加えた。
「いっぱい…外しちゃうんですね」
「…え?ああ、それね」
「こっちのは付けなくていいんですか?」
外してしまったピアスの山を指差して聞いてみる。
「うん。今日はこれだけでいいんだ」
耳元をすっきりとさせ、満足げな表情を見せた。
「軽くなったな。肩も楽になった気がする。守り石のおかげかな」
「ふふ、すごく早い効き目ですね」
守り石は作ったが、その効果はあくまでも『おまじない』。効くか効かないか、実際のところは曖昧と言わざるを得なかった。
だからカイル様の言葉も半分冗談で言っているのだと思い、そう答えた。
「カイル様…。昔、龍の涙だと言ってた石、覚えていますか?」
「……え?ああ、うん」
「あれも精霊石のように扱うことってできるんですか?その…、学園で配られた加工水晶のように、祈りや人の思いを魔法にすることってできるのかなと思って…」
「うーん、結果から言うと、適してないといった感じかな」
その答えに思わず安堵する。
「龍の涙はいわゆる石英っていう石なんだけど。石英と水晶って実は成分は一緒なんだ。ただ、水晶は自形結晶といって結晶化できたもの。石英は他の鉱物に成長を邪魔されてしまったもの…まぁ、水晶になれなかったもの……といった感じかな。白く濁った石英は内部構造が複雑で魔力が通しずらいんだ。だから基本的には精霊石として扱うことはしないんだ」
「そうなのですね。でも今朝はどうして石英を?」
「あれか…。歩いていたら落ちててね。懐かしいと思って拾っただけだよ。ふふふ、意外って感じの顔してるね。別にいつも勉強しているわけじゃないんだよ?」
目をパチパチさせ驚いてしまった。
「だって…留学先から戻って来たカイルおにいさまはとても博識で背もだいぶ伸びて、色々変わってしまっていたから…。……でも、こうやって変わらない部分を見つけるとちょっとホッとしますね」
「…………変わってないよ。どこもね…」
髪を撫でられ、すくった髪がさらさらと流れ落ちていく。
「……よかった……」
その声は滑り落ちるように消えていった。
「カイルおにいさまがいつも傍にいてくれてよかったです。クリス皇子殿下のことも…、きっと一人だったらどうなっていたことか…」
「うん。僕もティアが学園に入学する前に戻ってこれてよかったよ」
無造作に置かれた大きな手に自分の指を絡める。それに応えるように長い指できゅっと握られ、自然と笑みが零れた。
「……カイル様。私、歌のことで思ったことがあるんです。私の歌の能力は心を揺さぶったり、人の過去の記憶を思い出させる程度だと思うのですが…」
クリス皇子が用意した歌は大会を盛り上げる、闘志を燃やすような歌が数個と母が子の成長を願う歌だった。
「大会で歌われる「よろこびの歌」はクリス皇子のお母様が好きだった歌でもあるんです。皇子は自分が好きな歌だからとおっしゃってましたけど。短縮の為二番目まで…。…でももしかしたらそれは皇妃が特に歌っていたのがここまでだったからとか?皇子は私の歌を使って、過去を思い出させたい…そんな人がいるのかなと思って……」
おとぎ話のセイレーンが歌で人を惑わし、舟を静めたように……。
「そうだね…。その線はあると思う。僕の方でも少し探っていたんだけど、クリス皇子の幼少期はあまりいい環境とはいえなかったみたいなんだ」
カイル様はジラルドさんや、ジディス卿、またその他の関係者を通してクリス皇子やその周囲の関係について調べていたらしい。
そこで見えてきたものは自分を保護してくれる存在がいなかったこと。変貌していく母を目にし、自分自身さえもいない存在のように扱われたこと。周りには親族とはいえ敵ばかり。
「陥れたいのはたぶん皇帝陛下…いや皇后を含めた皇族かな。母親を狂わせた復讐。それとも歪んだ心を満たしたい衝動…?」
「でもそんなことをしたらクリス皇子だってただでは済まないんじゃ…」
「そうだね。まともな感覚の人ならそう思うだろうね……。これはただの推測だけど、幼い頃から存在否定されたり、自分への価値を評価されることもなく、心も満たされない…。そのような環境に居たら、まともな感覚ではいられなくなるんじゃないかな」
確かにそうかもしれない。もし自分がその立場になったら…。そう思うと悲しくなり、握っていた手に力が籠った。
「ティア、これはまだ予想だ。実際にはもっと歪んでいるかもしれないし、それとも少しの良心が残っているか…。だが、そうだとしても簡単に同情してはいけないよ。そこまでの情けを掛ける義理はティアにも僕にもないのだから」
その言葉に心がズキンッと痛む。
「確かに、そうですね…。けど……」
頭では理解している。少しの同情を示せば、簡単に引きずり込まれかねない。クリス皇子はそういう人だ……。
「カイル様、この前の儀式のことなんですが。あの時、歌詞に合わせて強く祈るように歌ったんです。あれはたまたまだったのかもしれない…。けれど、あの唄は魔法を掛けた特殊なものでもあるし…。もしかして言霊の様に言葉が魔法に変わったのかもって思えて」
あれが、奇跡なのか、一族の血の影響からの魔法だったのか、私に確かめる方法はない。
「普通の歌で試しても同じようなことが起こる可能性は低いと思うのですが…」
歌詞に「花よ咲け」とあっても歌ったところで咲くことはないだろう。けれど、感情についてはどうだろうか。
クリス皇子が手渡してくれた言霊の本…。皇子は『感情的に人々の心を揺さぶる様に歌え』と言いたかったのか…。真相は分からないがそれを利用できないだろうかと考えたのだ。
「天地がひっくり返るような奇跡は起こせませんが、人の感情に音だけじゃなくて『歌詞の言葉』から心を動かすようなことができたら…と思ったんです」
言葉は「剣」にも「盾」にもなる。そして「癒し」にも……。
「よろこびの歌の歌詞は、子の成長を喜ぶ母の想いが込められています。けれど、その歌詞にはつまずくことがあっても、悲しみがあなたを襲っても、あなたをいつも見ている、私はあなたを正すと。そのような言葉が書かれている節があるんです。だから……」
「ティア……」
ポンっと頭に軽く手を置かれる。見上げると少し困り顔のカイル様と目が合った。
「ティアは優しいね。クリス皇子の良心に訴えかけようっていうのかい?」
「高慢な考えですが、できることなら皇子だけでなく皇子を歪ませた人たちにも正しい方向に心が向くように歌えたらと思って……」
「…そうだね。……言霊か。それは使えるかもしれないね」
◆
金で縁取られた華奢なカップに濃いオレンジ色の液体が揺らぐ。そこにミルクと砂糖を足すとベージュに色を変えた。一口含むと豊かな香りが広がりホッとする。隣には守り石をじっと眺めるカイル様の姿があった。
「カイル様、学園で配られた人工水晶なんですが…。あれは私も参加してよかったんでしょうか?」
「え……?」
「一族の血のことが気になって。私には魔力がほとんどないですけど、一族の血には光属性が強く関わってる。なのでなんらかの影響が加わる……なんてことは」
「ああ……。実はね、あれ、ティアには反応しないんだ」
「え?」
今度は私の方が同じような台詞を吐いた。反応しないだなんて…。どうしてだろう。
「ごめんね。あの水晶はここの湖の水を使用して、レヴァン領の天然の水晶に近いものを作っているんだ。だから性能がいいんだけどね。ティアの一族の秘密が公になることは避けたかったんだ。ティアが心配したように、人工水晶へ込めた魔力が他の人と違った場合を考慮してそのように細工していたんだ」
レヴァン領の湖の水と一族の血……。レヴァン家で育ち成長する過程で、その水を使用し体内に取り入れる。それはごく当たり前のことだが、その点を利用し人工水晶に触れた時に水晶が血に含まれた同じ成分に反応し、反発するような仕組みを取り入れていたらしい。
「もっと早く言ってくださればよかったのに……」
「言おうか迷ってね…。あくまでも、僕は、何も気にせずのびのびと学園生活を送っていてほしいと思ってたんだ…。でも、儀式の件もあって、レヴァン卿は一族の秘密を話すことにされたからね。こちらのことも何か気にし始めたらその時言おうかなとタイミングを窺っていた…といったところかな」
その配慮に、少し複雑な気持ちになった。きっと私が聞かなければ、カイル様は言わなかったんだろう…。
「他に…。他にも何か、隠していること…。もしかして何かありますか?」
カイル様の瞳を覗き、じっと見る。
「ふふふ、…ティア、最近どんどん鋭くなってきてるね。僕のこともじっと見て何か観察しているようだったし……」
「そ、それは……」
バッ、バレてた……。
「それは……、さっきの龍の涙のことで……」
「龍の涙?」
心の奥底で渦巻いていた想いが顔を出す。私は喉の奥から、少しずつ自分の秘めた想いを話すことにした。
「………ずっと、あの石に願い事をしていたんです。一つの願いじゃなくて、たくさん…。でも少しずつ成長していくうちに恋の願い事を掛けたんです」
「恋……?」
「あの……、その…、カイル様とけっ…けっこんできますようにって」
幼い時の願い事とはいえ、口に出して言うのはなかなか恥ずかしい。カイル様も驚いた顔をされていた。
「カイル様がこんなに自分のことを大切にしてくれているのが不思議で……。なにもできないのに……。だから、自分に好意を寄せてくれるのは龍の涙にお願い事をしたせいだったらどうしようって…。魔法で好きになってるだけだったらどうしようって思ってしまって…」
「魔法なんかじゃないよ。さっきも言ったろう?あの石は魔力が通りにくいって」
コクンと頷く。そうだ。だからそれを聞いてとても安心した。
「でも、私、幼い時…。カイル様のお父様とカイル様が話しているところを、たまたま…聞いてしまって」
「聞いた……?それは……いつのこと?」
「……私が…8歳くらいの時……」
―『カイルはティアラと本当に仲がいいな。そのまま婚約者になってもらうか?』―
カイル様にそう聞いているところをたまたまフォルティス家へいつものように遊びに行った時に、聞いてしまったのだ。けれど……
―『あの子はもう一人の妹だから。そういう考えはないよ』―
そう返すカイル様の言葉を聞いて、幼い自分は酷くショックを受けた。私にとってカイルおにいさまは特別な存在だった。私が欲しかったものを最初にくれた人。寂しさを埋めてくれた人。惹かれていく理由は充分にあった。
けれど、カイルおにいさまは『妹』として自分を見ている。それ以上にはなりえない。
当然だったのかもしれない。私が彼に最初に望んだのは「兄」だ。彼はそれを演じてくれていた。ただそれだけ。そう思うと涙が溢れた。けれど、この想いを諦めきれず願ったのだ。毎日、毎日……。そしてあの薔薇のオルゴールに龍の涙と一緒に蓋をしてしまったのかもしれない。
カイル様が隣国へ行った後、いつの間にか、その気持ちは何かで塗りつぶすように消えてしまったのだから。
「ずっとその記憶から目を背けていたような気がするんです。思い出したら……ううん。本当は……思い出してた……。けれど、考えないように目を覆ってただけ……」
唇が震え、声は頼りなくなっていく。
その記憶が再びちらついた時には、自分達は婚約者同士になっていた。カイル様はとても優しい。だからそれでいい、昔のことなんて考えなくていいって自分に言い聞かせた。けれど、カイル様への想いが募るほど、昔の記憶が心を掠め不安になっていった。
「結局ぼかしたままでいるのが嫌で、本当の気持ちを探りたくなってた。……そしたら私の心の中に言葉が降って来たんです。まるで、もう一人のティアラが言っているかのように。『目を逸らさないで』、『僕のこともあまり信じすぎちゃ駄目』……以前カイル様が言っていた言葉…ですよね?」
深い海のような瞳を見て、彼の言葉が本当に本心で言っているのかを探る様になっていた。
「カイル様の言葉が本心で言っているのか気になってしまったんです」
「ティアラ……」
「優しいのは私になにか特殊な要素があるからなのかとか…。好きなのは今だけで歳をとったら、気持ちが離れちゃうんじゃないかとか…。でも、もう離れたくなくて、…それで守り石を作ったです。その石を持っている二人はずっと結ばれるから。もしもいつか気持ちが離れて、愛人を作ったり捨てられちゃったらって思ったらすごく嫌で……」
酷い独占欲だ。『好き』が強くなるほど、相手の気持ちを知りたくなったり、今の状況よりも更に『もっと』と要求したくなってしまう。
「そんなの作らないよ。ティアだけ……、ティアラだけだよ」
腕が伸び強く抱きしめられる。温かなぬくもりに包まれると同時に、ふわりと香るのはいつもと同じ彼の香りだった。
「本当?」
「本当に本当」
カイル様の腕に抱かれ、私もその背に手を回す。顔を上げようとしたが、さらにぎゅっと抱き寄せられ身動きが取れなかった。
◆
「あの時……。父にそう言ったのは、『今は待って』って意味だったんだ。親子だからかな。父には僕の言いたいことが伝わっていたけれど、普通にそこだけ聞いたら、言葉通りの意味しかわからないよね……」
「……え?」
「婚約者にするってすぐ答えを出したら二人の距離感を変えられてしまうかと思ったんだ。兄妹の馴れ合いのような関係ではなくて婚約者らしい振る舞いをしなさいってね……。言葉使いも呼び方も。でもそうしたら、僕を頼りにしていたティアは簡単に甘えられなくなる。僕もそうなるのはまだ嫌だったんだ……」
「……じゃあ」
「うん…。その頃から、もう君のことが好きだったってことだよ」
目を見開き、息をするのを忘れてしまうくらい驚いた。まさか本当に前から想ってくれていたなんて思いもしなかった。
「だいぶ、想いが空回っていたんですね……」
お互いにずっと前から好き合っていたのに、こんなにも遠回りをしていただなんて……。堪え切れず、瞳から大粒の涙が一つ零れ落ちていった。
「ティアラは本当に、昔から泣き虫だね」
苦笑しながら、涙を拭う。そしてほんのり染まった目元に優しい口付けを落としてくれた。そのまま頬に手が添えられ、ゆっくりと上向かされると、いい?と目で確認され、こくんと小さく首を縦に振る。少しの間見つめ合った後、瞼を閉じるとすぐに柔らかな感触が落ちてきた。
・毎回カイル君ごめんねって思ってます…。色々空回りや苦労やら忍耐やらで。
・冒頭部分抱きしめてるシーンをカラーに変えました。全体絵はサイズが大きい為ここには収まらなかったので、もし気になった方はお手数ですがTwitterまで見に来て頂けたらと思います。すみません。※一枚目の絵は次の話にてもう少し大きいサイズのが見れるようになっています。
(Twitter:@tomomo256で検索、又はプロフィールのところから飛べます)6/19更新
身長差これくらい。
ぎゅっと抱きしめて
姿勢を正すと持ち上げてしまう
ならばいっそのことお姫様抱っこ
本編では恥ずかしがらないティアラでしたが…。こっちは恥ずかしがってるバージョンで。とても顔が近くなりました。




