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ティアと保護者★★


・更新大変遅くなりました。説明部分が多くて難産でした。そして今回も長いです。もし待っててくださった方々がいらっしゃいましたら、遅くなってすみません。そしてありがとうございます。

・誤字脱字報告もありがとうございます。すごく助かります。(特に人工結晶のところとか…)

・ブクマ、いいね、評価もすごーく励まされています。書き続ける元気頂いてます!大泣


※一番最後の方で二人の関係が進展します。気をつけて書いてるのですが、敏感な方はご注意ください。


 湖の奥には祭壇があり、そこで水精霊の儀式は行なわれる。私は半日掛けて身体を清めると、真っ白な巫女の衣装と百合や白薔薇を髪に飾り唄巫女として湖の前に立っていた。周囲には既に多くの人々が列を為し集まっている。儀式はもうすぐ始まろうとしていた。


「雨が降りそうだね」


 右上を見上げるとカイル様が眉間にシワを寄せ空の様子を窺っていた。つられて私も見上げると灰色の雲が太陽を隠し、今にも泣き出しそうな空模様になっていた。


「こんなに綺麗に着飾ったのに濡れてしまうのは残念だな…」


 百合にそっと触れ、形を整えてくれた。


「ではそれもお祈りしてみましょうか」

「ふふ、そうだね。是非お願いするよ」


 せっかく沢山の人々が見に来てくれているのだ。せめてこの儀式の間だけは雨よ降らないでと願いたくなった。


「それでは、行ってきます」

 

 神官達と小舟に乗り、湖の祭壇へと向かう。祭壇の周りには半円のドーム状の建物があり、祭壇には大きな柱が6本立っている。その中央には大きな白竜の像が水晶を守る様に鎮座している。


 竜の像の周りには足首ほどの深さの窪みがあり像を囲む様に水が張っている。低い噴水のような仕組みで水は沸き上がり、キラキラ光りながら水底へと消えていく。それはとても幻想的な光景だった。


 裸足になり白竜のところへ進む。水はとても綺麗で冷たく、どこまでも透き通っていた。


 ―――ポタッ……


 期待は外れ、小雨が少し降って来てしまった。目の前の竜は瞳を閉じて眠っているような顔をしていた。優しそうな顔……。


(どうか……少しの間だけ雨が止みますように)


 私は手を胸の前で組み祈りを捧げた。そして水晶入りの器に湖の水を掬い飲む真似をする。それが終わるといよいよ唄の始まりとなる。


 最初は静かに歌い出す。水晶の水を少し口に含んだせいか身体が不思議と軽くなったような感覚がした。それは水からの魔力なのか、それとも今まで練習してきたからなのか……。そのまま大きく伸びるように声を張り上げた。


 その時、一瞬岸辺の方から何か声が聞こえてきた。ちらりと見たが特に異変はなかった。そのまま空へと昇る様に歌い上げていく。すると、雨は次第に上がり、雲間から太陽が出て来てくれた。


 もう一度、白竜へ恵みの雨と光を照らしてしたことへの感謝の歌詞の部分を歌う。今のこの状況と似ていて少し嬉しくなる。次第に声も軽やかになり、感謝の気持ちを乗せて歌うととても気持ちがよかった。


 また遠くの方から声が聞こえてきたが、今度は先ほどとは違い、歓喜の声のようだった。岸辺の人々は空を指差しているようにも見えた。歌い上げた後、私も後ろを振り返ってみた。するとそこには大きな虹がかかっていた。岸辺の方から見たらきっと湖にも映って更に美しく見えただろう。


「わぁ……、綺麗……」


 儀式は無事終わり、もう一度白竜にお辞儀をする。


(あなたがやったの……?もしそうだったのなら…)


「ありがとうございました…。また来年、来ますね」


 白竜を撫で、その下に置いていた守り石用の器も手元に抱える。


 実は水を掛ける作業も祭壇に上がった時に行なっていたのだ。湖から誰かが持ち出した水を掛けるという方法は駄目なのだそうだ。だから、どうしても湖に行かなければいけなかったのだが…、出かける時は常にカイル様が一緒だったのでこっそり行動するというのがなかなか難しかった。


 けれどこれなら、カイル様に気づかれることはたぶんないはず。もちろん、ちゃんとお父様や神官長様には事前に許可は得ていた。と、いうか、むしろ、二人とも好意的だった。


 お父様はなんとなくわかる。けれど神官長様はなぜ?と一瞬思ったが、理由はすぐわかった。


 神官長様はお祖父様の代の時からレヴァン家に長年仕えている者でもあった。当然、私がお母様のお腹にいた頃から知っているので、孫娘のような感覚だったのだろう。


 長いお髭を撫でながら『お嬢様もいつの間にかそんなお歳になったのですね』と感慨深そうに呟いていた。こちらとしてはなんだか恥ずかしくてムズムズしてしまいそうな感覚だったけども。


「ティアラ!すごく素敵だったわ」


 岸に着くなり、ソフィア達が出迎えてくれた。


「雨は止んでしまうし、空もすっかり晴れてしまったし、なんだがすごく神秘的だったわ」

「うんうん、水面に広がる影が徐々に光で照らされていってさ。湖の水がキラキラ輝いているように見えてとても綺麗だった。虹もすごく綺麗だったし。神々しくてびっくりしたよ」


 ソフィアもクランも興奮気味だ。


「こっちにも声が少し聞こえたわ。でも最初の方も何か驚いたような声が聞こえたのだけどそれは?」

「ああ、一瞬突風が吹いたんだ」

「そうそう、何かが空を飛んだのかな?って感じだったよ」


 突風?私がいたところではそんな揺れはなかったけれど……。まさか、白竜が空を飛んでいたのかしら?……いやいや、そんなものがいたらもっと大事になるだろう。


 なんとも神々しい不思議な出来事だなぁと思っていると奥の方から拍手や感謝の声が聞こえてきた。

そちらに振り向くと、スカートの裾を摘まみ上げ小さく膝を折る。すると、先ほどよりも更に大きな歓声が上がり、拍手が鳴り響いた。止まない拍手に、慌てて手を振って応えるが、それらは途絶えることはなかった。


「ティアラ、ファンサービスはそれくらいで。身体も冷えているし、そろそろレヴァン家に戻ろう」


 カイル様は薄いジャケットを肩に掛けてくれた。


「あっ…、ありがとうございます。ふふ…カイルおにいさまの服、大きくてぶかぶか」


 腕部分を通しても手が出せず、裾は折れてしまう。可笑しくてクスクスと笑っていると、急にふわっと身体が浮き上がった。カイル様が抱き上げたのだ。


「え?な、なに?」

「ティアが可愛いこというから。さぁ、もう帰ろう?」


 そのまま軽々と横抱きにされ馬車まで運ばれてしまった。


「わー……。すごい独占欲」

 

 呆気にとられ、そう呟くクランと、うんうんとソフィアも深く頷いてみせた。


「服も少し濡れちゃってたしね。本当はすぐ帰りたかったんじゃないかしら」


 二人は苦笑しながら馬車の方へと歩き出した。空は真っ青に晴れ上がり、湖はもう先程までの神秘さはなくただの静かな湖畔に戻っていた。



◆◆◆



 あっという間に時が経ち、ソフィアが領地を去る日が来てしまった。お互い名残惜しい。けれど……。


「ここに延長して留まってるとアルが勝手にこっちに来ると思うよ」


 カイル様のその一言で、ソフィアは慌てて荷物を纏めて旅立ってしまった。その後一日遅れて本当にアルベルト様から「今からそっち遊びに行っていい?」といった内容の手紙が届いて思わず笑ってしまった。


「まさか本当に手紙が来るとは…。待てのできない犬か……」


 呆れた顔をしながら、「座って待っとけ」と短い文を書くとカイル様は伝書鳩を飛ばしていた。


「お嬢様、失礼します。お二人とも旦那様がお呼びです」


 そこへ、マリアがやってきた。


「え?お父様が?」

「はい、なんでも大事なお話があるそうで……」


 大事な話……?なんだろ? 不思議に思いながらも私はマリアについて行くことにした。





「二人ともそこに掛けてくれ」


 お父様にそう言われ、書斎の横の長椅子に二人で腰掛けるも、そこに用意された焼き菓子に目が釘付けになってしまった。


「この女の子のクッキーって…まさか」

「ああ、それ唄巫女のティアラクッキーだよ。可愛いだろう?二つ返事で許可してしまったよ」


 ニコニコしながら、お父様は教えてくれたが、ちょっと待って。なんで許可したの…?


「去年は見かけなかったのに」

「そりゃ、今年からだからねぇ」

「そ、そんなぁ。は、恥ずかしいですこんなの……」

「それ僕も買ったけど?」

「……え、えええ?!……」


 ガバッと向きを変え、今なんて言ったんですか?と口をパクパクしながら見つめるも、「え、今更?」といった表情をされる。


「い、いつ買ったんですか?ほとんどずっと一緒だったのに」

「あー……、儀式があった日かな。午前中から儀式の準備をするって言っていただろう。その時間に、クランとソフィアと一緒に街に行ったんだ。クランにもお勧めされたんだよ。ソフィアもアルのお土産用にちょうどいいって言って沢山買ってたし」

「た、沢山…………」

「まぁまぁ、ティアが唄巫女をやってくれる期間も結婚するまでなんだからそんなに怒らなくたっていいだろう?少しの間だけの限定名物みたいなものだから」


 私は頭を抱えたくなった。だが、期間限定ということで、今回のことはそれ以上引きずるのはやめることにした。


「もうっ!分かりました。でも今度からは先に言ってくださいね」


 私が了承したことで、お父様の顔がパァッと明るくなる。これは……たぶん懲りてなさそう。来年はまたバージョンアップしたものができそうな予感がする。


「それでお話とはなんですか?」

「ああ、そう……ティアラの歌についてなんだが。まさかな…とは思っていたのだが、先日のティアの唄巫女の様子を見ていると、やはりきちんと伝えておくべきかと思ってね」


 真面目な顔に切り替えると、お父様はレヴァン家の歴史と共に語り継がれてきた歌との関連性について話し始めた。


「レヴァン家の血族の中には魔術が使える代があったのは知っているね?」


 コクンと頷く。私もお父様から借りた書物にそう書かれているのを見たのだ。


「実はな、それらの者達は必ず光属性の特殊魔法が扱えたそうなのだ」

「光属性ですか…?」


 父にはクリス皇子のことを伝えていた。その対策として、何かヒントになるものはないかと話してはいたのだけど……。まさか光属性の魔術師がレヴァン家にいただなんて。お祖母様が血筋にこだわっていたのはそのせいだったのだろうか。


「でも私が調べた書物には光属性のことは書かれていませんでしたよ?」

「…それは、代々当主と一部の者にしか話されていないからだよ。そのような書物は当主管理の厳重な場所に保管してあるんだ。ティアに貸したのは一部分だけ。すまないが大事な部分は曖昧な言い回しになった書物だったんだ」


 光属性の特殊魔法はどれも貴重で癒しに特化した強力な魔法ばかりだった。そのような偉大な力により、時には神のような存在にもなれたが、歴史上ほとんどの場合、他者から悪用されたり奴隷のような非道な扱いを受け、狂った人生を遂げる者の方が多かった。それゆえレヴァン家では、その力を公にせずひっそりと隠してきたらしい。


「光属性は不明な点が多いと言われるのは、そのような理由もあるんだよ」

「わかっていてもリスクが高いから公にしない人が多かったということですか?」

「そうだ。その力に驕らず人間の本質を知りえた者ほど表舞台には出ず、裏に隠れていたのかもしれないね」

「そうなのですね…。でも、それと私の歌に何か関係があるんですか?私、魔力は全然ないと思うんですが……」


 入学当初行なった魔力測定では、精霊石は全然反応しなかった。


「…………確かにそうだね。実は、以前からカイル殿と()()でレヴァン領の水を調べていたんだが…。どうやら他の土地よりも精霊のエネルギーが豊富に含まれているようでね。それはレヴァンの血とも深い関りがあるんだよ」


 それはレヴァンの始祖がまじないを…いや、もう少し正確に言うならば、魔法を願ったところからの繋がりがあった。始祖は強い想いから精霊石を体内に取り入れたとも書物には書かれていたようだ。実際にどのようにそれが行なわれたのかは定かではなかったが、それゆえ血族は体内にその精霊石の欠片なるものを宿しているとされていた。


 人間は体内に取り入れるものからも魔力を蓄積することができる。その為、湖の水もそれにあたるのだが、レヴァンの血族の場合、精霊石の欠片と水に含まれた精霊のエネルギーが反応し合い、水に含まれる精霊のエネルギーが上手くその欠片と結合できた者に対し強い魔力と光属性の特殊魔法が現れたのではないかとカイル様とお父様は研究の上仮説を立てたそうだ。


「歴代の魔術を扱えたレヴァン家の者達は、災害を食い止める為に領地に保護魔法をかけ領民や領地を守っていた。その威力の有無は当時の彼らにとっては重要なことだった。だが、継続的に魔力を持つ者が必ずしも現れるとは限らない現状に思い悩んでいたんだろう。当時は我々のような科学的な技術はなかったから厳密に調べることができなかったんだろう。……そこで彼らが行き着いた先が唄だったんだ」

 

「それって……水精霊祭の?」

 

「そうだ。『唄』とはいうが、あれは本来正確には『詠唱魔法』だったんだ。そこに魔術を扱える歴代当主達が魔法を重ねてかけていったようなものでね。その唄を様々な条件下で血族が歌うと反応するような魔法を仕込んでいたんだ。彼らが願ったものは領地とレヴァンの人々への加護だ。加護は、魔術者とそうでない者とで、その威力の差はだいぶ違うがね。レヴァン家はそのようにして外部から自分達の特殊能力の伝承と民や領地を守ろうとしたんだ」

 

「水精霊祭には様々なまじない事がありますもんね……」


 隣に座っていたカイル様がそう口を開いた。


「木を隠すには森の中…ですか」

「ああ、そういうことだね。だがね、……ティアの場合はその影響を特に受けているようなんだ」


 そこで、ハッとする。私は水精霊祭の唄以外を歌っても人の魔力を揺さぶることができる。それはこの血筋からだったのかと。


「ティアの歌のことはカイル殿からも聞いていたんだが。他の歌を歌ったとしても、そこに魔法がかかっているわけではないみたいだ。だから、極端に歌うことを禁ずる気はない。……だがね、ティアの血にはそのような光属性の魔力が間接的ではあるが関わっているということを知っておいてほしいと思ってね。もちろん、今日のことは他言無用だよ」


 手を組み深く座り直すとお父様は優しい瞳でニコッと微笑んでみせた。


 歌を禁じなかったのは、親として娘の才能を簡単に摘み取ることを望んでいないという意味も含まれていた。私が、歌をきっかけに自信を持ち、変わっていけたことをお父様は知っている。直接そのようには言わなかったが、お父様の配慮に胸が熱くなった。


「お父様……」

「私はね、全てを隠すのが良いとは思っていないのだ。こうやって、ティアは成長できたのだしね。そしてこれからもその力はお前にとって支えになると思う」


 お父様は昔から私のことを一番見てきてくれた。お母様がクランにつきっきりだった時も、その寂しさにいち早く気づき行動してくれたのは父だった。寂しさを少しでも紛らわせたらとフォルティス家へと連れて行き、カイル様達との関りを作ってくれたのだ。


「それに、お前の傍で常にお前を支えてくれる存在もいる」

「……あ…」


「カイル殿は何も言わなくていいと言っていたんだが……。それではティアが納得しないだろうと思ってね。レヴァン家の秘密を話したのはお前にも正確な知識を知って、心構えと自己防衛を取ってほしいと思ったのだ。光を隠し、保護する者として、カイル殿は常にあらゆる方法でお前を守っていた。それは今もそうだ。お前が持っているその……」

 

「……レヴァン卿、それくらいで。ティアには……、ティアのペースに合わせて伝えていきますので」

 

 おや、そうかい?とお父様はまだ言い足りなそうな顔をしていた。


「カイル様……、私…」

「そんな顔しなくていいよ。光属性の血筋だからという理由だけで行動していたわけじゃないから。それがなかったとしても君を大切にしたいという気持ちは変わらないよ」


 その言葉が心に響き、目元が熱くなる。


「お父様、…カイルおにいさまも……。本当に、ありがとう…ございます」


 二人の手厚い保護と愛情を感じ、涙が出そうになるのを必死に抑えた。 



◆◆◆



 レヴァン家の秘密や自分の歌のこと、重たい話だったが今後は自分でももっと身を引き締めて行動しなければと思わされた。


 それから時が経ち、今日は守り石完成の日でもあった。わくわくしながら小物入れの蓋を開けてみるが。


「…あれ?なんで?」

「どうされたのですか?」

「マリア……。ピアスと髪飾りがなくなっちゃった」


 小物入れの蓋や底を念入りに見てみるがおかしい部分は見つからない。 


「え?そんなまさか。お嬢様以外誰も触らないように他のメイド達も重々気を付けていましたし」

「……うん。あ、もしかしてこの水晶と合体しちゃった……なんて」


 水晶を光にかざしてみるが、それはキラキラと輝くごく普通の透明な水晶の様だった。お母様も昔作ったが、この様な結果になったとは言っていなかった。


「なんともいえませんが、事情を話してみるのはいかがですか?」

「カイル様に?」

「はい。不思議な現象ですが、カイル様は精霊石のことも詳しいですし、それにもしわからなかったとしてもお借りしていたものですしね。きちんと伝えるべきかと……」

「……う…うん」


 少し借りるだけだったのに…。一気に大切なものを二つ失ってしまって気持ちはとても重たかった。

 

「行ってくる。マリアも予定通り、他のプレゼントをカイル様の部屋に移動してももらえるかしら」

「はい。承知しました。…お嬢様!頑張ってください」


 しょんぼりしていると、マリアが励ましの言葉を掛けてくれた。コクンと頷き口元だけ無理に笑ってみせた。





「外出中?」

「はい、敷地内なので付き添いはいらないと言われまして。なのでそこまで遠くには行っていないと思いますよ」

 

 マリアと顔を合わせ、どうしよう…?と悩んでいると、ジラルドさんが状況を察してくれた。


「もしや、そちらの荷物はティアラ様が10日後にとおっしゃっていたことに関連したものでしょうか?」

「あ、うん。そうなの…」

「なるほど。では、こうされてはいかがでしょうか?私とマリアさんで荷物は運んでおきますので、ティアラ様はよろしければ、その間にカイル様を呼びに行って頂いてもよろしいでしょうか?たぶん、水路がある水の庭園にいるかと思うので」


 私はその提案に頷くと、マリアは私の代わりにプレゼントのことや配置について、てきぱきとジラルドさんに伝えることにする。カイル様がいると思われる場所は、レヴァン家の避暑用に作られた日陰の多い涼しい庭園だった。


 この屋敷の敷地にはいくつか庭園があり季節ごとに楽しめるようにされている。その中でもその庭園は各場所に水路があり、水の流れを楽しむ仕掛けが作られていた。暑さに強く色がはっきりとした花々が植えられており、今の季節に適した美しい場所でもあった。


私は小走りにその場所を目指した。しばらく進むと目的の場所に着き、辺りを見渡す。


(あっ、いた!)


 木漏れ日に照らされてキラキラ輝く金髪を見つけた。庭園のだいぶ奥へ進んだ場所にカイル様はいた。そこは草木に覆われ程よい木陰ができた涼しいところだった。ベンチに腰掛けながら、肘をつき下を向いている。いつものように本を読んでいたのかな…?少し近づいて声を掛けようとしたが、咄嗟に口に手を当て思い止まる。


(眠ってる……?)


 珍しい。あまり人前で寝るような人ではないのに。こちらに来てからだいぶ隈は取れていたけれど、以前からたまに怠そうにしている時があった。もしかして、本当はどこか具合が悪いんじゃないのかと少し不安になる。私は足音を立てないようにゆっくり近づくと、彼の顔を覗き込んでみることにした。


 長いまつ毛が影を作り、その瞳を隠している。眠っている姿を見るのは久しぶりだった。いつもはきりっとして凛々しい表情ばかりな気がする。こんなに穏やかな寝顔を見れるのはちょっと貴重かもしれない。


 目線を移すと膝元には難しそうな本と共に数個、石が転がっていた。その石を一粒摘み上げ、じっと見つめる。


(龍の涙みたい……。カイル様が集めたのかな)


 もしかして、昔の遊びをしていたのかな……。小さく笑い、変わらない部分をまた発見して嬉しくなってしまった。


(あ、そうだ)


 ちょっとした仕掛けが閃き、小物入れから守り石を取り出す。カイル様の手のひらにあった石を守り石にすり替える。さすがにバレてしまうかと思ったが、相変わらずすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てていて起きる気配はなかった。


 更にその手を自分の手でそっと包み、最後の祈りを捧げる。


「カイルおにいさまの疲れが癒されますように」


 木が囁くような葉音を立て、涼しい風が頬をくすぐる。目を開け、カイルおにいさまの髪もそーっと耳に掛けてあげる。だが、その顔を見ているといつしか引き寄せられ、無意識のうちに身体が動いていた。


 ほんの一瞬重なり合う。


少しかさついた唇の感触がやけに鮮明で胸の鼓動が早くなる。自分がしてしまった行動に感情が遅れて追いつき、慌てて身を引こうとした。だが、それより先に腕を掴まれてしまう。「あっ」と言葉を発するよりも前に口を塞がれてしまった。



 「捕まえた」



 どこか昔の面影を残したその微笑みに、私の心はいつしかお互いを挟んでいた壁を取り払っていた。


「カ、カイルおにいさま……」


 瞳を合わせると、その深い青は真っ直ぐとこちらを見ていた。


 …………いつもそうだ。


 この青は優しさの中に、いつも私の奥の奥を見透かしているようで少しだけ…怖かった。


 けれど、そうじゃない……。本当は、私のすべてを知った上でも、変わらずに私のことを守ろうとしてくれた優しい瞳だったのだ。


「……いつから…気づいて…」

「ティアが僕を起こしに来た時から。あれだけ熱い視線を向けられていたら流石に気づくよ」


 最初から気づかれていたなんて……。


「ちょっと、……びっくりしました」


 コツンっと額を合わせ、力なくそう告げる。頬はまだ火照ったまま、鼓動はドクドクと大きな音を鳴らしていた。回された腕に少しだけ力を込めて「僕もだよ」っと囁くと、今度は愛おしむ様に瞼や頬に口づけしていく。


 その度に心臓は跳ね上がり、全身が熱くなってしまう。最後にちょこんとした小さな鼻にキスを落とされ、思わずひゃっと高い声をあげ、クスクスと笑われてしまった。






・この前アルベルトに注意したのに自分も同じようなことをしてしまったカイルでしたが……。「アルいないし。まぁ、いいか」とか、思っていると思います。


唄巫女衣装ティアラ

挿絵(By みてみん)


庭園でのシーンの。(捕獲される数秒前)大きいサイズのは2023,01/15の活動報告のところに載せてます。

挿絵(By みてみん)






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