レヴァン領(婚約者様は試される)★
・今回ちょっと長いです。
・色気要素の描写は全くありませんが、お風呂の話が少しあります。ご注意ください。
・沢山のブクマ、評価、いいね、本当に本当にありがとうございます!めちゃくちゃ励まされてます!続き書く意欲もらってます涙
青く澄み切った晴天の日、カイル様とソフィアがレヴァン家に遊びに来てくれた。馬車から降りた二人を出迎えると、ソフィアは嬉しそうに私の方へ近づいてきてくれた。
「ソフィア!カイル様もよくお越しくださいました。ずっと馬車に揺られて疲れたでしょう?大丈夫?」
「ありがとう。でも、私よりお兄様の方がふらふらかも。ずっと領地の仕事に追われていたから…寝不足なのよ」
カイル様の顔を覗き込むと、薄っすらと目元に隈が見えた。
「カイル様…、大丈夫ですか?お部屋で休みますか……?」
「ああ、大丈夫だよ。ティアの顔を見たら元気も出てきたし」
少し覇気がないようにも見受けられたが、静かに微笑むカイル様はどこか儚げな色気を醸し出しているようにも見えた。
「ティアは今日も可愛い格好をしているね。ヒラヒラで、………なんだか部屋に飾っていたくなるような格好だね」
「あ、うぅ……」
実はお母様との一件があってから、親子関係の小さなズレは改善され、本当の意味で歩み寄れたような気がするのだ。それは良いことなのだけど………。
お母様は私が小さい頃にしてあげられなかったことをとても悔やんでいたようで、「あの時もっと色々な洋服を選んであげたかったのよね。…こういうのとか、ああいう服も着せたくて。ティアは顔立ちが幼いからまだ着れるかしら」……と言い、気づけば母の着せ替え人形のような事態になってしまっていたのだ。私も母の想いを知ってしまったこともあり無下に扱うこともできず……今に至るのだ。
「お母様のお気持ちを知る機会がありまして……。その…、そしたらこんなことに」
「…………そうか。夫人がね……」
カイル様は短くそう答える。どこか不思議に感じたが聞き返す前に、お父様やお母様の挨拶の言葉により聞くタイミングを逃してしまった。
「この度は、本当に……本当にありがとうございました」
お母様がカイル様にそう言うが、少し状況がつかめない。どういうことだろうと、じっと見ているとカイル様が簡略的に話してくれた。
「仕事の話だよ。その関係で少し前にこちらに訪れたことがあったんだ。ティアラは知らないと思うから気にしなくて大丈夫だよ。……レヴァン卿、話はまた後で」
「ああ、そうだな。疲れているところすまないね。中に入ろう」
室内に入ると、お父様達とカイル様はまたお仕事の話を始めてしまったようだ。
「ティア、すまないが、ソフィア嬢と一緒に部屋で待っていてくれるかい?」
「ごめんね。ちょっと大事な話なんだ。終わったらすぐそちらに行くよ」
急ぎの話だったのかカイル様とお父様たちは応接室へ行ってしまった。私も一度ソフィアを来客者用の部屋に案内した後、私の部屋でお茶をすることにした。
「あっ!この子も一緒に連れてきたのね。愛されているわね~」
「うん、大切だから…」
いつも寮の自室に置いていた大きなクマのぬいぐるみがどっかりと陣取るように長椅子に座っていた。私はその子を持ち上げると、腹話術をするように手を動かし「ソフィアちゃん待ってたよ?そちらの横の椅子へどうぞ」と小さい頃にしたお人形遊びで挨拶をしてみた。
「ふふふっ、うちのクマも持ってくればよかったわね」
お互い椅子に腰掛けると、マリアがティーセットと共に色とりどりのケーキや焼き菓子を並べ始めた。
「わっ!な、なにこれ、すごく可愛い……」
「うちの料理長が腕を振るってこの日の為に用意してくれたの」
ソフィアの驚いた顔を見れて、こちらも口元がにこにこっと緩んでしまう。準備したかいがあったというものだ。テーブルの上に用意されたケーキスタンドには動物の形をしたミニケーキが沢山並べられていたのだ。その中でも特におすすめなのが猫のケーキだ。
料理長にお願いして、ルビーを模したような赤いチェリーの目と生クリームで白い毛並みを表現してもらった。中はスポンジケーキとストロベリーレアチーズケーキの二層になっている。見た目も中身もとても可愛らしくて美味しい一品だった。
◆
ソフィアと談笑していると時間はあっという間に経ってしまったようで、お父様達との話を終えたカイル様がこちらへ訪れてくれた。中に入ってもらうようにマリアに伝えたのだが……、扉を開けてもなぜかカイル様は立ち止まって入ってこない。
「カイル様どうされたのですか?」
小首を傾げそう告げるも、カイル様は目頭を押さえ唸っている。
「目が………」
「え、え?カイル様、やっぱり疲れてるんじゃ……。あまり無理したら良くないのでは」
「あ、いや、……大丈夫だよ…」
ルビーのケーキをテーブルに置くと、向かいの席に座ってもらうように促す。来てくれたことが嬉しくて微笑むとカイル様は一度微笑み返した後、襟元を少しだけ緩めた。
「そのクマ、僕が留学した時のだよね?懐かしいな。まだ持っててくれたんだ……」
「はい。いつも一緒なんです。頂いた時から、今までずっと…。留学した時、私、まだよくわからなくてぼーっとしていましたから。いなくなってから寂しさに気づいて…。その時この子がいつもそばにいたから……。なんだかカイル様みたいだなって思えて。大きくて、どっしりと見守ってくれているようでしょう?」
寂しい時はぎゅっと抱きしめたり、迷った時には話しかけてみたり。クマの手を握りしめるとふわふわした感触が気持ちよかった。
「……自分で贈ったのに、嫉妬してしまいそうだ」
「え?」
「いや、なんでも?」
ソフィアが横でクスクスと笑っている。
「あ、あの、カイル様から頂いた手紙や贈り物も大切に残していますよ?プレゼントはいつも近くに…、ほら、あそこの棚に置いているんです。……飾っていたらちゃんと思い出せるので。私、以前はもっとぼんやりしていたでしょう?…そんな忘れっぽい自分が嫌だったんです」
「………そうか。ごめんね…」
「いえいえ、カイル様は勉学の為に行かれたのですし、私が引き止めていい理由なんてないです。それにソフィアが沢山遊んでくれましたしね」
「そうね。一緒にプレゼントも考えたわね。そうそう、お兄様も自分の部屋にティアラからもらったものをコレクションしているのよ。ちゃんとケースに入れて埃が被らないようにしているものもあるしね」
「……ソフィア、そういうのは言わなくていいから」
額に手を当てため息をつく。意外な情報に目をぱちぱちさせて驚いてしまった。
「そうなんですか?」
「僕にとってもティアからもらったものはどれも大切だったからね」
その声は穏やかで嘘偽りのない言葉のように思えた。
「……どうしたの?」
「あ、その…、ううん。………なんでも………」
じっと見すぎてしまったことに焦って、ぷいっと顔を横へ向けてしまった。
◆
水精霊祭は一ヵ月かけて盛大に行われる。街ではパレードが行われたり、花火が上がったりする。私も数日後、湖の神殿で水精霊の巫女となり祈りと歌を捧げる役目を担っている。その儀式は代々レヴァン家の者が代表して山からの恵みの水を感謝するのと共に、災害からの守りも兼ねて祈りを捧げるものだった。
「レヴァン領は自然豊かな土地に恵まれているけれど、整備が行き届かなかった時代、災害に悩まされることも多かったの。レヴァンの始祖は民を守る為にまじないに頼って未来を切り開こうと考えたとも言われているんだけど、実際にはそれは魔法のことなんじゃないかなとも言われているけれどね。山からの恵みの水晶を湖の水に浸して飲むという儀式とかはその名残だと思うの」
「魔法が使えるように…か」
「実際に何代目かの当主は魔法が使える者もいたんです。そこから更に血筋を重んじるようになったとも言われていますね。けれど、すべての者が扱えたわけではないのです。その後の代辺りから水精霊祭で賛歌も歌われるよう変化していったようだし。もしかしたら、私の様な歌で魔力を揺さぶるような者がいたのかもしれないです。それで魔法の代わりに取り入れたのかも」
「調べたの?」
「うん。私の歌って何か遺伝的なものがあるのかなって思って。クリス皇子殿下に負けられないもの。抵抗できるように何かできないかなって考えてて」
「ティアラも大変ね……。書物には何か唄に関する記述はあった?」
「正確にはそれによって魔法の力が発せられたとは書かれていなかったわ。けれど、儀式の唄の内容がちょっと気になるの。白き竜への賛歌と言われているんだけど。嵐吹くとき、大きな翼を広げ民を守りたまえ……、白き竜よ、その涙で大地を潤せ……。たぶん竜とはレヴァン領の山だと思うの。白い雪が掛かっているからか、朝日を浴びた姿が白く神々しく見えたのかも。領民たちもその神々しさから祈りを捧げる者もいるから。けれど、光属性とも何か関りがあるのかもって考えもあってね」
魔導書の中には光属性の象徴が白き神竜と表されることもあった。対象の闇属性は黒の多頭竜、水は水龍、火は火竜、風は飛竜、土は地龍が挙げられる。
「水精霊祭は古くから守り継がれた祭りでもあるし、まじない要素の催し物も沢山あるから、何か魔法と繋がるものもあるのかなぁと思って。私はそこまで魔法のこと詳しくないから、そこはクレアに相談しないとわからないかなとも思うんだけど……」
「いや、そこまで調べていたのなら上出来だよ。よく調べたね。僕もここへは二週間くらい滞在するし一緒にまた調べよう?」
カイル様はお父様と共にレヴァン領の水晶の性質について調べていたそうで、滞在中にそちらの研究も進めるらしい。ソフィアは一週間の滞在の後、今度はアルベルト様のところへ行くらしい。婚約者の元へ行く前にこちらに寄ってもらっているような形なので少し申し訳ない。
「何言っているのよ!私はティアラと一緒に遊びたかったからいいのよ。それにアルは待たせても何も言わないもの。大丈夫大丈夫」
「……耐えることも大切だからな」
「耐える?何を?」
「いや、待つことも、だな」
きょとんとした顔をして、兄の言葉を飲み込む。ソフィアはアルベルト様のことをとても信頼しているのかな。遠慮しない仲というのもいいなぁと思いながらそのやり取りを見ていると、マリアから声が掛かった。クランが会いに来たようだ。
「カイルお義兄様、ソフィアお義姉様こんにちは」
「やぁクラン、元気にしていたかい?」
「ははは、元気いっぱいだよ。僕、カイルお義兄様から教えてもらったコツを取り入れたら結構打ち合いも続くようになったんだよ?」
「そう、それはよかった。クランは飲み込みが早いね」
「え?クラン、もしかしてあなたもカイル様に会っていたの?」
「あ、うん。この前レヴァン領に来たことがあったときにね」
「言ってくださればよかったのに」
「ごめんね。ちょっと立ち寄っただけだったから」
いつの間に……。そういえば一緒に食事できない日が何日かあった。その時かしら?
「あっ!クラン用にもお土産持ってきたのよ?」
ソフィアが思いついたようにそう言う。
「え!なになに?」
「薬草茶!」
「え……。それ美味しいの?」
「なによ!とっても体にいいのよ?クランは剣術に力入れてるって聞いてたから、体力回復や成長途中の身体への負荷を軽減したり、身体能力強化や栄養吸収率もあげる……(以下略)……などの効果があってすごーく滋養強壮にいいものなのよ?」
そう熱く語るソフィアだったが、クランとカイル様はぐったりした表情をしていた。
「それって、私も飲んでもいいのかな?」
「え?うん。ティアラも飲みたいの?」
「飲んで、運動したら身長伸びるかな~って」
「…ティア、これはそういう薬じゃないからね。無理して飲むもんじゃないよ。とてもエグみのある味だったし」
「お義兄様、飲んだの?」
「正確には無理やり……」
「うわぁ……」
「ソフィアお義姉様、他のお土産はないの?」
「まぁ、なんてこと言うの!他にもあるけれど、これが一番入手困難なスペシャルプレゼントだったのに!」
ソフィアはこの素晴らしさがわからないなんて、勿体ない!なんて残念な子なのかしら…とプンプン怒っていた。その横で未だ健康茶をじーっと見つめていると、カイル様に奪われてしまった。
「僕もティアに別のプレゼントを持ってきたから。ティアはそっちを受け取ってよ」
「え?」
カイル様はジラルドさんに指示すると大きな箱を数個用意させた。
「わ……っ」
カイル様が用意してくれたプレゼントは涼し気な今の季節に合う薄地の普段着用のドレスと、青空のような綺麗な舞踏会用のドレスだった。くるっと回ると光の加減で明るい鮮やかな薄い青に変化して見えるのがとても素敵だった。ドレスに合うようにチョーカーやアクセサリーも揃えてありどれもとても好きなデザインで素晴らしいものだった。
「すごく素敵ですね。本当に頂いてしまっていいのですか?」
「うん。むしろ婚約者なんだからこれくらい当然だろう?」
「え……、あ……」
その言葉にはっとして目をパチパチとさせる。頭の奥へ認識させると、頬が火照ってしまった。
「明日着てもいいですか?」
「ああ、それは楽しみだ」
その表情はお世辞からのものではなくて……。幼い頃に見た笑顔と変わらない自然な笑顔のように見えて、こちらも自然と笑みが零れた。
「あの色ってさ、もしかしなくてもお義兄様の瞳の色だよね」
「そうそう。お兄様って独占欲強いから」
「ふぅん……。まぁ、お義兄様が相手なら敵わないよね」
「え?」
「ううん。こっちの話。愛されてて他人が入る隙はないかなって話」
私たちの後ろでソフィアとクランがひそひそとそんな話をしていたのだが、私は頭の中がぽわぽわしていて、そちらへ目を向けている余裕は全くなかった。
◆
「……手紙にお願いしていた通りなんだけどね」
「うんうん。ばっちりよ。マリにお願いしているから大丈夫よ」
実は前もってどうしてもやりたいことがあったのだ。それは、カイル様へのプレゼントとして、お守りを作ることだ。けれどそこには色々と条件があるのだ。
この水精霊祭の時期に行なうと効果が高まること。願いを叶えたい相手には秘密にして作ること。そして、満月の夜、身を清めてから行なうのが一番効果が高いこと。その満月の日とはちょうど今日にあたるのだった。
「守り石を作るには相手と自分それぞれが普段よく身に着けている物が必要ってあったから、お兄様の場合はピアスがいいと思うのよね。今沢山付けているから一つくらいなくなってもたぶん平気だと思うの」
そうなのだ。この守り石を作るには、守り石となるレヴァン領の水晶とお互いが身につけているものとをそれぞれ一緒に置いて10日間月夜に当て願い事を祈るのだ。そして儀式が行われる湖に一度浸すこと。
私の場合は壊れてしまった蝶の髪飾りを、カイル様のはソフィアが言ったようにピアスを添えることになる。
「うんうん。でも、どうやって取りに行くの?タイミングが……。あ、お風呂の時間?」
「そう!たぶんジラルドは駄目って言いそうなのよね。夜更けに女性が寝衣姿で出るのは駄目ってね。わかってはいるけれど、そこはお兄様だから大丈夫よ。鉄の心を持っているから変なことにはならないわ」
(鉄の心……)
確かに、この守り石を作る条件にはどうしても夜、行なわなければならないのが一番の難関だった。私だって一応そんな夜這いまがいなことは良くないのはわかっている。けれど、どうしても作りたかった。
実はこの石、結構な確率で成就した例が多いのだ。
一番願いが叶いやすいのが、互いの絆を結び強固なものにするということ。お母様もお祖母様も若い頃やったことがあるらしい。その為お祖父様もお父様も他所で遊び相手を作ることなくずっと愛情を示してくれたらしい。
それと、もう一つ、怪我や病気をしても早く治るともされていたのだ。カイル様は最近ずっと疲れているようだった。蝶の髪飾りには及ばないが、何か癒しに繋がるものを贈りたくもあったのだ。
「それでね、マリに協力してもらうの。兄妹で連絡をとる素振りをしてもらって部屋を出てもらうからその隙に中に入るのよ」
「わかったわ。マリア、いいわね?」
この話はマリアにも事前に話していた。最初はマリアも渋い顔をしていたが、頼みに頼んで、数分で出て来るなら……ということで内緒にしてくれることになったのだ。
「婚約者同士とはいえ少々不安ではありますが…、待てるのは長くても10分ですよ?10分経っても出てこない場合は流石に扉を開けさせていただきますからね?」
「うん!うん!!そこは絶対守るわ!」
私たちはあれこれ計画を確認し合っていると部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「ソフィア様、マリです。もうすぐお時間です」
「わかったわ。ティアラ、準備はいい?」
「ええ、大丈夫よ」
深呼吸を一回して、ドキドキする心臓を胸で抑え落ち着かせる。
「カイル様のピアスは入って右側の机の上に置いておきます。私と兄が部屋から出て見えなくなったら中へお入りください」
「マリさんありがとう」
確認し合うとお辞儀をしてカイル様の部屋の方へと出ていく。マリアは私の部屋の前で待機だ。私とカイル様のお部屋へは同じ階の端と端のような位置関係にある。それゆえ、メイド同士が連携して合図をくれる手はずとなっていた。数分後、今度はマリアからマリさんとジラルドさんが部屋を出たことを知らされ、いよいよ行動開始だ!
「それじゃあ、行ってきます!」
「ティアラ頑張ってね!」
早歩きで廊下を移動し、カイル様の部屋の前まで来る。大きな音を立てないように慎重にドアを捻る。部屋の中には当然誰もいなかった。
(…えっと、右の机……。あっ、ピアスはあれね!)
場所を確認して、サッと入ってサッと出る!イメージはできた。きっとできる!そう信じて静かに音を立てないように机まで進んだ。だが、手に取った瞬間あろうことか、奥の扉がガチャッと音を鳴らし開いてしまった。そこに現れたのは髪をバスタオルで拭いながら上半身はまだ裸のままのカイル様だった。
「ひやぁっ!」
「………ティア?」
「わわわわわわわ、ごめんなさいごめんなさい、わわわん!っんんーー!!!!」
パニックになっていると、急に視界が真っ白になってしまった。カイル様が、持っていたタオルを使って身体と顔を隠すようにぐるぐるに巻かれてしまったのだ。
「ごめんね。でもとりあえずこれで隠して」
「ううぅ………。カイル様……ごめんなさい」
「……本当にね。こんな時間に、…こんなタイミングで来るなんて……。襲ってほしいの?」
「そ、そうじゃなくて!これには訳があって!で、でも言えなくて……。それで……あの…その」
「……どういうこと?」
「と…10日後!ちゃんと説明します!それまで待っててください」
少しの間と共にカイル様は口を開いた。
「………はぁ。そこまで言うなら理由は聞かないよ」
(ほっ)
「でも…!次同じようなことをしたら……お仕置きするからね?」
少し低めの声でそう囁かれビクッとする。
「頼むから僕の理性を試すようなことはしないでほしいな……」
「あ…ぅ…」
「カ、カイル様っ!!!!」
「「……あ……」」
勢いよく扉が開く音と共にジラルドさんの声が聞こえる。
「まさか襲おうとされ……」
「どうしてそうなるんだよ」
「あ、あの、私のせいなので……。すみません」
「ティアラ様……。これはこれで、大丈夫ですか?」
「お互いの為だ。しょうがないだろう?とりあえず今日はもう部屋へ戻るんだよ。ほらマリアも心配した顔で待っているよ」
前が見えないので両肩に手を添えられ移動させられる。廊下にはマリアの他にマリさんとソフィアも待機していた。
「ふぅん…。皆絡んでいたのかな。ね?ソフィア……」
「うっ。でも、今回はしょうがなかったの!それに、お兄様は忍耐力が強いから大事になることなんてないでしょっ!」
「兄をなんだと思ってるの…?今度アルにお前の秘密を言ってやるからな」
「えぇ!やめてよ!そんなのないしっ!」
「どうだか。兄を怒らせたらどうなるか覚悟しておけよ?」
わっ、私のせいなのにソフィアまで追い詰められている。止めたくてアワアワしながら勢いよくドンっとカイル様のお腹辺りに突っ込む。いわば腹ドン………。いやいやそんなこと言っている場合じゃない。訂正しないとっ!!
「カ、カイル様、悪いのは私だけなのです。皆私の為に協力してくれたんです。だから叱らないでください!」
「………君は……本当に…………」
大きなため息と共にカイル様はそれ以上責めるようなことはされなかった。
◆◇
「はあああああああぁ………。なんだったんだ?」
ソファに腰掛けそのまま楽な姿勢を取る。寝不足で頭が回らなくなりそうだ。
「大変でしたね……。私もマリの雰囲気がいつもと違うので違和感あったのですぐ戻ったのですが」
「ううぅぅうぅ…」
「カイル様そのうめき声やめてください。怖いです」
今日ばかりはジラルドの小言も無視だ。いや、いつもだが。シャワーを浴びるも、ジラルドにしては違和感のある物音が気になって早めに上がったのだが、まさかティアだったとは……。本当次があったら流石に自分を止められる自信はないだろうなと内心苦笑いしながら瞳を閉じることにした。




