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誤解は解けて仲直り


 秋の剣術大会へ向けて魔術科では課題が出されていた。特別な加工を施された精霊石に魔法を込めるというものだ。長期休みにかけての宿題らしい。


「精霊石に光魔法をかけると石が反応して吸収するの。魔力の少ない生徒でも簡単に反応できるように特殊加工してあるのよ」


 それは透明な水晶だった。なんの変哲もないように見えるが、クレアが言うにはとてつもなくすごいのだと念を押されて言われた。カイル様がこれを作ったらしいのだが…。


(どんな風に作っているんだろう?私も見てみたいなぁ……)


「秋の大会では皇族も出席されるけど、第二皇子は出席できないから…。私ね…、リアム皇子殿下に沢山借りがあるの。ここに来ようと勇気を頂いたのもそう。今二人と仲良くできているのだって皇子のおかげ…。皇子にとっては民の一人でしかないだろうけど、私にとっては勇気をくださった方だから」


 クレアは鑑定の瞳と魔法に対して消極的な環境にいたせいで偏見の目に晒されることが多かった。家族以外で何も先入観なく一人の人間として見てくれる人はいなかった。だから、自分は人と違う…、欠陥品なのだと常に劣等感を抱いて生きてきた。


 だが、リアム皇子は屈託のないその笑顔でクレアと接してくれた。周囲とは違う対応に戸惑ったが、彼は身分も周囲からの偏見も気にすることなどないのだと言ってくれた。


「魔法は有力なものだが、きちんとした情報がなければ異能や奇功と捉えられ、時に周囲から受け入れがたく思われてしまうんだろうね…。ここの人々は良い人達だが…魔法に対しての知識や情報が極端に少なかったんだろう」


「…私も、普通がよかったです」


「クレア…。私はむしろ君と出会えたことが嬉しい。その力は将来多くの人々を助ける力にも繋がるだろう。魔法についての正しい知識を学んでほしい…。帝都へ行って様々な知識に触れ視野を広げてほしい。きっと君にはそれが可能だろうし、知識を取り入れた時、君自身も変わることができるはずだ。それくらい価値観も人生も変わるものなんだよ?」

 

「本当ですか…?」


「ああ、本当だとも。君が持っているものは忌み嫌われるものなんかじゃない。とても貴重な宝石を持っているのと同じなんだ。悲しい顔もしないですむ…。必ず良い方向に動くだろう」


 その言葉に希望を抱き後押しされ学園に来たのだ。そして私やフレジアに会って、世界も価値観もガラッと変わった。魔法は普通に受け入れられ、障害ではなかった。優しく接してもらえることがとても嬉しかった。だから、二人の為になんでもしたいと思えたと…。


 けれど、今そんな自分を助けてくれた皇子が伏せているという。できることは限られてはいるが、何か恩を返したい。自分が救われたように彼を救いたいと思った。クレアはそうぽつぽつと自分の気持ちを語ってくれた。


「第二皇子殿下の回復祈願として行なわれるんだけど、今後一般の生徒へも水晶が配られる予定なの。回復の祈りを込めてもらうんだけどね。強い想いは魔法や呪いにも変化することがあるんですって」

 

「へぇ…。おまじないみたいな感じかしら」


「そうね。元々誰しもが精霊のエネルギーを持っているからね。魔法の起源も元々はそのような部分から来ているのかもしれないわね。」

 

「そういうことなのね。クレアの話も聞けてよかった…。私、少し誤解していたの。ううん…幼稚な嫉妬だわ。シノン先輩と仲良くしているクレアが羨ましくてあなたに背を向けてしまっていたの。本当にごめんなさい」

 

「フレジア…。そんなことないわ。私もなかなか話せなくてごめんなさい」

 

 フレジアは俯き自分の考えを恥じて謝った。


「私も同じ…。クレアは私のこと、心配してくれたのに私もクレアといるカイル様がどこかいつもと違うから不安になっていたの…。私も謝らなければいけないわ」 

 

「え!!!!ティアラ!そっちは全くもってそんな恋に発展するような甘い雰囲気なんて一切ないからね?!あ、シノン先輩とだってもちろんそんな関係でもないんだけどね!!!!」


 急に慌てだすクレアに私たちはきょとんとしてしまう。


「フォルティス卿は常にティアラのことを第一に考えているような方よ?ティアラがいなくても、女性と二人きりにならないようにされているし、名前の呼び方に関してもきっちりと線を引いているしね」

 

「え…、そうなの?知らなかったわ。…カイル様は特にそういうこと言わないし…」

「ふふ、変にあれもこれも言ったら疑わしく感じるでしょう?」

「フォルティス卿ってすごいのね。一瞬の隙も与えないと言うか…。徹底しているというか」


「そうね…。私と話す時は冷たいわよ?なんでそんな怖い口調なんですかって聞いたら、必要以上に優しくする理由はないからって言われたわ。それにね、変に優しくすると勘違いする子も多かったんだって。まぁ、確かにあの甘いマスクで微笑まれたらそういう子もいるかもしれないけれど…」


(勘違いする子…。留学先でもそういうことが多かったのかな)

 

「フォルティス卿の研究室にはね、従者のジラルドさんやマリさんも一緒にいるの。それからアスターもね。元々はコーディエライト先生の研究室の方で課題をこなしていたんだけど、そちらへ行く時にはアスターを連れて行動するように言われているの。私はその…、まだまだ状況判断とか慌てちゃう時があるから…」


 コーディエライト先生のこと、そしてシノン先輩のこと…。間接的にではあるが、その後ろにクリス皇子との繋がりもあること。その関係がどのようなものなのかわからない為、過度な接触は避けるようにしているらしい。


「クリス皇子は何を考えているのかわからない部分があるものね」


 私は眉をぎゅっと寄せて、うんうんと深く頷いてみせた。

 

「うん。私もそこは対処に困るのよね…。今回は特に帝位継承権も絡んでそうだし。下手なことは言えないから、アスターもコーディエライト先生の特別課題を受けたいということにしてついて来てもらっているの」


「そういうことなのね。アスター様もついてくれるなんて、優しいのね」


「あはは…。それね…。半ば強引にフォルティス卿が付けた形でもあったんだけどね。というか、ティアラはどうしてアスターのこと『様』って言うの?」


「あ、それ……実はね」


 シオン様やアスター様本人からも、もっと砕けた呼び方でいいよと言われてはいたのだ。けれど、以前アルベルト様のことを『アル様』と呼んだ時、カイル様が少し嫌そうな顔をされたことがあったのだ。


 ソフィアの婚約者だから『アルベルト様』って呼ぶんだよと訂正されそのまま了解したが、シオン様とアスター様は同学年だ。エルスター卿というと二人とも振り向いてしまうだろうし、かといって、そのままで読んだら、カイル様は様付けで呼んでいるのに自分ももっと砕けた言い方をしてと言われそうだったので、頭をフル回転させ今のような呼び方で通すことにしたのだ。


「なるほど…」

「カイル様が、クレアにも名前を呼ばせていないのだったら、尚更このままがいいかなって思うの」

「…………そうね。その方が角が立たなさそう」

「なんだか、そういうの、難しいわね」

「たぶん、フォルティス卿だからよね…。ある意味とても愛されているってことね」


 恋愛って難しいわね…とフレジアがボソッと呟いたが、私はなんとも反応しがたくて口を閉じるしかなかった。



◆◆◆



 クレアはかなり熱心に皇子の為に奔走していたようで、学期末のテスト勉強は全く手を付けていない状態だったらしい。半泣きになりながら、一緒に勉強してほしいと頼まれ私たちは三人で夜遅くまで猛勉強へと励むことに。


 いつもならば、彼女は成績優秀でこちらが教えてもらうこともあったのだが、今回ばかりはギリギリラインだったらしい。私は早くからソフィアと取り組んでいたのが功を奏し、なんと歴史や暗記ものは特に十位以内に入ることができたのだ。私の中ではかなりの進歩だった。けれど…、カイル様の知識量との差を考えると、まだまだ自分には足りないものが多すぎる。もっともっとその距離が縮んだらいいのに…。


 先ずは、図書館へと赴くことにした。歌について詳しく調べたかったのだ。

 

「音楽理論…、歌が上手くなる本…、歌の基礎知…」


 台に上り、左から右へ目線を滑らせるようにして本を眺める。すると、隣から声を掛けられた。


「調べものかい?」

「え?」


 振り向くとそこにはクリス皇子が立っていた。思いがけない人の登場に私は驚いて体が傾いてしまった。


「おっと、すまない。そんなに驚くと思わなかった」


ふわりと温かい感触に包まれたと思った瞬間、私の体は宙に浮いていた。彼の腕の中にいたのだ。


「す、すみません…」


慌ててお礼を言うと彼は微笑みを浮かべて言った。


「どういたしまして」


 そっと降ろすと、皇子は一冊の本を棚から抜き出した。そして、パラリとページを捲りながら、再び口を開いた。


「何かいい本はあったかい?私にも教えてくれないかな?」


 ―答えは見つかったかい?―


 そう問われているようにも思えた。


「まだ…探しているところです」

「そうか。……それはそうと、この前はすまなかったね。第三皇子が学園に来ていたから…」


 そう、それは数日前のことだった。演奏の会への練習の為、教室へと移動していた時に険しい顔をしたクリス皇子と出くわしたのだ。いつもと違う様子に不思議に思いつつも挨拶をすると強い口調で今日はこちらへ来るなと指示されたのである。


「いえ、あの時はびっくりしましたけど…大丈夫です」


「そうか、ならいいんだが。秋の大会の関係で第三皇子が学園にまで口を出しに来ていたんだけど、ちょうど鉢合わせしそうだったものでね。つい強い口調になってしまった…。どうした?そんな顔して」

 

「え、あ、いえ。どうして謝るのかなと思って…」


 彼は皇子なのだ。どんな振る舞いをされても結局のところ、許されるような立場だ。更にはこちらに対して感情を混ぜるような態度は以前にもしている。だから…いちいち謝ると言うのがどこか違和感を感じてしまったのだ。


「ああ…確かに」


(あっ、自分で認めた…)


「ふ、ふふふっ。どうしたんですか?いつもとなんだか違うような…?」

「くくっ、ああ、そうだな。おかしなことを言った…」


 お互いに笑い合う。もしかしたら分かり合えるのでは?と思った。だから、ずっと疑問だったことを聞いてみることにした。


「クリス皇子殿下。その…、なぜ皇子殿下は複雑なことをされるのですか?私には皇子殿下の真意が見えません…」


 仲良くしたいのなら、もっと簡単にできただろう…。もしも私ではなくカイル様への当てつけだったとしても、複雑でわかりずらい。彼は一体何がしたいのだろう。


「私は皇子殿下を嫌な目で見たくないです…。だから、もうこんな複雑なこと終わりに」

「止めないよ」

「………!」

 

 笑い合った時とは一転して冷たい表情をされる。


「第三皇子の前では少し頭の悪い高慢な皇子でいないといけなくてね…。今後こういうことがたまにあると思うが、本意ではないから。真に受けないでほしい」

 

「それは、どういう意味…」

 

「簡単に傷つかないように、ということだ。私の立場ではそういう場もあるからね。……できるだけそうならないようにしたいんだけどね…」

 

「え……?」


 最後の方はかすれて上手く聞き取れなかった。彼はそのまま一冊の本を私へ返すと立ち去ってしまった。クリス皇子から渡された本の題名を見るとそこには『歌詞から繋ぐ言霊』と書かれていた。





「ティアラ…!」

「あ、カイル様!」

「もう夕刻を過ぎているよ?マリアが心配していた」


 時計を見ると、もう皆寮の食堂へ利用する時間を回っていた。すっかり熱中して読んでいたようだ。


「また本を読んでいたのかい?」


「はい。さっきクリス皇子にもあってこの本をもらったのです。意図はわからないし、もしかしたら全然関係ないのかもしれないけれど、今日の皇子はどこかなんだか違かったので気になってしまって」


 私はさっきあったことをカイル様にも話すことにした。


「………少しブレているな」

「やっぱり、そうですよね。第三皇子とは本当の意味では協力関係ではないのかしら…」

「………そうだね。でもティアラに訂正しにわざわざ来るということは、ティアラには嫌われたくないのかもしれないね」

「どうでしょう。自分の用意したゲームを途中放棄しないでね?って言いたいのかも」

「まぁ、そこもあるのだろうけど……。どちらにせよ、むかつくな」

「…え…!いえ、…でも、相手は王族ですし、しょうがないような……」

「ティアラは玩具じゃないんだ。それに遊び相手の女性なら沢山いるんだし……」

「カ、カイル様そんなこと軽々しく言っては駄目です」


 辺りを見渡し、シーッと人差し指を唇に当てると、彼はニヤリと笑って言った。


「大丈夫、誰も聞いてない」

「もう、カイル様ったら!」

「……ごめん、つい本音が」


 心配してくれるのは嬉しいが、少々ヒヤヒヤしてしまう。


「あ、そうだ。この本を元の場所に戻したいのですが、手伝ってもらってもいいですか?」

「え?ああ、いいよ」


 私は席を立ち、棚の方へと案内した。


「あっ!台が片づけられてる……」

「ああ、大体の場所を言ってくれたら戻せるから大丈夫だよ?」


「え?」


「ん?」


 そうだった。棚は高いけれど、カイル様からしたら一番上の段だって軽々と手が届くのだ。自分との違いについ複雑な顔で見つめてしまう。


「どうかしたかい?」

「いえ、何でもないです……」

「…………持ち上げてあげようか?」

「うっ!いいです」

「遠慮しなくても……」

「遠慮してません~~」

 

 クスクス笑いながら、カイル様は本を簡単に戻してしまった。私は、台を使って背伸びしないと届かないというのに……。なんだか少し悔しいとさえ思ってしまった。







アスター君はカイルにいいように使われてしまいました…。


アスター「なんで俺なの?!」

カイル「アスターもいい勉強になると思って」


こうしてなんやかんやアスター君も魔法レベルアップの道へ進むのです…。






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