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ティアラの心

時系列的には「ティアラの青い蝶」のクレアとカイルの会話の続きになります。

 

 「それで…、ティアラは今どのような状態なんですか…」


 真剣な眼差しで少女がこちらを見てきた。クレア嬢にはティアラの光属性や「浄化魔法」については伏せて説明している。不用意にティアラの秘密を言うべきではない。話すにはもう少し強固な約束でもしてからだろう…。


 「結論から言えば、禁術は解けている。あの蝶の髪飾りには禁術が解けると同時に壊れる仕組みになっていたんだ」

 「………だから、髪飾りが壊れたって……」


 本来ならば、禁術魔法は簡単には解けない。だが、蝶の髪飾りにかけた緩和魔法は光と闇の混合魔法だ。ティアラの魔力を分けてもらえた分、浄化魔法の下位に類似する魔法ならば扱えた。それを最大限活用してのことだった。

 

 「緩和魔法は元の魔法を弱める作用がある。だから精神系の魔法には効き目が幾分よかったってことかな…」


 そこで言葉を濁す。嘘ではないが、本当はそれだけで治したわけではない。


 蝶の髪飾りは、誤った記憶の紐を緩くさせ、ティアラの本当の記憶とリンクした時に少しずつ解かれるよう細工していた。例えば昔好きだった食べたものや、よく言っていた呼び名など。泣いていたティアラに飴をあげた時、昔の記憶が思い出されたように…。少しずつ誤差をすり替えれば、脳が記憶の勘違いと認識し、本人への負担も最小限と踏んでのことだった。


 禁術で解決しようとした父への僅かな抗いでもあった。だが俺の予想よりも遥か先にティアラ自身が魔法を解いてしまった。それも……本人さえも気づかぬうちに。


 おそらく歌を歌って一時的に大気の魔力が集まっていたこと、俺の感情が揺れたことでティアラを動揺させたこと。過去の話を口走ったこと。『ティア』と呼んだこと……。様々な条件が折り重なったせいだったのだろう………。



 ――『カイルおにいさま………?』――

 


 まさか、またその呼び方を聞くとは思わなかった…。呼ばれると過去を思い出して胸が痛む。けれど、その表情は偽りの記憶からのものではなくて、本当の昔のティアが言っているのだとわかると目元が熱くなった。



 「徐々に記憶を取り戻してはいるが、俺が…魔法が使えるということは無理にティアラに言わないでほしい。解けたといっても心の強さは人それぞれだ。無理にトラウマを突き付ければ不安定になり兼ねない。ティアラはまだ受け入れるだけの心の準備ができてないんだろう」


 クレア嬢が聞いても否定したのだ。まだ混濁していた偽りの記憶で壁を作って自分の心を守ろうとしたんだろう。髪飾りが壊れた後のティアは、少しずつ順調に記憶が戻っているようにも見えた。


 だが、俺を『兄として慕う気持ちを恋だと錯覚している部分』と、『魔法が使える』ことに関しては若干目を背けているような気がした。


 「わかりました。そういうことでしたら私も無理に聞く気はありません。元はと言えば、ティアラがなにかフォルティス卿に利用されて騙されているんじゃないかと思って不安になったからだったので」

 「………」

 「私、てっきりフォルティス卿が悪者なのかと勘違いしちゃってて…。あはは、すみません。そんな状態だってわからなくて」

 「…勝手に悪者にしないでほしい」

 「だって、問い質した時のフォルティス卿、すごく怖い顔してましたし、口調も怖かったですし」


 後ろでくくっと笑う従者の声が聞こえる。目で窘めるとすぐにすました顔に戻ったが。

 

 「必要以上に喋りたい話じゃないしな。四年もまともに会っていなかったんだ。外見も変わってしまっていたし。雰囲気や口調が昔と違ってしまったら何かと不安にさせるだろう」

 「じゃあ、素はこっちってことですか?」

 「まぁ、そうだね」

 「ティアラの外見や性格も禁術からの影響なのですか?」

 「元々の部分もあるが、年の割に幼い喋り方なことやぼんやりしていたのはそのせいだね。外見も禁術で若干時間を抑えてた部分や俺が魔力を奪ってしまったことが幾分関係あるかとは思う」

 「………なるほど」

 「なんだ?」

 「いえ、ティアラの魔力をもらった分フォルティス卿の身長に影響が出たのかなーと、ちょっと思いまして」

 「父も同じくらいの身長があるから、こっちへの影響はそんなにないと思うよ……」


 机にはジラルドが冷えてしまった紅茶と新しいものを取り換えているところだった。それに一口含むとまた続きを話す。


 「ティアラの禁術は解けたが、完全に魔力が戻ったわけじゃない。数年経ったとはいえ蓄積された魔力はまだ微量だ。魔法が使えるようにとは言わないが、もう少し魔力を返して安定させたい」


 あの時の様な……、以前丘の場所で倒れた時のようなことはもう起きてほしくなかった。


 「…でも、どうやって…?」

 「精霊石に自分の魔力を流し込んで保管するという方法がある。それを応用する。俺とティアラは魔力を共有しているようなものだからティアラにも分け与えることは可能なはずだ…。ただその為の精霊石なんだが…」


 透明な水晶を手渡すと不思議そうに覗き込んだ。


 「それは()()()()で取れた純度の高い水晶だ。君の鑑定の瞳で調べてほしい」


 ティアラが触れた時、虹色に輝いた水晶だ。ティアラの光属性に反応したんだろうが、彼女は微弱な魔力しかないはず。それなのに俺もティアラも見えるほどの反応があるのがどうにも腑に落ちなかった。


 「わかりました。…少しお借りします」


 手に取り鑑定する。だが、彼女が触れても虹色の光は見ることができなかった。


 「………なにか分かったか?」

 「……………薄っすらと…なんですけど、水晶が見えます」

 「………?」

 「えっと、水晶の中に水晶があるんですよ。でも揺らめいていて見づらいんです」

 「………??」

 「なんですか、その顔っ!真面目にやってますよ?でもそうとしか……。もうっ!疑うんでしたら絵に描きましょうか?」


 疑っているわけではなかったが意味がよくわからなかった。

 腕を組んで黙っているとジラルドが気を利かせて紙とペンをクレア嬢に差し出した。彼女の絵を見てみると、水晶の中にもう一つ透明なひし形の水晶が描いてあった。


 「細胞の核みたいだな」

 「あ、そうです!そんな感じです。揺らめいていてたまに虹色っぽく光ってました」

 「ふぅん…」

 「あっ…、ということは光の属性要素が含まれているとか…」

 「ああ、たぶん」


 肯定すると急に何か閃いたかのようにクレア嬢は口を開いた。

 

 「これ、私も欲しいです!この中に沢山色んな人の回復魔法を込めたらより強力な浄化魔法に似たものが作れるかも……」

 「ああ、第二皇子の件ね」

 「そ、そうです。それです!コーディエライト先生やシノン先輩にも教えたらきっとまた違った情報が頂けるかもしれませんし!」


 「残念だが…俺はあの二人とは表面上でしか協力する気はない」


 「え…。ど、どうしてですか?!」


 折角いいものを見つけたのに、とでも言いたげだったがこちらにも事情があるんだ。


 「君は二人を信用しすぎだ。コーディエライトは昔、上位宮廷魔術師の一人だったんだ。だが、不祥事を起こして辞めさせられている。シノンも新入生歓迎会の時に途中欠席しただろう?あれはクリス皇子とも関係がある……」


 「え、ええ、ええええっ?!?!」


 「………驚きすぎ」

 「えっ、だ、だって。すごくいい人たちだったし!そんな……」

 「言っただろう?誰を信じるべきか、頼るべきかって。光魔法は君が思っている以上に希少で人を惑わせやすい。いい人でも明日は異常者に変わることだってあるしね」

 「………」

 「こちらに全面的につくようであれば、この水晶に変わる方法を提供しよう。それとも俺が言ったことが信じられないようであれば、この水晶とティアラのことは他言無用で帰ってもらう」


 しばしの沈黙が流れる。相手からは焦りの表情が伺えた。


 「関わるなとは言わない。だが気を許さな方がいい…。それに今すぐ結論に至らなくていい。そうだな、今度の剣術大会の時までに答えを出してくれたらいいさ」

 「あ、あの…!わたしっ!!こちらに…」


 その声は若干頼りなく、瞳は揺れていた。


 「こら、焦るな。即決が大事なわけじゃない。それじゃあ、今後また騙されるぞ」

 「うっ…」

 「魔術師は感情を抑え冷静でいることが基本だろう?まずは自分自身でこれまでの彼らの様子をおさらいでもしてみるんだな」

 「……はい」


 俯き、縦に首を振る。情報が少ない中で答えを出せというのは酷だが、彼らは不透明な部分がある。深入りして万が一ティアラにまで害が及ぶ可能性があるならこれ以上接点を作る気はない。


 お互いに譲れないものがあるのだ。すぐ揺れてしまうようでは交渉にならない。信用できる協力者になって貰う為にも一度突き放し、考える時間を与えることにした。




 

・伏線回収の話でした。やっと少し回収できました。けどまだところどころカイル君喋らないのでもどかしさが残りますが…ここまで根気強く読んでくださった皆様ありがとうございます(ストーリー展開遅くてすみません)


・クレアが何かと色んな男性と接点多くなる一方で、ティアラとフレジアを不安にさせちゃいますが、彼女は彼女で頑張ってるので。頑張りが伝わらず可哀想ですが報連相大事…みたいな。






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