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青い蝶と蝶結び

最初の部分は幼い頃のティアのお話です。


 ソフィアと一緒に可愛い髪型をしたくて、お互いの長い髪を使いながら、みつあみをしたり、髪飾りをつけたりと幼い私たちは色々な髪型を考える。けれど、みつあみをしても、最後のまとめ方がわからなくて少し緩くなってしまう。


「リボンも沢山あるのよ。ピンクに、白にオレンジ、黄色、水色…。お揃いがいい?それともいっぱいつける?」

「いっぱい!」

「ティアは髪が長いからお人形さんみたいね。沢山つけて可愛くしてあげるわね」

「ありがとう。ティアもソフィアにしてあげる」


 先にソフィアが沢山私の髪にリボンをつけてくれた。けれど……


「あれ…、うーん、こうかな?」


 最初の結び目は作れても、蝶々結びが上手にできなかった。私もソフィアに習って同じように作ってみるが、やっぱり上手くいかない。


「ちょっと待ってて………」


 そう言って、ソフィアは走って自分の部屋を出て行ってしまった。数分後、戻って来たと思ったらカイル様も一緒だった。どうやらまた無理やり連れて来たようだ。片手には読み途中らしき本を持っている。

 

「わっ、ティアが紐まみれになってる」

「ち、ちがうわ!リボンをつけて可愛くしようとしていたの!」

「ああ…。そういうこと?」

「そうそう!リボンが上手に作れないの。お兄様教えて」

「メイドもいるのになんで僕なの………?」

「だって、お兄様ったら、私が声掛けないと遊んでくれないじゃない」


 ソフィアはほっぺたをぷくーっと膨らませながらプンプン怒ってみせた。


「そんなことないよ。僕はただ本を静かに読みたいだけだよ。ソフィアうるさいんだもん。すぐ話しかけて来るし。一分も経たないうちに喋るだろう。集中できないんだよ」


 その言葉がぐさっと刺さったのか、ソフィアは可愛い顔をくしゃっとさせて泣きそうな…癇癪を起しそうな顔をしていた。


「あ!あのね、カイルおにいさまっ。ティアもカイルおにいさまと遊びたいな。ね、いいでしょ?」

「……ティア?」

「あのね、…あのね、ティアもソフィアもリボンが作りたいだけなの。上手に作れるようになったらもう邪魔しないから。だからね……、あのね………」


 喧嘩も、泣いてる姿も見たくなかった。でも言葉が思うように出てこなくて困ってしまった。


「はぁ、わかったよ。ティアも泣かなくていいよ。ソフィアも悪かったよ」


 どうやら、いつのまにか私の方が泣きそうになっていたようだ。





「片方で輪を作って、もう片方で輪の外側からぐるっと回して、…間にできたトンネルを通ってキュッと結ぶ……」


 教えてもらっても理解できなくてリボンは緩く緩く頼りない形になってしまう。そしてすぐに解けてしまった。カイル様は何度も教えようとしてくれたのだが、小さな指を上手に動かすのはなかなか難しかったのだ。


 ソフィアは私よりも先にコツを掴んだようで手始めにくまのぬいぐるみを使って二個目の蝶々結びに挑戦していた。私はというと、いつまで経ってもトロトロと手を動かし一人で作れないでいた。見兼ねたカイル様が後ろから抱き込み膝に抱え更に根気強く教えてくれることになった。


 カイル様の両手と私の両手を重ね蝶々結びの練習をする。左右のリボンを動かすと、一人で作るよりいくらかしっかりとした動きになった。けれどまだ蝶々の羽の大きさが片方は小さく、もう片方は大きくなってしまう。


 「同じくらいの力で引っ張ると綺麗な羽ができるんだよ」

 「やってるよ?でもできないの…」

 「あー…じゃあ一緒にやろ。せーので引っ張るんだよ」

 「うん、わかった!」



 なんとか形になったリボンは水色の小さな可愛らしい蝶々だった。



◆◆◆



「カイル様、リボンが解けていますよ?」

「え?あ、本当だ…」


 リボンをスッと解くと綺麗な髪がサラサラと肩にかかった。蜂蜜色の艶やかな髪が揺れて男性なのにどこか中性的なようにも見えてつい見惚れてしまった。


「どうしたの?」

「あっ、い、いえ…髪を下したカイル様が綺麗だったので…」

「へぇ?ティアにそう言われるのは嬉しいな」


 ふっと口角を上げて笑う姿はとても妖美で思わずドキッとした。カイル様はそのまま、髪を結び直そうと手を動かしたが少し苦戦しているように見えた。人のことには何事も卒なくこなして面倒見のいいお兄さんなのに、自分のことになるとちょっと不器用なのだろうか?


「あの……よかったら私が結びましょうか?」

「えっ?ああ…、じゃあ、お願いしようかな…」

「ふふふっ、なんでもできちゃうのに少し意外ですね」

「自分の髪を結ぶのはちょっと下手でね…」


 リボンを受け取り、屈んでもらおうとするが、ここで二人とも気づく。私たちの身長差では屈んだくらいでは届かない。


「あ…。届かないね」

「…うっ!…ううぅ。すみません、カイル様、あちらに階段があるのであっちに移動してもらってもいいですか?」


 カイル様の服の袖を掴み廊下の先の階段まで促した。数段カイル様が降りると私の方が少し背が高くなる。いつもと違う目線に新鮮な気分になった。


「この位置だとティアの顔がよく見えるね」

「ふふっ、いつも見上げてばかりだったのでちょっと嬉しいですね」

「僕も下を見てばかりだったから、不思議な感じだな」


 お互い首が痛いよねと苦笑してしまった。


「私、頑張って早く…大きくなりますね」


 蜂蜜色の艶やかな髪を手櫛で整えるとさらりと指の間を通り抜ける。真っ直ぐなその髪をまとめリボンを蝶々結びにすると最後に解けないようにきつくキュッと結んだ。


「はい、できましたよ」


「ありがとう。ティアは器用だね。手つきが優しくて撫でてもらっているようだった。ジラルドにも言ってやりたいな…」


 「いつもはジラルドさんがやっていたんですか?」


「ああ、身支度中眠っているときつーく髪を引っ張って結んできたりするんだよ。全くひどい従者だよ」


 やれやれと困り顔だが表情はどこか楽しそうだ。仲が良いんだろうなと思う反面、ちょっと羨ましいと思ってしまった。


「カイル様、あの…今度一緒にリボンを買いに行きませんか?」

「え?」

「一緒の色のリボンが欲しいんです…」


 以前頂いたお気に入りだった蝶の髪飾りは壊れてしまった。その代わりではないけれど、一緒のものが欲しいと思ったのだ。


「ああ、買いに行こう」


 カイル様は嬉しそうに笑うと手を伸ばし私を抱き上げいつもの位置へと降ろした。


「やっぱり、いつもの位置が落ち着くな」


 目線は下がってしまったが、私もそれは同じだった。あの整った綺麗な顔を毎日見るのはちょっと心臓に悪い。


「……あれ?」

「ん?」

「カイル様、私少しだけ背伸びたような…。ちょっと目線が違うんです。いつもはベルトの上くらいの目線だったのに若干お腹の上の上になったような…」


 じっとカイル様のお腹で自分の身長を測って確かめてみた。


「そうなのかい?僕にはちょっとわからないけど…」

「ええっ!本当ですよ?伸びたんですよ?」


 思わず興奮して大きいリアクションをして見せる。私にとってはとてつもない大発見だったのだ。だが、場所が悪かった。身振り手振りで大きな動作をしていた為、うっかり足を踏み外してしまった。


「きゃっ」

「危ない!」


 咄嵯にカイル様に腕を引っ張られ事なきを得たが、カイル様の胸の中にすっぽりと収まってしまった。


「…ご、ごめんなさい……」

「うん、びっくりした…」

「気をつけます。て、…あ、あの……カイル様……?」


 そのまま猫のように両脇を抱えられ階段の下まで連れていかれ、トスンと降ろされる。


「ティアは軽いな」

「あ…あぅ…」


 ちょっと背が伸びても、まだまだ子ども扱いされているようで顔が真っ赤になってしまった。


「ん?どうしたの?」

「……階段はちゃんと降りれますよ?」


 そこまでトロくはないですと少し主張を含めて言ってみる。


「あ、うん。でもまた転んだら危ないかなと思って」

「うぐっ………」


 親切心でやってくれたであろうその行動に、それ以上何も言えなくなってしまう。手厚いほどの優しさが伝わってくる反面少し大きくなったくらいではレディとして見られていないようにも思えて少々複雑な気分だった。


「ふふ…、ティア面白い顔してる。可愛いね」


 深い青の瞳が優しく細められてこちらを見つめている。その表情は昔何度も見た優しいおにいさまの面影が残っていて思わず胸がキュッと切なくなった。


 ――ああ、本当敵わない…――






  

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