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クレアとフレジア2

最初はクレア

◇◇からはフレジアです。


 皇宮にだって、鑑定の瞳を持つ宮廷魔術師がいるのではないか…?そう先生に尋ねてみた。しかし、既に病で臥せっていると公表されている以上、下手に外部が手出しをすると後々面倒なことになりかねないとやんわり断られてしまった。


 正妃の子は第二皇子と第三皇子だが、帝位継承権を狙って第三皇子やそれを支持する過激派の貴族たちが第二皇子を陥れようとしている可能性も否定できなかった。


 第四皇子であるクリス皇子殿下の立場としては側妃の子の為本来ならば継承の可能性は薄かったのだが、第三皇子とは相容れぬ暖健派が第二皇子支持派から分散され流れてきている状態でもあった。


 コーディエライト先生からは、もう少し第二皇子の状態やその周りの状況を探ろうと言われた。先生は知り合いの宮廷魔術師にその件について聞いてくれると約束もしてくれた。私はその間に、魔法を更に上達しなければならない。


 そして、第二皇子のことも心配だが、もう一つ気がかりな点があった。それはティアラの髪飾りのことだ。フォルティス卿のお父様は毒と精神操作の魔法を扱える宮廷魔術師と言っていた。こちらも何か関係しているのではないかと不安が過った。



「今すぐ何かできるとしたら、クレアは自分の魔法をより上達させて、浄化魔法を覚えることじゃないかな」


 放課後を使ってコーディエライト先生の研究室の前の中庭に集まり、先生から出された課題をシノン先輩と共にこなしながらそんな話をしていた。先生はクリス皇子殿下への個人授業ということで今は外出中なのだそうだ。


「魔法を使って水を出したり、火を出したり……というのはもう授業でやっているんだろう?先生が君に出した課題はこの精霊石に魔法を打ち込むことだったね?」

「はい」

 

 私の魔法の属性は火と光だ。だが、ただその二つに関連する魔法を練習すればいいという話ではない。六種類の属性をバランスよく使いこなすことが大切なのだと教わった。ただ闇雲に使うのではなく、どの属性と組み合わせて使うかを考えることも必要なのだそうだ。


「まずは自分が苦手な属性の魔法を掛けてみたらいいよ。クレアはどの魔法が苦手なの?」

「えーっと、風…ですね。コントロールが難しいんです」

「そうなの?僕は風属性が得意なんだけど」

「え!そうなんですか?どうすればいいんですか!!」


 前のめりになり食いつくように尋ねる私を見て先輩は苦笑した。今まで何をするにも先生に聞くか本を漁るしか手立てがなかったのだ。私はあれもこれもと先輩に聞いてしまう。だが、フレジアが言っていたように本当に教えるのが上手なのだ。一つ一つ丁寧に説明してくれる。おかげで自分の苦手とする風魔法に対するイメージが湧きやすくなった。


「新入生歓迎会の時に使った魔法石の花火も同じように魔法を込めたって聞いたんですけど、これも魔法を掛けすぎると爆発するんですか?」


「ああ、フォルティス卿がやってくれたやつだね。構造的にはちょっと難しいんだけど…。単純に言ったらそういうことかな。でも、今のクレアにはまだそこまでの複雑な魔法は込められないから爆発しないよ。ただ、魔力を使いすぎると魔力切れで倒れることもあるからそっちの方を気をつけてね」


「わかりました」

「じゃあ、僕は他の研究資料の方チェックしてくるから終わったら言ってね」

「はい!」





 ふぅ……。ひと段落ついて顔を上げるといつの間にかは薄っすらと暗くなってきていた。シノン先輩がくれた透明の水晶は特殊な加工がされているようで、魔法を放つと水が注がれたように溜まっていく。水晶というコップに色水が満タンになるように魔法を閉じ込めたらいいそうだ。


 私はこの時間で水と風と光の魔法を入れた精霊石をそれぞれ一つずつ作り上げた。水は水色、風は緑、光はほんのり七色に輝いていてとても綺麗でなんだか可愛らしい香水瓶のようにも見えた。


「シノン先輩、終わりました……」


 研究室へ戻っていたシノン先輩に声をかける。


「お疲れさま。今日はこれくらいにしておこうか。ほら、こっちへ来て少し休みなよ」


 そう言うなりシノン先輩は温かいココアを出してくれた。魔力をだいぶ使ってフラフラしていたのでとてもありがたい。ただ、フレジアの恋心を思うと、内心後ろめたさを感じた。シノン先輩が入れてくれたココアをもらったなんて話したら発狂されちゃうだろうな……。顔には出さないようにしたが、心が痛んだ。


「ありがとうございます。あったかい……って、あ!ルビー、その石で遊んだら駄目よ」


 机の端に置いていた先ほどの精霊石を毛糸球にじゃれるように手をちょんちょんと動かし床にゴトーン、ゴトーンと落としてしまった。


「わぁっ、ルビー!」


 ひょいっとふわふわのルビーを抱き上げ悪さを止めようとするが、光魔法を込めた精霊石を口に咥えて放そうとしてくれない。


「も~、それはおもちゃじゃないのよ?」

「ははは、ルビーのお気に入りになってしまったな。まぁ、危険性は低いから大丈夫だよ」

「そうなんですか?」

「光魔法だったら回復系が主だし、それなりに特殊加工もしてるから硬度もあるから壊れることはないよ」

 

 なるほど。ルビーは抱っこしても、まだ精霊石を放さずガジガジと嚙んで遊んでいた。


「……シノン先輩、この石は何か他に活用することはできないんですか?」


「ああ、それね。できるよ。複数の水晶を一つの水晶に再結晶させて魔法を混ぜる、ということもできるんだ。ただその人工結晶の方法が結構大変でね。それをやってくれたのがフォルティス卿だったんだ。あの時は性能のいい精霊石がなくてね。フォルティス卿が人工結晶を作ってくれたんだよ」


「そうなんですか……」


「うん、高温や高圧までならなんとかできるけど、普通なら短時間でできるものじゃないんだよ。だから本当にあの時((新入生歓迎会))は頭が下がる思いだったよ」

 

 フォルティス卿…。思わず眉を寄せてしまう。でもここで一つ閃いたことがあった。


「先輩っ!もしも…光の回復魔法を閉じ込めた精霊石を沢山作って、融合したら…。そしたら浄化魔法に匹敵するほどの魔法になりませんか?」


「え…。あ…確かに…、そういうことも可能……か!だが、沢山作るというのもまた難しいんじゃないかな?」


「できますよ!!魔法科の生徒達に一つずつ作ってもらうんです!!!学園から第二皇子への回復祈願として作ったって言えば、お城に届けることも可能ではないですか?」


「……確かに!それなかなかいいね!!でも、どうやって渡す……あっ!!!」

「な、なんですか?何かいい方法でもあったのですか?」

「できるよ!あー…でも、間に合うかな…。…うーん…フォルティス卿に頼めば…なんとか…」


 一人でぶつぶつ言いだした先輩はどこかコーディエライト先生のようだった。あの先生の元にいると助手も似通うのか…。


「で!どういうことなんですっ!!!」


「わっ!あ、ごめん。…えっと………、もうすぐ剣術大会があるだろう?今回は三学年での剣術大会があるんだけど、各学年での一位を決めるだけ。だけど秋頃に行われる大きな大会では、学園での順位を決めるんだ。それによって王宮での推薦者が決まるようなものだから、当然近衛騎士団長や上位宮廷魔術師、それから第三皇子や陛下も参加されるんだ。…第二皇子は多分今年も不参加だろうけど。だけどその場を利用して献上すれば誰も無視できない」


「なるほど…。確かに公の場で行なえば、生徒の善意を取り下げることはできない。もみ消される可能性も低い…」


 なんだか、少し先が明るくなってきたかも。


「あ、でも…、フォルティス卿と学園長はいいとして、クリス皇子殿下にはなんて言えばいいのかしら…」


 普通に言って快く聞いてくれるのかしら。皇位継承権が低いとはいえ、クリス皇子と第二皇子の関係を私は知らない。確か第一皇子とご自身の母を亡くされているのよね…。正妃様が絡んでいるのではないかという噂は私の領でもされていた。でも実際のところクリス皇子はどう思っているんだろう…。


「それなら問題ない。私の方からクリス皇子殿下に話をしておこう」


 後ろを振り向くとそこにはコーディエライト先生が立っていた。如何にも「話はすべて聞いていた!!!」とでも言うかのような登場に思わずあからさまな動揺をしてしまった。


「「先生!!」」

「いつからいたんですか?」

「ああ、今さっきだ。クレア君がシノンにどうなんです!?って大声で食いかかっていいる辺りからかな…」


  そんな前から聞かれていたの!?恥ずかしすぎる!!


「学園長と殿下については任せておきなさい。それから、フォルティス卿については…」

「あのっ…、それについては私が聞きに行きます」

「……わかった。ではその件に関しては君に任せよう」


 私が言い出した話だ。自分から話に行かなければ…。それに……ティアラのことも聞きたいし…。

私はそう思って先生を見上げ深く頷いて見せた。



◇◇



 フレジアは放課後、いつものようにシノンがいる研究室へ遊びに行こうと軽やかに廊下を歩いていた。手にはお手製のクッキーを持って…。だが、途中でお邪魔虫のようにジディス卿がくっついて来た。



「も~、私は行くところがあるんですっ!ついてこないでくださいっ」

「はははっ、今日もつれないねぇ。あ、それ何持ってるの?」

「あなたには関係ありませんっ!」


 つんっと突き放す言い方をするも、ジディス卿はめげずにずっと傍を歩いて来る。少々足を速めているというのに、その距離は全く変わらなかった。


「あ、クッキーかな。自分で作ったの?」

「……そうです」

「えっ!!フレジアすごいな!器用なんだね。いいなぁ」


「………そ、そんなことありません。お菓子作りが好きな子もたまにいますし。というか、私はその呼び方許してませんけど」


「ああ、じゃあ俺のこともグレイスって呼んでいいよ。いや、むしろそう呼んで、ね?」


(………………そういうことじゃなーーい!!!!!)


 ムカムカと腹が立ったが、真面目に相手をしていてもしょうがない。私は小さくため息を吐くとそのまま無視して先へ進むことにした。


 研究室近くの中庭に着くと、そこには見慣れた可愛いストロベリーブロンドの女の子とグリンベリル卿が立っているのが目に入った。そういえば、クレアはコーディエライト先生の研究室で特別課題を受けていると言っていたことを思い出す。


「……クレア……」


 楽しそうに笑い合いながら魔法の練習をしている様子が伺えた。


「あそこにいるのは…フレジアの友達とシノンか」

「……」

「お目当てはシノンだったの?でも、無駄だと思うよ」

「……え?………どうしてですか!」


 少し、目を吊り上げジディス卿を見つめる。


「シノンは魔法馬鹿だから恋愛事には鈍いんだよねぇ。フレジアのように片思いしてそのまま気づいてもらえず泣いてた子を以前見たことがあってさ」


「……女性を泣かせていたのはあなたの方じゃないんですか?」

「うーん、まあ否定はしないけど。でももうそういうのは一切しないから!俺はフレジア一筋だから!」


(………………はっ?)


 すごいドヤ顔でにこにこしながら言っているが、今までの前科を知っているせいか全く信用できない。何を言ってるのかな?と思わず眉間にしわを寄せてしまった。


「はぁ…。信じるとでも思ってるんですか?むしろ不快です…」


 呆れながら、じとーっと鋭い目つきで睨みつける。だが、彼は全然ひるまなかった。クレア達の方を見ると、水晶を眺めながら彼らは熱心に会話をしていた。その距離はとても近くて羨ましかった。


 私は彼女より早く彼を見つけ、彼と仲良くなったのに…。だけど、私が築いてきた日々をあっさり塗り替えるようにとても親しく見えてならなかった。居たたまれなくなり顔を背け研究室とは逆の方へと向きを変える。


「あ、どこ行くの?渡すんじゃなかったの?」

「………二人の邪魔はしたくありませんので…」


 クレア達はただ本当に魔法の練習をしていただけかもしれない。けれど、気さくに話すグリンベリル卿の態度を見ているのは正直辛かった。それに勢いで作ってしまったけれど、以前ティアラにも言われたことがあった。渡しても受け取る人は少ないだろうと。

 

 わかってる……。わかってるわ。でも、どうにかしてもっと仲良くなりたかった。自然に近づいて、話せる仲になって………今度はもうすぐ行われる剣術大会にも誘おうかと思っていた。けれど二人の様子を見て、自分の嫉妬心が沸々と熱く湧き上がるのを感じてしまった。


(グリンベリル卿、…『クレア』って呼んでた………………)


「フレジアッ!待ってよ…。今度はどこ行くの?」

「ですから、あなたには関係ありません。それに……………フレジアって気やすく呼ばないでっ!!!!」


 悲しそうな顔をされたがそんなことお構いなしだった。


 こんなの八つ当たりだ…。でも、独りにさせてほしかった。大切な友達にこんな感情を抱く自分も嫌だった。これ以上、妬みが膨らまないように目を背けたかった。





「……なんで、ついて来るんですか?さっききつく言ったでしょう?」

「ははっ、俺打たれ強いから。ぜ~んぜん、こんなのへこたれないんだよね」

「………」


 気持ちの整理がつかなくて彼の顔をまともに見れなかった。


「もうっ、勝手にしたらいいわ」


 目元が熱くなる。でもこんな奴に見られてたまるか!そう思って、顔は絶対向けなかった。そのまま前へ前へと廊下を歩くが、さっきまで大事そうに持っていたクッキーも今は乱暴に振り回していた。



「フレジア…」

「…………」

「フレジア…!」

「……」

「僕の黒猫ちゃ~ん」

「も〜っ!変な呼び方しないでっ!!」


 大きな声で怒ると、きょとんとした顔でこちらを見つめてきた。


「はは、やっとこっち向いた。前、ちゃんと見てた?もうすぐぶつかるとこだったよ」


 言われて、向き直ると目の前にはすぐそこまで壁が迫っている状態だった。


「あ……」


「ねぇ、これから一緒に剣術の練習、手伝ってくれない?俺、だいぶなまっちゃってて…。知ってるだろう?もうすぐ大会なのに、これじゃあまずいよね?」


「何よ……、急に」


「うん、そうだね…。でもほら、殴るならいい相手がここにいるだろう?」

「……えっ」

「俺もむさくるしい男と稽古するより、綺麗な子と練習したいしさ。ね、行こうよ」


 整ったその綺麗な顔で微笑まれて不覚にも少しドキッとしてしまった。彼が私を気遣って、そんなことを言っているというのが伝わり胸がズキズキした。なんでこんなにこの人は私に優しいのよ……。さっき言い放ったきつい言葉に後悔する。悪いことしてしまった……。


――さっきはごめんなさい………――


 ……そう心に浮かんだが、実際には言葉に出せなかった。


 簡単に絆されたと思われたくなかった。グリンベリル卿への想いを抱きながら、彼にも好意的な態度を見せるのはよくないと思った。だから、キリっと目元を吊り上げ睨んで見せる。


「私の稽古は厳しいですよ?」

「ふふ、望むところだよ」


 そう、これは友人としての関係なのだ。それ以上の気持ちはない。そう自分に言い聞かせて私たちはその場を去った。





・クレアの設定には乙女ゲームのヒロイン、フレジアは悪役令嬢的な外見をイメージしてます。その為、お話の中にもそういう要素を少し含ませたいなと思ってました。今回のお話でそんな要素を少し感じ取っていただたら嬉しいです。


・クレアが話の中に目立つのはそういう要素を含ませているからなのですが、彼女の役回りはあくまでも準主人公。そして、彼女たちは道中こんがらがることがあったとしても最後まで仲良しでいますのでご安心ください。






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