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お嬢様と演奏会のその後

◇◇◇部分はクレアパートです。


 演奏会が終わり、フェルマーナさん達の処分も決まった。彼女たちは一週間の謹慎処分と反省文の提出を義務付けられたらしい。その後フェルマーナさんとは直接会うことはなかった。ただ数日後彼女のメイドが手紙を持って現れた。


 フェルマーナお嬢様が書いたものだと言っていたが、本当に本人が書いたのだろうか…。


 また、逆にジディス卿は謹慎が解けて、再び生徒会役員として復帰したそうだ。だが以前とは違い女性を所かまわず口説くような態度がピタッとなくなったという噂を耳にした。今回の演奏会の処罰内容と比較すると、ジディス卿の方が重かったようにも思う。


 カイル様に尋ねると、「これまでの不祥事を一緒に報告させてもらったんだよ。彼に泣かされた女性も多かったことだしね。少し彼の家の方にも報告させてもらったんだ」と黒い笑顔で微笑まれた。

 

 一体どんな悪さをしたのだろう。気になったけれど、「ティアラは泣いてしまうだろうから…」と濁されてしまった。



「そういえば、お嬢様、演奏会の日は結局カイル様とは踊られたのですか?」

「ううん、沢山の人に声を掛けられたし、リズレイアさんと話したりして…とても踊れる気分ではなくて」

「それは残念でしたね…」


 そうなのだ。実は演奏会の後のガーデンパーティーでは野外ステージが用意され、私もそこで歌を歌ったわけなのだが。そこでは春の舞をテーマに数名が前で踊るというイベントもあったのだ。そしてその踊り子達は途中で舞台下へ降りて生徒たちをダンスに誘うのだ。


 それは『春の訪れを祝う』ということで誘われた者は皆踊り合い祝うという趣旨もあった。リリアナ皇女ももしかしたら当初はカイル様と踊ろうと思っていたのかもしれない。


 他にもカイル様に声を掛けたそうにしていた令嬢達を見かけたのだが、私が足を痛めていたこともありずっとそばにいてくれたので、敢えて近づこうとする人はいなかった。


 そしてもう一つ、実は今回の演奏会に出たことで「演奏の会」から正式なお誘いが来てしまった。フォルテ先生とクリス皇子殿下に勧められ、それを聞いていた生徒たちの目線もあって、半ば断れず…といった感じで受けてしまった。


 でも、今冷静になってよく考えてみたら、皇子殿下が皆のいる前でそのような誘いの提案をされてきたことや、皆の期待を利用して断れない状況を作ったことなどを考えると私も結局は流されてしまったのかな…。


 今後この演奏の会に入ったことで、皇子がなにを企んでいるのかわからないけれど、もっと用心して選択していかなければ。


 フェルマーナさんの手紙を机に置くと、途中だったリボンの刺繍を再開する。図案がようやく決まったのだ。無難ではあるが平和の象徴の鳩にしようと思う。周りにも少し模様をつけて完成図を思い描きながら針を刺す。


「フェルマーナ様からのお手紙はどうでしたか?」

「謝罪文ではあるけれど、当たり障りのない文章で本当に反省しているのかはなんとも…」

「そうでしたか。でももう気にするべきではないですね。その手紙が嘘でも本当でも罰は免れられませんしね」

「うん…」


なんとも最後まで後を引くような出来事だった…。



◇◇◇



「―であるから、魔力とは実際の体力、生命力と深い繋がりがある。それゆえ、無理に魔力を使い切ったり、魔力を奪われたりすると命に関わるのだ」

「先生、もし使い切ってしまったらどうなるんですか」


 褐色の髪の生徒が手を挙げ質問をする。名前は確かアスター・エルスターだったかな。私もそこは気になっていたので彼の質問はありがたかった。


「そうだな……。最悪死ぬ。大体はその前に体力の限界を感じて自分で魔力切れを体感できるだろう。魔力を回復するには休息が一番だが、回復するまで数日かかる。だが、そのような危険な状態に陥らないように自分の秀でた…そうだな属性と言おうか。火の属性のある者は火に関連した精霊石を常に身に着けておくなどしておけば微弱な魔力は保持して置ける。魔力は精霊石に引っ付くような関係にあるんだ。このような感じで…」


 先生は黒板に絵を描きながら説明してくれるが、その絵はなんとも言い難いものだった。


(精霊石に顔が書いてある…)


 人間の絵に顔が書いてあるのはわかるけれど…。まぁ、分かりやすいんだけどね。なんだか先生の意外な一面を垣間見た気がした。


「それから、精霊石に自分の魔力を流し込み保管するという方法もある。だが、これに関しては膨大な魔力量や、コントロール、そしてなにより魔術上級者でなければできない技術でもある。このように精霊石は本体から魔力を補助し魔法を放つこともできれば、石の中に閉じ込めることも可能である」


 授業は淡々と進み、気づけは終了の時間となっていた。帰り際に、コーディエライト先生に呼び止められる。


「レイアード君、以前言っていた『魔力の色』についてだが…。帝国にいる宮廷魔術師の知り合いに確認してみたんだが大体の場合は太陽のような光だと言っていた。だから、白かと思うのだが…。しかし光と闇の魔力だけは特別だそうで、光は七色の光で()()()()()()()らしい」

 

「いつも七色に見えるわけではないんですか?」


「ああ、それだけ特殊ということなのだろう。そもそも光属性の者が少ないからな。だから君の魔力はとても貴重だということでもあるのだよ。君がその能力を更に開花させれば、王宮からも直接声がかかるかもしれない」

 

「…!」

 

「ああ、それから、君が言っていた黒い靄なのだが。一般的には黒は闇の魔力だ。だが、君が見たものについては……ここでは少し言い言いづらい。まぁ強力な魔法ということだ」


「…え」


「もし聞きたいようだったら、私の研究室の方で話そう。…ふむ、そこならシノンも一緒に研究に参加していることだし……。いや…ああ、そうだ。できるな…」


 先生はまたぶつぶつと呟き始める。だが、なにか閃いたかのようにこちらにまた話を振って来た。


「どうだろう、君は飲み込みが早いから、特別な課題をやってみないか?今授業でやっている内容は君にとっては物足りないのではないか?」

「えっ……あ…」


 実は、先生の言う通り、教科書に載っている範囲は大体理解済みではあった。正直更に高度なものを学んでみたいという欲もある。この探求心や好奇心は魔術師なら誰もが抱く感情らしい。だが、ふとある人の言葉が頭に浮かんだ。


 ―『誰に頼り、誰を信じるのか』―


 フォルティス卿の言葉が脳裏に浮かぶ。コーディエライト先生の表情からは本当に信用できる人なのかやはりまだよくわからなかった。だから、探るように慎重に言葉を選んだ。


「あの……、どんな課題なんですか?」

「うん?そうだな……。君の特殊能力を向上させる為にも精霊石に魔法を閉じ込める方法などからやってみようかと思うんだが」

「本当ですか?!」


 思わず声を上げてしまった。確かにそれは私が一番興味を持っている内容だったからだ。


「おぉ!知っているようだね。さすがだな。ではやるということでいいだろうか?」

「……はい」

「では、きたまえ。研究室の方で詳しく続きを話そう」


 そう言って先生は前を歩き出す。その傍には使い魔のルビーがちょこんと行儀良く隣を歩いていた。

その背中を見つめながら、私は小さく呟いた。


「……これで、何かわかるかもしれない」

 

(大丈夫よ。研究室には鷹の君もいるのだし。フレジアが良い人だって言ってたし…)



◇◇◇



 シオンとカイル様の特訓は剣術の基礎練習で使っていた木剣から鉄製の刃引きの剣に変えて行われていた。木剣では感覚や速さを重視した練習だったが、鉄剣だと重みも加わり動きが鈍くなる。

 

 基礎で身につけた身体の動きを崩さないように気をつけながら、より実戦的な攻撃の練習を行うのだ。剣術科での授業ではこの刃引きの剣を使うのだが、最初の授業ではほとんどが素振りと的当てとなる。


 フレジアもシオン様と一緒に授業を受けているが、女性用の剣はもう少し細く軽いそうだ。


「フレジア嬢も頑張っていたよ。女性用の剣でも結構重たいのに何百回と素振りを休まずにやっていたな。彼女も昔からやっていたんだろう?振り方がとても綺麗だったよ」


「そうなのですね。フレジアも頑張ってるんだ…。重さってその剣の半分くらいですか?」

「女性のはそうだね、ちょっと持ってみる?」


 そう言って私に手渡してくれたが、ずっしりと重くて両手で持てても振り上げるのはとてもじゃないが自分には無理だった。これの半分の重さとはいえ、あんな華奢な女の子が振るってるなんて……!フレジアすごい…。


「これ、本当に振れるんですか!?︎こんな重いもの……」


「そうだよ。だから、剣術科では素振りをして重さに慣れる訓練をするんだ。それに持てても最初は動きが鈍くなってしまうしね。うまく間合いが取れないんだよ。そういう感覚を覚えるために最初に木剣を使っていたんだ。まぁ、シオンは鉄剣も扱い慣れてるだろうけどね」


「いえ、最初の基礎を直してくれたので、だいぶ動きが変わりましたよ」

「それは良かった。それじゃあ、そろそろ続きを始めようか?ティアラは危ないからあっちの丘の方まで離れているんだよ」


 カイル様はそう言うとシオン様と一緒に中央の広々とした場所まで移動した。カイル様は鉄剣を片手で軽々と構える。シオン様も両手で剣を持つ。そしてお互いにゆっくりと距離を詰めていく。2人とも真剣そのものの顔をしている。しばらくするとお互いの間合いに入ったのか、立ち止まり向かい合う。


「いくぞ!」


 カイル様の声とともに激しい打ち合いが始まった。キンッと金属同士がぶつかり合う音が響く。カイル様の打ち込みは速く鋭い。それをシオン様は全て受けきっている。私はあまりの迫力に呆然と見つめることしかできなかった。


 しばらくして、シオン様が少し後ろに下がり剣を構え直す。カイル様も同じようにして向き合ったまま動かない。どうしたんだろうか?と思ったら、急にカイル様に向かって駆け出した。あっと思う間もなく、次の瞬間にはガツっと大きな音を立てて、カイル様の持つ剣の上にシオン様の鉄剣が叩きつけられていた。


「だいぶ力が強くなったね。その調子だ」

「はいっ」

「もう少ししたら大会もあるだろう?アルもうずうずしていたから、そのうち本当に乱入してくるかもな」


 カイル様は喋りながら、右手で剣をくるりと回し、柄の部分を前にして左手に持ち替えた。あれっと思いよく見ると、戦い方が変わり遠心力を利用しさっきよりも速いスピードで剣戟が繰り広げられている。


 カイル様の剣技はバナディス帝国の騎士の戦い方とは少し違った型のようだったが、だがそれでも美しい動きだった。シオン様も負けじと応戦している。しかし、段々押され始めたようだ。


「そろそろ終わりにするよ」


 そういうとカイル様はまた大きく振りかぶって上から剣を振り下ろした。シオン様はそれをなんとか受け止めたが、バランスを崩しそのまま後ろに転んでしまった。


「大丈夫か?」

「…はいっ」

「アルはこの倍の力があるからな。跳ね返せるくらいの力はつけておいた方がいい」


 そう言いながら、カイル様はシオン様に手を差し出した。


 私は二人の打ち合いに圧倒されて見入ってしまったが、「そうだ、私も頑張らなければ」と気合を入れなおし運動を開始した。





 冷やしていたレモネードを持って戻ってくると、二人はさっきよりも打ち込みの早い攻防をしていた。カイル様の動きには無駄がない。シオン様も負けじとその動きについていくように剣を振るっていた。


「そろそろ休憩しませんか~?」


 私が声をかけると二人はピタッと動きを止めてこちらにやってきた。


「お疲れさまです」


 特にシオン様は疲労困憊のようで、カイル様がタオルを差し出すもそれを受け取ったきりで、肩で息をするのが精一杯といった感じだった。


 カイル様は少し汗を拭うと、涼し気な表情で立っていた。私は二人に冷たいレモネードを振舞う。するとシオン様はそれを一気に飲み干してしまった。


「ぷはー!美味しい!!」

「本当だね。ティアラ、毎回ありがとう」

「アスターに話したらすごく羨ましがられたよ。今度俺も参加したいとか言ってたし」

「へぇ…?」

「あっ、あ、でも!あいつはティアラ嬢に対し恋心っていうよりは憧れっぽい目で見てるだけだと思うので」


 とシオン様はカイル様に慌てて訂正する。


「憧れですか?」

「そうそう、妖精みたいに可愛いな~と思ってたら天使になって舞い降りて歌いだして、昇天しそうになったって言ってた」

「……なんだか私すごい人になっちゃってますね」

「そのまま昇天していいよ」


 カイル様が呆れたように言い、レモネードをゆっくりと口に含んだ。


「それにしても本当、上手に作ったね。とても美味しいよ」

「…それはよかったです。でも、たいしたことはやっていないのですよ?ほとんどマリアが作ったようなものなんです」


 褒めてもらえて顔がほんのり火照る。


「それでも嬉しいよ。ティアラからレモンの香りがすると、今日も頑張ったのかなって思うしね。作ってくれてありがとう」


 カイル様はニコリと嬉しそうに笑えんだ。その笑顔は破壊的で真っ正面から受けるとくらくらしてしまう。


「いえ、そんな……」


 ーとその時、上空から黄金の鳥が綺麗な声で鳴いてすーっとこちらに降りてきた。


「あ、あれ…クリス皇子殿下の」

「魔法の伝書鳩」


 近寄ってきた鳥に手を伸ばすとバサッという音とともに、その手に手紙が落ちてくる。


「わっ!」

「なんて書いてあるんだ?」

「えっと…、次の週末一緒にお茶をしないかって書かれています。今回は返事を伝書鳩に書いてほしいとありますね」

「へぇ…?」


 カイル様はそれを聞くなりスッと私から手紙を取り半分に切り裂いた。


「あ」

「わわっ」

「こんなの相手にしなくていいよ。お前も返事はなしだ。もう主人の元におかえり」


 カイル様の黒い微笑みを見た黄金の鳥は危機感を抱き手紙と共に金の粉のようにふわりと消えていった。


「はぁ…。全く何を考えているんだか…」

「カイルさんいいんですか?そんなことして」

「皇子が魔法を使って飛ばしているんだ。あの伝書鳩の目からこちらのことも見ていただろうさ」

「そ、そういうこともできるんですね。…というか、皇子も魔法使えるんですか?」


 今更だが、そこにも驚いてしまった。


「ああ、王族は代々魔力の高い貴族を娶ることが多いからね。クリス皇子もそれなりに魔法は使えるよ。皇子の場合は剣術科の方を選択しているから、個人的に特別授業をコーディエライト先生から受けていたと思うよ」

「そうなのですね」

「なんにせよ本当、いい迷惑だ…。あの鳥ももう見たくないな…」


 ぼそっと話すカイル様を横目で見ながら、私はここで重大なことを思い出した。


 プレゼント用に作っていたリボンの刺繍絵が金の鳥だったのだ…。





「マリア!マリア~~!!!」

「はいはい、なんでしょう?お嬢様」


「もう一回!一緒にリボン買いに行きたいのだけど!」

「はい??」


 私は先ほどあった話をして、結局その後もう一度初めから刺繍をすることとなったのだ。





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