お嬢様VS御令嬢たち★
◇◇◇の部分はクレアとフレジアです。
--------の部分は短いですがクレアです。
※今回はちょっと長いです。
教室に着くと、一番最初に目に入ったのはフレジアだった。彼女はいつも学園に着くのが早い。
「あれ?今日はお気に入りの蝶々じゃないのね?」
「うん、実は壊れちゃって…。だから違うものにしたの」
しゅんっとしながらそう答える。いつもはさまざまな髪型をしても必ずどこかにあの髪飾りをつけていたのだ。だけど、今日は代わりに薄ピンクの花飾りにしたのだ。
「おはよ~、あれ?ティアラ今日は早いのね。いつも遅いのに~」
「あ、クレア!うん、今日はね、なんだか目覚めがよくって。すっきりしてたの」
「あら?…ティアラ、今日はつけてないの?蝶々」
「それさっき私も聞いたのだけど、壊れてしまったんですって」
「…そう。そうなのね…」
「クレア…?どうしたの?」
その表情はどこか戸惑いを含んだような顔だった。
「あ、ううん。なんでもないの。えっと、その壊れてしまったものはどうしたの?」
「うん、今は自分の部屋に置いてるよ?壊れちゃったけど、大切だから…」
「や~ん、ティアラらぶらぶね。最近なにか進展はあったの?お姉さん色々聞きたいんだけど?」
「えっ、え、ううーん……、うーーん、押し倒された?」
「ガタッ」とクラス内で何か不自然な音がした。なんだろうと周囲を見渡すと、数名の女生徒が目をキラキラさせてこちらを見ているし、男子生徒はがっくりうなだれていた。
ハッと口元を両手で覆い、自分の失言に気づく。
(あっ、しまった)
「……朝からすごい発言が出たわね」
「あ、あの。今の間違えだからね?変な意味じゃないから」
両手をパタパタ動かしながら、誤解を解こうとするもクレアは目が座っているし、フレジアは頬を染め目を輝かせていた。
「えぇ~?本当に?後で詳しく教えてくれるわよね」
フレジアがぐいぐい食いついてくるので、恥ずかしくなり、すすすっとクレアの背中に隠れさせてもらった。
「ほ、本当だよ!?もう忘れて!」
そう言うと、二人はニヤリと笑った。
(あっ、これだめだ……。墓穴掘っちゃったかも……)
その日一日、二人の質問攻めにあってしまい、授業どころではなかった。
「ねぇねぇ、今度寮の談話室にあるテラス席を予約してそこでちょっとお茶会とかどうかしら?最近ずっと忙しくてゆっくり喋れてなかったでしょ?」
放課後、帰り支度をしている私に向かって、クレアが提案してきた。
テラス席とは、談話室のガラス張りになっている温室の様な一角で、中庭の花々が良く見える為、主に上級生たちがよく利用しているらしい。私達下級生は予約をしないとなかなか利用できない特別な場所でもあった。
確かに最近は選択科目の授業や、演奏会の練習で三人とも忙しかったから、ゆっくりと話す機会がなかった。
「うん、いいよ」
「じゃあ、決まりね。フレジアにはもう伝えてあるから」
スケジュールを見あって被らない日を探してみると来週の週初めがちょうどいいということになった。だが、その日はもうすでに予約が入っていて、結局なんとか予約できた日はだいぶ先になってしまった。その日は二人は選択科目がない日で、私の方は歌の練習が一時間だけ行う日だった。
「せっかくだし、私達もティアラが練習しているところ見たいわ」
「そうそう。それに一緒に練習している子たち、あまり感じよくないって困ってたじゃない?」
「何か嫌なこと言ってきたら、私達も言い返すし!」
フレジアは拳に力を込め、ニコッと笑った。
「ありがとう。でも、練習生以外はたぶん外で待っているようになるかもしれないよ?」
「大丈夫っ!教室の横に休憩用のベンチがあったでしょう?だから平気よね?クレア」
「うんうん、いじめられたら言うのよ?私たちが退治してあげるんだから!」
クレアも腕を組んで、懲らしめるわっと意気揚々としていた。
「ふふ……二人とも頼もしいなぁ。じゃあ、お願いしようかな」
こうして私は二人の言葉に甘えて練習する日に付き添ってもらうことにしたのだ。
◆◆◆
予定していた日の放課後、音楽室に着くと、二人は教室前のところで待機する形で待ってもらうことになった。中に入ると、リズレイアさんとフェルマーナさんが先に二人で練習しているところだった。ごきげんようと挨拶するが、返事は返ってこない。
「私達、練習している最中なのよ?喋れるわけないでしょ」とでもいいたげな目線を向けられる。もちろんわかっていたことなので気にしないけれど……。
教室を見渡すと、窓はどこも閉ざされたままになっていた。あの日から、外でだけではなく、この教室での練習も行なっていた。自主練習の時はもうリズレイアさんたちはさぼって訪れなかったので、いつもは窓を開放し練習の猛特訓をしていた。
空気からの精霊の力を集めて声に乗せたらいいとカイル様に教えてもらったのだ。そして、どうせなら普段合同でやるときは声は抑えておこうと。そして本番間近の一週間前の今日、本領発揮を見せつけようとのことだった。
(よし!窓を開けよう)
私はいつもの自主練習の時のように、ちょこちょこと歩いて周囲の窓を開けていく。
「ちょっと!ティアラさん!全開にすると楽譜が飛んでしまうわ!」
リズレイアさんが怒っているがお構いなしだ。だって、今から楽譜を読むなんておかしいじゃないか。そんなに言うほど強い風でもないし、更には何度も歌ったはずなのにどうして覚えていないのか。どうせ難癖を付けたいだけなんだろう。
「リズレイアさん、どうしてそんなことを言うのかしら?演奏会まであと数日ですよ?楽譜を持って歌うんですか?」
「はぁっ?何言ってるのよ!」
「リズレイアやめなさい。先生が来るわ」
「……、ふんっ!」
いつもと違った態度をとったので、内心すごくドキドキした。こんなにもはっきりと人に向かって反論したのは初めてだった。
「皆さん、もう揃っていますね。熱心なようでよろしい。それでは、始めましょう」
◆
三人の声が響き渡るが、二人の声は私の声におされ、かき消されてしまう。そしてソロの部分で更に音に抑揚をつけて伸ばし教室だけに収まらず窓の外へと、教室の廊下へと声が響き渡っていった。私は息を整えながら、顔を上げる。そこには目を潤ませ口を開けたままぽかんとしたリズレイアさんとフェルマーナさんの姿があった。
「ティアラさん…」
先生は驚いた顔で目元に涙を浮かばせ駆け寄ると私の両手を取り歓喜した。
「とても素晴らしかったです。声に迫力が加わって力強い歌い方になりましたね」
先生に認められたことが嬉しくてこちらも涙が出そうになる。それをぐっと堪えると大きく深呼吸をして気持ちを整える。
だが、逆に二人からの視線は突き刺さるように痛くて、ギスギスしたものだった。
「…先生、私、もうこれ以上やりたくありませんわ」
「私も、ティアラさんばかり贔屓されるのはどうかと思います」
「私達もきちんとやっていますし、それに、ティアラさんは声量が強すぎて合わせる気もないように感じましたし?三人で合わせるという意味をわかっていらっしゃらないようじゃないですか」
「二人とも何を言っているのです?あなた達はなにも感じなかったのですか?」
一瞬怯むが、それでも納得がいかなかったのかキッと睨まれる。
「…どうせなにか魔法を使っているとか、不正なことでもされているんじゃないですか?」
「……っ!!!」
予想はしていたがここまで敵意を向けられるとは。彼女達の表情や場の空気からしてとても和解できるような感じではなかった。
◇◇◇
教室の外で待っていると、とても綺麗な歌声が聞こえてきた。その歌声につられて、廊下を歩いていた生徒達も思わず足を止め聞き惚れていた。生徒たちが一人一人と集まってくる。中にはここへ何度か聞きに来ている人もいるようだった。
自分の友達が良い評価をされているようでなんだか嬉しくなる。だが、三人で歌っていると聞いていたわりには、ティアラの声しか聞こえないようだった。クレアとフレジアは不思議に思い教室のドアを少しだけ開けて覗いてみることにした。
音が漏れ、廊下に大きく響き渡る。まるで天使のような少女がそこに立っていた。透き通るような白い肌にキラキラとしたホワイトブロンドの髪、そして淡い紫の瞳の少女だ。
彼女の歌声は一層大きく力強く心が揺さぶられどこか懐かしさと切なくなるような澄んだ声だった。後ろの方からは、『月夜の天使だ』と『天使の歌声みたい…』などさまざまな声が聞こえてきた。
だが、歌い終わった後に、何やら揉め始めてしまった。
「なんであの二人が怒ってるの?」
「ティアラが悪いみたいなせいにされてない?ちょっとおかしくない?」
「本当ね、私…言おうかしら」
フレジアは腕をちょっとまくり、喧嘩しそうな危うさを見せた。
「ちょっ…ちょっと、フレジア!」
◇◇◇
先程の言葉が刺さり、とても腹立たしかったが、私は怒りを表情には出さず静かに問い詰める。
「お言葉ですが……、それはちゃんと確かめてのことでしょうか?」
「な、なによ」
「私は魔法を使うことはできませんし、私自身に対し誰かが魔法を掛けたにしても長い間継続して掛けることは簡単なことではないと聞きます。それよりも、あなた方は今までここで何回練習しに訪れたのです?私は何度もここに足を運びましたが、あなた方は最近では自主練習にはまったく来ていませんでしたよね」
「そうなのですか?」
先生はその事実に驚き、二人に質問する。
「わ、私たちは自室や違う場所で練習していましたわっ!」
「そうよ!あなたが三人で一緒にやろうとしないからわざわざ場所を変えてやってたのよ」
「…なるほど?ではどこでやっていたのですか。具体的に。何回やっていたのです?自室でしたらメイドが把握しているはずですよね?」
「さっきからなんなの!…月の天使とか言われて目立っているからってなんでも特別視されるなんておかしいですわ。私たちはあなたの引き立て役ではなくってよ?!」
いつも穏やかにみえていたフェルマーナさんがかなきり声を上げた。その言葉にリズレイアさんも賛同する。私はそんな風に二人に思われていたのかと悲しくなると同時に悔しくなった。
「私は、……そのような目でお二人を見ていたつもりはありません。歌の練習も…、何度も何度もしていました。フェルマーナさんはどうなのですか?『引き立て役』だと不満を感じたのなら、歌唱力で打ち勝とうとは思わなかったのですか?その思いを努力に転換しようと思わなかったのは、すでに負ける結果を予測し諦めていたからではないのですか?」
「うるさい、うるさい!!!どうして私がそんな努力なんてしなければいけないの?!私が負けるですって?そんなこと思ってなんていませんわっ!」
「……では、そうおっしゃるのでしたら、後ろに集まっている方々の前で歌っていただけますか?」
後ろの方に向かって手をすっと伸ばす。その先にはクレアたちや集まっていた数名の生徒がいた。
二人はぐっと怯み口ごもる。それを区切りに先生が声を発した。
「そこまでです。自主練習がそのような状態だったとは…。私も監督不行き届きでしたね…。二人とも後日詳しく聞かせて頂きます。今日は…ここまでにしましょう…」
リズレイアさんたちは怒りを堪えながらそそくさとその場を去っていった。それと同時にフレジアとクレアが近づいてくる。だが二人が話しかけるよりも前に先生が最後に一言付け足すように捕捉された。
「ティアラさん、二人にはあのように言いましたが、今日の歌声を聞いて、三人がどれだけ練習をしていたかその差は一目瞭然でした。問題に気づくのが遅くなってしまって申し訳ないことをしましたね」
「いえ、私も言わないでいましたし…」
先生はこちらの考えをくみ取ってくれたのかそれ以上聞こうとはされなかった。私だって分かり合えるのなら、本当は三人で歌いたかった。だから今まで言わないでいたという部分もあったのだ。
だが、真剣に歌うことよりもただ賞賛されることしか考えてなかったような態度にもうわかり合うのは無理だと思った…。
「ティアラ…」
ふっと目線を変えると二人がウルウルと泣きそうになっていた。
「二人ともどうしたの?」
「どうしたのじゃないわ!」
「ティアラすごい…!あんなにしっかり一人で立ち向かうなんて…」
……あ。
二人に言われて気づく。いつも私は誰かに守ってもらってばかりだった。でも今日は違った。
周囲には私の歌を褒めてくれる人や、先ほどのやり取りを見て驚く人、認めてくれる人…。少し気恥ずかしかったが、胸が熱くなった。
少しだけ、心が強くなれたような気がした。
◆
談話室のテラスのテーブルには、さまざまな焼き菓子が並べられている。紅茶を注いでもらうと、華やかな香りが広がり疲れた心を慰めてくれるようだった。
「はぁ…一気に疲れちゃった…。もう溶けちゃいそう」
こてんとフレジアに寄りかかると優しく頭を撫でてくれた。
「…でも、フレジアの俊敏のきみのはなしは…ききたいなぁ……」
「ティアラ目が閉じてるわよ~。ほら起きて?」
なんとか目を開けようと試みるが、なんだか瞼がくっついてしまったようで開かない。そのままぐったりしていると、隣から小さく笑う声が聞こえてきた。
「ふふふ、今日はいつもと違う慣れないことしたものね。ねぇ、フレジア、私も俊敏の鷹の君の話聞きたいわ。最近よく見に行ってるようだけど、話しできたの?」
私は、目を閉じながらも耳だけは傾けて聞くようにした。
「ええ、実はね、お友達にはなれたの」
「「え!」」
目をぱっちり開きフレジアを見上げる。彼女は頬を染めながら嬉しそうに微笑んでいた。
「生徒会の方々からの仲裁に入ってくれたでしょう?あの時のお礼を言ってから、少しお話しできる仲になれたの。コーディエライト先生のお手伝いしている時に、たまに私も一緒に手伝ったりとか…しているの」
「わ、わわわ~~。フレジアすごいわね」
一気に目が覚め、ポッと温かくなる頬を両手で押さえて彼女の方を見た。フレジアは照れくさそうに笑いながら首を横に振っている。
「シノン様はね、フォルティス卿に以前お世話になったことがあったそうなの。それであの時、間に入ってくれたようなの。だから、ティアラのおかげでもあるのよ?」
「え?そうなの?」
「ええ。新入生歓迎会の時の魔法演出を担当されていたようだったのだけど、途中で体調を崩してしまったみたいなの。その時にフォルティス卿が代わりの演出方法を考えてくれたって言っていたわ」
そういえば、カイル様が新入生歓迎会の時に、同じようなことを言っていたことを思い出す。そうか、あれはシノン・グリンベリル卿だったのか。
「ね、グリンベリル卿は魔法得意なのよね。何か得意な魔法とかあるのかしら?」
「そうね、彼は風だって言っていたわ。俊敏の鷹の君なだけあってとってもぴったりじゃない?」
フレジアはうっとりしながら、彼の魔法を使っている姿の格好良さを細かく語ってくれた。
「なるほど。じゃあ、私と同じ特殊な目ではないのね……」
「でも、シノン様の知識はとても素晴らしかったわ。説明もすごく上手なの。私は魔法使えないのにきちんと丁寧に教えてくれてね。本当に魔法が好きな方なんだな~って思ったわ」
「そう…」
「クレア、なにか悩んでいることでもあるの?」
私の言葉にビクッとクレアが反応する。
「どうして?」
「何だかね、元気がないように見えたから」
「そうかしら……。大丈夫よ?」
クレアはにっこり笑うと紅茶を手に取り最後の一杯を口に入れた。
「ティアラ…、頼んでいた蝶の髪飾りを見せてもらってもいいかな?私ね、自分で魔法を操れるようになったからね、もう一度見てみたいと思って」
「あ、うん。クレアが言っていたから持ってきたけれど、もう魔法の効き目は切れてしまったってカイル様は言っていたわよ?」
薔薇の形をしたオルゴールタイプの小物をテーブルの上に置き、ゆっくり開けると中には壊れてしまった青色の蝶の髪飾りが入っていた。
「可愛い入れ物ねぇ」
「開けるとオルゴールが鳴るのね!この曲、私も知っているわ。有名な曲よね」
「うん、カイル様が以前プレゼントしてくれたものなの」
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「へぇ、フォルティス卿はセンスいいのね。ティアラにとても似合いそうな小物ね」
―(こんなに凝った贈り物をしてくれる方が、呪いの様な魔法なんて使うのかしら…)―
--------
クレアはじっと小物を見つめて何かを考えているように見えた。
「クレア…?」
「あっ、ごめんね。とても綺麗だから見入っちゃったわ。ちょっとだけ貸してもらえるかしら」
そう言うと、壊れてしまった蝶の羽を一枚取ってクレアは自身の杖を使って見せた。ポッと小さな赤い光が一瞬灯ると共鳴するように羽が小さく光った。
「……あら?これ……まだ魔力が残っているわ。体力回復…毒回避…」
「え!そうなの?もう何も残ってないのだと思った。……そっかぁ…」
少し嬉しかった。すべての効果が切れてしまったわけではなかったのだ。でも、クレアの表情はまだ晴れていなかった。
「クレアどうしたの?なにかよくなかったの?」
「あ、ううん。ちょっと見たかったものが見えなかったから…」
「え?」
「私の魔法のことだから気にしなくて大丈夫よ。ありがとう。とても参考になったわ」
「クレアのお勉強の役に立てたのなら嬉しいわ。私も見てもらってよかったし。カイル様にも言ってみるね!形を変えてまたつけるのもいいかなと思うし」
「そうね!せっかくわかったのだしね」
「……やめた方がいいわ!」
クレアが強い口調で言い切った。
「え?…なんで?」
「…っ………」
クレアは黙り込んでしまった。
「クレア?」
「……ええっと、あのね、一度壊れてしまったし…魔法が変な風に作用するかもしれないし…、ね?」
彼女はそう言うと、話題を変えるようにお菓子を勧めてきた。
◆
「…あれ?ティアラ?」
三人でお茶を飲みながら談笑を楽しんでいると、カイル様がそこを通りかかった。
「カイル様!」
「御令嬢の方々もこんにちは」
二人は少し立ち上がり、スカートの裾を掴み、膝をちょこんと曲げて挨拶をする。私はカイル様の方まで駆け寄り今日あった出来事を伝えようとした。
「カイル様っ!!!ティアはついにやりましたっ!!」
「……っえ?」
カイル様は呆気に取られて目を大きく開いて驚いていたが、気にせず言葉を続ける。
「演奏会のあの二人に今まではコソコソ言われっぱなしでしたけどガツンと言ってやっつけたのですっ!先生にも歌のこと認めてもらえましたし、二人とも歌うことよりもプライドばかり考えていてもう分かり合えなさそうだったので正論ぶつけてポキッとへし折っちゃいましたっ!」
「……」
「演奏会は一人で歌うようになっちゃいますけど…。でももういいのです」
両手をグーにして、力強く『頑張りました!』とポーズをとると、カイル様は驚いたまま黙っている。
(はっ、またやってしまった)
つい興奮してひどい喋り方をしてしまった。今まで悩んでいたことや、一緒に相談に乗って考えてくれていたのでその結果が出たということを伝えたかっただけだったのだが……やり過ぎてしまった。
「あー……その、ですから……」
誤魔化すために、笑ってみたのだが余計に怪しくなってしまう。
「ふ…ふふっ。いや、うん。そうか、そんなことがあったんだね。一人で頑張ったなんてすごいね」
「そうなのですっ!いつもはしょぼんとしてしまうけど、カイル様に教えて頂いたコツとか、クレア達が傍にいてくれたからなんだか勇気が出せたというか……」
最後の方は胸が熱くなって声が震えてしまった。カイル様は私の頭を優しく撫でてくれた。それが嬉しいような恥ずかしいような気がして、顔をポスっとカイル様のお腹に埋めてしまった。意外な行動にカイル様は少し慌てていた。
「カイル様……。少し屈んで頂けますか?」
「え…?うん」
カイル様は素直に腰を折って身を低くしてくれた。よく見るとカイル様はプラチナとアメシストのピアスをされていた。
自意識過剰と思いつつも自分の色と似ている気がして頬が染まる気がした。その耳元で内緒話をするように呟く。
『カイルおにいさま、ありがとうございました!』
カイル様は驚きながら、目を細めて微笑んでくれた。周りの人がいる中で、お兄様と呼ぶのはよくないかなと思ったのだ。すると、何か閃いたかのようにカイル様が口を開けた。
「では、対価に見合った報酬を頂こうか?」
そう不敵な笑みを浮かべると私の頭部に両手を添え、額にキスと落とした。




