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お嬢様のHPは瀕死状態です

※少し際どい表現が出ます。ご注意ください。


 音楽の授業が終わり、クラスの生徒が席を立ち教室から出ていく。私もフレジア達と一緒に出ようとしたのだが、フォルテ先生に呼び止められる。先生は40歳を超えていると聞くが、そのようには見えないほど美を保った女性の先生で、紺の長いワンピースを上品に着こなしていた。


「ティアラさん、演奏会の件でちょっといいかしら?」

「はい」


 フレジアとクレアの方を見ると、あっちで待ってるねと教室の外を指差す。頷くと、二人は廊下へと歩いて行った。目で追っているともう一度声を掛けられ慌てて先生の方に顔を向けた。


「ティアラさん、この前言っていた演奏会のことだけど、出席する1年生は3クラスから各一人ずつなので合計3名いるの。来週から放課後の一定の時間を設けるので、その規定の時間帯に集まって練習を開始したいと思うのだけど。予定があるようだったら調節してもらえるかしら?」

 

「わかりました」


 スケジュール表を見ると、カイル様とシオン様との運動する日は被っていなかった。あとは自主的に放課後運動していた日をどうするか…。演奏会重視になりそうだからそちらは当分お休みかしら。仕方がないがその分、夜の体操を頑張ろうかな。


「よろしいですか?」

「だ、大丈夫だと思います」

「では、来週から楽しみにしていますね」


 はい!と元気よく答えると、待たせていたフレジア達の方へ早足に駆け寄った。


「へ~、来週からなのね。ティアラの歌楽しみだわ~!」

「私も~!ティアラの歌声ってとても綺麗よね」


「そんなことないわ。クレアだって、先生に歌上手って褒められてたじゃない。たまたまよ。あ、でも……よく考えたら、皆の前で歌うのよね?」


「うん」

「舞台で歌うってことよね…?」

「うん?」


 歩いていた足をぴたりと止める。


「どどどどうしよう。あがっちゃうかも…」

「ええ?!」

「あー…確かにティアラそういうの苦手そうよね」

「私たちは楽しみだけど、なんで受けちゃったの?」


 クレアが小首を傾げ疑問を投げかけた。


「うう…。だって、フレジアもクレアも剣術科や魔術科への才能見出してってすごいなぁって思って。私ももう少し頑張ろうって思って…それで…その」


「勢いで受けたのね?」

「うっ、…うん」


 音楽の教科書を両手で握りしめ俯く。勇気を出して一歩踏み出してみようとは思ったけれども…ここに来て、現実味が沸き、大きな波のようなプレッシャーが押し寄せ恐怖が出てきてしまった。


「しっかり!大丈夫よ!ティアラの歌は皆昇天しちゃうような歌声だから。周りの観客はかぼちゃってよく言うじゃない!!だいじょうぶっ!!絶対大丈夫!!」


 ぶるぶる震える私をフレジアが熱血教師の様に力強い声を出し、がくがくと揺する。


「そうよ!歌う時は観客席を見なければいいの!上の方とか遠くの出入り口とか見るのよ。それでも不安だったら、ステージに立つ直前まで前にいてあげるし」


 クレアも加勢し、手を取ってぎゅーっと握りしめてくれた。


「うう…ありがとう。二人とも優しい…。二人に出会えてよかったぁ…」


 蚊が鳴くような頼りない声でそう応える。


「もうっ、何かその言い方死の間際で言いそうな台詞じゃない?ティアラはそんなに弱い子じゃないでしょ!しっかりするのよ!私達もできることはフォローするし、ね?」


「そうよ。きっと大丈夫よ!熱血と根性で挑めば、なんだってできる!」

「ちょっとフレジア、剣術じゃないからね?変な熱入っちゃってるわよ」

「あ、ごめんごめん。私ったらなんでも熱くなりやすくって…ホホホ」


またいつものフレジアの暴走だわと笑いの声が零れる。私も緊張と不安で強張った顔が少しだけ緩んだ。きっと自分だけだったら弱い心に負けてしまっていたかも。


 二人がいてくれて本当によかった…





 食堂へと向かう途中、廊下にはちょっとした人だかりが出来ていた。今日のデザートは何がいいかな~と気分よく歩いていたのに、目の前には生徒会のジディス卿が数人の女生徒をはべらかせお喋りしているところに遭遇してしまった。


 その道を通るのは抵抗があったが少々気づくのが遅かった。今更違う道を選ぶにはあからさまに避けているようでよろしくない。仕方がないけども、軽く会釈だけして通り過ぎようと足を進めたのだが。


「やぁ、こんにちは、ティアラ嬢」


 ジディス卿は声を掛けて来た。生徒会の人達はなんでこうも声を掛けてくるのだろう…。ジディス卿は先ほどまで喋っていた女生徒達に事情を言って一人また一人と引き下がらせる。これは、長引くかも…。笑顔を崩さず、会釈して、女生徒たちに紛れて立ち去ろうとしてみるが…


「ちょっと待ってくれるかい?君に用事があってさっきからず~っと待っていたんだ」


 あ…これは立ち止まらないと駄目なやつだわ…


 諦めてぴたりと止まる。彼は、立ち止まった私に気をよくしたのか、人懐っこそうな笑顔を見せて近寄って来た。


「それにしても君…、本当に小さいね。15歳?飛び級とかじゃなくて?お人形さんみたいだよね」


 グサッと胸を抉る言葉が飛んできた。


「な、なんですか?」


 いきなりなんて失礼なことを言うのだろう。私はちゃんと15歳だ。いや、『ちゃんと』と言うのも変だけども。それにあと半年したら16歳になるのにっ!!ジディス卿はアルベルト様よりど直球を投げてくる。いや、むしろ私にとっては言葉のナイフのようだった。すごく気にしているところを突かれて涙が滲みそうになるが、ぐっと堪えてジディス卿を見た。


「いやぁ、会長にちょっと頼まれててさ。会長はまだ諦めてないみたいなんだ。君に会いたいんだって。悪いけど、生徒会まで来てくれないかな?」


「でも、生徒会は入らないってこの前言いましたし…」


「あー、それだと俺困っちゃうんだよねぇ?詳しくはわからないけれど、会長がそう言ってるからさ。俺はただそれに従っているだけ。俺に言っても仕方ないし、嫌だったらもう一回生徒会に行って伝えたらいいんじゃないかな。ほら、とりあえずおいでよ」


 ジディス卿は私の手を掴もうと腕を伸ばした。だが、私も納得などできない。嫌だと手で制し、一歩、二歩と後ろに後退していくと、そっと後ろから両肩を掴まれた。ハッと後ろを見上げると、そこにはカイル様がいた。


「何してるんだ?」


 その顔は無表情だったが、威圧感ある低くて鋭い声だった。


「へぇ…?あなたがフォルティス卿か。噂では聞いたことあったけど、二人で並んでると婚約者というよりは年の離れた兄妹って感じですね」


 チクリとまた痛いところを突く。


「何の用だ」


 カイル様は不快感を示し私の両肩から手を放し前に立った。空気がピリピリと張り詰めるようだった。


「まぁ、そう警戒しないでくださいよ。さっきも言ったけど、俺、会長に頼まれただけなんで?そこの月夜の天使を生徒会に連れてくるようにってね」

 

「わ、私は、この前きちんと皇子殿下にお断りしましたっ!」


 カイル様の後ろから抗議する。カイル様がこちらに少し反応したが、すぐ前を向き射殺すような冷たい目を向けてジディス卿を睨んだ。


「…だそうだが?それにどうせお前は生徒会で会長に会うだろう?その時伝えればいい話だ。これ以上引き延ばす必要などない」

「そう言われてもなぁ。俺も困るし」

「勝手に困ればいい」


 冷めた口調でバサッと切り落とす。


「ひどっ、俺にも立場ってものがあんの!はぁ~、参るわ。もうちょっと人の話も聞いてほしいんだけど。俺はただ伝言しただけじゃん。やりづらぁ。皇族に逆らっちゃっていいんですかね?後々後悔しますよ?」


 首に手を置き、あーめんどくさいと呟き怠そうにため息を吐く。そして、こちらを見ると、小馬鹿にするように目を細め微笑みを浮かべた。


 「仲が良いのはいいことですけど、こっちだって別にあなたたちの関係をどうこうしようなんて思ってないですよ?来いって言ってるだけなのに。……でもまぁ、会長の方が上手いかもなぁ?そんなに冷酷無比なやつじゃ夜の生活も淡泊そうだし?あ、…そもそもその体格差じゃ難しいか…ククッ……ガッ……っ!」


 それは一瞬の出来事だった。


 気づいた時には、立っていたはずのジディス卿がうつ伏せに倒れていた。お腹を抑えて苦しく悶えている。カイル様がジディス卿に腹部と脚に打撃を与えたようだった。というか、早すぎて詳しく目で追うことができず、痛がっている箇所を見て推測したにすぎないのだけども。


 私は驚いて口が開いているのも忘れて二人の状況を見つめることしかできなかった。


「…単細胞過ぎて話にならないな。お前には、女じゃなくて床の方がお似合いだよ」

「なっ…。何したんだ?!くそっ…!ふざけんなぁぁぁ!」


 カッと劣情と怒号を露わにし、よろけつつも立ち上がり殴ろうとするが、それより素早く首元を掴み、ジディス卿の耳元で何か囁くと、パッとその手を離した。さっきまで怒っていた彼の顔は一気に青ざめる。


「これ以上ティアラに突っかかろうとするなら、次はないってクリス皇子殿下に言っておけ。できるだろう?グレイス君」


 不敵な笑みを浮かべるカイル様とは対照的にジディス卿は整ったその顔を歪ませそれ以上喋ることもできず、足を少し引きずり、悪態をつきながら立ち去っていった。


「ティアラ、大丈夫だった?」


 先程とは全く違う、いつもの優しい声が降ってきた。気がつくと緊迫した時間が動き出したかのように、いつもの空気に戻る。カイル様が心配そうに私の顔を覗き込んだ。


 いつもの優しいカイル様だ…


 その優しい深く青い瞳にホッとする。だが、さっきの言葉の数々に心が追い付かなくなっていた。


 私の瞳から大粒の涙が一つ零れ落ちてしまった。


「…えっ、あ…。怖かった?」


 喋れなくて、ふるふると小さく頭を振って返事を返す。カイル様は慌てて私の顔を隠すように身体を寄せた。顔に彼のジャケットが触れ、洗い立ての石鹸の匂いが鼻をくすぐった。


「お兄様!ティアラも大丈夫?何があったのです?」


 ソフィアが一足遅れて駆け寄る。そちらを向こうとするが、カイル様の手に覆われて見ることはできなかった。


「生徒会の奴が突っかかってきただけだ。いい機会だから今日は別行動しよう。アルと食べたらいい。あいつの場所ならわかるだろう?その手に持ってるものを渡したら喜ぶだろうし」


「こ、これは、三人で食べようと思って作っただけですし…」

「……。…なら、なおさらだ。お兄サマはそれは遠慮したい」

「もうっ!変なものは入ってません。ただのクッキーです!」

「はいはい。じゃあ、もう行くから」


 ポンポンとソフィアの頭を撫でて頑張ってっと手を振りその場を後にした。





 人混みを避けて進んだ先は、静かな中庭だった。この時間帯は食堂の方に人が集中するのか、それともたまたまだったのか人の姿は見かけられなかった。でも、こんな状態だったので、誰もいなくてよかった…。中央の噴水のところまで行くと、ベンチに座り、カイル様は私が落ち着くまで、横で手を握って待ってくれた。ハンカチで顔を隠すが静かな場所だった為、すすり泣く声がどうしても消すことができなかった。


「急に、泣いてごめんなさい…」

「いや、全然」


 落ち着いてきたので、ぽつりぽつりと声を出すことにした。


「ジディス卿の言葉が、意外と心に刺さってしまって…」


 そこまで喋ると、またポロポロと涙が零れ落ちてしまった。ずっと気にしていたことだった。他人からしたらちっぽけなことかもしれないけれど…。自分の背丈のことであれこれ言われたり、カイル様を罵る言葉を言われたのがとても悲しかった。


「年の離れた兄妹って言われたこと?」


 コクンと頷く。


「でも、他にもひどいこと…言って」


「……なにか他にも言った…?…あ、あれか。ティアラも意味わかったの?」


 ピクッと反応し、少し躊躇いつつもカイル様は質問する。私は小さく頷いて少しは…と、か細い声で答えた。


「……あー…」


 カイル様は少し戸惑いを見せつつ、なるほどと呟いた。


「んー…、ちなみに僕が言ったこともわかった?」

「………?何か言ってましたか?」


 一時の間があってから、カイル様は頭を抱えつつ顔を背けながら口ごもった。


「いや、なんでもないよ」

「はい?」

「えーと、そうだな…。ジディス卿が言ったことはただの挑発だから真に受けなくていいよ。何も問題ないから」


 にこっと笑うと、肩を抱き頭をカイル様の胸へと寄せて頭を撫でられた。


「問題…ないんですか?」

「問題ない」


 表情が見えないけれど、カイル様がそういうならばそれでいいのかな…?それ以上聞けるような雰囲気ではなかったので大人しく口を閉じることにした。


「あ、そうだ。お昼だったな…。ティアラこっち向いて。口開けてごらん」


 よくわからず、言われたとおりに視線を声の方に向けると口の中に甘いものが転がっていた。


 飴玉だ…。口の中いっぱいに甘い味が広がった。


「悲しいことは、甘いものを食べて塗り替えたらいい」


 その言葉に反応して、また一粒大きな涙が頬を伝う。だが、それは悲しいゆえの涙ではなかった。ふと昔のことを思い出して、生理的に零れ落ちたのだと思う。


「ふ、ふふ…、それ小さい時にも聞いたことありました」

「そうだったっけ?」


「昔、6、7歳くらいの時…。私とソフィアが遊んでる最中に転んで怪我して二人して傷の手当てをしてもらったときかな…。カイル様が私たちに飴玉をくれたんです」


「だいぶ前だね」


 カイル様は目元の涙を手で拭い、心配と戸惑いの表情を少し見せたが、問題なさそうだと判断するとまた髪を優しく撫でてくれた。





ティ「ジディス卿はどうして転がってたんですか?」

カイ「お腹を蹴った後に脚を蹴って転ばせたんだよ」

ティ「二段蹴り…!」



※ティアラのそっち系の知識は、ソフィアから借りたお嬢様小説R15くらいまでの知識しかないです。薄っすらなんとなくわかってる程度です。




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