6.その少年は
次の日。
身支度を整え仕切りの奥で眠るオリヴィアを起こす。
「オリヴィアー、そろそろ起きるぞ」
「んー」
実はオリヴィアは朝が弱い。いつもなら少し待つが、今日も色々とやることあるし、そろそろ起きてもらわないと困るので、布団を引っぺがし、窓を開けて無理やり起こす。
「起きろーー!!!」
「ぬぅおおお…。やめてーねむいー」
「今日はやること多いから、そろそろ出かけないといけないんだ」
「えーー。…わかっタ」
オリヴィアはしぶしぶ起き、身支度を整え始めたので、僕はその間に荷物の整理をした。
そろそろ服も買わないとだな。だいぶボロボロだ。靴も鞄も買いたいが、それはお金が貯まってからだな。
「準備デキたよ」
「よし、じゃあ、行くか」
僕らはまず、ルシュさんのところに向かった。
オリヴィアを預かってもらえるかわからないが、相談だけでもしてみる。預かってもらえるなら、すごく安心できるか難しいだろうな。リスクあるし。
カフェ アスカルに着くと何やら大きな声が聞こえてきた。
お店のドアには「close」と書かれており、まだ開店してないからお客さんではないはずだが…。
ノックをし、ゆっくりとドアを開けると、拘束された男の子が店の真ん中で座っており、その子の近くにルシュさんと女性が一人いた。その男の子は10歳くらいで、体のあちこち怪我をしていた。
「あら?フォルス?」
「お、おはようございます。あの、なにがあったんですか?」
「ウィリスが今朝この少年を捕まえたのよ」
「ウィリス…?」
「あ、この子よ。紹介していなかったわね」
「どうも、ウィリスです」
ルシュさんと一緒にいる女性はウィリスっていうのか。
というか、それよりも捕まえたってどういうことだ?!
「あの、捕まえったって一体…?」
「この少年、オリヴィアちゃんを殺そうとしていた奴よ」
「な!?」
「昨日の話を受けて、夜の間に色々とウィリスに調査してもらってたの」
ウィリスさんの話によると、ルシュさんに言われて、しばらく調査していたら、街の北側の森にある小さな小屋に向かう少年がいたため、怪しく思い、朝まで張って様子を見ていたそうだ。そしたら、今朝、街の高い建物に上って銃を取り出し、宿に向けて撃とうしていたので捕まえたらしい。宿の方を見ると僕が窓を開けるのが見えたので、オリヴィアを狙っていたことがわかったようだ。
オリヴィアを起こすために窓を開ける直前の出来事か!!!
もし、ウィリスさんが捕まえてくれていなかったら、また撃たれていたな…。
「ウィリスさん、ありがとうございます。すごく危ないところでした」
「ふふ、どういたしまして」
僕がお礼を述べると、ウィリスさんは微笑みながらそう言った。
「さて、この少年どうしようかしら。情報も吐いてくれなさそうだし」
「縄をほどけ、くそババア!!!おれはなにもしゃべらんぞ!!!」
「あぁ???今なんつった???」
「ルシュさん、落ち着いてください」
色々情報は持っているかもしれないけど、口は堅そうだ。
「はぁ…。もし、大人なら拷問でも何でもして情報吐かせるんだけど、子供だしさすがにな…」
拷問って…。ルシュさん結構怖いことするんだな。
でも、さすがに子供にはやらないようだ。それに、何か事情があるかもしれないしな。
3人ともどうすればいいか悩んでいると、
「ワタシがやる」
突然オリヴィアがそう言った。
「「「え?」」」
予想外のところからの立候補。全員が驚き、固まった。
オリヴィアは少年の前に座り、サングラスを取った。両手で少年の頭を触れて小声でぶつぶつの何かを話始めた。
少年は静かにオリヴィアを見つめていた。
オリヴィアは一体、何をしているんだ。脳内の情報でも読み取っているのか?
しばらくして、オリヴィアは少年の頭から手を離し、サングラスをかけた。どうやら終わったようだ。
「終わったのかしら?オリヴィアちゃん、何かわかった?」
「うン、でも、これをどうニかしなイとダメ」
そういって指をさした首の後ろに何やら埋め込まれていた。
これは…オリヴィアにもあったやつだ。ということは、この子も…。
「これは、何?埋め込まれているし、どう取ったらいいのかしら」
ルシュさんは見るのは初めてなようだった。
「フォルス、取れるよネ?」
「あ、あぁ」
オリヴィアがそういうと、ルシュさんは少し驚いたようにこっちを見た。そして、頭の回転の速い彼女はすぐに察して、その少年から離れた。
「ルシュさん、麻酔持っていたりしますか?」
「えぇ、あるわよ。消毒液やメスも必要よね。持ってくるわ」
「ありがとうございます」
オリヴィアの時は、親友のあいつとやったから、僕一人で外すことができるか不安だが、やるしかないよな。
まず、首回りとメスを消毒する。麻酔はルシュさんに打ってもらう。何度か打ったことがあるらしい。
次に、埋め込まれている機械を壊さないように、メスで切開する。
オリヴィアの時と同様に、神経と血管を傷つけないように、機械から伸びている線を外していく。線は神経の近くにあるため、結構難しい。
全部で5本の線を取り外し、最後に機械を取りはずした。
「ふぅ…。これでもう大丈夫だと思います。あとは縫合して終わりです」
「お疲れ様。縫合は私でもできるから休んでていいわよ」
「わかりました。お願いします」
ルシュさんはたまに怪我の治療をすることがあるらしく、手際よく縫合していった。