3.敵の襲撃
ようやく駅が見え始めた。
意外と距離があって、結構時間がかかってしまったな。乗り換え時間とか考えると、ここら辺で一泊するほうがいいだろうか。
などと今日の予定を考えていると、突然
「あ、いる…」
オリヴィアが駅の方を見ながらそういった。
いるって、一体…。
「きゃあぁああ!」
なんだ!?
女性は僕らの方を見て悲鳴を上げていた。まさか…と思いオリヴィアの方を見ると肩から血を出していた。
撃たれた!?くそっ!!どこだ!!いや、とにかく逃げないと!
僕らは急いで建物の蔭へと隠れた。
「オリヴィア、大丈夫か?!」
「ヘーキ。これくらいスグ治る」
オリヴィアの肩を見るともう血は止まっていた。さすがは古代人。
「それにしてもよく気づいたな」
「ヘンな匂いしタカラ」
嗅覚までいいのか。すごいな。
いや、それは今はどうでもいい。次の街までどう行くかが問題だ。まずはオリヴィアも僕も容姿を変える必要がありそうだ。サングラスもさすがに目立つか…。
移動手段は、徒歩かバスかになりそうだが、移動時間が長いと見つかった時に逃げにくい。さて、どうしようか。
「…おい!!…なぁ、兄ちゃんってば!!」
「!?」
急いで振り向くとそこには10歳くらいの少年がいた。
しまった、考え込んで人の気配に全く気付かなかった…!
「もしかして、兄ちゃんら誰かに狙われてんのか?」
「まぁ、そうだ」
「なら、いい抜け道教えてやろるよ」
「え!本当か!」
「ただし!案内料として3万ティフ払ってもらう。どう?」
3万って…。高すぎだろ…。いやでも、安全にこの街から出られるのであれば安いか…?
「わかった。支払おう」
「よっしゃ!じゃあ、さっそくついてきな!」
しばらく少年のあとについて行くと街はずれに出た。
ここまで無事に来れたのは道におかげだろうか。先ほどのスナイパーに攻撃されることなくここまで来ることができた。
「どこまで行くんだ?」
「あの鉱山の麓までだ。あそこは昔石炭が取れてて、坑道があるんだ」
「なるほど。確かに、坑道は複雑だしな。道は本当にわかるんだろうな」
「大丈夫。よく色んな人を案内しているし」
次第にまた家が見え始めたが、人の気配はない。廃坑になってからはもうこの辺に人は住んでいないらしい。
「さて、これから坑道に入るが、絶対にはぐれるなよ」
「わかった」
「ウン」
「んじゃ、行くか」
少年を先頭に坑道の中へと入っていった。中は真っ暗なので、足元に気をつけていないと転びそうになる。
しばらく、喋りながら歩き、ふとあることを思い出した。
「そーいえば、名前を聞いていなかったな」
「ん?あ、名乗ってなかったな。おれはシギ。兄ちゃんは?」
「僕はフォルス。よろしく」
「…そんな名前ダッタの?」
「「…え」」
あ、あれ、僕名乗ってなかったっけ?
「兄ちゃんらよく意思疎通できたな」
「名前わからないカラ、『ねぇ』って話カケてタ」
そーゆーことだったのかー。名前呼ばれないなぁとは思っていたけれど、まさかそういう理由だったとは…。
「ごめん」
「別ニいい。それよリも早くいこ」
「そ、そうだな」
「あ…!!!きてル!!!!」
な?!
「まじか。いったんライト消すぞ」
シギは落ち着いた様子でそう言ってライトを消し、僕たちは左の壁の岩陰へと誘導した。
ここまで来れるってそういうことだ。ずっと僕たちの後をつけて来たってことか…?
「シギ、出口まではあとどれくらいかかる」
「大体20分くらいだな。でも、ライトが使えないとなるともっとかかる」
それだと捕まる可能性が高いな。銃で応戦するか?いや、それは…。
「おれがどうにかするから、兄ちゃんらはそこで隠れててくれ」
「は!?いや、子ども一人でどうにかできることでは…」
「大丈夫。その代わりチップは弾めよ」
「あ、ちょっと…!!」
シギは僕の言葉を聞かずに、岩陰から出てしまった。
まずい。相手はおそらく狙撃のプロ。さらに、暗闇でも目が利く。この炭坑のことをよく知っているとしても、相手にするのは危険すぎる。今からでも止めに…。
そう考え、シギの方へ向かうとシギの目の前に大きな土の壁が形成されていた。
え、これは…どういう…。
「あーえーっと…どこから見てた?」
「その壁が作られている途中くらいから…だけど…もしかして君、魔法が使える?」
「…うん、使えるよ。バレたらまずいから普段は使わないけれど、今回は万が一バレてもまぁいいかなって思っていたから使った」
「え?なんで…」
「だって、兄ちゃんらもこっちよりの少数派の人間だろ?同じ少数派の人間ならむやみやたらに人に言いふらさないかなって思ってね」
待て待て待て。え、これどこまでバレているんだ。“少数派”という表現しか使ってないし、正体まではバレてないよな。
「まぁ、シギの言う通り、少数派の人間だ。だから、誰にもこのことは言わないし、僕らのことも言わないでほしい」
「あぁ、わかってるよ」
「ありがとう」
「さて、これで敵もおれたちを狙うことはできないだろう。先に進もう」
「そうだな。オリヴィア、行くよ」
「ウン」
シギに詳しいことを聞くと、彼は魔法使いの一族らしい。一昔前に魔法使いの大量虐殺が行われ、魔法使いの人口は激減したが、今でも彼のようにひっそりと暮らしているらしい。また、魔法使いのコニュニティーがあるらしく、いつか国に復讐し、魔法使いが堂々と暮らせる世界を目指しているらしい。
「さ、もうすぐ出口だ。今のうちにもう一回隠密魔法かけといてやるよ」
ん…?またって?
「またって、もしかして、この炭鉱に来る前にもかけてたのか?」
「そうだぜ。さすがに、魔法なしで誰にも見つからないように連れてくるのは難しいからな。…まぁ、敵には見つかっちまったが、あまり強力な魔法じゃなかったから仕方ねぇ」
なるほどな。ここまで来れたのは本当にシギのおかげだな。
「ありがとう。助かったよ」
「チップ、期待してるぜ」
あ、そういえばそうだった。収入あるまでお金大丈夫かな…。
そんな話をしながら2~3分ほど歩くと炭鉱の外へと出た。こっち側は林道になっていた。
「この道をまっすぐ1時間ほど歩くと、ニフェカという街がある。その街の西に、アスカルっていうカフェを経営してる“ルシュ”ってのがいる。そいつに、おれの名前を伝えれば、色々とサポートとしてくれると思うぜ」
「りょーかい。ありがとう。これ、今回の案内料とチップだ」
僕はそう言って、シギに4万支払った。
「まじか!!サンキュー!!また会うことが会ったら兄ちゃんらの話も聞かせてくれよ」
「うん」
「シギ、ありがト」
「お、おう」
シギはあまりオリヴィアと話さなかったせいか、少し照れながら返事をした。
「あ、魔法は3時間くらいしかもたねぇから、それまでに身を隠せよ」
「わかった。じゃあ、またな」
「おう」
僕らは簡単に挨拶をして、別れた。
シギがいてくれて本当に良かった。もしいなかったら今頃オリヴィアは連れ去られ、僕は殺されていただろうな…。
当初向かう予定だった街とは違うが、とりあえずニフェカに向かおう。
今後のことは着いてからだな。