2.オリヴィアという古代人
彼女に出会ったのは半年前。僕の親友の頼みで彼女を預かったのだ。
彼女は4年前に北の永久凍土の中から発見された。輸送中に融解してしまった事によって、彼女が生きていることがわかると研究者たちは大騒ぎした。人を冷凍保存することは今まで実現していないからだ。というのも、融解時に脳などはドロドロになってしまうからである。
もし、彼女の研究が進めば時代を超えて生きることができるかもしれないと研究者たちは胸を躍らせた。
一方で、考古学者は新たな人類の歴史の発見だと、彼女に接触した。今でも解明されていない文明は数多くあり、それを解く鍵だと思ったのだろう。
始めは貴重なサンプルとして丁寧に扱っていたが、治癒力が高いこと、細胞培養やDNA抽出などができなかったこと、言葉が話せることがわかったことによって、徐々に解剖などの苦痛を味わう実験が行われるようになった。詳細は不明だが、世界には彼女が生きていることをふせいていたため、それをいいことに普通は非難されるこのような非人道的な実験が行われた。
そんな彼女に救いの手を差し伸べる者がいた。僕の親友だ。彼曰く、夜間当番の日に研究所のシステムを壊し、彼女を外に連れ出したらしい。だが、彼も研究者であるため、彼女を連れ出したことは仲間にはすぐバレ、より危険な目に合うと思い、彼は僕に託したのである。
そして、僕は親友の遠い親戚がいるという北国のシュルナ共和国へと向かうことになった。どうやら、その親戚には事情を全て話してあり、保護に協力してくれるということらしく、そこならば安心して暮らせれるだろうということだ。
無関係な人を巻き込んでいいのかと思ったが、彼は「大丈夫。安心してそこへ向かえ」と言っていたし、他に案があるわけでもなかったので、彼を信じて向かうことにした。
その親友とはその日以来会っていない。別のルートを通ってシュルナ共和国へと向かうと言っていたが、無事だろうか…。
「ずっと黙ってどうシタ?」
「!?びっくりした…。ごめんごめん。考え事してて」
古代人であるオリヴィアは不安そうに僕の方を見ていた。彼女は現在、紺色の髪にサングラスという姿をしている。本来は全体的に銀髪で毛先が水色だったが、あまりにも特徴的すぎるので染めたのだ。そして、サングラスだが、彼女の目を隠すためにかけている。現代人とは明らかに異なっており、宇宙を水晶玉に閉じ込め、それをはめているかのような目をしているのだ。彼女の容姿すら世間に公開されていなくても、この目は異質すぎてすぐに噂になったり通報されてしまう。それを防ぐために常にかけてもらっている。彼女もそれをわかっているらしく、人前では絶対に外さない。
「なぁ、次のまちまではどれクラいかかる?」
「列車で1日くらいだ。すぐ着くよ。その街では少し長く滞在してお金を貯めようと思うから、なるべく外には出ないように」
「わカッタ」
僕は訪れた街でときどき短期間だけ働きお金を稼いでいる。長旅となるとかなりの出費になるからだ。本当はこのの街で働きたかったが、騒ぎ起こしてしまった以上長居はしない方がいいと思ったので、諦めて次の街で働くことにした。
「お金に余裕ができたら服でも買おうか」
「ウん」
彼女は少し嬉しそうに頷いた。
出会ったときはあまり感情はなく、いつも「ハイ」とだけ言っていた。すぐにエレミック帝国を出たあとの3カ月は彼女のメンタルケアを行った。このまま旅に出た場合、環境の変化についていけないのではないかと思ったからだ。幸いにも、研究所の奴らに見つかることなく過ごすことができた。
3ヶ月とあまり時間は取れなかったが、今、オリヴィアの微笑む顔を見れるようになって非常に嬉しい。
だが、これで安心してはいけない。これまでに訪れた街で、その街の人間ではない怪しい奴らがうろついているという情報を手に入れた。世間に彼女のことが知られていないために大々的に捜索は行われていないが、おそらく研究所のやつらは裏社会の奴らを使って僕らを追っているのだろう。
油断はできない。
列車の中では逃げ場がないし、周りを警戒しながら乗らないとな。
そう考えながら駅へと向かった。