20.フォルスの過去⑥
さらに半年後。
「ごほっごほっ」
「カレン、大丈夫か?」
カレンはどんどん体が弱っていった。
風呂は5日に1回、栄養など考えられていない食事、不衛生な環境。体調を崩して当然だ。
薬を貰わないと…。
「おい、食事だ」
いつものようにオエンキスの部下が食事を運んできた。
「カレンがまた体調崩したんだ!薬を持ってきて!」
初めはこいつらが用意する薬なんて信用できないと思ったが、毒は入っていないようだし、よく効いた。
オエンキスの部下は部屋の扉を開け、じっとこちらを見下すようにカレンを見た。そして、
「…いや、今回は連れて行く」
ニヤッと笑いながらそう言いながら、カレンの腕を掴んだ。
「は?!や、やめろ!!!なんでだよ!!いつも通り薬だけでいいだろ!」
「…何でだと思う?」
こいつ、まさか…!
「カレンには何もしない約束だろ!!!」
「ハッハッハ!!!そんな約束、俺としたか?」
は?何言ってんだよ。僕は、あの時オエンキスに…。
…そういうことか!!
「汚ねぇぞ!!!」
「汚いも何も、このお嬢ちゃんに何もしないと約束したのはオエンキスさんだ。オエンキスさんはここの所長でもなんでもねぇ。それならその約束はオエンキスさん個人のもの。研究所全体のものじゃねぇんだよ」
「…っ!カレンに何をする気だ!!」
「何をするもなにも、すでに実験は終わってんだ。あとは殺して解剖するだけだ」
男はそう言いながらカレンを肩に担いだ。
すでに終わってる…?殺す?解剖?
「ごほっ…、おにぃちゃん。ご、ごめんなさい」
カレン?何で謝ってるんだ?
「だまっていて、ごめんなさい…!」
「?!カ、カレン。僕がいない間に、何か、何かされたんだな!!!」
「いやぁ、素直なお嬢ちゃんで助かったぜ。ハッハッハ」
「おにぃ…ごほっ…。おにぃちゃん…。たすけて…うっ…しにたくない…うわぁああぁあああん」
泣き叫ぶカレンを見た瞬間、今までに抱いたことのないほどの怒りが込み上げてきた。
「その手を離せええぇえぇぇぇえええ!!!」
僕は怒りに任せ、思いっきり男を殴った。子どもかつ筋力が衰えた僕のパンチなど、男に聞くはずがない。そう思っていた。しかし、男は3 mほど勢いよく飛んで行った。
「え…?なにこれ…?というか、カレン!!大丈夫か?!」
「ごほっ、ごほっ。うん、だいじょうぶ」
カレンは緩んだ男の腕から逃げ出し、僕の元まで駆け寄ってきた。カレンには怪我はないようで、安心した。
それにしても、今のは一体…。いや、考えるのはあとだ。これだけ力が強ければ、ここから逃げ出せるかもしれない。
僕はカレンの手を引いて、その場から逃げようとした。しかし、
「痛っ」
肩に激痛が走り、見てみると注射針よりも少し太い針が刺さっていた。
「逃げられると思うんじゃねぇぞ、ガキが」
あいつが撃ったのか。
「僕はカレンと一緒…に、ここ…か…ら」
なんだ?早く逃げないといけないのに、意識が…。
「おにぃちゃん?!おにぃちゃん!!」
カレンが僕を呼ぶ声がだんだんと遠くなり、僕は意識を失ってしまった。
「それにしても、オエンキスさんはすごいですね。たった一年であそこまでやれるなんて」
人の声がする。
「まぁね~。でも、あれだけじゃないのよぉ。実はねぇ…お?目が覚めたようね」
体を縛られ、身動きが取れない僕の目の前には、オエンキスとさっきの男、そして、手術台に横たわるカレンがいた。
「カレンに何をしている!!!」
僕は思いっきり力を込め、縄を解こうとした。
さっきみたいな力があれば、こんなのすぐにちぎれるはずだ。
予想通り、縄は簡単にちぎることができた。
「あら、解かれちゃったわね」
僕は急いでカレンに駆け寄った。
「カレン!!!」
「まぁ、もう遅いけどねぇ」
オエンキスのその言葉を聞きながら、僕は絶望した。
僕の目の前にいるカレンは、血を抜かれ、腹を開かれていた。
嘘だろ?なんで?
綺麗なままなのは、もう顔しかなかった。
僕は震える手で、カレンの顔に触れたが、僕の両手はもう、自分の手ではなく、冷たい機械になっており、カレンに最後に触れたのは自分の手ではないことに、悲しさと怒りを覚えた。
「あはははは!!!いいね!!最高にいい表情!ここに連れてきて正解だったわ!!」
何が可笑しい。
「あまりこいつ刺激するとオエンキスさんも痛い目に会いますよ?とりあえず、俺はこれの解剖終わったし、サンプル処理してきます」
これとか言うんじゃねぇよ。カレンは物じゃない。
「大丈夫よぉ。ボタン1つで眠らせれるから」
「え、すごいっすね」
「ふふーん」
こいつらは生きてたらダメだ。
「そこからどうなったかはよくわからない。暴れたのは覚えているんだけど、また意識を失って、気が付いた時はそこの所長のグリディ先生とオエンキスの部下だったイーグリーという男が僕のそばにいた。そして、その後は2人と共に、色々な所を転々しながら過ごしたんだ」
「そう…なんだ。そんなことが…。だからあんなに…」
「そんなに嫌な思いをしたのに、そいつらを恨んでいるはずなのに、なんでおれらに関わるんだ?それに、フォルスだって見つかったらたぶん殺されるぞ?」
「僕、実は整形しているんだ。骨格は変えていないから、骨格調べられたら終わりだけどね。あと最初、オリヴィアを見たときに、『もし、妹が生きていたら今頃この子くらい大きくなっていたのかな』って思ったんだ。オリヴィアとカレンを重ねて、あの時カレンを守ってあげられなかった罪滅ぼしをしたかったのかもな。それに、僕のために危険を冒してまで色々やってくれたリックの頼みを聞かないなんてできない。ギルはまず、子どもだけではこの世の中生きていけない、これ以上不幸な人を増やしたくないって思ったんだ。そして、僕は叶わなかったけど、両親と再会して、幸せになってほしいって思ったんだ。もちろん、これまでと同じような生活はできないけどね」
「フォルス、両親に会ってないの…?今からでも会いに行こうよ」
「…う~ん。それは、なかなか難しくてね」
「そっか…」
「雰囲気暗くなっちゃったね。さ、そろそろ森を抜ける。確か近くに小さな町があるらしいから、そこで何を食べるか決めよう」
「うん」「おう」
少し暗い雰囲気になったが、2人とも気を使っているのか「あれが食べたい」「これが食べたい」と明るく振舞ってくれた。
この2人だけは幸せになってほしい。
そう思いながら町に向かって歩いた。
フォルスの過去はこれでとりあえず終わりです。
読んでくださりありがとうございました。




