9.オリヴィアとギル
―オリヴィア視点
私を狙っていた少年はギルというらしい。私はまだ、言葉を習得しきっていないので、よくわからないところも多かったが、研究所の奴らによって人生を狂わされたようだ。
初めは敵視していたが、『焦り』と『怯え』が伝わってきた。この感情があるということは、これまでの行動に覚悟を持っていない可能性があると思った。そこで、首にある機械を取れば何かわかるのではと思い、機械を取るようにフォルスに頼んだのだ。
予想は的中。これまでの行動は彼の本意ではなかった。
でも、私はこの時代のことはよく知らないが、おそらく人を殺めることはここでも重い罪だろう。確か私の時代では、殺人の罪を犯した人は生き埋めだった。理由があったとしても、ギルが裁きの対象になることは間違いない。
逃亡という手もあるだろうが、人を見つけることが上手いこの世界では難しいだろう。誰かが手助けすれば、逃げ切れる可能性もあるだろうが、ルシュも保護できないと言ったし、ギルは近いうちに裁かれるか研究所の奴らに消されるでしょうね。
そう思っていたのが。
「それなら、僕らと一緒に行動しない?」
ちょ、ちょ、ちょっと?!たぶんだけど、ギルを保護してもリスクが高まるだけよ?!え…意味がわからない。『同情』だけで行動するのは良くないと思うんだけど…。
いや、まぁ、私も最低最悪な奴らから最低最悪なことをされていた中、フォルスたちが助けてくれたことは本当に嬉しかったし、救われたよ。だからさ、私もギルという少年をどうにかしてあげたいっていう気持ちはあるよ?でもさ、まず優先させるのは自分の身の安全じゃ………。
そう思い、フォルスに自分の考えを伝えようとしたが、ファルスは自己犠牲のプロであることを思い出した。
自分の身の安全より人助けを優先させちゃう人だったわ。私の時もそうだったもんなぁ。なんでそんなに人に優しくできるのか理解できない。そして、こういう人には覚悟を決めた後では何言っても届かないものだ。
どの時代にも優しすぎる人ってのはいるもんなのかな。
―ギル視点
数週間前、フォルスがおれを引き取ってくれた。
あれからどうしているかというと、日中は宿でオリヴィアに言葉を教えていた。
「これはどういう意味?」
「これは…」
おれもきちんと教育を受ける前に捕まってしまっていたので、大したことは教えられないが、辞書を引きながら二人で勉強をした。
「オリヴィアは習得が早いな。発音もすごく良くなってるし」
「そう?ギルと勉強を始めてから話す機会も増えたからかな」
オリヴィアとフォルスは二人で旅をしているって聞いたから、結構仲が良いのかと思ったらそうでもないらしい。もちろん、仲が悪いわけでもない。普通って感じだ。
「フォルスとはあまり話さないのか?」
「う~ん。フォルスは1日の大半は働きに行ってるからね。移動のとき以外はあまり関わりがない」
「そうなんだ。2人はなんで旅をしているんだ?」
「研究所の奴らから逃げて、安全な場所で暮らすため…なのかな?」
「なんで疑問形なんだよ。自分のことだろ?」
「前は今みたいにきちんと言葉を理解できていなかったから、合ってるかわからないの」
「ふーん。じゃあ、もう一回聞いてみれば?」
「んー。わざわざ聞くことでもないかなぁ。めんどくさいし」
「目的って大事なもんじゃねぇの?」
「…あまり考えたことなかったわ」
オリヴィアはいつもこんな風に冷めた感じなのだ。
正直、何を考えているのかわからない。彼女の宇宙のような瞳のせいかもしれないが…。
でも、こうして毎日会話をしていると色んなことがわかった。
まず、何か考え始めるとそれに集中して黙ること。そして、笑うときは手で口元を隠して「ふふふ」って笑うこと。初めて見たときは「え、笑うんだ」ってびっくりしたっけなぁ。
あと、食い意地が張っていること。お金はあまりなく、食事の量が少ないせいもあるだろうが、よく「お腹すいた」とつぶやく。でも、気を使っているのかフォルスの前では言わない。
物事に対しては冷めているから怖い人かと思うが、結構優しい人だ。
まぁ、おれが自分の意志でないにしても撃ったことに対しては許してくれないらしいが…。当然っちゃ当然だよな。
オリヴィアはフォルスがおれを保護することを決めた後にこういった。
「私ハあなたを許さナい。許せなイ人がいるコトを忘れず、これまデの罪を背負っていきロ」
初めは「おれの意思じゃねぇのになんでだよ」と思ったが、おれがやったことは事実だ。それを忘れてはいけない。オリヴィアがどういうつもりでそう言ったかはわからないが、許さないって言った人がそばにいることは結構しんどかった。でも、オリヴィアに言葉を教えたりして役に立っていると思えるときは、少し気持ちが楽になる。
おれは長くは生きられないだろうが、少しでもオリヴィアだけにでも許してもらえるよう、精一杯生きようと思う。
読んでくださりありがとうございます。




