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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏水仙

作者: あくま

〈1枚目〉


あなたのために捧げたこの人生。

私が最期にこの手紙をあなたへ送ります。


あなたがいなくなったこの世界は想像していたよりもずっと暗く、四角の箱に入っているようで、とても寂しく感じます。

私は今、あなたと過ごした日々のことを思い出し、うたにしていました。

「とても幸せだった。」

「もう一度、あなたと話をしたい。」

ありきたりな文ばかりですが、うたにのせると少し楽になった気がします。


私たちが出会ったのはいつだったでしょうか。

高校の図書室で本を読んでいたあなたの美しい横顔に衝撃を受けました。

これが、私があなたを知る最初の出来事でした。「綺麗」。という言葉しか私には出てきません。

ツヤのある長い髪が風で靡き、目に入らないギリギリの長さの前髪。二重でぱっちりとした瞳。血色の良い唇。

こんなにも綺麗なひとが同じ高校にいたのか、と思うほど美しく、私はずっと目で追い続けるほどに、あなたの虜になってしまいました。

私はあなたに話しかける勇気もなく、とても虚しい気持ちでいっぱいだったのを覚えています。

あなたが私に声をかけて下さったとき、目を何度疑ったことか。


私がたまたま落としたハンカチをあなたが拾ってくれるとは思いもしませんでした。

私はあなたと仲良くなりたかったので、お出かけに誘いましたが、あなたは断ってくれましたね。

やはり、あなたには"かわいい"より"うつくしい"の方が似合うのだと強く確信しました。

その日は眠れないほど嬉しく、毎日のその日のやり取りを思い出しています。


高校時代、あなたとはそれきりでしたね。もっと話しておくべきでした。

今更後悔しても遅いですがね……

ですが、私はあなたのおかげでとても楽しい高校生活を送ることが出来ました。

本当にありがとうございました。



高校卒業後、あなたとの交流はなく、月日が流れていきましたが、私は元気に楽しく、充実な長期休みを過ごすことが出来ました。勉強もしっかりとしたので、無事、大学受験に合格することが出来ました。

大学の入学説明会であなたの後ろ姿を見つけ、とても驚きました。

あなたは専門学校に行くと聞いていたので、短期大学にいた事に正直驚きました。

どうしてあなたがここに居るのか分かりませんでしたが、大学でも一緒に生活ができる事の嬉しく、あまり考えていませんでした。


後から知り合いに聞いた話ですが、あなたは親への説得が出来ず、受けることが出来なかったのですね。

あなたは絵がとても上手なので、行くべきだったのじゃないかなと私は少し思います。


あなたとは大学でも話すことはなく、少し目で追うほどでした。

毎週、同じ場所であなたを見ることが出来るので大学に来てよかったと何度も感じます。


とても楽しい生活を送った大学はあっという間でしたね。


あなたとは縁が長く、私は驚くことが多いです。

あなたと就職先が被るなど、そんな奇跡的なことは起こるはずも無いので、何年も片思いしてきたこの恋もこれで終わりですね。

とても悲しいですが、仕方ありませんよね。



あなたは仕事でストレスが多かったのではないでしょうか。

久々にあなたの誕生日に会いましたが、顔色が悪かったです。あの時はとても苦しそうでした。ですが、何もしてあげることが出来ず、それだけが心残りです。


あなたは今、地獄にいるでしょう。

私ももうすぐあなたの元に行きますね。


愛しのハニーへ




〈2枚目〉


私は分かっていました。見ているだけでも優しさが滲み出しているあなたが、誰かが何かを落とした時、それを見ないフリをするような人では無いということは。


私は生憎、勇気もやさしさも持ち合わせていない。だけど、あなたと話したかった。あなたと仲良くなりたかった。

だからあなたから私にと、ほんの少しあなたを誘導した。

あなたはもちろんハンカチを拾い、私に話しかけてくれた。私は心から喜んだ。


このとき、あなたは気づいてしまった。

そして、怪物でも見るような瞳で私を見ていた。

私はとても嬉しかった。

いいえ?怪物に見られて喜ぶだなんて普通の人じゃありません。

怪物に見られたのは"ちゃんと"哀しかったです。

あなたが普通じゃないものだという認識をする事で、あなたの記憶に私という人物を認識させることが出来ました。それが嬉しかったのです。


デートのお誘いはもちろん、断わられました。

こんなことをしたから当然です。でもこの時の私の心は悦びで満ち溢れていました。なんて楽しく嬉しい日なのでしょう。神様に恨まれてしまいますね。



大学受験の前、私は色々な人に聞き、どこへあなたが行くのかを知っていました。

絵を描き続けるために、あなたが専門学校に行こうとしていることは、私はもう知っていました。

あなたがとても絵が上手いことも知っていました。

なので、私も共に行きたいと思いたくさん絵の練習をし、あなたに追いつこうと頑張りましたが、才能というのはやはり存在するのですね。

私がどれだけ絵を頑張ろうと無理でした。

絵は楽しむ心や才能があれば描けると思っていましたが、私には楽しむ心も才能もひとつもありませんでした。

描きたい構図もなく、目標もない。

今思うと、こんな人間が上手くなれるはずがありませんでしたね。


あなたが親に反対され、短大に行くことは私の情報にはありました。なので、私は安心し、同じところへ行くため、勉強に励みました。

また同じ学校にあなたと行けることが楽しみで、絵の練習につかったスケッチブックにあなたの横顔、瞳、口、表情を描き、埋めつくして、春休みを過ごしていました。

とても充実した長期休みとはこのことを言うのですね。



私たちが大学に入学した頃、私と同じ大学だったことを、あなたは気づいていなかったでしょう。

高校時代より髪を長くし、伊達メガネをつけ、誰かわからないように少し声を低くし、アニメ好きの知り合いをモチーフにした格好をして大学に通っていましたので。

あなたは、私と同じサークルだったことも知らないと思います。

毎週のように顔を合わせる日々。こんな日々を私は憧れていたので、いつ死んでもいいと思うほど幸せでした。



大学を卒業してしまってこれが最後なんだと私は悟りました。でも、私はあなたとこれで終わりにしたくなかったのです。

許してくれないことは知っています。寧ろ、許さないでください。

私はあなたを誘拐したのに許さないのはお人好しですよ。

あなたと離れて2ヶ月と21日。こんなに離れてしまっては、私の心が持ちません。

今日は、あなたの誕生日ですね。私はあなたにプレゼントを渡したいのです。サプライズだって頑張ったのです。


あなたの誕生日の0時にあなたにおめでとうと言いたくて、そのためにたくさんの準備をして待っていました。

なのに、あなたの顔が真っ青でしたね。勇気を振り絞って伝えたのにそんな顔をされたのは、少し悲しかったです。

誕生日プレゼントには最高のものを。

脚立とロープ。最高でしょう。あなたの誕生日を1番に私がお祝いし、あなたの死を1番最初に見届ける。人生においてこんな最高な事はないと思います。

でも少し、後悔しています。

ちゃんとあなたに告白するべきでした。


自〇をするよう促し、自〇した私を地獄へ。

自〇をしたあなたも地獄へ落とすでしょう。


今日はあなたと出会って2236日目の深夜。

本当に今まで最高で、幸せの人生でした。


すきですよ。あなた。


さようなら。

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