第一章
それから感じていたのは、いや感じていたという意識を後から思い出せたのは、混沌とまどろみだった。
なし崩し的に目覚める直前の夢のように、全ては霞み、曖昧模糊としていた。
色さえ認識できているか分からない昏睡から覚めることは、決して良い気分とは言い難く、まるで二日酔いのように不快で、気が重かった。
そうして”物心”が点いたとき、私は知育玩具のジャンキーだった。
単純作業の喜びを植え付けるそれは、私の幼い脳みその殆どを支配しており、私は気狂いのように多種多様な形をしたブロックを、それぞれに対応する穴が空いた箱の中に投じる作業に魅了されていた。
動物や自動車、数字や文字の形をしたブロックは、楽しみながら子供に知識を与えることを目的としているように見えたが、後年になって自らの精神的生育の軌跡を振り返ると、それによって覚えた喜びと最も近しいものは、スロットの目を揃えようと熱中している時の集中力と、揃った時の射幸感だった。
私は物心がつく前から、その時々の私の本能を満たすだけの商品やサービスをただ享受する、受け身な処世術に慣らされていたのだ。
そこには健全な喜びやカタルシスもなく、ひたすら訳も分からないまま動かされているだけの、回し車を走るハムスターの有り様しかない。
その頃の私は、前世の記憶も朧気で、ツルツルな脳細胞とDNAの遺伝情報が命じるままに、脊髄反応的な行動を取る獣のような状態だった。
我が妹が生まれた時、恥ずかしながら、私が百年の年月を重ねて培った理性と知識と経験は、この未成熟で野蛮な動物にとって、必ずしも良い影響を与えたとは言えず……まあ、その……両親の愛情を横取りする突然の闖入者の出現に、競争心を通り越し、憎悪と殺意を抱いた。
幸いにも、私の立案した計画は、身体的ハンデの前に頓挫したのだが、妹の命を狙ったという負の記憶は、その後も苦い罪悪感を残したのだった。