連覇、最近モテモテなんですけど!(SS3)
エリが向かった先は幼児用のプール。
ここは背の小さいエリが唯一入れるプールだ。
(どうせ、背が小さいですよー!)
エリは心の中でいじけていた。
プールはとても浅く作られていて、エリが座るとへそまで水に浸かった。
あたりを見渡すと自分よりも年下の子供達で溢れている。
中には赤ちゃんまでもがこのプールで遊んでいた。
(でも、笑う事ないじゃない。杏の馬鹿・・・。)
エリはバスで最初に心琴に促されたとき本当は謝ろうと思っていた。
しかし、杏があまりにも頑なにこちらを見ないので言えなかったのだ。
(つまんない・・・。)
エリはため息をついてプールで寝転んだ。
水位が低いため、それでも顔まで水は来ない。
空がとても青く、雲はとても白かった。
そんな夏の空をぼーっと眺めていると、突然杏の顔がひょっこりと覗き込んできた。
「わぁ!!!」
エリは驚いて飛び起きた。
「え!?あ!お、驚かせるつもりはなかったんだけど・・・!」
驚かれて杏も驚いた。
エリは口をとがらせて杏を見る。
「な・・・なに?連覇、遊べば、良い。」
それが杏の望みだったはずだ。
エリは自分が身を引けば杏と連覇は遊びだすと思っていた。
「・・・。あのさ。その・・・」
杏はもじもじとしてエリを見た。
「さっきはごめんなさい!」
そしてはっきりそう言って頭を下げた。
「・・・え?」
謝ってもらえると思ってなくてエリは驚きの声を上げた。
「なんか、つい噴き出しちゃったけど・・・その。傷つけたくてやったわけじゃないっていうか・・・。バスでもいろいろ言い過ぎたっていうか・・・。」
もじもじしながら杏はエリに言う。
「・・・。杏・・・!!」
エリは驚きの表情から笑顔へと変わっていく。
徐々にいじけた心が去って、素直な心が戻ってくるのを感じた。
「エリ、悪かった!・・・エリこそごめんなさい!!」
エリもそう言って杏に頭を下げた。
「エリ・・・、杏に焼きもち・・・。酷いこと言う、良くなかった。」
エリももじもじと杏の方を見た。
「やきもち・・・そうっか!そうだね!」
杏は何かに納得したように笑った。
エリが執拗に連覇の事になるとムキになる理由がはっきりしたのだ。
「・・・うち等、つまりライバルだね!ウチだって連覇の事好きだもん!」
「え、エリだって!!負けない!!」
二人は目を見てそう言いあった。
「でもさ、悪口言うのはもうやめようか!」
杏はエリに笑いかけながらそう言った。
エリも杏の意見に賛同するようにうなずく。
「連覇、悲しそう、良くない!これからは・・・正々堂々勝負!」
「あはは!望むところだよ!!」
エリも杏も一歩も引く気はない。
けれども、連覇を悲しませるような争いではいけない事を悟ったのだ。
二人はこぶしを合わせて、こうしてライバル宣言をかわしたのだった。
◇◇
一方、心琴と連覇は幼児用プールで泳いでいる。
連覇の顔は今でも浮かないものだった。
「連覇君・・・大丈夫?」
心琴は心配して声をかけると連覇は慌てて笑顔を作る。
「だ、だいじょうぶ!!プール、気持ちいいね!」
明らかに元気が無い。
その様子に心琴はそっと話を聞いてみる。
「連覇君があんな風に怒る所、私初めて見たよ。」
「・・・うん。僕も・・・あんな風に大きな声って出さない。けど・・・。」
そこまで言って連覇は戸惑った。
「けど?」
心琴はゆっくり話を聞きだす。
心琴を見ないで連覇は静かに胸の内を明かした。
「実はね・・・レンパ、明日から・・・北海道に行くんだ。」
「えええぇ!?!?!」
突然の報告に心琴は驚きを隠せない。
「だからね・・・僕が居なくても二人には仲良くしてほしいんだ!!」
「そっか・・・それなのにあの二人が全然仲良くしないから・・・。」
心琴はようやくこの小さな少年が抱えている不安を聞き出すことが出来た気がした。
連覇は心配なのだ。
自分が居なくなったら二人が友達でさえなくなってしまう。
杏には特に友達という友達もいないし、エリにも自分以外の友達はほとんどいない。
小さな少年は女の子達に仲良くして欲しいだけだった。
それを聞いて心琴は決心したように頷いた。
「私さ・・・もう一回、二人に話してくるよ!!」
「え・・・う、うん!ありがとう心琴お姉ちゃん!」
そう言うと心琴はプールのハシゴの方へ泳いでいく。
しかし、子供を一人だけにすることに不安を覚えた心琴は後ろを振り返って連覇に確認する。
「連覇君、底に足届くし、少しだけ一人になっても大丈夫かな?できるだけすぐに戻るから!」
「大丈夫だよぉ!!流石に歩けるところで溺れたりしないよ!」
連覇は困った顔で心琴を見る。
「溺れそうになったらそこに監視員さんいるからね?」
「大丈夫だってば!!」
それでも、そう念を押してから心琴は幼児用のプールへと向かった。
心琴が去っていって連覇はため息をついた。
あたりを見るとお昼時と言う事もあって連覇一人しかプールに居なかった。
「休憩してようかな・・・。」
そういってプールサイドへ行こうとしたその時・・・。
急にプールの底に足が付かなくなった。
ートプン
声を上げる暇もなく連覇は深いプールの底へ落ちていく。
無論、監視員は連覇の存在に気が付かない。
連覇は慌てた。
(や・・・やば!!!)
口から空気が漏れるのを抑えて足を何とかばたつかせる。
水面が見え、息を継ごうとしたその瞬間・・・。
連覇の左足が急に重くなった。
「ゴボッ!!!」
口に大量の水が入ってくる。
体中の酸素が消費され尽くしていくのを感じる。
(く・・・苦しい!!!)
左足を居てみるとそこには赤ちゃん様な小さな手が多数、水の底へと連覇を引っ張っていた。
(なに・・・これ・・・!!!)
暴れてもびくともしない水子霊達に連覇の体はプールの底へと引きずり込まれていくのだった。