連覇、最近モテモテなんですけど!(SS1)
夏も本番。
いよいよ熱くなってきた室温に松木心琴は参っていた。
「あついよぉ・・・。」
だらだらと部屋で過ごしている。
扇風機に食いつくように離れないでアイスを食べていた。
心琴の家にはエアコンが無い。
室温は30℃を超えている。
その様子を見てため息がひとつ。
「お姉ちゃん・・・。少しは勉強したら?今年3年でしょ?」
妹の心湊はだらしのない格好で扇風機を独り占めする姉に呆れていた。
「うー・・・こんなに暑いのに?無理だよぉ。」
心琴は未だに将来の事を受験とも就職とも決めていない。
今のところ一応、志望欄に進学とは書いておいたが正直やりたいこともない。
「・・・熱い・・・夏・・・といえばやっぱりプールだよね!!!」
急に心琴は起き上がる。
意気揚々とスマホを取り出してはみんなにLIVEでチャットし始めた。
「いや・・・勉強は?」
呆れかえる妹の声はもう聞こえているはずがない。
『ねぇねぇ!みんなでプール行かない!?』
早速心琴はみんなにチャットを送る。
すると、一瞬でチャットの返信は返ってきた。
心琴はその内容を呼んでがっかりする。
『心琴ちゃん・・・さすがに2浪の僕は今は遊びに行けないって!』
これは2歳年上の浪人生の射手矢 海馬さんだ。
『そうですよ!心琴ちゃんだって進学希望ですよね?大丈夫ですか?』
同じ学校の生徒会長の早乙女 朱夏には心配されてしまった。
この二人はとても優秀で今はどうやら同じ医学部を目指しているようだ。
『わりぃ・・・最近ちょっと仕事が立て込んでて、休めそうにないんだ』
心琴の彼氏の向井 鷲一からも残念な返事が返ってきてしまう。
「はぁ・・・皆やっぱり忙しいよね・・・。」
心琴は一連の流れを見てがっかりした。
けれども、思ってもみない子からノリノリで返事が返ってきた。
『レンパ、プール行きたい!!!』
白鳥 連覇は小学1年生。五芒星レンジャーのレッドに憧れていて、困っている人をみると放っておけない性格の男の子だ。
それにもう一人の小学生からも前向きな回答が返ってきた。
『エリも行きたいって言っているようですが・・・どうしましょう?』
エリは朱夏の家に住む『パラサイト』の一人。死の未来を感知して周りの人に予知夢として知らせることが出来る能力者だ。
エリはスマホを持っていないので同じ家に暮らす朱夏が代理で返事をしているようだった。
「う・・・うーん・・・。小学一年生2人とかぁ・・・明らかに保護者枠だけど・・・。」
高校3年の心琴はそれでもプールに行きたかった。
うだるような暑さから解放される時間が欲しかったのだ。
『二人共、市営プールで良い?』
そう思って返事をする。
『もちろん!レンパ、ママに話して来る!』
レンパからは一瞬で返事が来た。
『え!?心琴ちゃん本当に行くんですか!?こちらとしては助かりますが・・・。』
朱夏は、最初に言った「プールに行きたい」の意味合いと状況がだいぶ変わったことを気にしてくれたようだ。
しかし、実際は勉強をしている朱夏の横で、エリは元気をあり余しているに違いなかった。
『あはは。連覇君もエリちゃんも行きたいって言ってくれたんだから行って来るよ!それじゃぁ、30分後に駅の広場で待ち合わせで大丈夫かな?駅から出るバスに乗ろうね!』
そうチャットを終わらせると心琴は早速準備を始めるのだった。
◇◇
「おまたせ!」
心琴は30分後に駅の広場に到着した時にはエリも連覇もそこにいた。
「心琴!おはよ!」
「心琴お姉ちゃん遅いよ!!」
どうやら二人は待ちきれずにちょっと前からいたらしい。
それに、先ほどは呼んでいない女の子が一人いる。
髪の毛が半分黒く、半分白い、小学4年生の杏ちゃんだった。
「ねぇ、ねぇ、ウチも行っていいかな!?」
目を輝かせてこちらを向いている。
「あはは!良いよ!でも、杏ちゃん水着ってある?」
「え?心琴さんから貰ったじゃん!」
「あれ?そうだっけ!!」
杏はこの間までパラサイトの実験施設に閉じ込められていた。
手荷物などは一枚の家族写真意外は何一つない状態で保護されたので皆んなで使える物を持ち寄った。
心琴は杏に心琴の妹が着ていた古着などを集めてあげたのだ。
適当に詰め込んだ服の中にきっと水着もあったのだろう。
「さっき、着替えとかも持って走って戻ってきたの。」
「そうだったの!行く気満々だね!もちろんいいよ!」
心琴と連覇はで笑顔で迎え入れた。
「えええええ!?」
けれども、エリは不満そうな顔をする。ほっぺたを膨らませて唇を尖らせる。
「杏・・・いると、あんまり連覇と一緒に遊べないのに・・・。」
「え?エリちゃんどうしたの?」
心琴がエリの様子を気にかけるがエリは口をつぐんでしまった。
そんなエリをよそに杏は喜ぶ。
「やったー!ありがとう!」
するとバスがバス停に停車する。
その行先は市民プール行と書かれていた。
「あ!あのバスだよ!ささ、乗って乗って!」
こうして小学生3人と高校生は市営プール行のバスに乗り込むのだった。