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星斬りの剣士  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章 星斬りの憧憬

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二十一話

 ————一体、何が本当なのだろうか。


 ビエラ・アイルバークと別れ、渡された地図を片手に家へ戻ってきた俺は、手紙を書きながらふと思う。


 一体、何が本当なのだろうか、と。


 年月を重ねるにつれ、そう思うようになった。

 この熱は、何処までが本物なのだろうかと。


 ある人間は俺に言った。


 どうしてそうも進んで傷付くと分かっている道を選ぼうとするのか、理解が出来ないと。


 ある人間は俺に言った。


 正気ではないと。


 そしてある人間は、言った。


 無骨な————それこそ、一切の無駄を省き、ナニカを斬る事だけに特化した剣を片手に、剣を振る俺の姿を見て言ったのだ。


 お前は得体の知れないナニカに取り憑かれてるのではないのかと。


 憧れて。夢に見て。

 そして俺もそれになりたいと志して。


 ……理由としては至極真っ当であると思うのに、どうしてか、周囲からの賛同は無情なまでに得られない。


 そして人間とは不思議なもので、周りからおかしいおかしいと言われ続ければ、いくら自身がおかしく無いと思っていようと、ほんの僅かな疑念が生まれてしまう。

 ……その疑念に、思考は塗り潰されていた。


「……ただ、これを貫き続ければ分かる気がするんだよね」


 けれど、これだけは言える。

 俺は、俺の意志でもって『星斬り』を志した。他の誰の意志が介入する余地なく、俺は純粋に憧れを抱いたのだと。


 そもそも、『星斬り』を成す為にはひたすら手を伸ばし続けるしかない。たとえ『不可能』と幾ら言われようとも、己の『限界』を超えてそれすら跳ね除ける気概がなくては間違いなく届きはしない。だから。


「いや、違う。俺はこれを貫くしかそもそも道はないんだ」


 とどのつまり、俺は強くなりたいのだ。

 そして強くなりさえすれば自ずと『星斬り』にすら届き得る。俺の憧れが、真、『星斬り』たり得たのだと証明する機会すら得る事が出来る。


 ……あぁ、分かってる。

 はっきり言おう。俺はどこか他者とは感覚がズレているのだと。

 そして価値観すらも異なっていると。


「……で、それを成すにはやっぱり機会が必要不可欠。自分より強いナニカの下に歩み寄らなければ、壁はいつまで経っても超えられやしない」


 姿を目にして。

 目があって。

 はっきりと理解した。


 転がってきたこの機会を逃すべきではないと。

 言ってしまえば、ビエラ・アイルバークは俺にとって黄金のように見えた。……彼女を取り巻く環境は、黄金のように価値があるものに見えたのだ。


「手本はある。……それも、極上が」


 だから、今更何処ぞの人間にこうべを垂れて教えを乞うなんて真似をする気なんてものはどこにもありはしない。

 何故なら、あの『星斬り』の技こそが至上であると他でもない俺が信じているから。


「だけど、俺と夢の中の『星斬り』とじゃ、決定的な差異があった。致命的なまでに俺に足りないものがあった」


 —————それは経験と、知識だ。


 夢の中で見て勝手に俺が得た記憶というものは一から百まで全てが闘争に関する記憶であった。

 ……天賦の才を持った男による戦闘の記憶であった。


 あのオーガとの死闘によって学んだ事が一つある。


 それは、俺とあの『星斬り』の男は決して同じではないのだという事。

 そんな至極当然とも言える事実であった。


 ……俺が二年待った理由は、己の限界を知る為だ。『星斬り』を成す為にも、周囲に頼れる人間がいるうちに己の限界を知る必要があったから。


「だからこそ、手元に転がってきた極上の機会を取りこぼすわけにはいかない。……限界を知った俺が、限界を超える為にも。ろくに強くもない、俺だからこそ」


 だから、ちまちま寄り道でもして壁を乗り越え、強くなってゆくしかないのだ。それを理解していたからこそ、この機会は限りなくお誂え向きであった。


「…………そもそも、俺が正気かどうかなんてものはどうでも良いんだよ。言ってしまえば、俺は『星斬り』が成せるならそれでいい。自分の『憧れ』が最強であると証明さえ出来れば、それでいい」


 俺は知らしめたいのだ。

 剣を振るって、『星斬り』の技が最強であるのだと。そんな(わらべ)のような想いが根底であるからこそ、きっとその真偽が分かったところで、俺以外、誰にも理解されないだろうなあと苦笑いする。


 部屋に設えられた窓に視線を向けると、そこには俺が映されていた。

 視界に映り込む揺るぎない瞳。

 ……どうにも俺は、一度正しいと認めてしまった道は貫かないと気が済まない性格らしい。


 我ながら実に傍迷惑で、ロクでなしだと思う。

 そしてそれを貫く為に村のためでもあるからと言い訳を重ねようとしている。


「あぁ、本当に救いようがない」


 ソフィアには愛想尽かされるだろうなあと思いながらも、俺は渡された地図を握り締めていた。


「救いようがないと分かってるのに、でも、止まれない」


 本能、とでも言えばいいのか。

 自分の中の得体の知れない熱のようなナニカ(・・・)がひたすらにその行為を肯定し続けてるせいで疑う余地というものが殆ど消え去ってしまっている。


 親父は死ぬと言った。

 ビエラ・アイルバークのあの申し出を受け入れたところで間違いなく死ぬと親父は言っていた。


 事実そうなんだろう。

 親父は基本的に俺に嘘は言わない。

 俺がどこまでも純粋で、度が過ぎた愚直な人間であると知るからこそ、嘘は滅多なことでは吐きやしない。


 だからきっと、本当なのだろう。


 しかし。

 けれども。


「『星斬り』を成す為の踏み台としては、ちょうど良い。死ぬかもしれないくらいが、ちょうどいい」


 遥か遠くに位置する偉業であると理解しているからこそ、ちょうど良いと言えてしまう。

 死ぬと言われたからこそ、逆に燃え盛る。

 自分の事ながら、流石にこれは大馬鹿であるとしか言い表しようがなかった。


 だから。


「ごめんな、ソフィア。俺、ちょっとだけ寄り道してくる」


 そう言って、書いていた手紙を折り畳み、引き出しに仕舞う。いつまで経っても王都にやって来ないと知ればまず間違いなく、この引き出しは開けられるだろうから。


「あと————親父も」


 掛けられた心配に背を向けるようなロクでなしでごめんよと心の中で呟きながら俺は服のポケットに渡されていた地図を奥へと押し込んだ。

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