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星斬りの剣士  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章 星斬りの憧憬

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二十話

「————全ては、『星斬り』を成さんが為に」


 そう言って、言葉を締めくくる。

 しかし、対して向けられたのは言葉の意味が理解出来ないと言わんばかりの顰めっ面。


 だけれど、俺の内心は晴れやかなものであった。声に出すとより一層実感する事が出来る。俺という人間を動かす『欲』というものは何処まで煎じ、突き詰めたところで『星斬り』にしか帰結しないのだと、そう理解をしてしまったから。


「……星斬り」


 ぽつりと紡がれた言葉は静まり返った夜の世界ではよく響いた。

 困惑の色を含んだその声音は、ちゃんと俺にも伝わっている。


「……それがどこの伝説かは存じ上げませんが、蛮勇以上に愚かな行為はこの世にありません」


 あぁ、それは指摘されるまでもなく分かってる。だけど、それでも手を伸ばしてみたいんだよ。強くなれる機会がそこにあるのならば。


 だとすれば、刹那の逡巡すら投げ捨てて手を伸ばすべきなのだ。

 何故なら、人という存在に平等に与えられた時間というものには『限り』があるのだから。


「ですが、付いて行きたいと言うのであればそれを無理に拒む理由は此方にはありません」


 それもそのはず。

 この人はそもそも、人手を出せという要求をしていた側の人間なのだから。


「ただ、ひとつ言わせて頂きますが、私の下に付いてきたところでその『星斬り』とやらに至れたという話は一度として聞いた事がありませんよ」


 『星斬り』とはつまり、究極的な目標。

 手を伸ばす先に存在する憧れである。


 だから、言われるまでもなく今回の件を仮に成したところで『星斬り』に至れるはずは無いと自覚していた。


 ……言ってしまえば、これは過程だ。


 至る為にはそれこそ命懸けで己の『限界』以上を掴み取らなければならないと知っているから。

 そしてそれを愚直なまでに積み重ねて、繰り返して、一歩一歩と前へ歩んで。


 ひたすら命知らずと呼ばれるような並々ならぬ行為に身を委ね、それを続ける事で漸く至れるかもしれないというステージに立つことが出来る。


 故に。


「そんな事は、知っています」


 返す言葉は、それだけに留めた。

 端的に纏めた返答に対して、「じゃあ、どうして」という言葉はやってこない。

 ビエラ・アイルバークにとって俺という人間はどこか頭のおかしいいち村人であるが、間違っても興味がある相手ではないから。


「そうですか」


 相変わらずの起伏のない声音。

 ただ、程なく己の供回りであると言ってのけていた騎士に彼女は視線を向け、「差し上げて下さい」と口にする。


 一体何かと思えば、そう言われるや否や、騎士の男は「やるよ」と一言だけ告げて広げていた地図を半ば押し付けるようにして渡してくれていた。


「ここから南西に向かった場所に〝ミナウラ〟という街があります。徴兵に応じるのであれば、あの月が満月に変わるまでにそこへお越し下さい。勿論、道半ばで死んだ場合は、貴方は応じなかったものと見做しますのでお気を付けて」


 そう言ってビエラは頭上に浮かぶ弦月に一瞬だけ目を向け、言い放つ。


 直前まで開かれた状態であった地図に目を向けると、此処から〝ミナウラ〟まではそれなりに距離がある。とんでもなく運が良い人間でも無い限り、まず間違いなく向かう最中に魔物と出くわす事だろう。


 つまり、アレか。


 人手を寄越せ。

 けれど、分かっているだろうが、魔物すら倒せない人間を人手とは言わないからな。……言い換えるならそんなところだろうか。


 親父が間違いなく死ぬ。なんて言い草で話をしてくれていた理由はもしかすると、この部分に起因していたのかもしれない。


 しかし。


「分かりました」


 だからといって俺の考えは揺らぐ事はない。

 瞳の奥に湛える熱量が弱まる筈もない。


 その刹那の逡巡すら見られない俺の物言いに、地図を渡してくれた騎士の男だけは微かに驚いていた。


「私達はまだやらなくてはいけない事がありますので、それでは」


 そう言って彼女は俺に背を向け、一歩と何処かへ向かって歩き出す。

 それに追従するように俺に視線を向けていた供回りの二人も程なく俺に背を向けた。


 刻々と小さくなってゆく三つの背中。


 数十秒ほどそれらを眺めていた俺は、夜闇に完全に紛れてしまった事を見届けてから空を仰いだ。


 未だ若干雲に隠れる弦月。

 己を照らしつける月光。


 満月まで、というのであれば恐らく後二十日程度はあるだろう。この分だと多少ゆっくり向かったところで問題はない筈だ。


 ……ソフィアに謝罪の手紙を書いておくか。


 そんな事を思いながら俺は空を見上げ、ジッと立ち尽くす。

 視線は弦月に、ではなくそのすぐ側にて輝きを放ち続ける星に引き寄せられていた。


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