百人抜き
「まずはお前に、この学園のことについて、少し説明しておこう」
俺を先導して堂々と練り歩きながら、理事長レインは口を開いた。
「まず、この学園の目的は、至って単純だ。『未来の有用な騎士を育て上げる』。これに尽きる」
流石にそれは、校名を聞いただけで想像がつくから、俺は聞き流す。
それ以降も、俺の予想通りの説明が淡々と続いた。
この学園は、ウェルサイユ王国に存在する三つの騎士養成学園の一つ。その中でも最も早くに作られた歴史ある学園だ。
経営は学校だけでなく、王家も関わっているらしい。その甲斐あってか、卒業生の中にはウェルサイユの最強の部隊の一員になった者も少なくないようだ。
学年は四年制で、貴族平民問わず、多くの威信を持った者が、毎年受験するらしい。クラス分けは成績の順に決まるという。一学年は五クラスで、人数は百人程度だそうだ。
この辺りで、彼女は話を終えた。より詳しい学園システムは、入学式で行われるそうだ。
説明を聞かされながら、俺たちはとあるところに移動していた。
「すいません理事長、一つ、お伺いしても?」
俺の問いかけに、レイン理事長は「何だ?」と一言だけ返して、俺に続きを促す。
俺はそれを確認して、この状況を確認する。
「どうして、わざわざ闘技場の中に?」
そう。俺は説明を聞かされながら、この闘技場に連れてこられていたのだ。
しかもここは控え室。どう考えても、
「戦え、と言われている気分なのですが」
「言わないとダメなのか?」
あっさりと認めた。
「俺には、戦う必要性がありません」
「必要性はこちら側にあるんだ。確かに女王陛下から、《陽の国》最強の男として太鼓判を押されているが、教育機関としては、こちら側でも一度、お前の実力をある程度知っておきたいんだ」
確かに正論ではある。言っていることだけは、まるで間違っていない。
だが、俺には確信がある。
「ただ面白そうだからですよね?」
「ま、ぶっちゃけその通りだ」
今度もまたあっさりと認めた。
どうやらレイン理事長は、嘘をつくことは好きでも、突き通すことは嫌うようだ。歪んだ性格をしていらっしゃる。
「お前みたいに、嘘をついても確証をもって違うと言ってくるやつは、私は嫌いだよ」
確信に至る。コイツは、筋金入りの歪んだ性格の持ち主だ。
「でもまぁ、そちら側が面白半分だというのなら、俺は受ける必要がありません」
そう言い切ると、レイン理事長はニヤリと笑う。
「そうか。お前は、理事長の命令も聞かないような不良なのか。それなら仕方ないな。陛下には、お前の態度の悪さを伝えるしか」
「誠心誠意、この勝負、受けさせていただきます」
俺は立場なんて無視して、態度を急変させた。
ーーーーーーーーーー
「勝負は百人抜き。教職員総勢百人と戦ってもらう」
随分と鬼畜なルールだ。だが戦場では周りは敵ばかりで休んでもいられない、なんてことはザラだ。決して理不尽な話ではない。
「要するに、勝ち続けろ、ということですね?」
「そういうことだ。単純だろう?」
確かに単純だ。
だが何となく、それだけではないような気がした。まあ、おいおい分かることなので置いておく。
舞台に上がると、一人の男がいた。
真っ白な魔術ローブを着こなした男だ。ただし、何やら不穏な気配も混じっている。
審判役は、また別の教職員が担当するらしい。舞台を見渡して、両者の様子を確認し、手旗を上げた。
先ほどから、ずっと気になっていたことがある。
確かに、この勝負の意味はあるにはある。
だが仮にも、留学生とはいえ俺の配属学年は一年だ。すなわち、新入生とたいして変わらない、ということになる。
そんなヤツに、百人抜きなんていう勝負を持ちかけるだろうか。
考えていると、その答えを告げるように、レイン理事長が口を開いた。
「ああそうそう、教職員は、負けたら減給になるから、死ぬ気でかかってくるぞー」
その一言が終わると同時に、試合開始のホイッスルが鳴り響く。
俺はレイン理事長の言葉を反芻する。
ーー負けたら減給になるから、死ぬ気でかかってくるぞーー
つまり、相手は本気だ。
学園の講師として、自らの技量を伸ばしたり魔導研究をし続けた連中が、本気で攻撃をしてくるということーー‼︎
その証拠に、目の前の男は、
「《鳴り響け・終の鐘・終幕の調べを礎に奏でよ》ーー!」
即死魔術、《屍奏》をぶっ放してきやがったーー‼︎
はい、進めやすい戦闘パート突入です。
減給に恐怖した講師陣の猛攻を、竜鬼は乗り越えられるのか⁉︎
まだまだ拙い文章ですが、評価やコメントして頂けると幸いです。
皆様と一緒に、この作品を成長させていきたいと思います!
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