プロローグ 覇道の予兆
人の歴史は、争いの歴史。
いつの話か、誰の言葉か、今も人の心にはその言葉が語り継がれる。
平和を得るために戦争し、理想を叶えるために他者を殺す。
人の持つ、負の側面そのものともいえる話だ。
ーーだが、それの何が悪い?
願いを叶えるために何かを犠牲にすることは当然だ。何の損失もなく何かを得ようなど、甚だ傲慢で強欲なことだ。
他者を蹴落としてこそ、自らを上へとのし上げる。
それが、全ての種族に等しく定められた、争いの宿命。
否定のしようがあるのか?
それを否定しようと、夢物語を掲げた少年がいた。
少年は言った。
誰かの苦しむ姿を見たくない。
叶うのなら、全ての存在を救いたいと。
全ての苦しむ人々を救いたいと。
だがそんな机上の空論は、ただ無情に現実が打ち砕いた。
嘆き苦しみ、それでも万人を救おうと足掻いた男の理想は、赤子の手を捻るが如く砕かれた。
それでも男は、剣を取ることをやめなかった。
彼には、ただ足掻くことしか出来なかったから。
ーー人生は後悔の連続だ。
望みと違うことなど、当然と現実は突きつける。
だがそれでも、自分の人生は間違いなどではないと言われたならば。
全てを擲ってでも、この人生を歩き続けるのだ。
その戦場で、彼は全てを失った。
そして、忌むべき厄災をその身に宿した。
正義を善と信じ続け、理想を叶えんと足掻いた男が得た物は。
余りに過大で、余りに過小であった。
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見上げる空は、緋色だった。
黒い雲が漂い、ただ無音の時間が過ぎている。
座った膝の上に寝転ぶのは、愛しい人の頽れた遺体。
辺りは血と屍の臭いで満ち、折れて砕けた剣が散乱としている。
そして眼前に、それがいた。
無情にも、この屍山血河を触媒とし、この地を蹂躙せよと呼び出された何かがいた。
目は既に塵で霞み、その姿をはっきりと捉えることはできない。
だがはっきりと、それは俺にこう言った。
力が欲しいか、と。
唖然とした。愕然とした。
自分がどれほど己を鍛え、強くなろうとも、その概念的な強さには敵わないと感じるそれは。
お前に力をやると、そう言ったのだ。
ただ蹂躙せよと言われた破壊の機構が何を言うのかと憤った。
だが俺は。この悪魔の言葉に乗った。
この悪魔の契約が、俺の人生の大きな転機となった。
不定期更新です。
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