蜘蛛さんと世界
いつも通りの朝…
師走の肌寒い風が布団の隙間から吹いてくる。
不快感に包まれながらも体を起こし状況を整理するが
「あぁ…あぁ…」
自分は低血圧なのだ。動くのも辛いし誰とも話したくないくらい機嫌も悪い。
そして自分の意思と対峙して体が動き始める。
気づいたらトイレにいた。いつもの習慣なのだ。
「よっと…」
自分が朝の時間で一番好きなのはこの時間なのかもしれない。温めた便座が冷え切った心に染み渡る。そして再び今の状況を整理し始める。
用が出し終わった後、深い深呼吸…
視界もはっきりしてくる…
「おい」
「はい?」
――今なんか聞こえたような
「おい」
「へ?」
おかしい。
何かがおかしい。
周りを見渡すがもちろん誰もいるはずがない
怖くなった。便座の温かみもその時には感じなくなっていた。
蜘蛛が見ていたのだ。自分もトイレの角に巣を張っていたそれの存在を認知していた。
「俺は世に言われている蜘蛛というものだ」
「蜘蛛さんですか」
「左様、しかしながらお前を毎日見ているが人間の世界というものはつまらないの一言だな」
「井の中の蛙大海を知らずっていう言葉を知っていますか」
「勿論だ。しかしそのようなつまらない世界に出て行く義理はない」
「あっそ」
先程言ったように自分は朝機嫌が悪い。そして唯一の至福の時間を潰されてしまったことは怒りを増幅させた。
よし、殺すか
トイレから出るとリアルな世界が広がっていた。