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03-01-02 カイタと人形魔獣 2

 マサオさんは手紙に目を通すと、きれいに折り畳んで胸元の合わせから、左胸内側に差し込んだ。


「サツカ、周囲に魔獣や人影はあるか?」


 そして俺の視線に気付いているだろうけどこちらを見ることなくサツカに指示を出している。


「アラビット、大きさからアイラビットかな。離れた場所に何匹かいます。この周囲、危険域にはいません。人も……見当たりません」

「なら周囲の索敵は四人に任せて、目を外側に向けて出来るだけ遠くを見てみろ」

「え?」

「早く」

「は、はい」

「カイタ!トクタ!ラヴィ!シーシア!俺たちを囲むように周囲を警戒!一人一方向で良いから小さな動きも見逃すな!」

「はい!」

「はい!」

「はい!」

「はい!」


 駆け寄り、四人で二人を囲んで背中を向ける。そして何か一つに注目するのではなく、『視界』に意識を集中した。


「緊急事態だ。説明する」


 が、マサオさんの言葉が意識を散漫にさせる。


「通常この周辺では見付からない魔獣が発見された」


 全員の体が強ばる。


「見付かった個体は『人形魔獣・緑人型』。『緑色人形魔獣』や、『緑魔人』等とも呼ばれる、人のような姿をした魔獣だ。周囲の索敵を止めるな」


 思わず全員がマサオさんみ見ると冷静に注意されてしまう。


「サツカ、何故『人影』があるか聞いたか分かるな」

「……はい。探します」

「個体が見つかったのは、城壁から歩いて行ける距離にある林だ。薬草や香辛料等が見付かる為に切り開いていなく、そのため薬師や商人等も出入りしており、今回も見習い商人が見付けて慌ててギルドに報告したらしい」

「そんなところに?!」

「定期的に魔獣の生息は管理しているが、生態系の保護もあるため獣の間引きなどは基本的には行っていない。恐らくは、それこそ兎などを食料とするために流れ着いたと思うが……」


 その表情は見れないが、恐らくは渋い顔をしていると思われるマサオさんの声に、気持ちが引き締まる。


「強いんですか?」

「個体としての強さなら、驚異ではない。身体も小さいし、力も強くはない。今のお前達なら、サツカが遠方から矢で打ち抜いて動きを弱めれば、簡単に倒せるだろう。シーシアが姿を隠して近付いて、急所に一撃でも倒せる可能性は高い」

「それなら……」

「だが、『人形』と名の付く魔獣は知恵がある。考えて戦うことができ、武器や防具を持つ個体もいる」


 思わず息をのむ。

 ちらりと見えた隣のラヴィの表情が堅い。


「さらに言えば、一匹なら真正面から戦えばお前達でも無傷で倒せる可能性はある。だが、『人形魔獣・緑人型』は一匹で行動することはほぼ無い」


 マサオさんの冷静な、なんとなく今まで俺達と話していたときとは違う声色の声を、聞き漏らすまいと全員が耳を澄ましている。


「お前達全員いれば、二匹なら問題なく倒せるだろう。三匹なら、苦戦はするがなんとかなるだろう。四匹なら、応戦しつつ逃げられる。五匹以上なら、見た瞬間に逃げろ」

「!」


 誰かの息をのむ声が聞こえた。


「通常、その緑型という人形魔獣はどれくらいの数で行動しているんですか?」

「一匹や二匹で行動しているのは見たことがない。少なくて四匹。多いときは十匹以上で行動しているときもある」


 冷静な、いや、恐らくは冷静を装っているサツカの質問の答えは、出来れば聞きたくなかった答え。


「十匹以上ならば、俺でもお前達にケガをさせないで守るのはめんどくさい。サツカ、周囲に人影は?」

「……ありません」

「よし、とりあえず森を出る。来た道を戻る。森林ではまだ俺も見なければ危険だが、草原ならサツカの目だけで周囲の監視は問題なくなる」

「はい」

「移動の流れは今までと同じだ。サツカの目で警戒しつつ、姿を消したシーシアを先行。その後ろをカイタ、そしてサツカ。ラヴィとトクタはカイタとサツカの間で左右を警戒。各距離と進行方向はサツカの指示だ」


 マサオさんの指示通り、やってきた獣道を逆送する。

 サツカは周囲を警戒しながら先行し過ぎそうになるシーシアをなだめ、中央によりがちなトクタとラヴィに位置を指示する。

 来るときはサツカの後方にいたマサオさんが、時にはシーシアの横に、時には俺の横に、更には俺達の目に付くように周辺を歩いてくれるのが、心強く感じた。


 それでも森から出て草原に戻ったときは、今までにない緊張が消えるのと、体に重くのしかかる疲労感に、全員が安堵と疲れを同時に浮かべた微妙な表情で互いの顔を見合ってしまった。


「!マサオさん」

「ん?っ!」


 そんな中、空を見上げたサツカの声と、マサオさんが迷いなく同じ方向を見たのはほぼ同時で、そして俺達の視界にさっき見たのと同じ鳥が一直線に飛んできた。


「二通目?」


 怪訝そうに手のひらの上で鳥が手紙に変わるのを見たマサオさんは、すぐにその中身を読み始める。


 それを見守る俺達の目の前で見開かれたマサオさんの目、そして表情を見て、俺たち全員は多分、いや絶対、嫌な予感がしたはずだ。


「……最悪だ」


 マサオさんの呟きに、大きく驚くことはなかった。







 


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