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03-01-01 カイタと人形魔獣

「……ふぅ」


 横からかすかに聞こえた吐息に眉をしかめつつじろりと視線を向けると、トクタが武器を持たない左手を顔の前に縦にして愛想笑いを浮かべながら頭を小さく何回か下げた。

『わりーわりー』

 なんていう心の声が聞こえたような気がしたのと、その顔が青白くなったのを見て、とりあえず前を向く。

 おそらくトクタの視線の先で般若の表情をしたラヴィがいると思うが、そちらに顔を向ける度胸は俺にはない。


 でも、まぁ、トクタが思わず声にしてしまう程の吐息を漏らした理由も、それを聞いてラヴィが般若の表情を浮かべる理由も、少し前にいる半透明なシーシアが時々自分の身体を抱くようにして震えを止めている理由も、後ろにいるサツカの緊張をなんとなく感じるのも、なんとなく、というかしっかり分かっている。

 おそらくは、四人とも俺と同じことを考えているはずだ。

『どうしてこうなった』

 こんな森の中で、息を潜めて、周囲を警戒しつつ、俺達だけにしか聞こえないサツカの声に従いながら、身を潜めている今。イベントとだとしても、チュートリアルだとしても、これはないだろう運営。


 最初は予定通りだったのになぁ。


 心の声を口にしないように、トクタのように吐息という声にもしないように注意しながら、シーシアの背中のまだ先、まだその背中程度しか見えない緑の小人、『緑魔人』と省略されて呼ばれる魔獣を見ながら、今日魔獣狩りに来てからのことをの出来事を懐かしく思い出した。





「よっしゃあ!ひとりでやったぜ!」


 目の前で中型犬サイズの兎型魔獣『アラビット』を倒したトクタがガッツポーズをしているが、その後ろからアラビットが跳んで襲いかかって来ているのにあいつは気付いていない。


「『トクタ後ろに注意!』」


 サツカの声と、そのアラビットの頭に矢が突き刺さったのはほぼ同時で、やっと気付いたトクタは後方にいるサツカに向かって手を振った。


「はぁ……」


 ため息を漏らしたのは俺かラヴィかシーシアか。

 トクタのように周囲に対して気を抜くことなくトクタの行動を視界の隅で確認しつつ動き回る。




 魔獣狩りに出て、一番最初に魔獣を倒したのはシーシア。

 姿を消して近寄り、アラビットの首を切断した。

 そして黒い煙となってアラビットが消え去るのを見て、ラヴィの顔が驚きの後に歓喜に染まっていた。


「魔獣に変化したばかりの動物は、死んだときに基本的にその体を残さない。ただ角として魔核を持つ魔獣は、角を落とす」

「角がない魔獣は?」

「身体の中に魔核を持つから、身体が消える前に取り出さないと身体とともに消えてしまう」

「げっ」


 トクタとマサオさんの会話を聞いていたラヴィの笑顔が凍りつく。


「頭、首、心臓にあることが多い」

「げー」


 そしてその口から漏れている余りに正直な声もスルーしてマサオさんに聞く。


「それは種類によって違うとかですか?」

「いや、その個体次第で種族的偏向はあまり感じないな。あえて言うなら二足歩行出来るものは心臓が多い気もするが」

「ということは、毎回解体して探すってことですか?」

「すぐ消えてしまうから解体している時間など無い」

「え?」

「手を突っ込んで探す」

「いーやー!」


 泣きそうな顔をしたラヴィの口から漏れた声は少し大きめで、角を持ってこちらに戻ってきたシーシアと俺達よりも後方で[指揮]をしていたサツカも驚いて彼女に視線を向けたのは仕方ないことだと思う。




 そんなことをしながら全員で互いに手助けをしつつアラビットを倒し、アラビットが更に魔獣化したアイラビットを探しつつ、モグラ型魔獣『アモウル』がいそうな穴を見つけたら魔法で火の玉を中に飛ばして、出て来たところを倒すというヌルゲーを進めていた。


 そして全員独りでアラビットなら倒せるようになった頃、それは、起きた。


「ん?」

「あれ?」


 口にしたのはマサオさん。空を見上げたのはサツカの方が早かった。といっても一秒にも満たないような差で同じ方向の空を見上げた二人。

 その視線の先から小さな鳥が一直線に飛んできた。


「ギルドの『伝書鳥』だ」


 マサオさんの頭の上でクルクルと回った鳥が一枚の紙に姿を変えた。


「それも『魔導具』ですか?」

「ああ。長文を届けることができるが、一回使い捨てなのに技術的には上級だから値段も高い。届ける相手も事前に準備しなければならないから、誰にでも気軽に送ることも出来ない。ま、よほどの貴族か、ギルドが決まった者に必要に迫られて送る場合にしか使わないな」

「なるほど。『伝書鳥』ですね。覚えておきます」

「おー」

「へー」

「ふーん」

「そ、そんな導具もあるんですね」


 俺の気のない声に続いてトクタとラヴィも適当な声を出したため、マサオさんが一回こちらを冷めた目で見た。慌てたシーシアのフォローのような感想は、特に響いていないようだ。


「まぁいい。内容を確認するから周囲を確認していろ。倒したことのある魔獣や獣なら、倒していて良い」

「分かりました」


 俺達が適当な返事をする前にサツカが返事をした。

 それが分かっているであろうマサオさんの視線から逃げるように、シーシアと一緒にマサオさんから少し離れて周囲を索敵する。


 サツカの[空の目]には及ばなくても、気配くらいは探れるようになれという指摘で始めたことだけど、なかなかうまくいかない。


 魔獣がいないなら良いけど、いるのに気づかない場合は危険なわけだし、サツカの目の範囲から外れた場所で戦闘になる可能性だってあるわけだから、重要なのは分かっている。

 でもなかなかうまく分からず、なんとなくマサオさんの方に意識を向けると、その表情が強ばっていくのが見て取れた。


 考えてみれば、「ヌルゲー」とか言っていたのがフラグだったのかもしれない。


 







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