02-02-38 お疲れ様
「おまえらばっかり楽しそうなことをしやがって……」
恨めしそうな声に誘われてトクタを見る四人。シーシアも姿を見せている。
「楽しそうって……」
「俺も混ぜろー」
「……それが出来てからじゃないと」
「わかった」
こちらを見て恨めしそうな顔をしていたトクタからはその感情に沿って魔力が身体から溢れ揺れていたが、サツカの言葉に表情を引き締めると魔力は身体内を綺麗に巡り始めた。
「相変わらずねー」
「最初からこうすれば良かった」
「自転車の練習するときもこんな感じだった」
「えっと……」
カイタ達三人が納得顔でその様を見ているのを、シーシアが不思議そうにちらちらと四人を見る。
「ああ、トクタはね、次にする事があると、今やってることに取り組む姿勢が各段にアップするのよ」
「はい?」
「宿題とか、『今日中にやらなきゃいけない』ものは今日中にやれば良いけど、『宿題終われば遊びに行ける』なら、出来るだけ短時間で終わらせる」
「え、でもそれって普通じゃ」
「『早く宿題を終わらせれば時間が余って何かが出来る』みたいな抽象的なやつじゃダメで、『早く宿題を終わらせれば友達と遊びに行ける』的なしっかりとした、目の前の目標があると異常な集中力をもつんだよ」
「あー。なんとなく、分かるような、分からないような」
シーシアが曖昧な笑みを浮かべてカイタ達三人を見ると、三人とも黙って頷いた。
「分かる必要はないわ」
「うん。必要ない」
「変なやつってことだけ分かってればよい」
「あ、は、はい」
真顔で告げた三人を見て、シーシアは愛想笑いを浮かべながらトクタをチラ見した。
三人の言う『異常な集中力』を発揮したトクタが、すぐさまちゃんと武器に魔力を纏わせるのに成功したのを見て、シーシアがどう思ったのかは、別の話である。
「よし!」
「何がよしだ」
いそいそと四人に近寄ったところを後ろから頭を叩かれ、全く痛くはないがお約束として頭を抱えてうずくまるトクタ。
「いってー!」
「はいはい。ちゃんと立ちなさい」
視線はトクタの後ろにいるマサオからそらさずに、ラヴィが声をかけた。
「あんなに早くできるなら最初からちゃんとやれ」
「人には集中力ってものがありまして」
「最初から集中してやれ」
「うぃー」
とくたが軽い挨拶をしながら、マジリオとマサオの正面、四人の横に並んで立つ。
「兎にも角にも、これで全員魔獣狩りに行ける程度の力は手にした訳だが、魔獣狩りはまた次だな」
「え?」
「お?」
「行きましょうよ」
マサオの言葉に反応したトクタ、カイタ、ラヴィの三人。シーシアも眉をひそめているが、サツカは自分の視界の左上を見ていた。
「時間が足りませんか?」
「ああ。もともと今回は今日中に今の段階まで進めば及第点だと思っていたから、予定よりは早い。だがこれから魔物のいる場所まで移動して狩りをするとなると、夜になる可能性が高い」
「あっ」
「さすがに初めての魔獣との戦闘が夜間というのはさせられない」
「そういうことなら仕方がないか」
思わず声を上げたシーシアとラヴィも、自分の視界に浮かぶ時計を確認した。
「それにお前達はこちらにいられる時間も決まっていると聞いているが、まだ時間はあるのか?」
「あ、はい。ええと……」
五人がそれぞれに時間を確認する。とはいえこの場所に来る前に同じ時間休憩を取っているためほとんど同じ様な時間設定となっていた。
「全員、あと二時間くらいは居られます。その後夜の間は戻り、次は……三じゃない、六時。六時の『青朝』の頃には集合可能です」
「そうか。それならば……ちょうど良い時間か」
「ちょうど良い?」
「ああ。まずは全員身体強化をした状態で、歩いて街まで戻るぞ」
全員が「歩いて」という部分に反応して不思議そうな顔をしたのを見て、マサオは意地悪そうな笑顔を見せた。
アザルベル薬店の応接間で寝転がる五人。
さすがにラヴィとシーシアはソファの上だが、カイタ達三人は絨毯の上ではあるが床に転がっている。
「マジ疲れた……」
「お……なんで……ここまで」
トクタが呟くとカイタが返す。
残りの三人は声も出せずにぐったりとしつつも、二人会話に心の中で大きく頷いていた。
因みに一番疲労困憊の体で倒れているのはサツカだが、身体強化をしつつ空の目を展開して周囲を警戒し、更に[指揮]を使用して五人の状態を確認しつつの移動であったためだった。
シーシアも街に戻るまでは姿を隠して移動していたが、基本彼女はこの技能を「息をするように自然に」使っているため、サツカほど負担にはなっていなかった。
「ま、最初はこんなもんだろう」
部屋に入ってきたマサオが応接間の惨状を見て五人に聞こえるように呟くと、一番ドアの近くにいたトクタに黄色い液体の入った小瓶を渡す。
「飲め」
「……いー」
トクタの返事に聞こえない返事に眉をしかめつつ順番に小瓶を渡して歩くマサオ。
「あー。爽快系カフェイン飲料」
「なんだそれは」
一番最初に飲み干したトクタが立ち上がりながら空になった小瓶を掲げる。
「俺らのところにも、似たような味で元気になる飲み物があるからさ。美味しかった!ありがとう」
トクタが飲み干したのを見てから口にしたカイタとラヴィも起き上がり、シーシア、サツカと続く。
「……でも、体力気力とも黄色いままだ」
だるそうに身体を動かしてソファーに座ったサツカが視界の隅の二本のカラーバーを見つつ呟いた。
「戦闘中以外は、薬による回復は最低限にした方が良い」
「それは、連続使用だと効果が悪くなるとかですか?」
「薬にも寄るが、そういった物もあるな。うちで作る薬はそんな副作用は無いが、いつもうちの薬を使えるわけでも無いだろうし、体を休める時間があるのなら、休めて体力・気力の回復をした方が良い」
「……はい」
体力気力共に限りなく赤に近いオレンジ色に変わっていた自分のカラーバーが、黄緑色に変わっているのを確認しつつ、深く座るサツカ。
その様子に四人がそれぞれに見ていると、そんな四人に向けてマサオが口を開く。
「[指揮]は、指揮されている者の能力を底上げする力がある。まだ微々たるものだろうが、四人はその恩恵を受け取っているだろうな」
「さんきゅー」
「おー」
「なるほどね。ありがと」
「あっありがとう、ございます!」
サツカをのぞく四人がそれぞれに口を開きサツカを見るが、疲れの理由を想像しつつ申し訳無さそうな顔をしたのはシーシアだけだった。
「トクタとカイタとラヴィはもう少し感謝しろ」
「ちゃんとありがとうって入ったでしょ?チートの代償だからあきらめて、今後もよろしく」
「はっはっはー。サンキュー」
「おー!ありがとー」
「まったく……」
サツカのぼやきに反応した三人を見て顔をひきつらせたシーシアだが、サツカが苦笑いを浮かべつつも優しげな瞳をしているのを見てこれが四人の関係なんだとわかり、笑みを漏らした。
「今日の修練はこれで終わりだ。適当に休んだら戻れ。明日は青朝からでいいんだったな?」
「あ、いや……」
サツカが四人の顔を見ると、四人とも顔を横に振っていた。
「すみません。やはり紫朝、二十二時からでお願い出来ますか?」
「分かった。待ち合わせは同じギルド前だ」
「ありがとうございます」
「宜しくお願いします」
「明日は魔物狩りをよろしく!」
「おねがいします!」
マサオの了承を受けて、ラヴィ、シーシア、トクタ、カイタと頭を下げる。
その流れるような四人の動きに思わずサツカの顔を見たマサオに対し、サツカは目をそらすように頭を下げた。
遅くなりました。
皆様インフルエンザにはお気をつけください(遅い)
言い訳と泣き言はTwitterにて。




