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02-02-35 やる?

 駆け出したトクタ。

 走る残像のように漏れた魔力が浮かぶが、最初よりはだいぶましになっていた。


「まだまだだねー」

「あー。まだ駄目ですか」

「だめだめだめー」


 それを見送ったマジリオとカイタ。カイタは成長を口にするが、マジリオの口から出たのは結果に対するダメ出しだった。


「んー。最終的に倒せるかどうかだけど、黒鼠は弱い分周辺の感知能力は高いから微妙かな」

「ですか……」


 自分の後ろでラヴィがガッツポーズをしているのを感じて呆れつつ、マジリオと話すカイタ。目線はトクタを追う。


「カイタはうまかったね」

「まあ、それは」

「二度や三度で出来るのも異常なんだよ?」

「……そうですかー」

「それもあらひとの特性なのかな」

「……かもしれませんねー」

「あ、でもラヴィとトクタは出来てないのか」

「……そうですねー」

「カイタはすぐ出来たのにね」

「……自分でも不思議ですよー」

「そうなんだー」

「はいー」


 何かを探るような会話。

 おそらくマジリオが聞きたいのは魔力石の事だろうとあたりはつける。ラギロダに貰った魔力石、もしかしたら賢者の石かもしれないあれ。それを貰っていることを聞きたいのだろう。


「カイタの素質なのかな」

「……そうなんですかねー」


 トクタが失敗するのを見守りながら、とりとめのない会話をする二人。


「あ、戻ってきた」

「ぬー」

「どんなうめき声だ」


 顰めっ面で戻ってきたトクタ。その第一声に思わず笑ってしまったカイタとマジリオ。


「ダメだった」

「もう少し隠さないとだねー。はい、練習練習」

「うぃー」


 マジリオに促され、トクタが少し離れた場所で座る。そして身体に魔力を満たした。


「ギリギリまで回そうとするとこぼれているみたいだから、まずは自分の表面少し手前まで満たしてみるのも良いかもー」

「けど、それだと二人より少ないよな?」

「それが出来るくらいじゃないと、多分出来ないよ?」

「……やってみる」

「がんばー」


 あぐらをかき、目を閉じて集中するトクタ。カイタはそんな様を見た後、準備運動をしているラヴィに目を向けた。


「見つかりませんか?」

「ちょっと待ってね。良い位置に出てくる気配がねー」

「移動しませんか?」

「向こうの訓練もあるから」


 一瞬「向こう?」と思ったカイタとラヴィだったが、何とかすぐにサツカとシーシアの事を思い出す。


「……二人は、どうなんでしょう」

「どうって?」

「いや、順調なのかなと」

「どうだろう。女の子の方は簡単に第一関門は通過しそうだけど、君らと同じで身体強化で躓いてるかもね」

「?」


 マジリオの言葉に不思議そうな顔をしたカイタ。ラヴィはそれを横目に見つつ話を進めた。


「サツカはどうだと思いますか?」

「彼は分からないなー。もしかしたら第一関門で躓いてるかも」


 マジリオのサツカに対する考察に、なんとなく納得するカイタ。しかしシーシアに関しては腑に落ちなかったため首を傾げると、自分を見るラヴィとマジリオに気付く。


「……何ですか?」

「カイタはあんまり女の子とつきあったことない感じ?」

「……悪いですか?」

「いや、悪くはないけど、見た目に騙されないようにね」

「気をつけなさい」

「えっと……」

「気をつけなさい」

「はい」


 憐れむようなマジリオの視線と、呆れたようなラヴィの表情に納得はできなくともとりあえず頷いたカイタだった。




 その後トクタが魔力を外に出さないことに成功したり、ラヴィが黒鼠を倒すことに成功するも気持ちが悪くなり一匹倒しただけでダウンしたり、その後にトクタも二匹続けて倒すとそれを見たラヴィが顔色を青くしつつも立ち上がって駆除に参加したりと、騒がしくもそれぞれに腕を磨き、一人五匹黒鼠を倒したところでマジリオから全員合格ともらうことができた。


「とりあえず、第一段階は終了かな」

「え?」

「え?」

「『魔物』を倒すには、第二段階に進まないといけないんだよ」


 話しながら片手剣を前に出すマジリオ。

 特に構えなどはしておらず、切っ先も地面に向けてある。


「これを」


 マジリオがそう言った瞬間後ろに飛ぶラヴィとトクタ。剣の真正面にいたカイタは盾を身体の前に出して片方の足だけ一歩後ろに引いていた。


「こうしなきゃいけないんだよね。ラヴィもトクタも合格で、カイタは合格だけど、場合によっては失格かなー」

「い、いま、何を?」

「なんか、すげえ怖いんだけど」


 黙って盾を構えているカイタを見て。慌てて武器を構えたラヴィとトクタ。


「魔力操作で身体に魔力を満たして、自分の目に意識を向けてみて?」

「はい……」

「分かった」


 流れるように自分の中の魔力を操作する二人。そして目を見張る。


「え?剣が光ってる?しかもなんか、こっちに向かってる!?」

「それ、魔力ですか!?」

「そういうこと。獣は武器で倒すことが出来るけど、魔物は魔力でしか倒せない。もちろん魔法で倒すことも出来るけど、こうやって魔力を武器に纏わせることが出来れば、武器の攻撃で倒すことが出来る」


 ぼんやりと、しかし途切れることなく光る剣を見ていた二人の視線がカイタの盾も輝いていることに気付く。


「え?」

「盾も光ってる!?」

「そうそう」


 カイタが口を開く前にマジリオが返事をした。


「カイタは魔力を纏った剣の攻撃を受けるために盾に魔力を纏わせて構えた。仲間がいる場合の盾職としては合格な行動だね」

「私は、すぐに武器を構えられなかった」

「……」


 悔しそうに呟くラヴィと睨みつけるようにマジリオを見ながら唇を噛むトクタ。


「今はまだ、何かを感知して後ろに跳べれば合格だよ?でも……」


 いまだに盾を構えるカイタを見るマジリオ。


「その行動は盾職としてはすばらしいけど、僕の攻撃を受けきれると思ってやったとしたら不合格、いや、失格かな」

「万が一攻撃行動に移られたとしても、本気で攻撃はしてこないと思ったので。二人が反撃をする時間はつくらないといけないですから」

「んー。なるほど。本当に盾職としては合格だねー。でも、じゃあ」


 マジリオの目が妖しく光り、笑みを消して片手剣を構える。

 カイタが後方に跳び、魔力を盾に込めて構えた。


「……やる?」

「やりたくないです」

「りょーかい」


 構えを解くマジリオ。しかしカイタは構えを解かない。

 そんな二人を驚いた顔で見ているラヴィとトクタ。


「大丈夫だよ?もう攻撃しないから」


 マジリオが魔力を霧散させてたのを見て、やっとカイタは構えを解いた。



 

 本日より、2019年の更新を始めさせていただきます。

 昨年のように毎日更新出来るかは分かりませんが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。


 本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

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