02-02-34 次のステップ
「さて、自分が何が悪かったか分かっているな」
「……はい」
マサオの正面に立つシーシアに向けて話し始めると、肩を落としていた彼女は更に縮こまった。
「何が悪かった?」
「警戒を怠りました」
「そうだな」
「はい……」
マサオの口から漏れた小さなため息。それが聞こえて更にシーシアが縮こまった。
「ま、シーシアの方は仕方ないと言えば仕方ない。で、サツカ」
「はい」
「おまえの失態は?」
「声をかけられる状態だったのに、注意を促せませんでした」
「そうだな。戦闘を支配する指揮を執るのなら、そこまで出来なければだめだ」
「はい」
「わ、私がミスしただけで!サツカさんは凄かったです!助けてくれて!」
自分の失態がサツカに飛び火したと思ったシーシアは必死にマサオを止めるが、マサオは一瞥すると口を開いた。
「確かに、ただ協力して戦うだけならばサツカの行動は及第点以上だ。だが、今のサツカはおまえに指示を与える指揮者だ」
「え?」
「ともに戦う仲間としてなら合格だが、指揮をする者としては落第と言うだけだ」
「え?でも……」
シーシアがサツカに視線を向ける。
するとうなだれているサツカがおり、シーシアが慌てた。
「え?いや、サツカさん!なんで!」
「ごめん。シーシア。俺がちゃんとあの時注意を促していれば」
「いやいやいやいや!あれは私がだめだっただけで!」
「いや、あの時俺はシーシアの気が抜けたのが分かった。その時に注意を促すべきだった。確かに黒鼠が復活したのは気が抜けたのとほぼ同時だったけど、それでも言葉で危機を伝えることが出来た。それが出来なかった」
「いやそんな!っていうかなんで私のミスでサツカさんが怒られたり落ち込んだりしてるんですか!?」
「すまなかった」
「いや、謝らないでください!え?何これ!?」
頭を下げたサツカに更にあわてるシーシア。
「サツカさん!止めてください!」
頭を下げるサツカとそれを黙ってみているマサオに、ただ戸惑うだけのシーシアだった。
「さて、茶番はこれまでとして次の話だ」
しばらく頭を下げたサツカにひとしきりシーシアがあわてた後、マサオが少しだけ笑みを含めて言った。
「茶番ってなんですか茶番って!ホントに困ったんですからね!」
「いや、言われたことは俺が気をつけなければいけないことだ」
「ああ、言ったことは間違っていない」
「でも途中から私を慌てさせようとして盛ってましたよね!」
横を向く二人。
「サツカさん!マサオさん!」
「いや、うん。二人とも気をつけるように」
「はい。シーシア、すまなかった」
「だからもう良いですから!こちらこそ気をつけるので、次もよろしくお願いします!」
「ああ、頑張ろう」
「盛り上がってるところ悪いが、次に進むぞ?」
「え?」
「え?」
「え?」
驚く二人に眉をひそめたマサオ。
「黒鼠程度なら今の身体能力で問題ないが、魔物相手は今の速さも力も通用しない」
マサオの話に表情を引き締める二人。そしてマサオの前に並んで立つ。
「ま、既に[魔力操作]を覚えている二人ならすぐ覚えられると思うが、注意して修得してもらう」
「それは、なんですか?」
「ああ、身体強化の魔法だ。二人には今よりもっと早く動けるようになり、もっと強い攻撃と防御力を手に入れてもらう」
マサオの言葉に、二人が息をのんだ。
駆け出したラヴィ。
視線の先に映る黒鼠に肉薄するが、片手細剣がその身体に突き刺さることはなかった。
「くっ」
「ラヴィは魔法の使い方はうまいけど、まだ攻撃の前に躊躇があるな」
戻ってくるラヴィに聞こえない声で話すマジリオ。その声が聞こえている二人のうち、トクタは次は自分だと肩を回し、カイタはラヴィが意気消沈して戻ってくるのを見つめていた。
「どう思う?」
「殺すのは、躊躇しますよ」
「カイタは結構さっくり殺してたよね?」
「俺は二度目なので」
心の中で「ゲームだしなー」と思いつつ話しているカイタだが、おそらくラヴィはそこまで割り切れてないことに感づいていた。
「ラヴィももう一息だと思うけど、その決めてがね」
「はい」
「ダメだった……」
とぼとぼと歩いて戻ってきたラヴィ。
「次は俺だな」
片手剣を肩に担いだトクタが足首を回しつつ周囲を伺っている。
そんな準備運動をしているトクタを睨みつつカイタの横に並び、その脇腹を人殴りした。
「なにを!」
「自分ばっかりさっさと課題クリアしてむかつく」
「えーと、がんばっ」
「ほんとむかつく!」
「だからって殴るな!」
じゃれる二人をしらけた目で見るトクタと、きらきらした目で見るマジリオ。
「マジリオー。近くにいるか?」
二人ににじり寄ろうとしたマジリオを止めるかのようにトクタが声をかける。マジリオは不服そうに唇を突き出しつつも周囲を確認した。
「あっちの……木の下辺り」
マジリオが指差す方向をトクタがみる。
「トクタはまだ魔力が外に漏れまくってるから、もっと内側で回さないとだめだよー」
「はい」
「外から魔力が光って見えるから、魔物や魔物になりかけの獣はそれにも反応する。だからトクタは見つかりやすい」
「……はい」
「走りだす瞬間は良いんだけどねー」
そしてちらっとラヴィをみる。
「ラヴィは魔力操作は完璧だけど、踏み込みが甘いというか、思い切りが悪いというか」
「分かってます」
「ま、何も気にせず殺しまくるやつよりは良いけどね」
「それは俺に対するイヤミですか?」
「ん?カイタも最初躊躇してたよね?」
「!」
カイタが一匹目の駆除から成功していたのを見ていた二人が驚いてカイタをみた。
「でも、それを超えて剣を振るって倒してた」
にこにこと笑顔で話すマジリオに見られて、ばつが悪そうに視線を逸らすカイタ。
「二人も、がんばろーね」
トクタが深呼吸をしながら黒鼠がいるであろう方向を睨み、ラヴィは片手細剣を持つ手を強めながら目を閉じた。
20190104
あとがき(旧年中の挨拶)削除。活動報告には残してあります。




